一夜明けて
千咲と岬を和室兼客間に通し、湯船を簡単に洗い流してから自動お湯張りのボタンを押す。
客室に戻ると、二人はつい先ほど最寄りのコンビニにて買った宿泊用品をごそごそと確認しているところだった。
「風呂もすぐに沸くから、先に入ってくれ。その間に布団出してくるから」
「ここで寝ていいの? あんたの部屋じゃなくて」
「俺の部屋は三人も寝られません。会って半日の人間を簡単に部屋に入れたりもしません」
「えー。まだ教えておかないといけない事とかあったのに。あ、もしかして部屋に入れたくないのって、エロ本だとか散らばって――」
「ねぇよ」
「ご、ごめんね、ただでさえ突然押しかけたのに」
「……。いや、明日は俺も休みだし、気にしないで。布団もそんなに良いやつじゃないから、寝心地悪かったらごめんな」
「そんな、ありがたく眠らせてもらいますっ」
岬と宗助の謙遜合戦を見ていた千咲は乾いた笑いを浮かべる。
「岬と私じゃ随分態度が違うようで」
「大して変わらないよ。ほら、もう日が変わるし、さっさと風呂入ってくれ。バスタオルは脱衣室に二人分置いているから。シャンプーとかはさっき買ってたよな。あとこれ、妹の寝巻き。サイズ合わなかったら……俺のでよければあるから言ってくれ」
宗助は早口で言って、長袖シャツとズボンとを二着ずつ手渡した。と同時に、お湯はりが完了したアナウンスが鳴った。
「よし、沸いた。どうぞごゆっくり」
宗助は後ろ手で客室の引き戸をしめた。
改めて一日を振り返って……あまりの情報の多さに、改めてため息を一つ吐いた。
彼女達が入浴を済ませると、宗助は入れ替わるように早急に入浴を済ませ、客人二人に「疲れたからもう寝るおやすみ」と簡潔に挨拶を済ませると部屋に戻りベッドに倒れ伏し、泥のように眠りに就いたのだった。
翌朝。宗助は、父が自室の扉を遠慮なく開く音で目が覚めた。
「宗助! おい、宗助!」
「なに……。まだ六時なんだけど……」
宗助は開ききっていない眼で恨めしそうに父を睨み付ける。
「言い忘れていたが、あおいが転院する事になったんだ!」
父のそんな声から宗助の一日が始まった。
発言の要旨をまとめるとこうだ。
昨晩八時ごろ急に仙谷総合病院から電話があり、あおいの病院を三日後に移すことになった。ご家族の方に付き添い願いたい。移送先は国立の病院、入院費も格安。
いやぁ、なにがあったんだろうなぁ。
宗助は一瞬で理解した。『彼らが手回ししたのだ』と。
(ええい、昨日から確認も取らずに勝手に話を進めやがって……!)
宗助が憤りを感じている頃には、父親はドタドタと出て行った。
今父親から告げられた事について、昨晩からの客人に問い質してやる、と思い一度は眠りから目を覚ましかけたが、昨日からの疲労に身体が付いていかなかった。すぐにベッドに逆戻りしてしまい、「少しの間目を瞑るだけ」と、言い訳を頭の中で念じながら……甘い二度寝の世界に引きずり込まれていった。




