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machine head  作者: 伊勢 周
4章 カレイドスコープ
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カレイドスコープ 2

(いっ……、なんだ、何が――??)


 前のめりに倒れそうになったところで両手を地面につき倒立しそのまま前転、両足は弧を描いて着地し、なんとか態勢を整えた。背中の右肩甲骨辺りがじりじりと痛んだ。


「……いってぇ、くそ……」


 振り返り先ほど自分が立っていた位置を見据えるとそこには、不破にとっては見慣れた、『生気の感じられない、人間の形をした何か』が、棒状の金属を右手に握り締め、静かに立っていた。


「いつの間に居やがったんだ……。ま、とにかく、レーダーは故障じゃなかったって訳だ……」


 その余裕のある口ぶりから、今の攻撃によるダメージはそれ程無かったことが分かるのだが、それでも人間が数メートル吹き飛ばされる程の力で殴られた訳で、その突然の出現と相まってオペレーター達は驚き、焦りに焦った。


『不破さんっ、大丈夫ですか!』

「声がでかい。何ともねぇよこれくらい、心配すんな。それよりこいつ……採番カラーリングが見当たらないな」

『あぁ。それに不気味な形だ、関節も滑らかで、銀の塗装以外は、まるで生きている人間みたいだ』


 普通のマシンヘッドは関節部に相応の機械ギミックや電流を通すためのコードががあるため、ある意味ロボットらしいデザインになるのだが、目の前のそいつにはそれがない。


『今までの敵とは何か違う筈だ。稲葉隊長もそちらに向かっているから、今は少し距離を置いて様子を見た方が良いかもね』

「隊長の手を煩わせるまでもない、俺がぶっ壊してやる」


 苛立った様子で、不破が戦闘態勢に入る。


「……不破君、僕の話聞いてる?」


 海嶋の少し呆れた声がイヤホンから漏れた。


          *


 敵が出現した事により一気に慌ただしくなったオペレータールームだが、基地に残っている戦闘員達にできるのはただ傍観するだけだ。援護出撃命令が出れば現場に向かうまでだが、簡単には援護命令は出ない。


採番カラーリングが無い、かぁ……」

採番カラーリング?」


 宗助が、千咲の口から出た言葉をそのまま繰り返す。視線をチラリと千咲の方に移したが、彼女は真剣な表情でモニターを睨みつけている為、すぐに目をモニターに戻す。


「まだ説明受けてない? マシンヘッドの姿形は幾つも種類があるけど、だいたいは共通した目印として身体のどこかに色付きの線が描かれている。それを『採番カラーリング』って呼んでいるんだけどね」

「それが有ると無いとで、どう違うんだ?」

「奴らはどうもマークの色や線の本数でマシンの性能を分けているみたい。せっかくだから私達も相手の強さを測る目印にしてるってワケ」

「へぇ。じゃあ、俺が病院で倒した奴はどれくらいだったんだ?」

「あー、あれは、暫定だと下の中から上くらいだったかな。あんまり戦闘向けの造りじゃない奴」


 あれで下の上……。宗助は自分が挑もうとしている敵の戦力に改めて戦慄を覚えた。


「だから、その目安が描かれてないから、今回の相手の性能がどんなものなのかわからないって事」

「正体不明って事か……。というかさ、敵が出たっていうのになんでそんな落ち着いてるんだ。自分達も出動する可能性があるんだろ?」

「まぁ、あると言えばあるけど……不破さんなら大丈夫、多分ね。何より隊長もいるし」


 それに、慌てたって仕方ないから。と付け足す彼女の視線はずっとモニターを射抜いている。夜間で戦況は少し見づらいが、まだ大きな動きは無いようだ。

 宗助がちらりと千咲のさらに奥に視線を配ると、対照的にハラハラした表情で食い入るようにモニターを見つめる岬がそこに居た。



          *



「ところで、海嶋。レーダーはこれでも反応を示してないのか?」


 人の形をしたその銀色の塊は、不破の出方を伺っているのか何なのか、その場からピクリとも動こうとしない。姿勢は猫背で、両手をブラリと下げて、顔も俯いている。不破は、銀色のそのマシンヘッド?から五メートル程間合いを取って観察している状態である。


