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machine head  作者: 伊勢 周
25章 最後の一撃を
275/286

たったひとつの方法


 ブルームは肉体を機械化した事と引き換えに、磁力を操るドライブを失っている。その為、攻撃手段が近接戦闘のみという事は見抜いているが、機械化した事によるあまりに固い守りに、宍戸は攻めあぐねていた。

 固い、というのは物理的な意味では無く、機械演算による攻撃行動や弾道の予測による反射と言っても過言ではない防御にあった。宗助の放つ空気弾等の見えない攻撃に対しては反応する場合としない場合があるようだが、目に見える攻撃に関しては徹底的にかわされる、もしくは受け止められる。

 宍戸によるドライブ攻撃は、彼の意思一つで急激に攻撃の軌道やタイミングを変化させる事が出来る為、そこに法則性などは無い。宍戸の能力の強みはその「自由さ」が目立ちがちあるが、さらに「速さ」と「力強さ」「持続性」を兼ね備えた総合力にある。

 その宍戸の能力を持ってしても、ブルームを守る防御演算システムは弾丸どころか、石粒一つの侵入さえ見逃さない。

 攻撃を受け止めそれを破壊する。受け止めきれない場合は人間離れした動きでかわす。


(……まさかここまでとはな)


 一体どれほどの攻撃ならばそれを突破できるのかと攻撃に迷いが生じ始めていた。

そしてその防御に加えて体力は無限大であり、こうして数分間闘い続けていてもブルームに疲労や集中力の低下は全く見られない。時間の経過と共に宍戸の生傷が増えていき、彼の体力は消耗し続けていく。なるべく息を切らしている姿を見せまいと平静を装うが、汗や呼吸の生理反応を全て隠しきれる人間は居ない。当然それらは空しくもブルームに見抜かれていた

 意識して呼吸を行い、なんとか血中に酸素を取り込んで、じりじりと距離を詰めてくるブルームに対して攻撃の構えを取る。


「無駄だと言っている。まだ諦めないか」

「……諦める理由がないからな」


 宍戸は鉛玉を大量に取り出し、それを空中にばら撒いた。二十個はあるだろうか、それら一つ一つが全て宍戸のコントロール下置かれていて、空中を飛び回りあっという間にブルームの周辺をぐるりと囲む。宍戸とて闇雲に攻撃し続けていた訳ではない。どこをどのように攻撃したら「受け止め」て、どこを攻撃すれば「避ける」のか、その違いを見極めていたのだ。「避ける」攻撃はつまりブルームが受け止められない事を意味している。その場所の何処かに、致命的な穴がある筈だと睨んでいる。

 ブルームが防御反応をする範囲をギリギリ外した位置に鉛玉を浮かばせて、全てをぐるぐると回す。まるで椅子取りゲームのように周囲をグルグルぐるぐる、攻撃の機会を窺っている。

 ブルームはそんな絶体絶命な状況にも関わらず顔色ひとつ変えず立っている。


「お前のくだらん能力など全て弾き返してやる。私を守るシステムに穴は無い」


 ブルームはそう言って、なんと宍戸に包囲網を敷かれているにも関わらず一直線に走り始めた。

 この行動には宍戸も意表を突かれ、慌てて近くの鉛玉から操作してブルームへと撃ちこんでいく。だがブルームは寸分狂わぬ読みと手さばきで、最初の二弾を右手の人差し指と中指と薬指の三本で器用に受け止め、指と指を挟む力で鉛玉を砕く。

さらに三弾を左手で瞬時にかき集めてまとめて握り潰し、背後からのニ弾を紙一重でかわす。目の前に迫った弾丸の横っ面を殴って弾き飛ばし、さらに信じられない速度で両手を振り回し、指と指で七弾もの弾丸を掴み取り、これも全てまとめて指の力で挟みつぶす。


