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machine head  作者: 伊勢 周
3章 ようこそ、アーセナルへ
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ドライブ能力という魔法

 昼休憩を一時間ほど挟んだ後。オペレータールームすぐそばの作戦会議室ブリーフィングルームにはスワロウの隊長である稲葉と不破、そして生方宗助の三人が居た。会議室内には直径三メートル程の円卓が中央に置かれており、十脚の椅子がそれを囲むように等間隔で並んでいる。


「宗助はそこに座ってくれ」


 不破と稲葉が腰掛け、宗助も指示された場所に座る。稲葉からアーセナルの概要について書かれた冊子が渡され、その内容に沿ってあれこれと説明が行われた。


「さて、大方説明したが、現時点で分からないことはあるか」

「ずっと気になっていた事があるんですが、そもそもスワロウって、本当にその、マシンヘッド、でしたっけ、奴らと戦う為だけに作られた部隊なんですか?」


 そして、そのスワロウの職務について、「どこ」の「誰」が「何」を知っているかも、彼が今後日常を過ごしていく上でとても重要な事であった。大学には休学届けを出した。幼馴染にも家族にさえも真実を隠し命懸けで闘うのだ。自分の立ち位置をしっかりと把握しておかなければならない。少なくとも宗助は、今まで生きてきた中で『特殊部隊スワロウ』などという名称は聞いたことが無かったし、当然どのような経緯や功績があるかも知らない。


「俺達スワロウは、その通り、対マシンヘッド特殊部隊として創設された。これが質問に対する一番の答えなのだが、同時にこうも考えた。俺達が持っている『特殊な力』。これを持つ民間人は潜在的な者も含めて多く居ると予測されるが……人々がルールの決められていないこの力を悪用すれば、人間社会にとって、とんでもない脅威だ。そういった対応も、同じ力を持った俺達にしか出来ない事だと考えられている」

「そういえば、能力に対する道徳を身につける教育をしている、と」

「あぁ。だから、スワロウに与えられる任務は、大きく分けるとその二つだ。もちろん役に立てそうなら災害救助等にも出るが、ドライブ能力は民間人の前では使用禁止だ」

「いつ頃この部隊は創られたんですか?」

「十一年前かな。マシンヘッドによる被害者が出たのが、その少し前の話だった。これは余談だが……隊の創設者であり当時隊長だった天屋さんは、最初こそ奴らの出現に驚いていたが、判断は早かった。正体不明の機械兵に臆することなく果敢に立ち向かい次々と破壊していった。まるでマシンヘッドが出現するのをどこかで予感していた様子さえあったな……」

「予感していた?」

「ああ。俺の主観的な感想でしかないが……。それからも天屋さんは次々とマシンヘッドを倒し、人々を助け、俺達を育て、スワロウという部隊をここまで鍛え上げた。天屋さんを知っている人間ならば。あの人が『伝説の兵士』と呼ばれていることに誰一人反論はしない。それくらい、偉大で強靭な人だった」


 強靭な伝説の兵士。しかし、それ程までに讃えられる人間が今この場所にいない。海外にでも行っていたりするのか、あるいは、既にこの世に居ないか……。宗助が訊くべきか否かと迷い口をつぐんでいると、そんな彼の考えを察したのか、稲葉が一息置いてこう言った。


「そして。天屋さんは一年程前に、俺たちの前から……姿を消した」


 消えた、という表現に宗助は微妙な違和感を覚えた。「死んでしまった」「辞めた」ではなく「消えた」という、その言い方。それはまるで一連の死体さえ残さない事件の被害者達を語るかの表現だ。実際そうであったとして、それ程の実力を持つ強者でさえもその命を奪われてしまう程の厳しい現状なのだろうか。

 もし宗助の推測が正しく、天屋前隊長がマシンヘッドの犠牲になりこの世から消し去られたのだとしたら。マシンヘッドとソレらを操るブルーム達の周囲には想像を遥かに凌駕する深く濃い闇が立ち込めているように感じられた。


「天屋さんはこの特殊な能力を『力を操る』という観念から『ドライブ』と呼んでいた。そしてどういうワケか、その天屋さんと全く同じ能力を持つのが、……宗助。君なんだ」

「ド、ドライブ? 同じ? 俺の能力が、その天屋さんと?」

「呼び名は気に入らなければ好きにするといい、肝心なのは中身だ。ただ、君の『ドライブ』は空気を生み出し操ることができる力、『エアロドライブ』で間違いない。我々はそう呼んでいる」

