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第五章 共闘

「黒鈴さん! 鈴さん!」

 ガタンと椅子を倒し、彩は画面に映る二人に叫びかけるように声を荒げる。

 ブラックベルとレッドベルの戦いは、近くに飛ばしていたラジコンヘリからガンマンガに映像を飛ばして菊次郎と彩は見ていた。

「おちつきたまえ」

「お、落ち着けって、何言ってるんですか! 撃たれたんですよ!?」

「確かに撃たれたね」

 菊次郎は彩を椅子に座らせ画面を見つめる。

 勇気と鈴はその体から血を流して倒れている。

 それにしても見事なものだ。

 銃声が鳴り響いた瞬間、レッドベルである鈴は勇気を守るように致命傷となる弾丸は撃ち落とし、撃ち落しきれない弾丸はその身を盾にして勇気を守り抜こうとしていた。

 当然全方向から来る弾丸を一人の体では防ぎきれずに、混乱状態の勇気はあっけなく気を失ってしまった。

 銃声が鳴りやむと鈴は何とか意識を保とうとしていたが、元々の疲労に加え、無数の傷。

 痛みと疲労にあらがうことができずに、後を追うように意識を失ってしまったのだ。

 おそらく、『ウロボロス』が確実にブラックベルを倒すために、レッドベルというコマを囮に使ったのだろう。

 このまま何もしなければ、確実に勇気は殺される。

「では行くとしようか」

「ど、どこに行くんですか」

「なに。ちょっと彼らを助けようかと思ってね」

「で、でも大丈夫なのですか? 私としてはあの二人を助けてくれることは嬉しいんですけど、結構いると思うのですが」

 菊次郎は口元を歪めた。

「二十人ぐらいの相手だ。心配ないさ。君はここで、あの二人の怪我を治療するための準備でもしておいてくれたまえ」

「わ、わかりました」

 手をひらひらとさせながら歩いていく菊次郎の背中が見えなくなると、彩は首を傾げた。

「包帯とかって、どこにあるのでしょうか?」



『目標鎮圧』

『やつらは化け物だ。倒れたと言っても油断はせずに慎重に進むめ』

『了解!』

(好き勝手やってくれているね)

 『ウロボロス』の雇った部隊の無線をジャックして聞いていた菊次郎はため息とともに一つのボタンを押した。

 今からバイクで勇気達がいる廃墟まで飛ばしても、最低でも五分はかかる。

 気を失った二人を殺すとなれば、一分も時間はかからないだろう。

 こんなことを予想していたわけではないが、菊次郎はラジコンヘリに一つの仕掛けを施しておいたのだ。

(そういえば、私はどうして彼女まで助けようとしているのだろうか)

 彼女とはレッドベルのことだ。

(ああ。彼女が彼の友達になれそうな人物だからか)

 ヘルメットなど着用せずに、菊次郎は最高速度でバイクを走らせた。

 もし捕まえられる警察がいれば、菊次郎の免許がなくなるのは確実だ。

(そういえば、もう一つやらねばならないことがあったね)

