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machine head  作者: 伊勢 周
7章 トレインジャック
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トレインジャック 5


 四両目、貨物車両では、列車の天井に開いた穴から吹き込む風に顔を殴りつけられながら、生方宗助は目の前に降り立った大男を凝視していた。常識はずれなその登場シーン、巨大な風穴、そして特異なその見た目。異常事態に、宗助は足に釘を打たれたように動けない。


(穴……、穴? どうやって? 爆弾? 銃? いいや、そもそもこいつ――、)


 猫の群れに囲まれながら活路を求める窮鼠のような宗助の目を、その男は何もかもを見透かしているかのような赤い瞳で見つめていた。

 喉に石でも詰め込められているような閉塞感に、宗助は声が出せない。

 しばらくそんな宗助の顔を眺めていた男は、宗助に聞こえるか聞こえないか程度の声で、こう呟いた。


「なるほど、確かに似ていると言えば、似ているな」


 吹き荒れる風がびゅうびゅうと音を鳴らして、その言葉は宗助の耳に届かなかったが、とにかく弱い気持ちを表に出さぬよう、宗助は眉根を寄せて睨みを一層強くする。それが相手への威嚇になっていないことは、既に自分自身理解していたのだが、それでもしないよりかはマシだと信じていた。


「……お前は、何者だ……!」


 ようやく出たその声も、擦れていて少々頼りない。この時点で、両者の優劣が既におおよそ明らかになっていたのかもしれない。この宗助の発した一言のみで。


「名は、ミラルヴァという」


 その男は、淀みない表情と声で、ただそれだけ答えた。

 その態度にますます宗助は追い詰められる。特に何かをされている訳では無いのに、今にも前後左右上下すべてからから押しつぶされてしまいそうな威圧感に耳鳴りがして、視界が白む。視線だけは離してはならないと、必死に目に力を込める。


「なんで、俺の名前を、知っている?」

「フラウアが知っていて、自分が知らないという事もないだろう」


 その男の口から出たその名前。それは宗助にとって到底忘れる事はできない名前だった。今の自分がここに居るキッカケと言ってもいい男の名前。ということは、と宗助は軽く推理する。


「お前、ブルームの仲間か……!」

「知り合いと言う方がしっくりくる」

「お前らの目的はなんだ!? レスター達でも助けに来たか!」


 宗助が言うと、ミラルヴァはそこで初めて、眉をひそめ首を傾げ、不可解そうな顔をする。


「レスター? 聞かない名前だ」

「………知らないのか……?」

「自分の目的は実験作の『シーカー』……お前らの言葉でいう『マシンヘッド』の回収と、後は適当な資材の調達だけだ。満足いく回答は得られたか? 生方宗助」

(……レスターは……ブルーム達の仲間じゃない……?)


 新たに発覚した事実に、宗助は一瞬心を奪われる。そうではないかと思わせる要素は幾つかあったが、意外な所からその事実が確定した。だが、今はそれを考えるべき時ではないと思考を中断する。それよりも、この目の前の状況にどう対処するべきなのか、だ。

 宗助はチラリと貨物室への扉に目を向ける。この車両に載せてあるマシンヘッドは、カレイドスコープのみである。そしてミラルヴァの発言を頭の中で素早く反芻する。


「実験作、っていうのは……」

「そう。実験作。実験作で、失敗作だ。こちらのプログラムを受け付けない。だからそのあたりに捨てた。だがまぁ、少し興味深い点があるといえばあるからその後の様子を見ていたが、破壊された今、お前らにプレゼントしてやる道理もない。再利用させてもらう」


 惜しみなく次々と事実を並べていくミラルヴァ。こんなにぺらぺらと敵である自分に話して、一体どういうつもりなのかと訝しげに顔をしかめる。

 焦りと緊張のせいか、それらの明かされた事実達が、繋がりそうで繋がらない。そんな宗助を置き去りにして、ミラルヴァの口からは更なる事実が紡がれていく。


「その実験作は、事前の調査でこの車両に積んであるのは把握済だ。そして、あまり時間もないようだし――」


 右こぶしを軽く握りぶらぶらさせた後、貨物室側の壁を裏拳で軽く殴りつけた。その軽いモーションからは予測できそうにもない、まるでビルの破壊工事現場の様な凄まじい轟音を発する。ミラルヴァの右側にあった壁は吹き飛び、人間が三人悠々と並んで通れそうな大きな穴が開けられていた。衝撃に車両全体がグラグラと揺れ、破片が飛び散り宙を舞う。


「………なっ………!?」

「中身を確認できたなら、資材調達も同時に済ませるという意味で、この車両ごと頂く。シーカーも、ゼロから作れるわけじゃない、ちゃんと資材が必要なんだ」


 ミラルヴァはちらりと自分の開けた穴を見て、それすらも何事も無かったかのように再び宗助に視線を向けた。


「今回、お前をどうこうするつもりはない。何も言われていないからな。ただ目的を達成するだけ」


 射殺すような赤い眼光が宗助の体中に突き刺さる。


「しかしだ」


 吹き込んでくる風がびゅうびゅうと耳障りな音を立てて車両の中をひっかきまわす。


「向かってくるというなら、自分は容赦しない」


 250㎞/hで暴走する列車の中。彼らを取り囲む運命は、それ以上に加速する。


「自分を止めてみるか? 生方宗助」



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