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machine head  作者: 伊勢 周
13章 Now or Never
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The road to dawn. 3

~前回までのあらすじ~


フラウアとシリングを撃破したスワロウだったが、情報を聞き出していたところをミラルヴァに邪魔されてしまう。そして彼は、ブラックボックスが15分後に上空へ浮上すると告げて姿を消す。

現在の自分達の状況を見て戦略的撤退を決めた隊長の稲葉は、千咲と宗助に一足先に脱出して迎えの要請をするよう命令し、残りの稲葉達は脱出する前に捕虜の救出に向かった。

無事捕虜を全て回収、ブラックボックスを脱出し、迎えに来ていた高速艇に帰還した4人だったが、船の上には千咲と宗助の姿がない事に気づく。

情報を整理したところ、迎えの船は宗助達が要請したものではなく雪村司令が準備策として派遣したもので、二人から連絡は未だなく、間違いなくブラックボックスの中に取り残されているとのことだった。


そして、ブラックボックスは空への飛翔を開始する。

 宗助と千咲は、稲葉たちと別れた後にまっすぐ出口へと向かっていた。


 通路の床、壁、天井があちこち破損していて、しかもマシンヘッドだったものが床に散乱している。それらを飛び越えたり避けたりしながら全速力で駆け抜ける。


「次、あの角を左!」

「了解!」


 前を走る千咲が叫ぶと、すぐ後ろにつけている宗助が間髪入れずに返事をする。そして言った通り千咲が角を曲がり、宗助もそれに続く。だが、宗助は直後に急ブレーキをかけた。角を曲がった先で、千咲が立ち止まっていたからだ。


「っとと、」

「おい、どうした、急に立ち止まって……、っ!!」


 言いかけて、千咲の肩越しに見えたそれに宗助は言葉を失ってしまう。暗い通路の先に、全身銀色ののっぺらぼうが徘徊していた。まるでゾンビのように手をだらしなくぶら下げ、千鳥足でゆっくりと歩いている。その足取りに目的など全く見えないが、それが逆に不気味だ。


「アイツは……なんでこんなところに……」

「顔見知り?」


 おののく宗助に、千咲は訊ねる。


「あれは、カレイドスコープの、改良版って言えばいいのかな、こっちからすると改悪だけど。どれだけ攻撃しても一瞬で自己修復する、厄介な奴だ」

「……へえ」

「コアはコクピットに内蔵してあって、白神さんが止めた筈なんだけど……ミラルヴァがジャックした影響で復活したのかもしれない。アレを完全に壊すにはコクピットを叩くしか無い」

「なるほど、そんな時間はないかな」

「だけど、正面からあれの相手をしている時間もない」

「この通路以外の外への道は知らないよ」

「……」


 宗助と千咲は同時にカレイドスコープ(改)に視線を向けて、どうするべきかと考える。こうしている間にも、刻一刻と時間は過ぎているのだ。間に合わなければどのみち、全員帰る手段を無くしてしまう上に、そのままミラルヴァと片道切符で空の旅だ。絶対に勘弁したいところである。


「強行突破しかないか……」


 宗助が呟く。


「……確かに……そうかもね……」


 千咲は険しい表情をしながらも、宗助の言葉に同意する。


「一応、根拠もある」

「根拠?」

「アイツは、コアから離れれば離れるほど性能が落ちる……らしい」

「情報源は?」

「白神さん」

「なら確かね」


 つまり、逃げれば逃げるほど敵は弱体化するという訳だ。二人は目をあわせて一度大きく頷くと、ぼんやりと突っ立っている真横を颯爽と駆け抜けてやろうと、ほとんど同時に両足を広げてスタートの体勢をとる。

 しかしその時、カレイドスコープ(改)が突然全身をガタガタと激しく震わせはじめた。その銀色の身体がモゴモゴと蠢き、そして女性の悲鳴のような甲高い音を発する。

 突然の発狂(?)に千咲と宗助は尻込みしてしまう。

 そしてなんとカレイドスコープ(改)は、全身から鋭い針を何百本も飛び出させた。まるでウニである。

 その状態で何かをするのかと思えば、なんと折角だした針をあっさり引っ込めて、今度は二人の方角へドタドタとイノシシのように突進してきたのである。


「えっ!?」


 突然の突進に宗助も千咲も驚かされたが、特に反応できない速度とか距離ではなく、難なく突進を避ける。カレイドスコープ(改)は避けられてもなお突進を止めず、宗助と千咲の後ろに続く通路を勢いそのままに爆走し、そして壁に衝突した。通路全体が震えているんじゃないかという轟音が響き、そして二人はその音で我に返る。


