アイリン登場
その時だ、宇宙船の空気がガラッと変わった。ピンク色の光に包まれ、美しい音楽が俺の胸に鳴り響いた。
気がつくと、目の前に俺の愛しのアイリンがいた。
「久しぶりね。私にしばらく会えないと嘆くあなたの想いが聞こえたから、会いに来たの。」
彼女はサーターアンダギー星から宇宙船に瞬間移動してきてくれたのだ。
今日は光輝く金色の髪を腰までたらし、
目は薄いエメラルドグリーン色で穏やかな微笑みをたたえながら俺達を見つめていた。
真っ白なオーラを身にまとっている。地球人が見たら女神様が現れたとひれ伏すかもしれない。
5次元以上の世界の人間は自由に容姿を変えられる。
だから、容姿で判断を下す地球人の感覚はわかり難い。
俺達は、魂の輝きでその人を判断する。魂の輝きはその人の個性を表す。
アイリンが近くにくると、彼女の内面を表す美しい音楽が聞こえてきて、
その人の気分を表す光で辺りがおおわれるから彼女が来たと分かる。
俺はそんなに容姿を変えないがアイリンは会うたびに外見を変化させている。
「おぉアイリン、よく来てくれた。あいかわらず美しい。」
アイリンは親父にもニコリと微笑んだ。
「話は分かったわ、キャプテン、今回の任務には、
私も、協力させてもらえないかしら。エドと一緒に私も、地球に行くわ。」
キャプテンとは俺の親父のことだ。
アイリンは俺のことはエドと呼んでいる。5次元以上の世界では個人を固定する名前はあまり意味を持たない。必要であれぱその時、その時でふさわしい呼び方で相手を、呼ぶ。
姿形も自在に変化するのだから名前も流動的なのだ。
俺は突然の展開に驚いた。アイリンも地球に行く。
それはどんな感じなんだろうか。地球人の身体になることは、俺達5次元の人間にとって、とても負担がかかる。さらに、地球は波動も重く、滞在中の負荷も大きい。
1番キツイのは、おどろおどろしい想念を身体に浴びることだ。
特に俺達が受けやすい想念は妬みだ。
地球人になる時、身長や顔の造作も調整するのだが、ほんの10センチ程度の差でも、
人からどう思われるか変わってくる。180センチあれば、身長にコンプレックスのある男たちから、恨みにもにた妬みの想念がくるし、160センチ位にすると、途端に蔑みがくる。目の大きさや位置もちょっと違うだけで、
途端に地球人でいう超絶イケメンになってしまうから大変だ。
地球人の外見に対するコンプレックスは深刻で、地球のレベルアップを妨げている大きな要因の一つとなっている。
特に女性は外見によって大きく人生が変わるため、
必要以上に容姿を意識した人生になってしまっている。
地球では美人薄命という言葉があるが、これには、はっきりとした根拠がある。
美人は男女どちらからも好意を集めやすいが、それもネガティブエネルギーであることが多い。
自分にないものをそこから欲しいという想いを好意と勘違いしているのだ。
外見が秀でていると、好意を集めているように見えても妬みや恨みを寄せ集め、魑魅魍魎が集い、エネルギーを食べられすぎて、身体が弱り、死んでしまうのだ。
他人からのネガティブエネルギーを身体に浴びると、欠乏感を感じる。それを埋め合わせるために、食に走ったり、何らかの中毒になってしまうことが多い。
他人からの想念を受けることは大変な負担になるのだ。
地球へ行く前の肉体調整は細心の注意を払っている。
アイリンは女性だから、より注意しなければならない。おかしな男から、めをつけられても大変だ。止めた方がいいかもしれない。
「息子よ、その心配はない。アイリンは地球のことをよく分かっている。その上で協力を申し出てくれているのだ。アイリンには、165の周辺で動いてもらおう。」
165とは、91が一緒になることを予定している女性だ。
彼女と91が出会うまで、後2年はかかるが、あまりにも、2人が出会うのに困難な状況になっても困る。
親父は165も注意して観察を続けている。
アイリンが地球に詳しいとは知らなかったが、それならば、一緒に行くのも楽しいかもしれない。2人で3次元世界で食事デートをするのもいいだろう。
地球にいくのは大変だが、楽しみもある。その一つが食事だ。
サーターアンダギー星の住人は食べない。食べることが必要のない身体だからだ。食べることは、肉体に負担をかける行為だが、地球人にかかるストレスを和らげる効果が高い。
俺だって地球人になると、ほとんどの感覚が鈍るが味覚だけは発達して、食事が楽しくて仕方ない。特に日本は最高だ。
マクドナルドのポテト、吉野家の牛丼、バーガーキングのワッパー、ファミレスもいい、特にデニーズのステーキと生パスタは最高だ。サイゼリアのティラミスもいい。
俺がアイリンとの食事デートを妄想していると、親父がニヤニヤしながら、
「息子よ、どうやら行く気になってくれたようだな、それではよろしく頼む。」と言って俺の頭の中に必要情報がインストールされたチップを埋め込んだ。
一気に新しい記憶が埋め込まれる。これは、これから俺が遂行する任務に必要な記憶だ。この記憶を持った人間として地球で生きるのだ。親父はアイリンにも同じようにチップを埋め込んだ。