 菊次郎はバイクを止めることなく携帯電話を取り出し、一つの番号に電話をかけた。

 すぐに番号の主は電話に出た。

「もしもし。赤鈴 鈴君の友達の、鳥北 由美君であってるかね?」



 菊次郎が一つのボタンを押すと同時に、ラジコンヘリは内部に収納しいたマシンガンを地上にいる『ウロボロス』の部隊へと向け始めていた。

 ラジコンヘリの数は合計五台。

 自動照準機能を搭載しているラジコンヘリは『ウロボロス』の部隊へと火を噴いた。

「な、なんだ!?」

「あれだ! う、撃て! 撃て!」

 慌てる『ウロボロス』の部隊は宙に飛んでいるラジコンヘリに向かって発砲するが、不規則な動きをしているラジコンヘリに思ったように当てられていない。

 彼らは『適合者』ではない。

 どこかの軍から弱みを握られ、金を払われて雇われた正規の軍人たちだ。

 この廃墟の敷地は少し大きめのサイズがあり、それをぐるっと囲うように高さ4メートルほどのフェンスによって囲まれていて、外からは中の様子が見えない構造になっている。

 五分が経ち、ラジコンヘリが残り二機となったが、部隊の数名が命を落とし、残り十二人。

 ブルォンと言う音ともに廃墟を囲うフェンスをバイクを乗った何者かが侵入してきて、すれ違いざまに三人の命を合計三発の弾丸で奪い取る。

 菊次郎が来るまでの五分という時間を守り切ったラジコンヘリは弾切れになり、マシンガンを分解すると今度は内部からナイフを取り出し、空から切るように襲い掛かる。

「ずいぶん貧弱な部隊だね」

 残り九人のうち二人はラジコンヘリの撃墜に回り、残りの七人は菊次郎に銃口を向ける。

 すぐに撃たないのは、殺してもいい相手なのかどうかを迷っているのだろう。

 菊次郎はバイクから降りると同時にハンドガンを放り棄て、バイクの内部からアサルトライフルを取り出す。

 バイクに乗っていた時は片手でも使えるようにハンドガンを使用していたが、菊次郎は主にさまざまな武器を使用することができる。

 菊次郎が連続で引き金を引き、五人が倒れると、残りの二人は菊次郎を殺すべき相手と判断したらしく引き金を引いた。

 元から仲間意識という物が薄いのか、それとも理解できていないのか、その二人は倒れた仲間に目もくれない。

 菊次郎は腹に二発の弾丸が掠めたことに呻くが、ひるまずに引き金を引く。

 一人は心臓を撃ち抜き、もう一人は両肩と片足を貫く。

「さて。少し事情でも聞かせてもらうとするかね」

「ッひ!」

 近づいてきた菊次郎に銃口を頭に押し当てられ、その男は短い悲鳴をあげた。

 顔をあげてあたりを見渡すと、二機のラジコンヘリはポタポタとナイフから血を垂らしながら浮遊していた。



 ガンマンガに戻ると、菊次郎は彩が使えるようにしていたベッドに勇気と鈴を寝かせ、治療は彩に任せることにした。

 鈴は頭からも血を流していたが、掠めただけだったようで脳には被害がないだろう。

 それに、鈴の方の傷はお腹を除いてはもうほとんど治っている。

 次に勇気だが、こちらは頭から血を流すこともなく、脳は何も心配はないだろう。

 薬を使っている鈴に比べれば回復力は劣るが、手術などをする必要もなさそうだ。

「あ、あの。村雨さんも怪我、してますよね」

「私のことは気にしなくても平気だ。彼らに比べればかすり傷だしね」

「で、でも」

「私は少し調べないといけないことがある。いくらこの子たちが『適合者』の回復力を持っていても、傷口をふさがないのはあまりよろしくない。大体の菌は『吸血鬼』の血が殺すが、強い菌となると感染するかもしれないしね。特に場所が場所だしね」

 そういわれた彩は勇気達と菊次郎を交互に見比べ、わかりましたと言うと鈴の頭の傷を消毒し始めた。

「でも、この二人が終わればちゃんと消毒はしますからね」

「ああ。それはそうと、鳥北 由美という子は来たかね?」

「あ、はい。ものすごい汗かいてましたので、シャワー使ってます」

「そうか。では、出てきたら私のところに来るように伝えておいてくれ」

 出て行こうとする菊次郎の背中に、彩は鈴を消毒する手を止めずに声をかける。

「あの。彼女を連れてきてもよかったんですか? ここのことって誰にも秘密だって黒鈴さんには言われたのですが」

「しかたがないさ」

 菊次郎は肩を落とし、ため息をつく。

「彼女は『ウロボロス』のやつらに狙われているからね。レッドベルもブラックベルも生きていたと知れば、何をしでかすかわかったものではない」

 そう言い残し、菊次郎は勇気と鈴を彩に任せて部屋から出ていく。

 罪もない人間がむざむざ殺されるのを、菊次郎は黙って見て過ごすことはしたくなかったのだ。

 問題なのはここからだ。

 おそらく『ウロボロス』の連中は、すぐに二十人で構成された軍の部隊が全滅し、ブラックベルとレッドベルが生きていることを知るだろう。

(問題はあの場で素顔をさらしたことだね)