「ならば、こいつはッ」


 激しくブレさせながら三弾、ブルームに差し向ける。速度よりも不規則性を重視して、防御システムを潜り抜ける魂胆だ。超高速でぶれ続ける弾丸は、ブルームの手前に迫る。

 しかし、一秒後、それら全て、ブルームの掌の中で握り潰されていた。


「この演算防御は、線ではなく点で捉える。小細工をしても無駄だと理解できたか?」


 全て防がれた。ように見えたが、さらに宍戸は潜ませていた三弾をブルームの足下から思い切り持ち上げる。それらさえブルームのシステムは見逃さず掴み取り握りつぶしてしまう。だがその潰した瞬間を見計らって、宍戸は素早くブルームの懐に踏み込み、両手を素早く突き出した。

 しかし。ブルームは一瞬で宍戸の視界から消えて、そして宍戸の太腿には十センチほどの抉られた傷が残っていた。


「ぐっ……」


 宍戸は顔を顰める。すれ違いざまに攻撃されたようで、ブルームと宍戸はそれぞれ互いに背を向ける形となった。ブルームの指先は血で濡れている。


「少しでも触れれば自分の勝ちだと思ったのだろうが……何度無駄だと言った? このまま死ぬまで、お前は同じことを繰り返すのか?」

「……どうだろうな」


 二人は同時に振り返り、再び対峙する。

 飛び道具による攻撃は通じない。それを認めて攻撃としての手段から捨てた時、宍戸は自分の限界を見せつけられたようで精神力が折れ曲がりそうになった。が、しかし敵を倒す手段ならばまだ宍戸にもある。近接戦闘で直接触れれば、一番確実にブルームを準戦闘不能状態に陥らせることが出来る。

 近接戦闘のための構えをとる。ブルームはそれを冷めた目で見た。


「先ほどの戦闘で理解できなかったのか。お前は私に触れることも出来ん。体力が落ち、足を潰した今、尚更だ」

「その慢心で、お前は稲葉に負けたんだろうが」

「……ふん、わからないなら徹底的に理解させてやる」


 ブルームも足を軽く開き姿勢を低く、両手を前にかざして格闘術の構えを取る。

 そしてすぐに宍戸の腹部目掛けて軽いジャブを放つと、宍戸も素早く反応しそれを見極め、掌で受け止めに行く。その瞬間ブルームの拳がピタリと停止、宍戸の掌に収まらない。

 ガードのタイミングを外されほんの僅かに判断にブレが生じ……ブルームの静止した拳が再起動、瞬時に掌の横をすり抜けて、宍戸の頬の形を歪めていた。

 頭部に強い衝撃を受け、宍戸の思考が一瞬止まる。ガードが緩み、さらに攻め込まれる。二発目以降はなんとか腕や肘を使って軌道を反らして攻撃の直撃を避け続けたが、ブルームの止まらない猛攻の前に、掌で触れる隙など無かった。

 肉と骨がぶつかる生々しい音だけが通路になり続ける。



          *



 ミラルヴァを倒した不破も相当に体力の消耗をしており、ダメージも大きくなかなか立ち上がれず、じっと座って呼吸を整え続けていた。すると。


「……おい………………、不破……」

「……なんだよ」


 倒れているミラルヴァが掠れた声で不破の名を呼び、その不破も掠れた声で返す。


「これで、自分もようやく……敗北を認めることが、……止まることが、出来る気がする……。礼を言う……」


 不破は少しきょとんとした表情で倒れているミラルヴァを見て、それからはぁ~と盛大に息を吐いた。


「そりゃあ、どうも」


 不破はため息を吐きながら言い、よろよろふらふらと立ち上がる。


「お前とのんびりおしゃべりしている時間は俺には無いんだ……。宍戸さんと宗助を手助けしに行かねぇと。……お前はこれからどうする」

「自分は、まだ立つのも無理そうだ……手足が動かん」

「あぁ、我ながら良いキックだった」

「……全くだ」

「そんじゃあ遠慮なく、ここは通らせて貰うぜ」


 不破はそう言って自身の能力で塞いだ通路にまた道を創り開いて、そしてふらふらと酔っぱらいのような足取りで駆けていく。



          *



 宗助はレオンに問い質す。彼は、全てのマシンヘッドを止める事は出来ないと言う。


「停止出来ないって、なんでだよっ、ここで全部管理してるんだろっ?」

「……だからぁ、さっきも言っただろっ、ここで止めたら、ブルームはきっと怒り狂う……君達がブルームに勝つって保証が無いじゃないか、止めたけど結局君達は負けました、じゃあ僕は……どうなるんだよっ」

