トレインジャック 10
カタンカタン、と、線路の上を走る独特の振動音の間隔が、より一層短くなっていく。
「……。おい、どういう事だよ、白神。列車を止めるどころか、スピードが上がってんじゃねーか!」
不破がチラチラと速度計を横目で見ながら、白神に向かって焦った様子で怒声をあげる。当の白神は額に汗を浮かべながらも、速度計には目を向けないようにしていた。
「集中してください、不破さん。僕の前では機械は嘘をつけません。今、速度が上がろうが下がろうが、やるべきことに変わりはありません。絶対に。この速度上昇は、原因はこいつじゃなくて、もっと違うところにある」
白神が険しい顔で、列車を支配しているマシンヘッド、トレイン・ジャックを睨みつけたまま言葉を返す。トレイン・ジャックは、ただただ、静かに列車への干渉を続けていた。と、その時、その日何度目かの通信が、不破の耳に入ってくる。
『不破さん、大変です!』
桜庭小春が、焦りを孕んだ声でえらく包括的かつ曖昧な状況説明をする。
「時間が無い、内容だけ言え!」
「大変だ」などと言われても今更な話であるし、そもそも「大変」か「大変でない」かを聞いたところで、不破や白神にはまったく役には立たないのだ。彼らに必要なのは、ただただ現在起きているこの異常かつ緊急な事態を少しでも緩和するために有益な情報のみである。
「すいまっ、いえ!」
謝りそうになって、更にそれも時間の無駄であると悟る。
『生方君が! 四両目と五両目が切り離されてっ、もうすでに三両目と一キロ程離されています!』
「何ぃ!? なんなんだ次から次へと!」
『現在、稲葉隊長と一文字隊員の二名並びに救急部隊が、切り離された四・五両目へと救護に向かっています』
「隊長が!?」
『そういう事だ』
通信に、稲葉の声が割って入る。
『俺たちが、暴走しているそちらに外部からしてやれる事は……悔しいが、無い。駅舎は全ての人員と、移動させられるだけの危険物は避難させた。逆に、四、五両目は急速に速度を落としている。あと十分程で列車に追いつけそうだ。宗助は俺たちに任せて、お前達はその列車を取り戻す事に全てを集中させてくれ。……そっちは、お前達に任せるからな』
「了解!」
いくら尊敬してやまない隊長でも、不可能は幾らでもある事は不破も知っている。だが、稲葉が「任せろ」と言い、そして自分に「任せた」と言うならば、不破にとってそれで十分な士気になり、判断材料になる。
「あともう少しで、この列車のセキュリティの大半を取り戻すことができます。頑張りましょう」
白神が言う。不破も無言で頷き、再び白神の指示通り、命がけの『制御盤作成』が再開された。
『不破さん!』
そこに、イヤホンから再び小春の声が飛び込む。
『もう一つ重要事項です! 列車を止めるのに関しては絶対にして貰わなければいけない事があるんですが……すぐに不破さん達の乗る一両目を急停車させてしまうと、今度は、未だに200㎞/h前後で走る後続の四両目に追突される恐れがあります! ですので、セキュリティを完全に奪い返せたとしても急停車せず、こちらの指示を待ってください! 随時こちらから情報を伝えますので、絶対に通信を切らないでくださいね!』
「………。ったく、前は大火事後ろは雪崩っつーか、なんつうか……」
不破は既にこの状況に慣れてきているのか、それとも感覚がマヒしているのか、そんな軽口を呟いて、作業を続行する。稲葉の手助けが入るという報せを聞いたことで、心がほんの少しだけ軽くなったせいかもしれない。
そしてその頃にはもう、列車を取り戻す作業は終盤に差し掛かっていた。不破は慣れてきたのか、手際よく奪還作業を進めていく。相変わらずその額や顔に汗が浮かんではいるが。