 おそらく『ウロボロス』も、何らかの方法であの戦闘を見ていたはずだ。

 勇気の素顔を見られた以上、優の命が危なくなってくる。

 一応由美に連絡した後電話をかけてみたのだが、既につながらなかった。

 が、おそらくは捕まったとかそういうのではないだろう。

 前に勇気から聞いた話では、日曜日は毎日部活で、中学生の優は携帯を持っていくことを学校から禁止されている。

 普段は隠してもっていっているようだが、さすがに部活の時までは持って行っていないようだ。

「さて。素直な彼が教えてくれた情報をもとにして、やつらのアジトでも探すとするか」

 もうこの世にはいない彼の言葉を思い出しながら、菊次郎は『ウロボロス』の潜んでいそうな場所を検討していく。



 風呂から出てきて、鈴を見た由美は悲鳴をあげてわんわんと泣きながら鈴を抱きしめていた。

 包帯から滲み出した血が由美の体に付着するが、友達を思う由美にはそんなこと気にしている暇はない。

「鈴っ! 鈴っ!」

「お、落ち着いてください。あんまり激しくすると、傷によくありません」

 由美の肩に手を置いて止めようとした彩の手を由美は振り払い、鈴を抱きかかえながら彩を睨み付ける。

「鈴に何をしたっ!」

 睨まれた彩は気圧されたように一歩後ろに下がり、どう答えようかと迷う。

 由美は奥歯を噛みしめ、近くに何かないかと視線を動かす。

 手近にあった救急箱からハサミを取り出し、威嚇するかのように彩へと向ける。

「あ、危ないですよ」

「そんなことは百も承知。けど、あなたが鈴を傷つけるようだったら、私は容赦しない」

「ち、違います! 私は鈴さんの怪我を直していただけです」

「あなたが鈴を?」

 由美は訝しげな表情で改めて鈴を見る。

 全身に包帯が巻かれていてその包帯も赤く染まっているが、その顔は穏やかなもので、胸も規則正しく上下している。

「鈴さんは・・・・・・ちょっとした事情があって怪我をしたんです。それを村雨さんが助けに行ってくれて、私が簡単な治療を」

「本当に、あなたは鈴の傷を治してくれただけ?」

「はい。ですから、そのハサミを元に戻してください。もし今鈴さんが起きたら、ショックでまた気を失ってしまいますよ?」

 由美は鈴の顔を見た後、ゆっくりとハサミを救急箱の中へと戻した。

「ごめん。鈴のこんな姿見たら、なんだか混乱しちゃって」

 由美は鈴の顔にかかった髪の毛を払い、やさしく頭を撫でる。

「鈴さんのこと、好きなんですね」

「友達としてね。それと、なんで黒鈴君も包帯まきなの?」

 由美の視線は鈴から外れ、鈴と同じように包帯を巻かれて横たわっている勇気へと向けられる。

 それに続くように彩も勇気に視線を向ける。

「この人も怪我をしたんです」

「鈴も黒鈴君も大丈夫なんだよね?」

「はい・・・・・・たぶん」

 『適合者』のことを彩は聞かされているが、さすがに包帯に血が滲めば不安にもなってくる。

 ましてやもともと普通の人間ならば死んでもおかしくないような重症だったし、消毒も何もかもが専門的な知識ゼロの高校生がやっただけのものだ。

 その不安が由美にも伝わったのか、収まっていた涙がまたこぼれそうになる。

「ここにいたのか。急に来てもらって悪かったね」

「村雨さん」

 菊次郎が来ると彩は少し安心したが、突然来た菊次郎に由美は警戒心を一気に強める。

「だ、誰っ!?」

 一気に警戒心を強めた由美はハサミを菊次郎に向けた。

「電話で呼んだものだよ」

「あの時の」

 由美はどうしようか迷った末にハサミを救急箱の中に戻した。

 それを見た彩はホッと安堵の息をつく。

「見ての通り、この二人は大きな怪我をしているが、勇気君は明日、鈴君に至っては夕方にもなれば何事もなかったように怪我がすべて直るだろうね」

「そんなこと、『吸血鬼』でもないんだからありえないですよ」

 『吸血鬼』のことは『適合者』と違い、誰でも知っている。

 それも、小さなころから親やテレビで見聞きするぐらいに。

「そう。この子たちは『吸血鬼』なのだよ。といっても、半分だけってところが正確なところだけどね」

「鈴が『吸血鬼』? 半分だけ?」

 明らかに混乱している由美に、菊次郎は『適合者』のことを説明し始めた。

