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machine head  作者: 伊勢 周
18章 来訪者達
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来訪者達 4

 兵士達は迫り来るマシンヘッドに対して銃撃を続けている。が、いくら命中しても効果的なダメージが見受けられないことに若干の焦りが見え始めていた。


「足を集中して狙え! まず機動力を奪え!」


 吉村がそう指示を出したすぐ後に、宗助は意を決して大きく息を吸い込み、彼らの背後から先程よりも更に大きな声で叫ぶ。


「違うッ、撃つのを止めろッ! 奴らには狙うべき場所がある!」


 銃声にも勝るその怒気混じりの大声で兵士達は一瞬驚き、思わず攻撃の手を止めた。


「こいつらには弱点がある! それを理解しない限り、そんな攻撃じゃ勝てないッ! 全員殺されるぞ!」


 叫び声に兵士達が思いとどまっている隙に宗助は兵士達の前に颯爽と躍り出て、素早い足捌きでマシンヘッドへと果敢に立ち向かっていく。


「あ、おいっ、待てッ! 生方ァーッ!」


 吉村の怒声が響いたが、宗助は意に介さず果敢にマシンヘッドに挑んでいく。さすがに味方撃ちをするほど兵士達も命令を徹底できないようで銃口を下げて宗助の動きを見ている。


「……あのバカが殺されたらすぐに攻撃だ! 準備を整えろ!」

「りょ、了解ッ!」


 部隊長が苛つきを隠さずに言うと、兵士達も戸惑いつつ了承をする。


 並列して突撃してくるマシンヘッドに対して、宗助は大きく右側に弧を描くように回りこむ。マシンヘッドには大した戦法はないようで、その宗助を直線的に追いかけてくる。当然そうすることにより宗助から見ると二体は並列ではなく縦列になる。

 宗助に近い方のマシンヘッドが素早く追い付いてきて右腕を振り上げ、目の前の目標に照準を合わせている。その姿は隙だらけだが、宗助はカウンターを撃つことはせず、少し様子見としてマシンヘッドに先に攻撃をさせた。

 どうやらマシンヘッドはいきなり『魂を奪う』事はせずに、どういう理由があるのか、ある程度痛めつけて行動不能にしてからそれをするらしい。

 振り下ろされた一撃を難なく外側へと身体を走らせかわすと、軽い身のこなしでマシンヘッドの右肩を掴み、そして膝部分に足をかけて一瞬で肩上によじ登り、うなじ部分に剥きだしてあった弱点部に空気弾を撃ち込み一撃で破壊する。マシンヘッドは機能停止し、その場で右腕を地面に振り下ろした状態のまま動作を止めた。

 そのままもう一機へと視線を移す。目の前でまたしても右腕を振り上げて宗助に狙いをつけているマシンヘッドの姿があった。機能停止したマシンヘッドを踏み台にして突き攻撃を跳んでかわすと、見事そのマシンヘッドの両肩に左右の足を着地。頭を跨いで肩に乗っている形だ。目の前のうなじ部分にはやはりむき出しのコアがあった。宗助は右手をかざすと同じように鋭い空気弾を打ち込むと、巨大な電子チップのようなコアは真っ二つに折れ、二機目も機能停止し、その場に崩れ落ちた。

 宗助は軽やかに着地すると振り返り、マシンヘッドが本当にもう動かないかどうかを目視して、ふぅ、と一つ息を吐いた。

 そして数秒遅れて、おおっと歓声が沸いた。攻撃を行っていた兵士達のものだ。そんな反応をされる(というか直に見る)のは初めてだったため少し照れくさくて、ごまかしついでに無線で桜庭に連絡をする。



「桜庭さん、二体とも破壊しました」

『了解。引き続き任務に就いてちょうだい。マシンヘッドの残骸は念のためもう少し破壊しておいて。回収はすぐに出来そうにないから、不安かもしれないけれどそこに置いておいて』

「了解」


 心なしか桜庭の声も明るいというか、スッキリとしたものになっていた。

 宗助が言われた通りマシンヘッドを上半身と下半身とに分断してやろうと再度マシンヘッドに向き直ると、そこに吉村が無言でつかつかと歩み寄ってきていた。

「……」


 彼は地面に横たわるマシンヘッドを無言で見つめながらベタベタと触ったり軽く叩いたり蹴ったりしている。ひと通りそんな動作を終えると、今度は宗助へと詰め寄った。


「よくもまぁ、やってくれたな、てめぇ」


 吉村が怒りの表情で宗助の胸ぐらを掴み目と鼻の先で睨みつける。

 宗助は宗助で戦闘のすぐ後ということで気分が若干高揚しており、さらに敵を倒したというのにまだ言いがかりをつけようとしている目の前の男に苛ついた事もあり、負けじと睨み返す。