「これをこうして……、こっちの線を切ったらいいんだったな?」
「はい。切ってください。それで、僕たちの勝利はかなり近づく筈です」
「うし!」
ぷちん、と、不破の指につままれていた細い銀色の線はあっけなくちぎられて、切断面を見せて力なく垂れ下がる。すると同時に、急に列車の電灯という電灯が一斉に消えた。列車は積極的に陽の光を入れるように計算されている訳では無いので、運転手室内は薄暗くなり西日が差す。その出来事に対して、不破は少し驚き、白神の顔には少しの笑顔が戻って来ていた。
「なんだこりゃあ? 電気が消えたぞ」
「上手くいった証拠です」
天井を見上げて言う不破に対して、白神はこうなる事があらかじめわかっていたかのように、誇らしげに応答する。いいや、彼は実際にわかっていたのであろう。ほんの五秒か六秒で、室内は再び灯りを取り戻し、先程までと同じような明るさを保ち始める。
白神は自らの通信機に向かって言う。
「桜庭さん、これで車内のセキュリティに関して、こちらで出来る事はほぼ終わりです」
イヤホンの向こうでは、安堵するような声が幾つか漏れた。その声を聞き、白神と不破も心持ち緊迫状態が緩む。白神は報告をした後に、小春に対して更に話を続けた。
「それで桜庭さん。してほしい事は、アーセナルのマザーコンピューターを使用して、そちらからネットワークを構築し列車の運転機能管理に介入して、残りのセキュリティを解除してください」
そして一拍おいて、
「得意でしょ? そういうの」
白神は、おどけた風に言った。
『よっしゃあ、桜庭さんに任せなさいっ――って言うか、……なんでマザコンでそんな事出来るって知ってんの、この子……』
「……。やだなぁ、今はそんな事気にしている場合じゃないでしょ」
白神は小春の呟きも聞き逃さず、暫くぶりに彼らしいおおらかな口調で、思わせぶりな言葉を返した。
*
オペレータールームではあちらこちらで凄まじいタイピングの音がしたり、情報伝達員が部屋の行き来を繰り返したり。避難がどうだとか、研究所からの連絡がどうとか、列車のセキュリティシステム構築の責任者がどうだとか、様々な話が雪村の机上で飛び交っている。一人一人が皆それぞれの作業に全力を尽くしていた。
「列車コントロールパネルへの接続が可能です!」
オペレータールームの作業員の一人が、叫びながら、慌ただしくキーボードを叩く。
「切り離された四両目の監視カメラの映像を取得しました!」
もともと四両目には防犯上の理由等で監視カメラが通路と室内に二つずつ設置されている。今までトレイン・ジャックによってその機能を奪われていたのだが、それら合計四つのカメラが、不破と白神の活躍によりその機能を回復したのだ。
「サブモニター二号に回せ!」
「了解!」
雪村の指示に、はきはきとした声で応答する作業員。
すぐに、メインモニターの横にあるサブモニターに、四両目に設置されている監視カメラの画像四つが、分割して表示された。
「………っ!」
映し出された画像に、巻き返しムードであったオペレータールームは再び沈黙を余儀なくされる。
「う、生方君っ……!」
小春が、そのモニターに映った少年の名前を呼ぶ。その声は、悲しい色を持って、部屋の中に響き渡った。監視カメラが映し出していたものとは―。
*
天井に開いた大きな穴から相変わらずごうごうと風が吹き込み続け、車両は走るスピード自体は落ちているものの相変わらず振動に軋む。
貨物列車である四両目の通路には、二人の男が存在していた。片方は身長が二メートルはあろうかと言う、金髪赤眼の大男。片方は、身長一八○センチ程の、特殊部隊スワロウの制服を身に纏った黒い髪の青年。
それぞれの名前は、ミラルヴァと生方宗助。
