アイリンがきた理由
「それにしても、アイリンが地球に詳しいとは知らなかったな。」俺がそう言うと、彼女はクスリと笑った。
「私だけじゃないのよ。エド。今、サーターアンダギー星の人は、皆詳しいの。」
「どういうこと。」
「サーターアンダギー星のほとんどの人があなたの地球での活躍をリアルタイムで見ているのよ。星では、あなたや91の話題で持ちきりよ。」
なんだ、それは聞いてないぜ。どういうことだ。
アイリンは俺の驚くのを見て楽しんでいた。
「これを見て。」
アイリンは突如、長方形の大型パネルを取り出した。俺達5次元の世界の人間が情報を伝える時によく使うツールだ。
地球でいえば、プロジェクターに近いか。
普段はごく微小のチップとして、肉体の一部に埋め込んでおり、必要があれば取り出して大きく出来る。
パネルには地球での俺が吉野家で一心不乱に牛丼を食う様子が写し出されていた。
「こういうのも人気よ」といってアイリンがそのパネルに指を触れると、
今度は、俺が91とすれ違う様子が出てきた。それから、彼女がパネルに指を触れる度に地球での俺や91の様々な姿が映し出された。
段々と事態が飲み込めてきた。俺が地球に派遣されている様子がサーターアンダギー星ですべて中継されているのだ。
親父が映像を流しているようだ。
驚くべきことに、それをみて、皆、地球に行きたがっているらしい。
「あなたはスターよ。91も人気だけどね。何千年の時を超えた3次元世界のロマンスに皆、大注目なの。」
アイリンがうっとりとした表情を浮かべて言った。
何千回も他の女と関係して、運命の女に出会えない91を俺は間抜けな奴だと思っていたが、他の皆はそうではないらしい。
「だって、3次元世界は潜在意識と顕在意識が分離してるじゃない。仕方ないわ。その苦難の中で、頑張ってるじゃない。」
そうなのか?
「それにね、サーターアンダギー星だって100年位前は、3次元世界だったのよ。
だから、皆、地球人の気持ちも分かるし、懐かしいのよね。特に地球は食べ物が美味しそうじゃない。」
まあ、それは確かだか。
サーターアンダギー星は100年位前にレベルアップして、5次元世界に移行した。
俺はその後、生まれたのだが、その時を経験している人もたくさんいる。3次元世界と違い、食べる必要がないのでこの星の人の肉体は500年位劣化しない。
もちろん、新たな世界に行くために、肉体を脱ぎ捨てることも出来る。しかし、死ぬという概念がない。ただ、自分で肉体を脱ぎ捨てて、別の肉体に宿るという選択を自分で出来るのだ。
「だからね、エドの恋人である私も行ったらどうかって皆に勧められたの。やれることもたくさんありそうだし。皆も地球に協力したがっている。」
俺はサーターアンダギー星人だか、ここ何十年間は親父と宇宙船暮らしであまり、自分の星の状況に詳しくない。
地球に辟易していた所もあるが、協力したいといってくれるならありがたいことだ。
「これから、91と165が出会うまで、魑魅魍魎たちは、必死になって彼らの邪魔をしてくるはず。特に二人が出会った後は、大変よ。
二人ともエネルギーが強いし、その二人の周りに魑魅魍魎が集まって、二人がネガティブエネルギーにまみれてしまったら、
お互いを憎み合って、離れてしまうこともあり得るわ。」
さっきまで笑みを浮かべながら話していたアイリンも真剣な表情になっていた。
「そうだな。俺達は、間接的には二人に関わることが出来ても、二人が一緒になる選択をすることには介入出来ないんだよな。
しかも5次元世界の俺達よりも4次元世界の魑魅魍魎達のエネルギーの方が圧倒的に3次元世界の人間には届きやすいからな。
俺達以外にも、地球に来てもらわないととても対処出来ない事態になるかもしれない。」
「だから、私達がしっかりと土台を固めておきましょう。地球が無事にレベルアップできるように。」
アイリンは、今後の地球滞在のために詳細なシナリオを作っていた。完璧な内容だった。この情報を俺が身体に取り入れると打ち合わせは終わった。
アイリンは肉体調整を始めるため、サーターアンダギー星に一旦戻っていった。
今回の地球滞在は今までとは違い、2年以上の長期間に渡るため、作り込みも丁寧に行わなければならない。俺は、自室に入り、精神統一をして、必要な身体のイメージングを初めた。
外見だけでなく、肉体の内部の作りも重要だ。ストレスで病気になってしまうと本来の任務がこなせなくなってしまうからだ。
地球人の身体は本当に病気になりやすい。ちなみに、地球人が病気にかかるのは100パーセント本人の潜在意識が望んだからだ。
いくら、顕在意識が病気をしたくないと思っていても、潜在意識が望まないことを顕在意識がやり続けると、病気になる。
そうでもしないと、死んでしまうからだ。
死なないために病気になるというのも変な話に聞こえるかもしれないが、潜在意識は、その人間がこの世界で生きる理由を知っている。生きる理由とはその人の使命ともいえる。それが確実に達成出来なくなると決まれば、地球人は死ぬのだ。
だから、困難な使命を持って生まれた人間はそれを達成することがすぐに難しくなりやすく、短命で終わりやすい。
大きな使命を持っている場合、大抵、エネルギーが大きく、様々なことに能力がある。
すると、本人や周りが勘違いして、まったく違う方向に進んでしまい、後戻りできない所まできてしまうことがあるのだ。
例えば、世界を感動させる音楽をつくることが使命の場合、大抵、幼い頃からピアノが上手かったりする。
すると、ピアノの才能がすごいということになり、
本人が小さい内に親がスパルタ教師に習わせたりして、ピアノ嫌い、音楽嫌いにしてしまう。
ピアノが嫌いになっても、音楽をつくることにつながる人生を生きていればまだよいが、
本当にそこから離れて可能性がゼロになると死んでしまう。大抵その前に病気になったり、
大きな気付きになるような出会いがあったりするのだが。3次元世界の人間はそれまでの記憶に固執して気づけない場合も多いのだ。
自分が親に批判されたり、怒られたりして悲しかったり辛かったりする記憶が辛い感情として身体にこびりつき、
その記憶が呼び覚まされるような行動をすることが怖くて出来なくなってしまう。
逆に大した使命がなければ、楽で長く生きやすい。穏やかでゆったりと暮らして、周りの人を安心させるというような使命もある。そういう使命であれば穏やかに暮らしてさえいれば、大変なことは起こらない。
さらに、病気になる直接的な原因は食事によるものが大きいが、食事の内容はその人間が受けたストレスの内容によって決まってくる。
余分な思考が多いと、甘いものを食べたくなる。
ではなぜ、余分な思考をしてしまうのかというと、本来やるべきことをやっていないストレスをごまかしたいからだ。
本来やるべきことは、その人が使命を果たすのに必要な行動だ。世界にイノベーションを起こすことが使命の場合、
自分のアイディアを形にする行動をいつまでも起こせずにアイディアばかり考えていると、疲れで甘いものを食べたくなるのだ。
寂しすぎると、必要以上にたくさん食べてしまって健康をそこなうこともある。
寂しさをごまかすためだ。この寂しさは本来出会う人と出会えてなかったり、出会えていても、正しい関係を結べていないと、起こる感情だ。