「エアロ……ドライブ……」


 宗助がその言葉を反芻する。


(結構かっこいいな。どうしようも無い能力だと思っていたけど)


 物は言いようという言葉を、宗助はこの時程実感したことは無かった。


「そしてこれは、関係は無いただの偶然だとは思うんだが……天屋さんは、外見だとか表情だとか、佇まいが君とよく似ていたよ。写真を見ればきっとそう思う」

「……そ、そうなんですか」


 そうは言われても、宗助は何も感じなかった。初めて会った時に「似ている」と言われたのはこの事だったのかと合点はいったが。

 宗助には、自分と前隊長の外見よりも気になることがあった。


「そのドライブっていう奴についてなんですけど、えぇっと……」


 宗助の視線が、稲葉の顔と不破の顔を行ったり来たりする。


「……あぁ、呼び方は、そのまま稲葉でかまわないよ。隊は皆、家族のようで仲もいいが、一応は縦社会だから敬称か位はつけてくれ」

「はい。じゃあ、稲葉隊長。稲葉隊長も、不破さんも、あとブルームを始めとした敵も。皆その『ドライブ』って奴を使えるんですか?」


 フラウアと名乗る男との一連の衝突では、正体不明の常軌を逸脱する現象に見舞われた。普通の人間では到底考えられないようなパワーとスピードで襲撃され、脳と肉体のコントロールをバラバラにされ、一方的に嬲られた。


「ここで働く者全員が、という訳ではないが……そうだな、ここからはトレーニングルームに移動して説明する。……宗助。これを先に渡しておく」


 宗助に稲葉が差し出したものは、免許証サイズのカードで、表面には飛んでいるツバメの黒い流線型のシルエットに『S.W.A.L.O.W』と書かれているだけのシンプルなものだった。そしてそれと同じマークが入ったワッペン。


「それは君の隊員証カードとワッペンだ。そのカードで基地のロックが半分以上開けられるから、絶対に紛失するな。ちなみに、通常の拳銃でゼロ距離から撃っても破壊できない頑丈な作りになっているから、戦闘中に不注意で破損なんてことは滅多に起こらないだろうから気を使う必要は無い。だが、もし破損すれば再作成は……理由にもよるが自腹だから気をつけろ」


 稲葉の口から何気なく出た戦闘という言葉に宗助は改めて思い知った。自分は『戦闘』をする為にここにいるのである、という事実を。何の違和感もなく『戦闘』という言葉を使う目の前の人達が、とても大きく見えて、畏怖の念を覚えてしまった。この人間達は、何度も何度も自分や他人の命の危機に面して、そしてそれらを乗り越えてここにいるのだろうと。つばをごくりと飲み込んだ。 


「それじゃあ、トレーニングルームに移動しようか」

 


          *



 ブリーフィングルームを出た三人は、廊下を歩いている。いくつもの扉を通り過ぎ、エスカレーターや移動式歩道に乗り、また廊下を歩き、それの繰り返し。途中で噴水や庭園もあった。

 そんな風に何か大きな設備だとか施設の前を通るたびに不破が必要以上に詳しく説明するため、常時退屈しない移動であった。ただ、あまりの広さに、どれだけこの隊に在籍すればこの基地(アーセナル)の全容がしっかりと掴めるのだろうかという不安は頭の中で膨らんでいた。


「もう耳にしていると思うが、妹さんはこの山の麓の病院に病室を移させた。アーセナル直属の病院だから、連携が行いやすいんだ。一方的で申し訳ないが、いちいち了承を得てから動いていると後手に回り、時に取り返しがつかないケースとなったりもする。もちろん入院費から移送費用もスワロウで負担するから心配しないでくれ。空き時間があれば見舞いに行ってくれて構わない」

「いえ、今思うとありがたいです。入院費も負担してもらえるっていうのは特に……。ただ、他の入院したい人を押しのけてしまっていたら申し訳ないなって思うくらいで」

「ああ。それは気にしなくていい。大丈夫だ」

「大丈夫なら良いんですが」

「心配無用だ。妹さんには早く良くなってもらって、こちらの任務に集中してもらたいしな」


 程なくして、アーセナルのトレーニングルームにたどり着く。多種多様のトレーニングマシンや、一見したら何に使うのかわからない器具がズラリと揃えられており、宗助は物珍しそうにきょろきょろと見回していた。