「必ず勝つ、そう約束することしか出来ないが、兎に角仲間の、いや、世界中の人達の命がかかってるんだ、頼むっ」

「だから、そうしたかったら先にブルームを―」

「もしそうなっても、わたしがお父さんを止める。だから、レオン、すぐに止めて」


 リルが厳しい口調でレオンに反論する。


「すぐに止めないと、わたし達、もう友達でいられないの、だから止めてっ!」

「う……そう、言われても……。止めるとなると……」


 さらに強い口調でそう言われ、レオンはたじろいだ。しかしそれでもまだ止めようとしない。リルは目を吊り上げる。


「止めなさいッ!!」

「は、はい!」


 怒鳴るリルを見たのは、レオンはおろか宗助も初めてで、豆鉄砲で撃たれたような表情で彼女を見る。

 レオンはすさまじい速度で机の上のパネルを操作し始める。目の前のモニターに幾つもの文字列が浮き上がりは消えていった。何やらプログラムを弄くっているようだが、宗助には進捗状況など分かるはずもなく、焦りだけが募る。


『生方くん……こちら、アーセナルザッザザ桜庭です……作戦の状況を、ガガ報告して』

「こちら生方、今システムを停止している最中ですが、もう少し時間が掛かりそうです……」


 レオンに、あとどれくらい掛かりそうか尋ねようとしたが、鬼気迫る表情で作業を行っている彼に話しかけることすらはばかられた。そうする事で一秒でも作業が遅れてはいけない、と。

 それから三、四分程経った頃。


「……できた……。あとはこのキーを押すだけ。それで、僕が創ったこの建物のシステムは全て一斉に停止する。シーカー達も、ブルームの戦闘のシステムも……電力供給も、全て……」


 そう言ってレオンは端末のタッチ式パネルの中の大きな区画を指し示した。エンターキーだ、


「よし、わかったから、早く押してくれ」

「…………っ。……やっぱり無理だッ、無理だよ……僕には押せないっ!」


 レオンはそう言って椅子から立ち上がり端末から離れる。当然そんな事を宗助が許すわけがなく、すぐに詰め寄った。


「なんでっ、ここまできて何を言ってんだ!」

「こんな事になるとは思わなかった……難しい説明は全て飛ばすけど、今、リルの体内にナノマシンは存在していないんだ。さっきナノマシンを排除する薬を飲んだから! 知ってるんだろ!? リルの身体はナノマシンがないと脳が上手に機能しないんだ!」

「ナノマシン……あの、記憶がどうとかって、ブルームが言っていた奴か……? じゃあなんでそんな薬を飲ませたんだよっ!」

「もう旧式も旧式だったから、とっくに取り替えなきゃいけない時期は過ぎてたんだ! だからブルームは慌てて、ナノマシンが壊れる前にリルの記憶をここのコンピュータに移した! 新しいナノマシンを入れる前段階だったんだよ……。今もしこのシステムを止めてしまえば、その記憶も全部消えてしまう! 全部だ! 全部消えちゃうんだよ!? リルの記憶をサポートしている機能も停止して半永久的な眠りに就いてしまうッ!」

「なっ……」


 レオンの声と態度から、彼が嘘を言っている可能性は全く感じなかった。故に宗助は絶句した。マシンヘッドを今すぐ止めなければ、世界中で今も殺戮が行われているかもしれないのに、ピタリと頭の回転が止まってしまった。


「じゃ、じゃあ……その新しいナノマシンっていうのはここには無いのか? それをすぐに入れて、記憶を―」

「時間的にまだ薬が抜けきってない。それが抜けてからじゃないと新型は入れられない。あと一日は様子を見なきゃだめだ。新型を入れられたとしても、今から十五年分の記憶をインプットするのに何日間もかかる。どれだけ高性能のコンピューターでも」

「じゃあ、まずマシンヘッドのシステムだけを止める事は出来ないのかッ!?」

「シーカーを操っているシステムとリルの記憶を保管同期しているシステムは複雑に絡み合っていて、どちらかだけを生かしてプロテクトするという手順が出来ない……。想定していなかったんだ……ブルームに早急にやれって言われて、それが最短の構築方法だったから……」

