最終章 友達
『ウロボロス』壊滅からすでに二日が経った火曜日。
今日もまた、勇気は学校の屋上で一人弁当を食べていた。
どうしてだろうか。
一人で食べる弁当が、なんだか寂しい。
勇気は弁当を食べる手を止め、気が付けば視線を弁当とは全く別の場所に向けていた。
そこは鈴が弁当を食べるときにいつも座っていた場所だ。
今そこには鈴のぬくもりはなく、冷たい風だけが通り過ぎる。
日曜日の爆発では、アパートが完全に倒壊した。
今でもテレビをつければテロなどと報道されていて、近くへ行くことすらもできない。
死者は多数出て、未だに行方不明者もいる。
そして、鈴もその行方不明者の一人だ。
間近でアパートの倒壊を見た勇気はすぐに鈴を探し始めたが、すぐに駆けつけた救急隊員と菊次郎に抑えられてそれ以上は捜索できていない。
ガンマンガに戻り、その旨を伝えると由美は大声で泣き、彩は涙を流しながらも由美をあやしていた。
昨日、勇気の元にはある品が届けられた。
ボロボロになり、所々が破れた黒いワンピース。
見間違いようもない、鈴に買ってあげた黒いワンピースだ。
今はガンマンガにいる菊次郎のもとに預けている。
昼の授業もすべて寝て過ごし、家に帰ると勇気はベッドに寝転がり天井を眺める。
何もやる気が起きない。
「お兄ちゃん」
「優か」
上体を起こし、部屋に入ってきた優を一目見ると勇気はまた寝転がる。
「菊次郎さんから全部聞いたよ。友達が行方不明なんだってね」
「らしいな」
「らしいなって。お兄ちゃん最近辺って自分でわかってる!? 私のこと前までは『妹』以外で呼ばなかったのに、ちゃんと名前で呼んでくれてる。それに、お弁当半分も食べてないし」
「食欲がないだけだ」
勇気は優から逃げるように背中を向ける。
自分でもおかしいのはわかっている。
優は勇気寝転がっている勇気の背中にしがみついた。
「元のお兄ちゃんに戻ってよ。すぐにとは言わないけど、せめてご飯だけはちゃんと食べて。じゃないと私、心配しかできない」
「・・・・・・泣くな」
優の方を振り向くと涙を流していて、勇気は優の涙を拭う。
「俺は別にあいつとは友達とかじゃない」
「お兄ちゃん嘘ついてる。知ってるんだから。お兄ちゃん最近女の人とよくいるってこと。土曜日もそうだったし、メールアドレスも交換してるし。友達じゃないんだったら彼女?」
いつもなら勇気に喜々として「彼女できた!?」と聞いてくる優が、この時は寂しそうで、全然楽しそうじゃなかった。
「どっちでもない。だたのクラスメイトだ」
「じゃあなんでお兄ちゃんそんなに悲しそうなの? ただのクラスメイトが行方不明になっただけじゃそんなにはならないはずだよ。それに、今のお兄ちゃんずっと前に友達殺された時みたいになってるし」
「・・・・・・かもな。確かに俺は今つらい。あいつがいないことが。死んでるなら、せめて死体だけでも確認したい」
「泣きたいんだったらなきなよ」
「泣くか。バカ」
「何よバカって! そう呼ばれるんだったら、妹のほうがましだって」
優は部屋から出ていくと、ピョコッと顔だけをのぞかせる。
「菊次郎さんが、お兄ちゃんに明日来てほしいだって。学校終わってからでいいから」
そういった優の顔は辛そうだ。
また勇気が任務に駆り出されるのだと思っているのだろう。
けど、菊次郎が呼び出すと言えばそれぐらいだ。
「わかった」
バタンとドアが占められると勇気は腕で目を覆い隠す。
「何してんだ。早く帰って来いよ・・・・・・鈴」
こんなつらい思いをするのならば、あの時屋上で変に声をかけなければよかった。
あの時無理にでも鈴を連れてバイクを走らせるべきだった
そう後悔しながら、勇気はおえつを漏らし始めていた。
翌日、勇気は授業のほとんどを寝て過ごした。
(今日もあいつ来なかったな)