「ここは隊員なら誰でも自由に使ってもいいんだが、今日はトレーニングが目的じゃない。あっちの奥の部屋へ」


 奥の部屋へと進むとそこには、よくテレビでダンスの練習風景なんかで見るような壁の一面が大きな鏡張りとなっている大きな部屋だった。


「この部屋で少し待っていてくれ。すぐに戻る」


 部屋に着くなり稲葉はそう言うと出入り口にUターンして部屋を後にした。


「……何なんでしょうか」

「まぁ、待ってな」


 五分も経たない間に稲葉は大きな箱を持って部屋に帰ってきた。

 あまりにも軽々しく持っているため重たくないのだろうかと思って見ていたのだが、彼が地面に置いた瞬間にゴンッ! と派手に音が鳴った。中からはガチャガチャと金属がぶつかり合う音が聞こえる。

 その箱の中には一体何が入っているのか、宗助には見当がつかなかった。稲葉が箱の蓋を開き中に手を入れ、中身を取り出した。

 出てきたのはまさかの一品……宗助が病院で真っ二つにしたロボットの残骸であった。


「これは……!」

「君が真二つにしたマシンヘッドだ。だが、プロ野球で初勝利ボールを投手にプレゼント、なんて事をするために持って来た訳じゃあない。こいつはどう見てもおかしいんでね、もう一度確認を取るために持ってきた。実物が合ったほうが記憶も遡りやすいだろう」

「おかしいって、何が……ですか」


 稲葉はマシンヘッドの上半身を持ち上げると、その切り口を指でなぞってみせた。


「この切り口だ。どう考えても、ドライブを徹底的に鍛錬された者の鋭さだ。熟練者の中でもかなり上位のワザ。何も知らない、何も訓練を受けていない君が、これほどの事を一発勝負でできたというのが、『おかしい』。経験からして、なかなか考えられる事ではない」

「そんなこと言われても……」


 そのセリフは宗助の正直な心情だった。そうなったものはそうなったのであって、いくらおかしいおかしいと言われた所で、結果だけがこの世に残っているのみだ。


「あのなぁ宗助、別に俺達はお前が嘘をついているかって疑いをかけているんじゃない。リラックスして聴いてくれ。本当に素人なのかどうかって改めて確認が取りたいだけさ。ドライブ能力について、俺達にもわかっていない事は沢山あるからな」


 宗助は、ゆるい口調で言う不破に眼を向けた後、隊長に向き直りハッキリした口調でこう言った。


「俺は……。あんなことが出来たのは初めてだし、そもそも、未だにこれを自分がやったというのも……信じられません」

「そうか。正直に答えてくれてありがとう。不破の言うとおり、まだ判ってないことの方が多いのだから、こういう事例もあって然るべき。君のドライブ能力についてはまた後日色々と測定をしよう。基礎体力もそうだが、『ドライブ』を上手くコントロールするには乱れぬ精神力と集中力がモノを言う。きっと才能がある、ということなのだろう」


 才能がある、と言われれば嬉しいものだが、まだどうにも実感がわいてこなかった。


「あまり不安に思わないでくれ。スワロウが全力でサポートする。それじゃあ、話の続きをしよう」

「あの、そのマシンヘッド、破壊した奴は全部持って帰るんですか……?」


 ふと、疑問に思った事を口にする。民間には機密事項だというなら残骸を放って帰るわけにもいかないだろうし、持って帰るのは当たり前かな、と、質問してからすぐに「馬鹿なことを聞いてしまった」と思った。


「あぁ、残骸を放っておいたら元も子もないからな。すべて持ち帰っている。だがしかし、マシンヘッドに使われている技術の謎を解明するために、出来るだけ壊さずに持って帰ってきてくれとも言われてはいる」

「そうそう。研究者の変わり者達が、表向きには『敵のことを知り、より多くの弱点を解明する』だのなんだの言っているが、本当の所は自分達の知的好奇心を埋めたいってのが一番の理由だろう。人間を消す機械技術に興味津々なんて信じられねぇが」