「そんな、……くそっ、……なんだよ、なんなんだよ、それじゃあ、何も手は無いのか!」

「一つ一つ停止命令を出すって方法はあるにはあるけど、数が多すぎる……。急いでも、僕一人の手作業だと一日二日で終わらない」

「そうだ、せめて、帰還命令は出せないのかっ」

「今回のは、帰還プログラムが搭載されていないのが半分を占めてる鉄砲玉なんだよ! とにかく、このボタンを押せば、全ての機械は止まる。だけどリルの記憶は無くなって、もう目を開かない、話も出来ない……! 全部理解したうえで、押せるものなら君が押してくれ。僕には出来ない……。何万の知らない人の運命より、何と言われようが隣の友達の記憶と人生が大事だからっ」


 レオンは半泣きで言った。ブルームが恐いというのは建前だったのだ。できればリルにこの事実を伝えたくないと考えていた。だけど、事態は抜き差しならぬ状況で、選択を迫られている。

 宗助はそのエンターキーと自分の手と指を見る。

 混乱して何が正解なのかわからない。残酷過ぎる二択。

 そのボタンを押さなければ世界中のマシンヘッドは止まらない。だが、そのボタンを押せばこれまでのリルの記憶はこの世から消滅し、彼女は植物人間に。

 どうするべきなのかと自問するが答えは出ない。何度も頭を過るのは、こうしている間にも世界中でマシンヘッドにより傷つけられ殺された人間が間違いなく居るというシンプルな事実。

 任務を遂行する、とあれほど強い決意で不破と宍戸を囮にしてここまで来たのに、宗助はそのボタンに触れることが出来ない。


『生方君、こちら、アーセナル……千咲ちゃん達の戦況……ガガ少し、いや、かなり悪くて……数が多すぎるの、捌き……ガガザザない。システム……ザザザ止める……、まだ時間がかかるっ?』

「―あぁっ、もうっ!!」


 桜庭からノイズ交じりに通信が入るが、宗助はイヤホンとインカムを乱暴に外して物理的にそれを遮断する。桜庭には今のレオンとの会話の音声が届いていなかったようだ。


「くそっ……!!」


 どうしようもなく、宗助は壁を殴る。そんな事をしても事態は好転しない事はわかっているのに、そうせずにはいられなかった。


「アルセラさんは、この事を知っていたのか……? 知っていて、俺がここに来るようにと、頼んだのか……!?」


 しかし、その時ばかりはアルセラからの返事は無かった。その無言が、何よりの返事だった。ふと、宗助とリルの目が合う。当の彼女は非情に困惑した表情だった。


「リ、ル……」


 それも当然だろう。世界の運命と自分の人生を今、ボタン一つで決められる状態にあるのだ。もし自分が彼女の立場なら、きっともっと怒って困って、何としてでもボタンを押されるのを阻止していた筈だと宗助は思った。「俺は何も悪いことはしていない」と叫びながら。

 だがリルは……きゅっと唇を噛んで、そして次に優しく微笑んで宗助に歩み寄り、両腕でそっと彼の身体を抱きしめた。


「ねぇ、宗助」


 そして、穏やかな声で名前を呼び、語りかけた。


「私は、あなたの困っている顔は見たくない。初めて出会った時、宗助が教えてくれた事は今でも覚えているよ。困っている時に、無条件で味方するのが本当の友達だ、って。だから私は、宗助にとってそういう人でありたい。宗助が私にとって、いつもそういう人でいてくれたように」

「リル……何を、言って……」

「あのね。わたしの記憶は消えてしまう……のかも、しれないけれど。消えてしまっても。わたしが今日、この日まで生きてきた事は、誰にも消せない。いろんなものを見て、人と話して、ふれて、感じて、考えて、動いて……その幾つもの積み重ねが、このわたしだから。ジィや宗助や、みんなが創ってくれた、このわたし。きっとこれが、わたしの魂。記憶がなくなったって、わたしは消えない。―だから宗助。わたしの事、どうか忘れないで。……それだけで、『わたし』は、いつでもここに居るからね」