後ろの席はずっと誰も座っていなかったし、屋上にも勇気以外の人影はなかった。
本当に鈴は死んだんだろうか。
あの時爆発に巻き込まれていなくても、落下に巻き込まれていれば生きている可能性の方が低い。
道をぼんやりと歩いていると、ガンマンガとは違う場所に足を運んでいた。
『ドリームスイーツ』
鈴に誘われ、初めて鈴と一緒に来た場所だ。
あの時は面倒なやつだな、という印象しかなく、くそ女とののしっていたのを覚えている。
(本当にくそ女だな)
勇気は『ドリームスイーツ』に背中を向けて歩き始める。
ゲームセンターに立ち寄り、鈴と一緒に来た服屋に立ち寄った。
黒いワンピースを着た鈴は本当に可愛くて、いつまでも見ていたいとさえ思ってしまった。
(お前がいないと、それさえもかなわないんだよ)
勇気は背中を向け、電車に乗り込む。
次に向かったのは倒壊したアパートだ。
高さ十五階もあったアパートだけあって、その瓦礫の山もずいぶんとでかい。
今も瓦礫を取り除く作業が続けられているが、行方不明者は誰一人として見つかっていない。
しばらくアパートだった瓦礫の山を見ていると携帯が震え始めた。
「もしもし」
『私だ』
「知ってる」
『少し音がうるさいね。工事現場の近くにでも居るのかい?』
「似たようなもんだ」
『それはそうと、昨日君の妹から話は聞かなかったのかい? 学校が終わったら来るようにと言っていたはずなのだが』
そういえばそんなこと言ってたな、と勇気は昨日優が言っていたことを思い出す。
完全に忘れていた。
「じゃあ今から行く」
『そうしてくれると助かる。ここにかなり不機嫌な子がいるのでね』
「子守はしないぞ」
『そう言わずに来るといいさ』
勇気の返事を聞かずに菊次郎は電話を一方的に切った。
面倒だな、と勇気は思いながら携帯をポケットにしまい、ガンマンガに向けて歩き始める。
ガンマンガにたどり着き、いつもの受付係にいつもと同じ個室に案内される。
パソコンのデスクをどけ、ボタンを押すと床の一部が音もなく開いていく。
「誰もいないな」
廊下を抜けた先の部屋に入るが、誰もいない。
ふといつも菊次郎が座っている場所に目を向けると、コーヒーが湯気を立てていた。
しばらく待ってみようかと考えていた時、隣の部屋から喋り声が聞こえてきた。
会話の内容まで聞こえないが、二人の人間がそこにいることだけはわかる。
勇気は誰がいるのか確かめようとドアに手をかける。
その時ドア向こうの会話が止まり、勇気はドアを開けた。
「お、お帰りなさいませ。ご、ごごご、ご主人様」
そこには顔を真っ赤にしたメイドと、後ろで口に手を当てて肩を震わせている菊次郎がいた。
菊次郎は無視し、勇気はメイドコスをした少女に目を奪われていた。
可愛いと言うのも目を引かれている理由の一つだが、最大の理由は別のところにある。
「鈴、なのか?」
「うん」
こくんと鈴は頷き、笑顔を作る。
鈴は右腕にギブスをはめて吊るし、メイド服を着ていた。
勇気はほとんど無意識のうちに鈴のそばにまで近づき、ペタペタと鈴の肩から膝まで触り、最後には顔を触る。
「ゆ、勇気君。くすぐったいよ」
くすぐったそうに身をよじり、鈴は後ずさる。
全く警戒していなかったせいもあり、これはちょっとだけ怖かった。
「鈴」
「わっ!」
両腕を鈴の背中に回して抱きしめていた。
「ゆ、勇気君っ!? ちょ、ちょっと! は、はなれ」
突然抱き付かれ、鈴は勇気を引き離そうとする。
恥ずかしいのに加え、腕が圧迫されて少し痛い。
「どこ行ってたんだ! このくそ女が」
「罵倒する前に離れ」
「心配したんだぞ。お前が行方不明になってからずっと。ずっと・・・・・・」
勇気の涙を鈴は頬に受け、必死に引き離そうとしていた手から力を抜いた。
その様子を見ていた菊次郎は、無言で部屋から立ち去っていく。
「ごめん」