『いいや、さっきから反応したり反応しなかったり。反応があっても種類が数秒ごとに入れ替わってる。そいつの中で小刻みに何らかの処理が行われているのかもしれない。もしかしたら、失敗作か』

「成程ね……今まででこんな例は聞いたことが無いな。あったっけか、こういうの」

『いや、無いね』


 不破は、そいつから一定の距離を保ちながら空き地を歩き、投棄されていた二メートル程の棒状鉄材の端を踏み下ろし、てこの原理で立ち上がらせると片手でそれを握る。視線は敵に突き刺したままで、相当の重量であると見受けられるそれを、まるでビニール傘でも持つかのように軽々と持ちあげる。

 稲葉から通信が入った。


『もうすぐそちらに到着する。今回の敵はどうも不気味だ。不用意に踏み込まず俺の到着を待て』

「……ええ、分かっています。踏み込みませんよ。……不用意にはね」


 何か今までと違う。だから不気味なものを感じる。ならばせめてそれを払拭する為にその機械の性能を少しでも暴かなければ。そう考える。

 不破の握る太く長い鉄材は、彼の『ドライブ』による変化で片側は鋭く細くなっていき、もう一方は風船が膨らむように丸みを帯びつつ大きさを増していく。そして、柄が大きく膨らみ、先端は鋭い槍のような形状の――、少々不格好ではあるが、銛のような武器をその場で作り上げた。


「簡易スピアガンだ」


 それは不破要作の、彼だけが操ることが出来る……スピアガンと分類したが、実際は伸縮自在で有名な如意棒のようなものである。


「いくぞっ」


 不破は掛け声とともに、先端の刃を前方へ押し出した。銛は目にもとまらぬ速度で空気と闇を切り裂き、鈍く光りながら突き進む。しかし刃の軌道は銀色人間の顔面スレスレで真横に逸れ、そこでストップした。銀色人間マシンヘッドが何かをした訳ではなく、それはすべて不破のコントロールによるものだ。

 不用意に攻撃を当てる事を避けてあえてギリギリで逸らし、攻撃に対してどのような対応を見せるのか、様子を見ようとしたのだ。


「……?」


 ところが何の反応も示さない。まるで興味すらないように、未だに手をぶらりと下げて地面を見つめている。不破は怪訝な顔つきでその様子を見ていたが、すぐに何かを決意する。


「……何にもしないならそれでいいさ。勝手にこっちでやらしてもらう」


 敵の横に逸れていた鉄の銛がぐんにゃりと曲がり、敵に巻き付いて行く。顔に、胴体に、手足に、大蛇のようにマシンヘッドの身体を這っていく。それでも、何の反応も示さない。


(徹底的に無気力だな……、こいつまるで、自分がやられるのを待っているのか……?)


 そんな、ぬぐいきれない不気味さを感じながらも不破は次の動作に入る。


「オラ、こっちに来いっ!」


 絡みつかせた鉄を縮める事により自分の方へと手繰り寄せ、直接攻撃の射程距離直前まで引きずり込むと、如意棒から手を離し両手をフリーにする。マシンヘッドは戻ってくる勢いそのままに無抵抗で彼の眼前まで迫り……瞬時に五発、直接拳を叩き込む。骨と金属がぶつかり合う鈍い音が響いた。


 不破が拳を叩き込んだその刹那、殴られた部分を中心にボコ、ボコ、と変形を始め、その原形を失っていく。

 その間たった三秒。不破が殴ってたったの三秒経つ頃には、造詣性のかけらもないぐちゃぐちゃな鉄の塊が彼の前に転がっていた。


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