「……、よくわからないが、チャンスだ、行こう!」

「そうね」


 勝手に明け渡してくれた通路を駆けていく。後方から、再び凄まじい、甲高い叫び声のようなものが聞こえてくるが、振り返らない。

 しばらくして叫び声は途切れたが、その代わり『ガチャチャッ、ガチャチャッ』と、規則的な鉄と鉄が打ち合う音が迫ってくるようになった。千咲も宗助も全速力で走っているのに、その音が迫る速度の方が速い。


(……なんだ、この、……まるで馬が走っていて、蹄鉄が床を蹴るような音の間隔は……!)


 そう思い、振り向いている余裕など無いとわかっていながらも、宗助がチラリと後ろに視線をむけた。


「……――ッ!!」


 自分たちに迫ってきていた物を目にして、宗助は言葉を失ってしまう。カレイドスコープは、四足走行できる型に変化して追いかけてきたのだ。

 四足走行といっても、馬だとかライオンだとか動物の形を模してくれているならまだ見られた物だったのだろうが……追いかけてきたそれは、『四足歩行そのもの』だった。つまりどういう事かというと、それに首だとか尻尾はない。ただ四本の鉄の足の集合体だけが追いかけてきているのだ。しかも足一本の長さが、宗助の身長と同じほど有る。


「き、気持ちワルッ!!!」


 ようやく出てきた言葉がそれだ。


「何が!!」


 前を走る千咲が、振り向かずに叫ぶ!


「追いかけてきてる! 四本足で!」

「ハァ!?」


 千咲が素っ頓狂な声を上げてちらりと後方を見る。


「……いっ……、気持ちわるーッ!!」


 そして全く同じ感想を叫んだ。二人は後ろを伺いつつも更に速度を速めて走る。


「しかも速い! このままじゃ追いつかれる!」

「コアから離れたら、ってのは何だったのよ!」

「まだそこまで離れてない!」


 そんなやり取りをしている間に、カレイドスコープ(改)は二人のすぐ背後まで迫っていた。少し先には、左右に道が別れたT字路がある。


「宗助、右に跳んで!」


 千咲に言われ、そしてすぐにその意図するところを理解した。急ブレーキをかけて、言われた通り右に跳ぶ。千咲は同じく左に跳んだ。すると四足走行の気持ち悪い物体だけがブレーキがかからずにそのまま二人の間を駆け抜けて前方へ飛び出していき、そしてまたしても壁に激突した。暗闇の通路の中、破壊された壁の飛沫と埃が舞う。

 舞う埃の中から出てきたそいつは、一瞬で四足の型は解除しており、またしても銀色ののっぺらぼうの状態に戻っていて、そして先程同様目的もなくふらふらと彷徨い始めた。


「……おかしい」


 宗助が呟く。


「何が」

「俺達が最初にあいつに会った時より、攻撃の精度が悪いというか、ところどころの動きに無駄が多すぎる」

「……ま、あれがおかしくないのなら、世の中から『おかしい』って言葉が無くなりそうだけどね」

「う……茶化すなよ」


 千咲の軽口に宗助は若干眉をしかめて唸る。


「……悪いってんならそれに越したことないでしょ。時間がないし、出口まで後少し。あいつが居る角を、右にいって、後は道なりに走れば、多分一分くらいで侵入口に戻れる。急ごう」


 千咲が再び走りだそうとすると、またしても同時にカレイドスコープ(改)が、突然壁を殴った。ぐわんぐわんと壁が振動する音が通路中に共鳴し……漸く音が止まったかと思うと、今度は一斉に、けたたましい警報が鳴り響く。


「え、え、え!?」


 二人は困惑した様子で周囲をキョロキョロと見回す。千咲が、カレイドスコープが叩いた壁の部分を見ると、丁度そこに設置されて居たのだろうか、箱型の装置のようなものが潰されているのが見えた。

 相変わらずビービーと警報が鳴り続けているが、すぐにさらなる変化が訪れる。通路の天井から、等間隔で分厚い防火ゲートが下りてきたのだ。厚さ五十センチはあるだろうか、一目見て、いくらなんでも千咲や宗助の風の力では簡単に破れそうな代物ではないというのが判る。閉じ込められたのなら、簡単に脱出は出来ない。つまり、迎えを呼ぶ事も出来なくなる。