その場で膝を床につき、勇気は鈴の胸元に顔を沈めておえつを漏らし始めた。
鈴はうっすらと頬を赤くし、やさしく勇気の頭を撫で始めた。
涙が止まった勇気は鈴に背中を向けて座っていた。
女子の前で涙を流し、あげくに頭を撫でられたことが恥ずかしく、鈴のことをまともに見られない。
鈴は勇気の背中を見つめているが、どう声をかけてあげればいいのかわからずに、声をかけられていなかった。
「悪かったな」
「いいよ。まさか君が泣くなんて思わなかったからびっくりしたけど・・・・・・あと恥ずかしかったし」
鈴は自分の胸に手を当てため息をつく。
あれは正直かなり恥ずかしかった。
「お前今までなにしてたんだよ。あとそのコスプレは何だ」
「ええと。昨日までは瓦礫の下で意識失ってたの。昨日のお昼頃に菊次郎さんに助けてもらって、今日の朝目が覚めたの」
コスプレの件に関しては答えないようにした。
興味があったから着てみた、なんて恥ずかしくて言えない。
勇気は手の甲で目をこすり、鈴に向かい直る。
「腕、どうしたんだ?」
「ちょっと複雑に骨折っちゃったの。右腕から落ちちゃったし、落ちてきたおっきな瓦礫が腕潰しちゃったし。あの時は痛すぎて意識失ったんだから。まあ、跳ねてくれたおかげですぐに腕は自由になったんだけどね。じゃないとあたしこれから右腕ない生活送るところだったよ」
「痛くないか?」
心配そうな声に、鈴は嬉しそうに微笑む。
「うん。触らなかったら痛くないよ。まだ動かせないから、着替えるのは結構大変だったけど」
頷いた鈴に勇気はあんどの息を吐いた。
「あそだ。勇気君も後で検査受けたほうがいいんじゃないの?」
「検査? なんのだ?」
「日曜日いっぱい撃たれたから、弾が体に入ってないかの」
「それもそうだな。だったらお前も受けとけよ」
鈴は勇気にそういわれ、言葉を詰まらせて顔をそらせる。
「・・・・・・もう受けた」
「・・・・・・その反応もしかして」
「だ、大丈夫! 一発だけ残ってただけだから! もうちゃんととってもらったし」
左手を前にだし、鈴は大丈夫だということを何度も繰り返す。
これ以上勇気に心配をかけたくないのだ。
「勇気君」
「なんだ?」
「その、心配かけて本当にごめんね。本当だったら目が覚めた時に電話したかったんだけど、携帯壊れてたし、目立つ傷跡もまだ少し残ってたから見せたくなくて」
本当は今でも服の下にはいくつかの傷はあるし、初めて化粧まで使って何とか隠しているが顔にも小さな傷はいくつか残っている。
「別に心配なんてしてないっての」
「でも、さっき心配したって」
「き、気のせいだろ」
顔をそらした勇気の頬は少し赤い。
それがおもしろくて鈴は口に手を当てて面白そうに笑う。
つられるように勇気も笑い始めた。
そこでふと勇気の携帯がメールの着信を知らせた。
「妹さん?」
「ああ」
勇気がメールを確認すると、『遅くなるんだったら先に教えといて』と書かれていた。
なんだか少し棘っぽいのは昨日のが原因なのだろう。
「・・・・・・優ちゃんつらいよね」
「辛い?」
「ごめん。君が来るまでの間に君のことと優ちゃんのこと、結構菊次郎さんに聞いちゃったの。『適合者』になったきっかけとか、今の優ちゃんの心境とか」
「あの糞やろうが」
よりにもよって一番知られたくない相手に、一番知られたくないことを知られてしまった。
舌打ちをし、勇気はふと先日の優との会話を思い出した。
『お兄ちゃんが友達と彼女作るまでは私も彼氏は作らないって決めてる』
勇気はずいぶん前から優には彼氏でも作ってもらい、少しでも過去のことから目をそらしてほしいと考えていた。
けど今まではこの無理難題のせいでそれが無理だったのだが、協力者がいればどうだろうか。
「なあ」
「なに?」
「俺の彼女になってくれ」
「いいよ・・・・・・って! え、ええ―――――!?」