 不破がまるで蛇蝎を目にしたかのような表情でそう語った。宗助が基地内の挨拶回りをした際も、情報処理部を素通りして「あそこは寄らなくていい」と避けたため、アーセナルの中で宗助が唯一立ち寄らなかった部署である。そのため宗助はそこがどのような場所でどのような人間が在籍しているかは全く知らない。不破の言い分から想像するに、とっかかりにくそうな人々がいる所なのだろうな、という程度の印象があった。


「まぁ、そう嫌うな。確かに彼らの本心は俺達と違う場所にあるように感じるが、動機がどうであれ実際には俺達の助けになっている」

「隊長はおおらかですね。俺はあいつらとは間違いなく一生仲良く出来る気がしませんけど」


 霞を振り払うようにぶんぶんと頭を振る。よほど嫌いなのだろう、眉間には皺がいくつも寄っていて、元から彫が深い顔が余計に険しく見えた。


「気にし過ぎるとストレスで胃に穴が空くぞ。仲間が心療内科に通う姿はあまり見たいものじゃない。生き残る事を一番に考えて……悪い言い方をすれば、何でもかんでも利用してやる、くらいに思えばいい。宗助、自分が生き残ることがチームを生き残らせる事に繋がるのだと、肝に銘じておいてくれ」


 自分が生き残ることで、チームが生き残る。その言葉は宗助の心に深く刻み込まれた。そして絶対に足手まといになるまいと強く思うのだった。



          *



「うし、じゃあ早速だが実践の訓練を始めるか。よろしくな、宗助」

「はい。よろしくお願いします」

「オーケー、それじゃあまずはドライブについて詳しく説明しながら進めていこう。俺達の敵はマシンヘッドだけとは限らない。俺達と同じように生きている人間で、それでいてドライブを使いこなす。そんな敵に遭遇したとしよう。まず、大前提として、ドライブは次に挙げる種類に分類することが出来る。


・一つ、何かを操る能力。


 特定の何かを自分の意のままに操る事が出来るタイプだな。自分で何かを作り出すわけじゃないから、操るための物体が必要になるわけだ。


・二つ、何かを生み出すことが出来る能力。


 これは宗助、お前がそうだ。特定の何かを自分の意のままに作り出すことが出来るタイプだな。創りだした物を、そのまま操る系統の能力者が多いように感じるが、訓練を積み重ねてもひとつ目に挙げた操る専門職にはその精度は劣る。


・最後に、何かに働きかける能力。


 これは岬なんかがそうだな。特定の何かに、変化するキッカケを与える補助タイプだ。


「成程、三つですか」

「勿論例外はあるが、殆どがこの三つに当てはめることが出来る。相手がどんな手を使っているのかわかんねぇって時は、まずこの三つのどれかに冷静に当てはめてみろ。そうすれば答えに近づきやすい」

「じゃあ不破さんの能力は、どれに分類されるんですか?」

「俺か? 俺はだな――」

「いいや、待て」


 今まで黙って見ていた稲葉が、突然静止をいれた。


「何でしょう」

「口で教えてやるのは簡単だが、実戦では自分から正体を明かしてくれる奴などいない。宗助にお前の能力を見極めさせてみろ」

「成程、そりゃあそうですね。よし宗助、そういう訳だ。ちょっとしたクイズをしよう」

「え――」


 不破が取り出したのは一つの金属性のスプーン。なぜそんなものを持ち歩いているのか、という疑問は置いておいて……柄も飾り気が全く無い、一〇〇円均一ショップで買えそうな銀スプーンである。

 不破がニヤリと笑うと、なんと彼の手に握られていたスプーンはぐにゃりと形を変え始めた。宗助が一度、二度まばたきする間にスプーンはフォークへと変身を遂げていた。世にも奇妙な光景を目の当たりにして、目をぱちくりとさせてしまう。


