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machine head  作者: 伊勢 周
18章 来訪者達
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来訪者達 1

「もし朝ごはんなら、惜しかったなぁ、もう少し早く会っていたらご一緒できたのに」

「あ、いや……朝ごはんじゃなくて。でも、ちょうど良かった。二人を捜していたので」


 宗助が言うと、エミィは再度目をぱちくりさせる。


「私たちを? ということは、何か新情報ですか!?」

「昨日の今日で!?」

「……えっと、新情報といえば新情報なのかな」


 ずいずい詰め寄ってくるエミィとロディに宗助は少し身体を引きつつも、丁寧な言葉で質問に答えた。


「と、言いますと!?」

「昨日話した天屋公助さんと知り合いだった人が、あなた達の話を聴かせて欲しいって言ってるんです」

『ほ、本当ですかっ!』


 二人は目を見開いて声を揃え、さらに宗助に詰め寄る。


「はい。予定が無いなら、よければ今日にでも付いてきてもらいたいんですけど……」



 宗助が言うと、エミィとロディはお互い顔を見合わせてから宗助に「ちょっと待ってくださいね」と言い、宗助に背中を向けてなにやら相談を始めた。

 二人が結論を出すのを待っていると、三分ほど経った頃に結論が出たようで宗助の方へと向き直る。


「生方さん、私達はあなたを信頼して、是非、ご同行させてもらうことに決めました」

「おお、よかった。それじゃあ早速向かいま――『ビィーーッ』」


 宗助が話している真っ最中に、いきなり携帯電話が緊急時コールを鳴らし始めた。


「わ、うわっ」


 宗助は慌てて携帯を取り出すと電話をつないだ。


「は、はい! 生方です!」

『生方君! 今どこ!?』


 受話器から、桜庭の緊迫した大声が飛び出してきた。驚いた宗助は一瞬受話器を耳から離し、再度耳をつける。


「さ、桜庭さん。今って、ふもとの商店街ですが……、任務ですよ。隊長に言われて――」

『すぐに戻ってきてっ、大変なの、話は戻りながらする! 迎えを出すから、今から指定するポイントに向かって!』

「はっ、はい!? わかりました! ……そうだ、桜庭さん、隊長は居ますか!?」

『隊長は居るけど、何の用事? 急ぎじゃないなら――』

「つないで下さいっ!」

『わ、わかったわ、隊長につなぎます』


 そして数秒の沈黙のあと、稲葉が通話に出た。


『どうした宗助』

「隊長。エミィさんとロディさんと今、一緒に居るんですが……基地に同行してもらうべきでしょうか……?」


 宗助が横目で二人を見ると、二人とも何事かと不思議そうに宗助の様子をうかがっていた。

『………………構わない。基地で保護する。連れてきてくれ』

「保護、って……?」

『今すぐ二人を連れて回収ポイントに向かってくれ。場所は――』



          *



 宗助がエミィとロディを引き連れて指示された回収ポイントに到着すると、そこには黒塗りで窓ガラスにスモークがかかった重厚な高級セダンが一台止まっていた。宗助はもう乗り慣れたものではあるが、エミィとロディはそうではないようで、その車の風体に尻込みしている。

 宗助は素早く助手席の扉を開けると、二人にも後部座席に入るように促す。エミィもロディもえらく戸惑っていたが促されるままに後部座席へと着席すると車は発進し始める。

 するとまたしても携帯電話から着信音が鳴り響く。


「はい、生方です!」

『生方くん、無事に車に乗れたのね』

「桜庭さん……。無事にって、一体何が起こったっていうんですか」

『マシンヘッドが現れたの』

「こんな朝から、どこにですか!?」


 桜庭の報告に「やはりか」と考えながらも宗助が尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。


『世界中の都市中心部よ。東京を始め、確認できているのは今現在で三十四都市』

「……な、えっ、世界中!? 三十四都市……!?」


 宗助は耳を疑うという事を初めてした。桜庭の台詞を反芻する。


『ええ。各都市の上空に……まだ全貌は確認できていないけれど、いくつもの小型のブラック・ボックスのような飛空艇が突然現れて、そこから無数のマシンヘッドが降り注いで、都市部の民間人を襲撃し始めているわ。私達も、接近に全く気づけなかった……』

「せ、世界中の都市部に、マシンヘッドが……」

『東の空を見てみて! そこから見える!?』


 言われて、身を乗り出し窓から東の空を見る。一件何の変哲も無い夏の空だが、少し目を凝らすと黒い点がぽつんと低い場所で浮かんでいるのが見えた。


「なんだ、あれ……」

『見えた? あれがそう。あの物体は移動しながらマシンヘッドを地上にまき散らしてる! 被害規模は数えた先から増え続けていて……』

「突然、何故そんな事が」

『理由を考えるのは後にしましょう、兎に角緊急事態よ。今、民間人を各地のアーセナル所有のシェルターに輸送・保護して、前線では各部隊で防衛線を張って侵攻を食い止めている。対空部隊ももうすぐ出撃するけれど……迅速に作戦を決めて、それに沿って滞り無く動けるように心の準備をしておいて……基地に着き次第、着替えてそのままオペレータールームに集合! 生方くん、それじゃあ、一旦切るから!』