ボッと赤面させ、鈴は今にも泣きそうな表情になる。
何かまずいことでも言っただろうか、と勇気は自分の発言を思い出す。
『俺の彼女になってくれ』
「・・・・・・あ」
思いっきりまずいことを言っている。
これではまるで、告白ではないか。
「ち、違うぞ! これはそう意味じゃなくてだな」
それからまず混乱状態の鈴を落ち着かせ、さっきの考えを伝えるのに合計三十分もの土岐を要した。
何よりも、勇気自身混乱してしまったのが長引かせた原因の一つだろう。
「うう。それならそうって最初に言ってよ」
「悪い」
確かにあの言い方は自分が悪いと思い、勇気は素直に謝る。
「で、協力してくれるか?」
「うん。そういう事だったら協力してあげる。そのかわり」
いじわるっぽい笑みを浮かべた鈴に思わず勇気は後ずさってしまう。
「今度ケーキおごってね。お店は違うところで」
違うところというのはおおよそ『ドリームスイーツ』以外ということなのだろう。
勇気は仕方がない、と肩を落とし頷いた。
「やたっ!」
嬉しそうに笑う鈴を見ながら勇気は頭をかく。
そのとき、ドアが勢いよく破られ、鈴が二人の人物によって覆い隠されてしまった。
どこかの組織か? と勇気は一瞬警戒したが、由美と彩だった。
泣きじゃくる二人の言語はほとんど聞き取ることができず、勇気は火星にでも来たのかと思ってしまった。
「な、泣かないでよ二人とも」
泣きじゃくられる鈴は二人をあやそうと由美の頭を撫でる。
腕一本しか使えないのは不便だなぁ、と鈴は思いながら勇気と顔を見合わせて苦笑した。
「取り乱してしまってすみません」
ハンカチで目元を拭きながら彩は頭を下げた。
隣で座っている由美を見てみると、何やらふてくされていた。
「ええと。由美なんか怒ってる?」
「・・・・・・怒ってない。連絡くれたのが鈴じゃなくて村雨って人だったからなんて理由で怒ってないですよーだ」
頬を膨らませ、プイッと由美は鈴から顔を背ける。
鈴は悲しそうな表情をした後、由美の背中に抱き付いた。
一瞬痛そうな表情だったのを勇気は見たが、声には出さないようにした。
「ごめん」
「携帯壊れてたこと言い訳にしないんだ」
「それもあわせたごめんだもん」
だからさ、と鈴は続け、
「今度また、一緒に買いに行ってほしいな。由美の時間空いてるときでいいからさ」
「鈴・・・・・・」
ニコッと鈴が笑うと、由美も嬉しそうに笑い、押し倒す勢いで鈴に抱き付いた。
「ちょ、ちょっとまって! う、腕! 腕はさんでる!」
「あ、ごめん」
解放された鈴は逃げるように勇気の後ろに隠れ、涙目で包帯にまかれている右腕をさする。
勇気と由美と彩は顔を見合わせてただ笑った。
特別楽しいというわけではないのだが、鈴がいるということだけで嬉しくて笑えてしまうのだ。
一人取り残された鈴は訳が分からなかったが、つられるように笑い始めた。
「みんな心配かけて本当にごめん。でも、腕は治るのちょっと時間かかりそうだけど、そのうち傷も全部治るから」
「全部って、鈴傷腕だけじゃないの?」
「さっしてやれ」
「・・・・・・ごめん」
勇気にそういわれ、つらそうな表情をしている鈴に由美はすぐに謝った。
何ともなさそうに鈴は首を振る。
「ところで勇気君」
「なんだ?」
勇気が鈴に顔を向けると、鈴はなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめ、もじもじとし始める。
そんな反応をされた勇気はなんだか居心地が悪くなり、由美と彩までそわそわし始める。
「えっとね」
「ああ」
「えっとね・・・・・・」
「ああ」
「あの・・・・・・」
いつまでたっても本題に入らない鈴に我慢が出来なくなったのか、由美は「あーもー!」と立ち上がった。
「何か言いたいことあるんだったら鈴早く言ってあげなよ!」
