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machine head  作者: 伊勢 周
3章 ようこそ、アーセナルへ
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十五分後に集合せよ



 ところで、宗助の風船訓練はというと。


 宗助の放った威勢のいい掛け声とは反比例に、重力に従ってしぼんだままのゴム風船と、恥ずかしそうにしているその彼を見ながら、不破は少し苦笑いしていた。

 あの血塗れの夜が彼への「試練」だったのか、それともこれから更なる過酷な試練と運命が待ち受けているのか……誰にも知る術は無いが、彼を見守っていこうと、不破は決意するのであった。


 宗助はそれから何度も風船割りに挑戦した。

 風船は膨らみはする。するのだが、一気に破裂させるにはあまりにほど遠かった。ゴム風船というものはただ力任せに空気を入れれば良いというものでもない。口で膨らませるにもちょっとしたコツが要る。割るとなれば、中途半端な力強さではどうにもならないのだ。

 コツだとかなんだとかを遥かに超越するような凄まじい力でなければ、風船は破裂しない。


「ふぅ、くそ……、なんで……」


 かれこれ三十分間風船と格闘しているが、その光景には特に変化も訪れず……風船はただ少し膨らんではしぼんでいく、それの繰り返し。


「最初はそんなもんさ。とりあえずこのへんでストップだな」

「えぇっ、なんでですか! まだ三十分くらいしか経ってないのに」

「素人にはその三十分でもかなりの負担になる。無闇にやりすぎるのはよくないんだ。焦らず、焦らず、日々の積み重ねだ。徐々に慣らしていけば、ドライブへの心身の耐久力もあがる。それよりも……」

「それよりも?」


 宗助が続きを促すように言葉を繰り返す。


「他にも鍛える部分がたくさんある。ドライブの力だけを磨けば戦果を挙げられるってもんじゃない。身体捌きだとか武術体術ももちろん必要になってくる。戦うための頭脳もな」

「なるほど……」

「お前は天屋さんという立派な前例があるからやるべき事がわかりやすい。バカ正直に敵と正面向かって戦うってことはせず、縦横無尽で素早い動きで翻弄し、隙を見つけて敵を討つ。そんなスタイルを目標にしていこう」

「そ、そんなの俺に、できる……のかなぁ?」

「ん、ま……それはこれからの努力次第。これ、前も言ったな」


 本人の努力次第。便利な言葉である。教える側の責任割合も少しばかり考慮に入れてくれないだろうか、とは言えず。



          *



 オペレータールームでは桜庭小春が一人で三つのモニターを相手取ってキーボードに指を走らせていた。対マシンヘッド探索用レーダーは、相手方の情報が十分に収集できていないこともあってまだ不完全な部分が多く、その割には保守管理にあれこれと手間隙がかかる厄介ものなのだ。


「あーもう、開発部門も不親切すぎるよー、アップデートの方法、紙に手順書かれただけじゃわかりにくいっつーの! しかも手書きだよ、手書き! なんでこんな時だけアナログなの!? しかも字が汚い! 説明も不親切! 部署名に同じ情報の文字がついてても、情報部と大違いだべー!」

「そういう人達なんだから、今更文句言っても仕方ないだろ。彼らには彼らの仕事が沢山あるんだから、作業分担だよ、作業分担」


 頭を抱えながら愚痴を飛ばす小春に、その隣で同じくキーボードをすばやく叩くオペレーター仲間の海嶋夏彦が彼女をなだめにかかる。


「そりゃあちがうよぉー。こういうのは、連帯感が必要なのだよ海嶋君……押し付けあうだけじゃあ、いい仕事はできないのさ……。相手の事を思いやってだね、『ああいう奴だから』、で済ましていたらそのうち――」

「わかった。わかったから早く進めよう。今回のアップデートが完了すれば、マシンヘッドの反応が空間的に把握できるようになるんだそうだ。そうなればこちらの負担も減るんだってさ」

「なによぉっ、あっちの肩もっちゃって。ズバリ、海嶋君はワタクシの言いたい事が全くわかってないでしょう」


 何かに似せているのか、桜庭は少し低めの声で身を乗り出して海嶋に訴えかける。


「毎回言うけど、似てないよ、ソレ」

「う……。わかってる……わかってますよ。練習中なんですよぅ」


 雑にあしらわれた桜庭は少しの間項垂れていたが、すぐに顔を上げると「次はもっと質をあげてやるぜ!」などとのたまいながら再び作業に戻る。それを見て海嶋も集中力を再び作業に充てる。

 そしてそのさらに隣では、優雅にコーヒーを飲みながら足を組んでパソコン作業をする秋月の姿があった。


「ん? ……ナニコレ」


 そんな彼女のまぶたが、ぱちぱちと二、三度開閉された。化粧とまつ毛エクステによって強調された長い睫毛がその度に揺れる。


「ねぇ、海嶋君。エリア16のとこなんだけどさ。ちょっと拡大して、三番のサブモニターにだしてみてくれない? 私は中身解析してみるから」

「エリア16ね。わかった」


 海嶋がカタカタカタ、と素早くキーボードを叩くと、大モニターに黒地の上に蛍光緑で描かれた地図が表示される。画面は幾つもの六角形の升目で構成されており、それぞれの枡が一つの区画を表しているようだ。


 一方で、秋月の操る端末には、「解析不能」と表示されている。


「あーらら。また解析不能か……。ほんとこれ、どうなってんのよ。……雪村司令、この妙な反応、どうしましょう」


 秋月が、後方の高い位置の座席に座る雪村に質問を投げかける。


「不能と判断するまでのプロセスはどうなっている」「敵性反応だったり生命反応だったり……パターンが数秒毎に不規則に変化している……。判定しきる前にパターンが変わるから解析不能になるんだろうな」

「海嶋、周辺の航空映像もメインモニターに出しておいてくれるか」

「了解。間もなく航空映像を表示します、…………表示しました」


 メインモニターに繁華街の航空映像が表示される。街灯の明かりの下、老若男女、様々な人が往来を行き来している。するとレーダーの反応が変化する。


「反応、微弱なレベルへ。更に弱まります……途絶えました。もう一度細かくエリア全体をクリアしていきます」


 海嶋が現状報告をして、再びキーボードを叩き始めた。モニターに映る街並みには、ざっと見たところ目立った異常は確認できない。


「異常は無さそうだが、しかし……稲葉。現地調査が要るな」

「ええ。誤作動の可能性もあるでしょうが……ほんの僅かでも可能性があれば、確実に安全を確認し、敵であれば芽を摘んでおかなければ」

「そうだな……。調査を行う。秋月、基地内放送をつないでくれ。全域だ。海嶋、戦闘員達に直接連絡を取れ、待機解除だ」

「了解。……つなげます」


 雪村は机上の端末を操作し、マイクに向かって話し始めた。


「こちらスワロウ特殊能力部隊。二分前、微弱かつ断片的ではあるが、詳細不明の敵性反応があった。現在は反応無し。よって現地調査を行う。基地内にいる特殊戦闘部隊員は、十五分後、準備態勢を整えて作戦会議室ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す、基地内にいる特殊戦闘部隊員は十五分後に――」


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