「なんだぁその眼は。結果奴らを倒したんだからガタガタ文句を抜かすなって顔だなぁおい。……違うなら何か言ってみろよコラ。図星か、おい」


 睨み返す宗助に余計に腹が立っているようで、吉村は胸ぐらを掴む力を強める。ギリギリと音が鳴るほどに宗助のシャツは握りしめられ伸びてしまっていた。


「いいか、集団戦闘ってのはな、軍隊ってのはなぁ、そうじゃあねえんだよ。わかってねぇようだから言っといてやるよ。お前がどれだけ戦闘能力に自信があろうと、どれだけ機械に関して知識があろうと、なんの指揮権限もないお前が、勝手に攻撃を止めさせ、大声でわめき散らかして指揮系統を混乱させちまうと、次、その次、あいつらの一つ一つの動きに関わってくるんだよ。ひいてはあいつらの命に関わる。バカな頭脳で努力して理解しろや」

「やりたいようにやれと言われました」

「足を引っ張るなとも言った。お前は他の兵達の足を引っ張ってんだよ、現在進行形でな!」

「そのようには思っていません。やるべき任務を遂行しました」

「お前なぁ、自分が居なかったらこの機械共に俺達が全滅させられるとでも思っているんだろう? それが間違いなんだよ、思い上がりだ! お前が余計な事をしなくても、今頃あそこの十式戦車の主砲がこの機械共を木っ端微塵にしていただろうからな!」

「砲弾の節約になりましたね」

「ちっ……口の減らないクソガキだ」


 舌打ちをして胸ぐらを離して宗助を掌で小突くと、一瞥して吉村は隊員たちの元へと戻っていった。


「ボケっと突っ立ってんじゃないぞ! さっさと通常配置に戻れ!」

「はっ!」


 兵士達は威勢よく返事をして、攻撃態勢を解除し通常の配置隊形へときびきびと戻っていった。宗助は掴まれていた襟を手で軽く直すと、「何なんだよ……」と小さく呟いてため息を吐き吉村の背中を睨んだが、すぐにそれをやめて指示通りマシンヘッドを破壊する作業に入る。吉村の言うことに、一理あるとも思ってしまった。


(でも、だったら、どうしろって言うんだ……)


 何度も合同演習には参加していたが、いざ実戦となると歯車が合わない。これから続くであろう闘いへの思わぬ方面での苦労に直面し、宗助は一層孤独と心細さを感じるのだった。



          *



 一方で、宍戸は、輸送車のなかで、つい先程まで同乗しており、戦地へと向かっていった稲葉との会話を思い返していた。



 荷台部分に座った二人は向かい合わせで、稲葉は腕を組み静かに心を集中させていて、宍戸は自らの武器であるリボルバーを不備がないかを確認していた。


「…………なぁ、宍戸」

「なんだ」

「こないだ実乃梨に伝えといてくれって頼まれたのを思い出したんだ。『一度でいいから、忍ちゃんにうちに遊びに来て欲しい』ってな」

「突然話したと思えばそんなことか。戦場へ向かう最中の車内で無駄な私語をするなよ。『稲葉隊長』」

「手厳しいな」

「普通の事だ」

「だが、今を逃すとまた言いそびれてしまうと思ってな」

「…………。遠慮しておく、と伝えておけ」

「なんで。一度くらいいいだろう。俺からもぜひ招待したい」


 それは普段の優しく力強く責任感を持った大人という雰囲気の『稲葉隊長』というよりは、友人を遊びに誘うような少し子供っぽい『稲葉鉄兵』という一人の人間の素顔のようで、いくら「隊員達は家族のようなものだ」と普段から言っていても幼少の頃からずっと共に居る宍戸に対しては他の者達と少し態度が変わってしまうらしい。


「休みが合わん」

「合わせる努力くらいするさ」

「……。……俺だって鏡で自分の顔くらい見たこと有る」

「なに?」

「俺みたいなのが急に家に現れたら、怖がるだろう」

「………? ………あぁ、楓か! それなら大丈夫だろう。あの子も最初は誰だって警戒するだろうが、すぐに慣れるさ」

「……やはり遠慮しておく。それより今は目の前の任務に集中する事だ」



・・・



 ひと通り思い出して、そしてため息を吐く。

 今こうしている時間にも犠牲者が出ているかもしれないというのに、何を呑気なことを話しているのだと少し呆れてはいたが……それも稲葉なりの緊張のほぐし方だったのかもしれないと考えなおす。昔から、たまにだが、緊迫する場面で突然日常的な話をし始める事があったな、と思い出したのだ。