そのミラルヴァは、ただ足元を見つめ無感動な様子で立ち尽くしていた。
その生方宗助は、ミラルヴァの視線の先……床に這いつくばり呻いていた。彼の左腕は、曲がってはいけない部分で、ぐにゃりと折れ曲がっていた。
「う、ぐっ……あぁぁっ……!!」
声と共に痛みが口を通して体から出て行ってくれたような気分もするが、それでも次から次へと鋭い痛みが溢れてくる。痛みが激しすぎて何処が痛いのかが理解できていない。彼を襲うのは、想像を絶する痛みと苦しみ。続いて、劣悪な吐き気と目眩。
「ヴぅあっ……っぐ……いっ!」
単語として意味をなさない、文字の羅列。宗助は呻きながらもがく。痛みと苦しみから逃れようと必死で身をよじるが、肋骨を損傷していて、そのもがく行為でさえ彼に激痛しか与えない。内臓を損傷したらしく、咳き込んで口から血を吐き出した。
「……下手くそな手加減をすると、こういう事になるから気分が悪いんだ」
ミラルヴァはその言葉とは裏腹に、何の感情も宿していない赤い瞳で宗助を見下ろす。
「だが……攻撃される瞬間に、空気のクッションを作ってダメージを緩和したな? 無意識か、意識的に作ったのかは知らないが大したものだ。そうでなければ、左腕はちぎれ飛んでいただろう。それくらいの力でやったからな」
そう言われた宗助は、まだ激痛が冷めていないだろうにも関わらず、右手一本でよろよろと、必死に体を起き上がらせようとしていた。口では不規則かつ不安定な呼吸が行われており、その様子は、もし子猫だとかが見ても「この人間は、放っておいても勝手に死ぬ」と理解できるだろう。
「まだやるつもりか」
ミラルヴァは宗助の左肩を、まるで雑草を払うかのような動作で蹴る。ボキッと木の枝が折れる様な音がして、宗助の身体は地面を転がり、壁に激突した。
「~~~~~っ!」
声も出せぬほどの激痛に身悶えする。しばらく芋虫のように体を揺すっていたが、暫くして、まるで糸が切れたように動きが止まる。
「……痛みに気を失ったか。まぁ、そこで大人しく……ん?」
言いかけて、自らに迫る「何か」を感じ取ったミラルヴァは、咄嗟に防御態勢を取り、野生の勘のままにその感じる「何か」から身を遠ざけようとする。と、次の瞬間凄まじい衝撃波がミラルヴァを、いや、通路全体を襲う。
金属をトンカチか何かで強く叩いたような打撃音が列車通路のあちこちからなり始めた。ミラルヴァは姿勢を低く保ち、身体の前で両腕をクロスさせて、衝撃波から身体を守る。
通路中の窓が、宗助に近い方から順にビリビリと音を立てて振動し始め、終いには耐えきれず次々と甲高い音を立てて割れ始める。
通路全ての窓ガラスがはじけ飛びガラス片が飛び散るが、それさえも衝撃波によって列車の外へ吹き飛ばされていく。
「くっ!」
今までどんな揺れや衝撃に対しても微動だにしなかったミラルヴァが、初めて一歩、二歩と後ずさる。
少しして衝撃波は収まった。ミラルヴァの服や肌には無数の細かい切り傷がついており、そこから少量の血液が滲み出ている。ミラルヴァは防御の為に出していた両腕を下ろすと、その視界にまたしても意外な物を見た。
先程まで床に這いつくばり痛みと苦しみにもだえ苦しんでいた生方宗助が、立ちあがっていた。
明らかな戦闘不能状態に陥らせたというのに、立ち上がり、ぎらついた敵意を込めた視線を叩きつけてきていたのだ。乱れた前髪の隙間から、確かに二つの瞳が、ミラルヴァを捉えていた。
*
桜庭小春は、不破と白神の頼みでセキュリティ解除の為凄まじい勢いと速さでコンピューターのキーボードをタイプしていた。いや、それはタイピングと言うよりは、ビートに近いかもしれない。