「……わかり、ました……!」


 ぶつっと音が鳴り、通話が切れた。宗助は青い顔で通話の切れた携帯電話を見つめていた。


「う、生方さん……。一体、どうしたんですか……?」


 エミィが心配そうに助手席の宗助の顔色をうかがう。会話の内容というよりは、宗助の緊迫した横顔と醸し出す雰囲気にあてられたようで、二人共不安で顔がこわばっている。


「…………えっと」


 宗助は振り返り助手席から二人の顔を見るが、その質問に返す言葉など持ちあわせておらず、小さく下唇を噛んで視線を下ろす。携帯電話を握りしめて、そして弱々しい声で言った。


「大丈夫……大丈夫です。そんなに不安な顔をしなくても……」


 その答えになっていない答えは、まるで自分に言い聞かせているようだった。そんな宗助達の頭上を戦闘機が三機、東の空へとまっすぐに飛び立っていった。



          *



 日本、東京都内某所。通勤ラッシュも収まり、往来の通行量もほどほどとなった頃。残暑に汗を流しながら歩く人々に、ふっと影が刺した。その日は快晴で、はるか遠くに見える入道雲以外に日差しを遮るものなど無いはずだった。

 人々は一斉に空を見上げる。そこには、飛行機ほどの大きさの謎の物体が低空飛行しており、そしてそこから一つ何かが落とされた。

 何の前触れもないその光景に人々がざわつき始め、何事かと不気味さを感じ取りその場から逃れ始めた。落とされたそれは、ドン、と大きな音を鳴らし地上に降り立った。三メートル強程の身長の、人型のロボット。


「え、何……映画の宣伝? イベントとか」

「ガンドムとかエヴォとか、そういうの?」


 じっと固まって動かないその巨人ロボットに人々は恐々と遠巻きに様子を見つつ思い思いのことを呟いている。そこに、一人の男性がゆっくりと近づいていった。ロボットだとかメカが好きなのだろう、恐る恐るだが、そのロボットを間近で観察しようとしたのだ。


「す、すげぇ~、なんだこれ……カッコイイ」


 彼が更に一歩近づき、手を伸ばしたその瞬間。ロボットは突然再起動した。目の部分が赤く光る。銀色の右手が彼の首をすさまじい速さで握り捕まえ持ち上げる。

 男性は悲鳴を上げる暇もなく持ち上げられて地面にたたきつけられ、そして……死なないよう手加減されていたらしく、びくびくと身体を痙攣させながら小さくうめき声をあげた。

 そして、ロボットの左手に装着された長い針で胴体を串刺しにされ……血しぶきが宙に舞い、そして三秒も経たない間に、男性は服だけを残して、溶けるように消えてしまった。

 往来には悲鳴が響き渡り、周辺はたちまち恐怖と混乱に包まれた。

 我先にと逃げ惑う人々。道路を走る車は統制を失い次々と事故が巻き起こる。

 そんな中の一人……若い女性が必死に走る。走るが、かかとの高い靴を履いているため上手く走れないようで、一人取り残されてしまっていた。誰も彼女を助けようとはしない。

 彼女はついには靴を脱ぎ捨て走りだすが、運悪く誰かが置いていったスーツケースに躓き、転んでしまう。


「痛った……」


 足を擦りむきストッキングが破け、血がにじむ。彼女は痛みに顔をしかめながらも、すぐに逃げなければと立ち上がり、そして……

 目の前にロボットが降り立った。

 地面を伝わる衝撃によろけ、尻もちをつく。

 その間にも彼女の周囲あちこちにロボット達は降り注ぐ。

 ズン、ズン、ズン、と、着地のたびに地面が揺れる。


「ひっ……」


 ロボットの無感情な顔部分が彼女を見下ろし、そして大きな右手が彼女に振り下ろされた。



          *



 宗助が基地に着くと保安部隊の職員二人が出迎えた。


「生方さん。早速オペレータールームに」

「了解です!」

「後ろのお二人は、私達がご案内致します」


 保安が一歩前に出て言った。やはり戸惑いが隠せない様子のエミィとロディは緊張し強張った顔で宗助と保安の人間を交互に見ている。


「……エミィさん、ロディさん。少しお待たせすることになりそうです。本当にすいません。ですが、お話は必ず後でしましょう。どうか心配しないで」

「え、あ、ええ……っと?」


 宗助はそんな二人に早口でそう言って、返事を待たずに基地の中へと駆けていった。


「では、ご同行願います」


 保安の男達に言われて、エミィとロディは不安しか無かったが、宗助を信じて頷くしか選択肢がなかった。


 基地内には一般職員はもう殆ど残っておらず、昼間にも関わらず廊下は静けさに支配されていた。どうやら戦闘や任務に関係のない関係者は既に避難しているようだった。

 宗助がロッカールームで装備を終えてオペレータールームに入ると、かつて感じたことが無いほどの慌ただしさと緊張感に包まれていた。飛び交う大声での指示に、右往左往する職員たちと、あちこちで鳴る電子音。

 宗助がその光景と状況に戸惑っていると、横から声をかけられる。


「やっと来たか。さっさとこっちに来い」


 返事する前に声の主・宍戸に襟を掴まれ、宗助はオペレータールームの隅へと引きずられていった。



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