「――ッ、走れーーーッ!!!」


 叫び、なりふり構わず全速力で駆ける。

 ゲートの下りるスピードは速い。カレイドスコープ(改)が現在居る場所、つまり千咲と宗助が通ろうとしていた出口への道まで三枚のゲートが下りようとしているのだが、既にゲートは彼等の肩の高さまで下りてきている。二人は殆ど同じ速度で並んで走り、一枚目のゲートを頭を下げて潜り、さらにダッシュ。

 二枚目は既に腰の高さまで下りてきている。スライディングで綺麗にくぐり抜けて、すぐ立ち上がり再加速。

 残すは、カレイドスコープ(改)の目の前の、三枚目のゲート。


「ま・に・あ・えーーーー!!!」


 ヤケクソに叫びながら、千咲と宗助は同時に跳び、右足を前に突き出し、左足は折りたたんでスライディングの体勢に入る。

 ゲート下は僅か三十センチ程。ヘタをすればゲートに身体が挟まれてしまう恐れもあるが、閉じ込められてしまえば元も子もない。二人の足が、ゲートの下を潜ろうかというところで……。



 ガタン、という音が鳴る。

 扉と床が密着した音だ。無常にも、ゲートは閉ざされてしまった。二人の足の裏がゲートの足に突き立てられているのがなんとも虚しい。


『コノエリアハフウササレマシタ』


 機械的な音声が、見れば判ることをわざわざアナウンスする。宗助は素早く立ち上がると、右拳でゲートを殴りつける。そんなのでうんともすんとも言うわけもなく。


「くそ……、白神さんが言ってたセキュリティってのは、これの事だったのか……」


 進入時に白神が懸念していたセキュリティとやらが、今更になって宗助達の行く手を妨げる。


「どいて」


 言われて宗助が振り向くと、千咲が刀を抜いて仁王立ちしていた。彼女が持つ刀の周辺の空気がゆらゆらと揺らめいている。


「お、おい、斬れるのか、こんなの……」

「やってみなきゃわかんないでしょ。さぁのいたのいた!」


 そう言って千咲は刀を上段に構える。宗助とて、脱出するための妙案があるのかと訊かれればぐうの音も出ないので、大人しくゲートから離れ千咲の行動を見守ることにする。

 そして彼女がゲートに向かって、いざ斬りかかろうとした瞬間。

 ボゴン、ボゴン、とゲートが二箇所膨らんだ。まるで向こう側から誰かが凄まじい力で殴ったかのような。息をつく暇もなくさらに二箇所バコンと膨らむ。

 千咲が刀を振り下ろすのを止めて一歩後ろに下がると、一際大きな音が鳴り、ゲートの下部分がぐにゃりと大きく反り曲がった。

 唖然としていると、そのひしゃげた部分から二つの銀色の手が侵入してきてゲートを掴み、そして針金のように上方に折り曲がって、持ち上げられる。持ち上げた主は勿論、カレイドスコープ(改)だ。

 このマシンヘッドに目などついていないが、感知器が丁度頭の辺りにでもあるのだろうか、首を傾けてゲートの下から中を伺う。

 だが。


「アイツは一体何がしたいんだ……」

「さぁ、コクピット弄られて思考回路バグってんじゃないの?」


 二人はとっくに、ゲートを持ち上げたカレイドスコープ(改)の両脇をすり抜けて、颯爽と出口へと駆けていた。『このエリアは閉鎖されました』という言葉通りに受け取るのなら、今しがた破られたゲートがエリアの端だったようで、これを不幸中の幸いというのか、その先の通路に彼らを阻む障害物はない。

machine head 設定資料


【カレイドスコープ・改】


ブラックボックス内を徘徊する、全身に関節部分・縫い目がない滑らかな銀色のマシンヘッド。

旧式のカレイドスコープ(1章『カレイドスコープ』参照)と違い、一定の形を保ち、その形態に沿った攻撃を行う。

もともとが頑丈な上、穴を開けようがボコボコに変形しようが元の形状に数秒で回復するため、コアを破壊しない限り無敵である。

思考回路であるコアはコクピットにあり、そのコアから距離が離れれば離れるほど性能が落ちる。


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