そしてその隣では、海嶋が険しい表情でコンピューターと向かい合っていた。繋がったままの通信機から聞こえてくる戦闘音と、所々で挟まれる宗助とミラルヴァの会話。それらがすべて、生方宗助が敗北していないという事の証明であった。
闘いの音が止むという事は、どちらかが勝利し、どちらかが敗れたという結果が生み出されたことを意味する。戦闘音は早く止んでほしい。ほしいがしかし、もしもその音が止み終わったとしても、それが即ち、生方宗助の勝利とは考えづらかった。
訓練して一か月の隊員と、超人的なドライブと身体能力を持つ難攻不落の敵。戦闘音の終わりがどちらの敗北を意味するかは、火を見るより明らかだ。
「君は充分すぎる程働いた、だからもういい、逃げろ」とすぐにでも言いたい。だが、彼に逃げる場所さえ残されていない。宗助を担当してオペレーションにあたっていた海嶋は、複雑な気持ちで生方宗助の通信機から与えられる情報に耳を傾けていた。
作戦における行動指示は出来るが、戦闘となるとそこは前線の戦士達の領分だ。敵のデータを教えたり、行動パターンを分析して教えたり、広域の情報を与える事は出来るが、戦闘に関して指示できることは殆ど無い。この期に及んで、安全な場所で座っている事しかできない自分の無力さが恨めしくなる。
そして。轟音と共に、戦闘音は止んだ。
「……生方、君?」
マイクに向かって彼の名前を呼ぶが、応答は無い。
「切り離された四両目の監視カメラの映像を取得しました!」
誰かが言って、そうして流れ込んできた四両目の映像。サブモニターに映し出されたその映像を見て、オペレータールームの空気は凍りつく。小春は口を両手でおさえて絶句していた。地に伏せる生方宗助。その彼の、奇怪に折れ曲がった左腕と、そこについた痛々しい傷。口から流れ出る血。そしてそのすぐ傍で、それを見下ろすミラルヴァ。
絶望的な景色だった。映像を見る限り、戦闘は終了していた。結果は一目瞭然、生方宗助の敗北。だが、まだ彼はその命までは尽きていなかった。起き上がろうとする生方宗助に、無慈悲に撃ち込まれるミラルヴァの蹴り。いとも簡単に、まるでダンゴ虫を蹴り飛ばしたかのように吹き飛ぶ宗助の身体。
宗助が蹴られた勢いのまま壁に激突するのと同時に、小春が小さく「ひっ」と声を上げる。何度遭遇しても、根が優しい彼女にとってこういった暴力的な光景は慣れる事ができない物らしい。
モニターの中の宗助は、数秒痛みにもがき苦しみ、その後ぐったりして動かなくなった。その映像に圧倒されて、誰もが声を出せない。今までオペレータールーム後方で静かに構えていた宍戸が、いつの間にか前方へとやってきており、乱暴にマイクを掴む。
「おい稲葉、まだか。例の新入隊員、このままだと殺されるぞ」
宍戸副隊長がマイクに向かってそう言った。あまりに淡々と他人事のように話すので、小春は抗議の視線を向けようとした。だが、その無感情な声とは裏腹に宍戸の顔は、まさに鬼神のような表情で、小春はすぐに圧倒され言葉を喉の奥へとひっこませてしまう。
『生方の映像ならこちらにも来ている! だが列車の合流地点には、まだ着かん……!』
「……まずいな」
稲葉からの返答に宍戸がそう呟いた後、オペレータールームにざわめきが起こる。周囲が皆、先程とは違う、信じられない物を見るかのような表情をして、モニターに視線を釘づけにされていた。それらにつられて宍戸も思わず、モニターを見上げる。
映像が揺れて、乱れる。ガガガガ………と音声にひどいノイズが入る。
砂嵐が所々に入り、上手く映像が表示されない。
「なんだ、なにが起こっている」と、所々からざわめきは絶えない。ほんの数秒経過したのち、映像の乱れは無くなった。そしてそこに映っていたものは、オペレータールームに更なるざわめきをもたらした。
生方宗助が立ちあがっているのだ。