「え、あ、うん・・・・・・でもなんか恥ずかしくて。こういうこと今まで言ったことないし」
「・・・・・・私たちちょっとでとこうか?」
「なんで?」
由美は勇気を一度睨むと鈴の耳元に口を近づけ、コソコソと話し始める。
「告白・・・・・・なんでしょ?」
「ち、違うよ!」
顔を真っ赤にした鈴は首を振るが、その程度では勘違いした由美の誤解を解くことはできず、由美は彩の手を握ると足早に出て行ってしまった。
誤解を解けなかった鈴は由美に手を伸ばすが、帰ってくるはずもなくすぐに別の部屋に入られてしまった。
「頑張ってねー」と言われてもかなり困る。
「何がしたいんだ。あいつは」
「うう。由美恋バナ大好きだもん」
「恋バナねぇ。お前は興味あるのか?」
「誰かの話聞くのは割と好きかな。聞かれるのは全然ダメなんだけどね」
話し相手が由美ということは伏せておいた。
「で、さっきなんて言いたかったんだ?」
「あ、うん・・・・・・その、友達にならないかな? なんて」
「・・・・・・」
「ほ、ほら! あたし達どこかに遊びに行ったり、アドレスも交換してるから。友達になってもいいんじゃないかなって思って・・・・・・・ダメ、かな?」
「・・・・・・」
勇気が無言でいると鈴はどんどん表情を暗くしていく。
なんだか、勇気の表情が険しくなって少し怖い。
「俺は友達とか作らないようにしてるんだ。本当だったら誰かと親しくもしたくない」
「なんで? 『ウロボロス』だったら友達とか囮にされて無理なこと言われたりするけど、ここは友達とかは守ろうとしてるって菊次郎さんには聞いたけど」
「ばれたら殺されるだろうが」
「なんで?」
なおも聞いてくる鈴の肩を勇気は無意識のうちに強くつかんでいた。
「正体がばれたら殺されるからに決まってるだろうが。敵対組織に。俺の精神にダメージを与えるという理由だけで・・・・・・俺はそれで二人殺されてる」
声を荒げることはなかったが、その声は怒りを含み、どこか冷たいものだった。
鈴は勇気の手に自分の手を重ね、そっと微笑んだ。
「あたしは別にいいよ」
「なに?」
「あたしはそんな簡単に死なないからね。たとえ君がまた正体がばれたとしても、あたしは返り討ちにしちゃうから」
確かに鈴の実力をもってすれば大体の敵は返り討ちに合すことはできるだろう。
だが、
「嫌なんだ。俺のせいで友達が危険にさらされるのは。もうこりごりなんだよ。友達が死んで、つらい思いをするんだったら―――」
―――もう友達なんていらないんだ
「君は間違ってるよ」
「間違ってるだと?」
「うん。だってね」
鈴はすでに勇気の間違いに気が付いていた。
「だって、ばれなきゃ大丈夫だもん。もしばれたとしてもその人を殺すなり口止めさえしたら、敵対組織とかにも正体はばれないしね」
「ばれなちゃ大丈夫?」
「うん。いっとくけど、あたしは今まで正体がばれたことなんて一度もないんだから」
その言葉に嘘がないことは、鈴の瞳を見ればすぐに分かった。
「だから。あたしと友達になろうよ」
鈴は勇気から距離をとり、まぶしい笑顔でその手を差し出した。
その手を取れば改めて友達ということになるのだろう。
「俺でいいのか?」
「君だから友達になりたいんだよ」
友達。
その言葉を勇気はあまりいい思いを持っていなかったが、あこがれていたのも事実だ。
だから、勇気は。
「まあ、考えとく」
「うん!」
パァンと鈴の手を軽くたたいた。
それがなんだかうれしく、鈴はその場ではしゃぐ。
それを見ながら勇気は頭をかいた。
どうやら、友達ができたようだ。
それも、レッドベルというかつては銃を迎えあわせ、命を奪い合おうとした相手と。
「じゃあ、由美と彩ちゃんとも友達になろうよ」
「あの二人は勘弁だ」
えー、と頬を膨らませる鈴の頭に軽く手刀を落とし、勇気は未来の自分に問いかける。
後悔は、してないよな?




