第6章:狼
第6章
薄暗い森の中。
ランドは、自分の手の中にあるものを見た。
ガライの変型した腕である。
それを脇に捨てて、言い放つ。
「…腕が無ければ何も出来まい。去れ。」
しかし、ガライは余裕の表情を見せていた。
『けっ!どうやったかは知らないが、腕を切り落としたくらいで、私が負けるとでも?』
そう言うと、腕がニョキニョキと生えてきた。
『私は、カマキリの能力を得た。虫は再生能力があるからな!』
そう言い、ランドに向かいに立ち腕を向けた。
『ここで、お前と王女を殺し…向こうに居る棟梁の喉を潰し持ち帰ろう。街の皆には、王女が切り裂き魔だったと伝えてやる。』
そう言って、プリムの方を見る。
「そ…そんな事はさせないわ!」とやっと腰が治り立ち上がる。
ランドはそれを見て言う。
「立てれるなら、その2人と棟梁を連れて逃げろ!」と言ったが、プリムは
「何バカな事言ってんの?私が敵に背を向けて逃げるとでも?」
と高飛車に言ってきた。
『はぁっはっはっはっはっ…』と笑い
『王女様…その意気が命取りですぞ。』
と言い放ち、羽を羽ばたかせてプリムの方へ飛ぶ。
振り上げて来た腕を上半身だけを回してかわし、右手を相手のみぞおちに入れた。
しかし、骨の様な物に当たり拳がはねかえされると、敵は左手の鎌をプリムめがけて振り上げて来た。
プリムは後方へ飛んだが、右腕を斬られてしまった。くっと小さい声を上げ、右腕を押さえながら膝をつく。
ガライはプリムに向かい歩いて行く…と、後頭部に痛覚を覚えた。
振り向くと、ランドが大量の石を抱え立っている。
『この…虫ケラが!お前から殺してやるよ!』と言おうとしたが、はっと立ち止まる。
どうやら、いつの間にか月が見える広い場所まで誘導されていた。
月明かりがランドを照らす。
微かだが、ガライに向いているランドの目は赤く光っていた。
「お前は、罪の無い街の人を殺し…俺の子分達も殺した。お前だけは許さない!」そう言うと、ランドは空に向かって叫ぶ。…と言うよりか、吠える。犬が遠吠えをするような声で…。
次の瞬間…
ランドの手から鋭い爪が出てきた。
口には牙を。あの長かった髪の毛も鬣のような感じになる。
…そして、言う。
「お前は"魂"を上手く制御出来て居ない。」と言うと更に変身を続ける。
数秒後に…そこに立っていたのは、狼であった。狼と人間が、まるで融合をしたかのような姿をしていた。
姿形は狼なのだが、人間のように両足で立ち腰まで頭から髪の毛が伸びている。
目は両目とも赤く光っており金色の毛なみは見る人を圧倒される。
ランドはガライを見ながら
「魂と体は、完全に融合して力を得る事が出来る。お前は、ただ単にカマキリを殺し続け…魂を奪い体に宿しただけの欠陥品だ!」と言い放つ。
『俺が欠陥品だと!?舐めやがって!この犬っころが!!』と羽を羽ばたかせてランドに襲いかかる。しかし、ガライの鎌は空を切った。
今までランドが居た地面に鎌が突き刺さる。
『何!?』
振り向くと、後ろにランドが居た。
しかし、こちらを見ていない。プリムの方を見ている。
『くそっ!逃げ足だけは早いな!!』
そう言いながら、振り向き後ろから襲いかかろうとした…が、体が動かない。『何だ?何をしやがった犬っころ!』
と叫ぶ。
ランドは落ち着いた表情で振り向き静かに言った。
「魂を宿しただけのバケモノに俺を倒すことは出来ない…。」
そして、目を伏せ
「可哀想に…死んだ事にも気付かないなんて…。」
えっ?とガライは思ったが、時すでに遅し。
体に無数の線が入る。
『いつの間に…!』
そして、そのまま体中から血が吹き出してその場に倒れる。
プリムは夢を見ている感覚だった。
憧れだった"あの人"は、切り裂き魔で、山奥に入るとカマキリのバケモノに変身して襲いかかってくるし…
昨日会った、おかしな盗賊の親分は子分を殺されて狼人間になり、ガライを瞬殺した。
プリムは、はっ!と気付く。
ランドはプリムに向かい歩いてくる。
プリムは慌てて立ち上がり戦闘体制を取っていた。
果たして、人間がこのバケモノに勝てるのか!と一瞬思ったが、そんな事を気にする暇が無かった。
ランドはプリムから数メートルくらい離れた所で静かに言ってきた。
「この姿…怖いよな。」
と一言。
プリムは一瞬キョトンとした顔になる。
「油断させてから、私を殺す気なの?」
と聞く。
しかし、ランドは
「俺は…好きで人を殺したりしない…。ただ俺は、この姿を見られたから去らなければならない。」そう言って夜空を見る。
プリムも釣られて、夜空を見る。無数の星達が、夜空を照らして居た。
プリムはまたランドに視線を戻した。
しかし、そこには誰も居なかった。
居たのは、切り刻まれたガライの死体と討伐隊の死体。
子分2人の死体も消えていた。
後ろから、棟梁が走ってくる足音が聞こえた。後ろから、棟梁が走ってくる足音が聞こえた。