明らかに重傷で、起き上がる事さえままならぬ状態であった生方宗助が、立って敵を睨みつけていた。一体今の数秒で何が起こったのか、列車通路の窓ガラスは全て割れており、ミラルヴァの身体にも幾つかの小さな切り傷が見られた。
ズタボロの左手はぶら下げたまま身体をゆらりと揺らして、表情は動かさず、生方宗助はミラルヴァと対峙している。
小春は、モニターの向こう側の後輩の姿に、少しだけ恐怖した。彼の瞳は、彼女の知らない物だった。
*
今しがた発生した、まるで凄まじく巨大に膨らんだ風船を剣で突いて割ったかのごとき、圧縮された空気が一瞬にしてはじけ飛んだような、その衝撃波の正体は一体何だったのか。
ミラルヴァの能力では無い。そもそも、ミラルヴァ自身が驚き、僅かにだが傷もついているのだ。
そうなると、誰の仕業かを確定させるには、消去法になる。切り離された四・五両目にはたった二人の人間しか乗り合わせていない。
助けになど、誰もやって来ていない。
つまり、その衝撃波を放ったのは、生方宗助、という事になる。
「……どういう事だ?」
ミラルヴァの感じていた「不自然さ」は強くなる一方である。その生方宗助といえば。立ち上がってはいるが、言葉は発さず、脱力しており、視線だけはそらさずまっすぐに、彼に立ちはだかる敵を睨みつけていた。左腕は通常人間が曲げる事が出来ない箇所で曲がっており、力なくぶら下がっている。ぶら下がった指先に傷の部分から垂れてきた血が集まり、張力で耐えきれなくなったものから順に衣服を伝い床にぽたぽたと零れていた。
腕を通り越して肋骨にも重大な損傷があるだろうにも関わらず、先程とは打って変わって無表情で立ち尽くしている。まるで痛みを克服したかのよう。
だが、そう。言ってしまえばただ立っているだけ。そんな宗助に、ミラルヴァは眉を顰めて訝しげな視線を送る。
「なかなかの重傷のはずなんだが……」
そしてこの日初めて、目の前の男に対して、『警戒心』が芽生えた。肉体強化のドライブを持っているミラルヴァだからこそ判る、目の前の男の肉体の状態。間違いなく立つ事すらままならない筈だった。そもそも、数秒前まで実際に目の前の男は痛みに悶絶していた。
それなのに――。
再度、生方宗助から見えない「何か」が発せられた。
ミラルヴァはその存在を素早く感知し、それの軌道上から身体をどける。
ビュゥンッ、と、ミラルヴァの繰り出す拳とはまた違う独特の風切り音が一つ鳴った。
そしてすぐ後、ミラルヴァの居た場所の背後の壁に、ぱっくりと見事な切り口が刻まれた。その切り口は外の景色を眺めにるは充分な幅で、そこから天井の穴と同じく風が吹き込み始める。
(この技……フラウアをやった技か)
その切り口を見て、技の鋭さを思い知る。
「だが……なぜ、今の今まで使わなかった?」
そんな疑問が生まれるが、その思考も中断される。
続いて二発、三発と、ミラルヴァを追って見えない刃は次々と放たれていく。
全て、生方宗助の手によってだ。
ミラルヴァは舌打ちをしつつ、それらを移動しながらかわしていく。こういった鋭い中距離攻撃を繰り出してくる相手に対しては余りにも不利な地形である。ミラルヴァは壁に二つ目となる穴をあけて貨物室内へと飛び込む。彼の、宗助に対して感じる「不自然さ」は、ピークに達していた。ミラルヴァが振り返ると、宗助が追って貨物室内へと入って来ていた。口からは血が垂れているし、左腕はめちゃくちゃに折れている。だが、宗助はそんなものを感じさせない佇まいで、まっすぐに立ちはだかる。
「その技……昔に嫌という程見覚えがある。まさかお前は……?」
「ミラルヴァ……。お前の好きに、させる訳にはいかない……!」
擦れているが、強い意志が籠った声で宗助は言った。