「タネも仕掛けもございません……って、いや、タネは有ることになんのかな」


 宗助の驚く顔に大変満足した様子で、できたてホヤホヤのフォークを渡してみせる。受け取ったフォークをまじまじと見つめて、次に触って。


「ちゃんと硬い……」


 驚いてばかりおらずに、先ほど言われた三種類の型のどれかにパズルのように当てはめてみる。「操る」「生み出す」「働きかける」。


「えぇ、えっとこれは……操る能力ですか? いやでも、形そのものが変わっているから、働きかける方か……」

「正解だ。じゃあ次に俺は、何をどう働きかけた?」

「何をどうって、それは、形に? まさか、形を変化させる……」


 ハッキリと言い切れないまま、しかし裏を見ず素直に不破の質問に回答していく。すると。


「ちょっと解りやすく誘導しちまったかな」

「いや、初めてならば今ので充分だ。シンプルに、どれだけ常識から離れていても、起こったことをそのまま受け止めることが大事となる。下手に思考を裏へ裏へとまわさずにな」


 不破と稲葉が会話をする横で、宗助は、その出来事と会話に、未だにぽかんとしていた。


「ちょ、え、本当に? 形を変形させるっ!?」

「自分で言っといて何を驚いてんだよ。見ての通り、俺は触れた物体の形を変えることが出来る。生物とか、砂粒みたいな小さすぎる物や、水みたいなまとまりの無い物は無理だけどな。巨大なもの……例えば飛行機全てを作り変えるのは無理だが、部分的に変化を加えることは可能だ」

「じゃあ、鉄の塊から拳銃を作ったり出来るんですか!?」

「いや、今の俺じゃそれは無理だな。変形は俺の想像力に拠るから、細かく複雑な仕組みの物体は作れない。定規や測り無しでミリ単位の作業を寸分違わず出来たら良いんだが……。物質の材質自体を変化させることもできない。木を鉄にするだとか。人間の想像力なんてあいまいなもんだからなぁ。でも、面白い能力だろ」

「す、すごいですね……機械相手だったら尚更すごく強いじゃないですか……。あ、では、稲葉隊長は……?」


 そう言って宗助は稲葉に目を向けるも。


「俺のドライブは、そうだな。この場所じゃちょっと見せることが出来ない。すまないが、また今度だ。それじゃあ、要。俺はそろそろオペレータールームに戻る。後は任せたぞ」

「了解です」

「宗助。焦らず、じっくり無理をせず訓練を積んでいってくれ。だが、『手を抜く』と『無理をしない』を履き違えるなよ」

「はいっ」


 そして、稲葉はトレーニングルームを去っていった。


「……隊長のドライブって、周りを破壊したりする能力なんですか?」

「いや……なんつーか、ちょっと特殊なんだ。すごく強いって事だけは確かだし、きっとここに居れば近いうちに見る事ができるだろうよ。そら、今は自分の事に集中だ! お前の為に訓練のメニューを考えた。これを見ろ」


 不破は、宗助に大きめの風船がたくさん入った箱を手渡した。


「風船……?」

「そいつに手を突っ込んで、空気を思いっきり吹き込んで一瞬でぶち割ってみろ。ソレがお前に与える第一の課題だ」

「えぇ!? これ、結構デカいな……」


 宗助は風船の一つを手に取ってぶら下げてみた。


「手取り足取り教えられた技術は、実戦の場じゃなかなか役に立たない。自分で考えてやってみて、そして百回失敗してから一回成功しろ。それは間違いなく今後の自信になり、精神力になる。上のお偉いさんはお前を早く育てろと急かすだろうが、焦って上っ面ばかり鍛えても薄っぺらくなるだけだ。そんなんじゃどっちにしろすぐに駄目になっちまう。じっくりと大きな土台を作る。これが俺達の方針だ」

「はいっ」

「そんじゃあ早速やってみろ!」


 言われたとおりにゴム風船の中に右手を突っ込んで、なんとなく力を込めやすいように、その腕を地面と平行に伸ばしてみる。左手で風船の根本を握り腕と風船のスキマを無くして、いざ実践へ臨む。

 宗助は、一文字が言った『自分には力がある、力を使いこなす事ができる』と己を信じてやることが大事である、という言葉を再度思い出していた。


(……できる。俺は出来る。こんな薄いゴム風船くらい。目の前に転がっている真っ二つの鉄くずは自分がやったんだ。これくらい出来ない訳が無い。空気を爆発的に生み出せる。一発で割ってちょいと驚かせてやろう)


 己を信じ過ぎて余計な打算すら生まれていたが……宗助は精神力を練り、研ぎ澄ましていく。


「――ふっ!」


 そして掌へ最大の精神力を込めて、風船の中めがけて空気を解き放った。



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