(不破や一文字の前ではそういう態度は出さないが……)


 宍戸は稲葉のことをいつも懐が深い人間だと感じていたが、人並みにプレッシャーを感じているのだろう。が、そこでさらにひとつの考えへと思い当たる。


「…………俺か?」


 もしかしたら、自分の表情がいつも硬いから緊張していると思われて、自分に対してなんでもない世間話を振ってきているのでは、と宍戸は考えた。三十年近く共に生きてきて、そんな考えに至ったのは今が初めてだった。

 だとしたらとんだ勘違いだ、と宍戸はさらにため息一つ。

 と、その時。イヤホンから早口な言葉が流れてきた。


『稲葉、宍戸。お前達の担当区域の最前衛部隊からの通信が途絶えた。エリアのマシンヘッドの反応はおよそ七十だ。そちらに雪崩れ込んで来る可能性がある』

「…………つまり、中盤ではなく前線に出れば良いんですか? 迎え撃つ形で」

『そういう事になる。稲葉は先行部隊と共に街へと南下してくれ。宍戸も、先行部隊と合流でき次第――』


 話の途中で、大きく車が揺れた。そして上下の感覚が反転する。

 車自体がひっくり返ったのだ。宍戸は突然の出来事に身体が座席から投げ出されるが、空中でも難なくバランスを取り、荷台の天井だった部分に着地し、それから素早く車外へと飛び出した。

 宍戸が見たものは、車の荷台に横から体当たりしているマシンヘッド。そして横転した車の運転席では運転手の兵士が突然の横転による衝撃で頭から血を流し気絶していて、助手席の兵士がそれをなんとか担ぎ出そうとしている。


「おい、しっかりしろ!!」


 頭の打ちどころが悪かったのだろう、必死に声をかけられているが、まったく目覚める様子は無い。そしてその二人の目の前には二体のマシンヘッドが迫っていた。その内の一体が、強化フロントガラスを叩き割って、ピラーをへし折り中の二人を掻っ攫おうとしている。


「く、くそ……!」


 三体のマシンヘッドが突然車を襲撃してきている。助手席の兵士はこの状況にそう呟くしか無かった。

 宍戸は全く淀みのない動作でリボルバーを持ち上げて銃口をその運転席を襲っているマシンヘッド達に向けると、二発銃弾を放った。

 マシンヘッド二体にそれぞれ一発ずつ銃弾が命中する。その装甲は並みの銃器攻撃による弾丸をほぼ受け付けないのだが、宍戸のそれは別である。命中してからも装甲に留まり続け、メキメキと激しい金属音を鳴り響かせて装甲を食い破ろうとしている。

 その銃弾の圧力に負けて、マシンヘッドはヨロリと一歩、二歩、後退する。そこですかさず宍戸自体も駆け寄って片方のマシンヘッドに触れる。するとマシンヘッドはふわりと地面から浮き上がった。それは宍戸のコントロールドライブの下に置かれたことを意味する。

 浮き上がってから間もなく、すさまじいスピードでもう一体へと目掛けて飛行し、二体は瞬く間に激突して轟音を鳴り響かせて大破した。

 更に最初に放った二発の弾丸をコントロールし、三体目へと着弾させる。弾丸はマシンヘッドの装甲を貫通し鉄の身体を食い荒らす。

 マシンヘッドは活動停止を余儀なくされ地面に崩れ落ちた。

 その後も宍戸が周囲に警戒を張っていると、イヤホンから声が流れた。


『宍戸! 聞こえるか』

「……はい」

『大丈夫か、何があったか報告をしろ!』

「たった今襲撃を受けた。マシンヘッドを三体破壊。輸送車は中破。運転手の兵士が負傷。頭部を強く打ち気絶している。こちらには外傷はない。周囲に敵の気配も無い。どうぞ」

『三体……レーダーでは確認できず、だ。そんな所まで入り込んでいるのか……。了解。救護班を回す。話の続きだが、宍戸、お前は単独で南下し前線の支援を行ってくれ』

「了解」


 林の向こう側……南の方角を見据えた。




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