 リルはそう言って、宗助の胸にぎゅっと顔を押し当てた。


―ジィ。ごめんね。今までありがとう。

   お母さん。レナ。これでいいんだよね、わたしたち。


 リルは宗助に抱きついたままそっと端末へと右手を伸ばし、自らエンターキーのそばに指を添えた。レオンがそれに気付いて、「あ……」と呟いた瞬間にはもう遅く、リルのその細い指は―。



          *



 それは、量産型フラウアの鋭い鉤爪が、追い詰めた陸上部隊戦闘員の頸動脈を断ち切ろうとしたその瞬間だった。ほんの数センチ手前で、その爪はピタリと動きを止めた。


「……な、なんだ……? 助かった……?」


 尻もちをついたまま、隊員は動きを止めたソイツを見上げ、慌てて後退りして距離をとる。


「……おい、見ろ。どういう事だ」


 周囲にいたマシンヘッド達は一斉に動きを止めたのだ。絶え間なく降り注いでいたマシンヘッド・フラウアが、降りてきたのはいいが何もしないまま頭からまっさかさまに地面に激突し大破した。にもかかわらずどこでも爆発が起こらない。そしてフラウアの降下自体が無くなり、飛空艇は音もなく、そっとその場を去り、徐々に高度を下げて海上に不時着した。


「こりゃあ、まさか……」


その場の人間達は、その光景に一つの事実の訪れを思わずには居られなかった。数十秒経過し、全員の通信機に同時に連絡が入る。


『全員に通達する! アーセナルのスワロウチームが敵のシステムの停止に成功した模様! 繰り返す! アーセナルのスワロウチームが―』


 その通達が出た瞬間、兵士たちは武器を手放して歓喜の声をあげた。




 千咲も、美雪も、エミィも、突然目の前で停止したマシンヘッド・フラウア達に困惑して、答えを求めて白神を見る。


「白神さん、これって、もしかして……」

「どうやら、宍戸さん達がやってくれたようですね」

「……ってことは……」

「嫌な感じが、あっという間に消えていきました。こいつらはもう動きません。永遠に」


 白神が汗だくの顔でニッコリと笑ってそう言うと、四人はそれぞれお互いの顔を見合って、笑顔が綻んだ。


「―………………………やっっっっっっったぁーーーーーーーッッ!!」


 エミィはその場で飛び跳ねて喜び、千咲は刀を手放し、思わず美雪に抱き着いた。美雪はキョトンとして抱きつかれるがまま。そして白神は、遠くの空を眺めて微笑んでいた。


「ついに、終わったのか……、いや、まだだ」


 笑顔を噛み殺し、呟く。


「……みなさん、後は、どうか無事に……帰ってくることを祈っています」



          *



 オペレータールームでも、全世界のレーダーから一斉にマシンヘッドの反応が消えた事を受けて、これはもしや……と全員がざわつき始め、そして次から次へとマシンヘッドが動かなくなったとの報告が入ってきていた。そして、間違いないと確信し、わぁっと歓声が湧く。


「やった、やったよ生方くん! 止まったよ! マシンヘッド!」


 小春は興奮した様子でインカムに向かって叫んだ。

 世界中を現在進行形で襲っていたマシンヘッド達は、一斉にその活動を停止したのだ。

 もう、これ以上命を脅かされる事はない。小春だけと言わず、オペレータールームの面々は皆目に涙を浮かべ、抱き合って喜ぶ者たちや、その場で飛び跳ねる者、喜びを噛み締めるようにその場でうずくまる者も居た。何年間もずっと、起きている時も寝ている時も恐怖に脅かされ、終わりの見えない戦いを強いられてきたのだ。喜ばない者は、その場に居るはずがなかった。


「ついにやったんだね、私達! 凄いよ生方くんっ……。…………生方、くん……?」


 だが、それをもたらしたらしい張本人である宗助からは、何の返事もない。不審に思った小春は、再度宗助の名を呼ぶ。

 だが、返事はない。




          *



 宗助は。

 跪いて目を閉じ、唇を噛んで声を殺して……

 安らかな表情で眠る彼女の肩を抱きしめ、泣いていた。



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