襲撃の理由は
なぜ生方あおいが狙われたのか。
それは必然なのか偶然なのか。そして必然であるのならば、今後妹の身の安全を確保しなければならないと。
世界中で人の命を奪っているという、病院で襲撃してきた機械仕掛けの兵隊・マシンヘッド達を裏で操っている首謀者、ブルーム・クロムシルバー。
宗助は彼に恨みを買うような事をした憶えはなく、また、妹がそのような名前の人間と付き合いが有るという話も全く聞いたことがない。
しかしそれなのにあの機械の兵隊は――。
「病院には他にも大勢人間が居たのに。偶然だとは思えない」
「あー、それはねぇ……」
「まさか、あの病院にいた他の人々も全員襲撃されたのか!?」
「あぁ、いや、あの病院では他に誰一人襲われていない。それどころか、誰一人として303号室での騒ぎに気付いていない……筈」
「なら、尚更、なんで」
ますます腑に落ちず、宗助は千咲の顔をじっと見て返答を待つ。千咲は思案顔でまぶたをパチパチと何度か瞬かせてまつげを揺らし、口を小さく開いたりまた閉じたりして、それは言葉を頭の中で練っている様子であった。
そして彼女は「ええと……」と厳かな表情で切り出した。
「恐らく、原因は、あんた達に特別な能力が備わっているから。……多分」
「達って、ウチの妹にもそういうのがあるってのかっ?」
「確証が持てない話が続くから、鵜呑みにしないで。まず、私達が言う超能力。これを『持っている』『備わっている』って一言で言っても、幾つかの段階に分かれる。私や岬みたいに、自分の意思で能力を自在に使いこなせる人、あんたみたいに能力は自覚しているけどまだまだ使いこなせていない人、そして……能力の才能はあるけど、まだハッキリと自覚すらしていない人。あおいちゃんがその三つ目に当てはまるのかもしれない」
「その能力と俺達が襲われたのにどういう関係が?」
「関係アリ、の可能性がある。奴らにも襲う人間の優先順位があって、おそらく、潜在的にドライブ能力を持っている人間を一番に襲う。数値的なデータが揃っているわけじゃ無いけど、偶然で片付けるには腑に落ちない、そういった現象が多く見られているから」
そこまで言うと千咲は「ま、もしそうなら、どうやって見分けてるのか教えて欲しいもんだけどさ」と、愚痴っぽく言う。
「それじゃあ、妹の所にまたあんなのがくるかもしれないって事か!?」
「可能性はゼロじゃあないけど……まぁ暫くの間は大丈夫じゃないかなぁ。奴らは一エリアに何匹も居ないからさ。あんたが一匹倒したから、しばらくは大丈夫と思う。心配なら妹さんの病院を私らの直属の病院に移せば? そっちの方が何倍も安全だと思うけど」
「病院って、そんなのもあるのか」
「うん。まぁそれが出来るのは、あんたがウチに正式に入隊してからになるだろうけどね」
そこで、宗助は押し黙ってしまう。
「……? どしたの?」
「入隊、か……」
宗助が呟いて外を見ると、既によく知る道に差し掛かっていた。たった半日ぶりの見慣れた町並みの景色に、とてつもない郷愁と安心感に包まれていた。あぁ、自分はここに帰って来られたのだ、と。無意識の内に、安堵による深いため息を漏らしていた。するとそこで、今まであまり話に参加してこなかった岬が少々わざとらしい口調で唐突に話題を振った。
「それはそうと、さっきの話、晩御飯どうするの? 何も食べてないよね。基地で何か出せたら良かったんだけど……」
「あぁ、そうだ、そんな話だった……。冷蔵庫に何かあったら適当に作るから……あ、すみませんそこ右です」
「へぇ、料理できるんだ」
岬と千咲はいかにも意外そうな様子で声を揃える。
「できるっていうか、そんな難しいのは無理だけど、ネットで調べたらいっぱいレシピ出てくるし」
そんな風に二、三の雑談をしているうちに、生方家の門前へと辿り着いた。運転手に礼を伝えて、そして同乗してきた二人に顔を向ける。
「岬はケガ治してくれたみたいだし、一文字も、色々有ったけど面倒かけたな。わざわざ付いて来てくれて……なんで車から降りようとしてんの」
岬が反対側の扉を開いており、二人とも車から降りる気満々である。
「今ちょっと話し合ったんだけどさ、なんかこのまま帰るだけってのも悪いし、疲れもあるだろうから晩御飯軽く作ってあげようかって」
「いっ、なんでそういう話になるんだよ! いいって、気持ちだけ受け取っとく」
「いやいや、遠慮は無用。任せて、それなりに出来るから。あ、すいません、運転手さんは帰ってもらって大丈夫なので」
車を降りた二人は扉を閉めて運転手にねぎらいの言葉をかけ、そして車は静かに生方家前から去っていった。もうどうにでもなぁれ、と宗助はまた一つ大きなため息を吐いた。
生方家のリビングでは風呂上がりの克典が寝間着姿のオフモードでだらりとニュースを見ながらくつろいでいた。そこに入ってきたのは息子の宗助――、と若い女性二人。
「……え?」
「……ただいま」
「夜遅くにすいません、お邪魔します」
「お邪魔しています、突然すいません」
「え、あ、ああ……。……え?」
「父さん、ほんとにごめん、この二人ちょっと家にあがってもらうことになっちゃって」
「え、あ、……。あぁ……。……え?」
夜遅くに連絡もなくいきなり若い女性二人を連れて帰ってきた息子に対して、父親は言葉をなくしたままソファで固まっていた。