 普通一般人に教えてはいけないことなのだが、ここまで巻き込んでしまっている以上は教えないといけないだろう。



 聞き終えた由美はしばらく沈黙を保っていた。

 が、その顔を見れば動揺しているのは一目でわかる。

「知らなかった」

 沈黙を破ったのは由美だ。

「鈴がそんな風に苦しんでたなんて。私が鈴を苦しめてたんだ」

 『適合者』の説明のほかに、菊次郎は勇気が友達を作っていない理由と、『ウロボロス』の組織がどういった物かも説明していた。

「何も知らないのに勝手なこと言って、こんなんじゃ友達失格だ」

 由美を静かに寝かせ、立ち去ろうとする由美の背中に菊次郎は声をかける。

「どこに行くのかね?」

「当てはないです。でも、鈴の近くに居たら鈴を苦しめるから、できるだけ遠くに」

「君は勘違いしているよ」

「勘違い?」

 首を傾げながら由美は振り返った。

「ああ。確かに彼女にとって君の存在は、友達という存在は負担になっていただろうね」

 そういうと由美はすぐに菊次郎に背中を向け、歩み始めようとする。

 そんな由美に菊次郎は構わずに声をかけた。

「けどね、支えにもなっていたはずだよ。これは彼女を運ぼうとしたときポケットから落ちた物だけど」

 菊次郎はポケットに手を突っ込み、何かを包み込んでいるハンカチを由美に向けて差し出した。

 由美はそれを訝しみながら受け取り、広げると目を細めた。

「鈴の携帯」

 血がついたりしているが、一目でそれが鈴の携帯だとわかった。

 一緒に選びに行ったのだから、見間違えたりなどしない。

「電源を入れてみたまえ」

 ハンカチで血を簡単に拭い落とし、鈴には悪いと思いながらも由美は電源を入れた。

「ッ!」

 その待ち受け画面を見て、由美は口に手を当てた。

 涙が零れ落ち、由美はその待ち受け画面を食い入るように見つめていた。

 この待ち受け画面は鈴の携帯を買いに行ったときに、記念として初めて二人で撮った写真だ。

 確かにあの時鈴はこの写真を大事にすると言っていたし、待ち受けにするとも言っていた。

 けど、最近勇気と遊び行ったと昨日の夜聞いたし、てっきり勇気と撮った二人の写真を待ち受け画面にしているとばかり思っていた。

 由美は鈴がまだこの写真を待ち受け画面にしていてくれたことが嬉しく、そっと胸元に抱き寄せて声もなく涙を流し続けた。



 しばらく時間がたち、鈴の瞼がうっすらと開き、カラーコンタクトをつけていないほとんど黒い瞳が天井をぼんやりと見つめる。

 何度かパチパチと瞬きし、意識がはっきりし始めると体中に痛みが走った。

「ッ!」

 その痛みに口をパクパクと開閉し、声を出すこともできずに鈴は背中を丸める。

 思わず涙が溢れそうになったが、目の両端に粒を浮かべるぐらいで何とか抑えることができた。

「あ、あぅ。痛い、よ」

「鈴ッ!」

「あっ!」

 由美に抱き付かれ、鈴はベッドから転がり落ちた痛みで悲鳴をあげる。

 構わずに由美は鈴に抱き付いたままわんわんと泣きはじめ、鈴は由美の背中をあやすようにポンポンと叩いた。

 本当は頭を撫でてみたかったのだが、そこまで腕が上がらなかったのだ。

 由美が泣き止むころには勇気も目を覚まし、今度は鈴が抱き付いて勇気をベッドから転がり落していた。

 目元の涙を由美は拭いながら、心配しながらも嬉しそうに勇気に抱き付いている鈴を見て由美もまた、嬉しそうに笑った。



「お前は馬鹿か。悪化したらどうする」

「ご、ごめん」

 勇気はベッドに腰掛け、鈴は勇気に叩かれた頭を痛そうにさすっている。

 由美と彩は、体についたわずかな血を洗い流すために風呂に入っている。

 本当は鈴も入りたかったのだが、さすがに全身傷だらけの時にはいるほど愚かではない。

 それに、傷だらけの体を他の誰かに見せたくなどなかった。

「けど、なんでお前まで撃たれたんだ。あれは『ウロボロス』のやつらだったんだろ?」

「そう言うとこだから。『ウロボロス』はあたしを平気で脅してきて、由美も人質にされてた」

「捨て駒だったってわけか」

「うん。あいつらにとっては、あたしなんかただの商売道具。お金で買った子供なんだから、当然かもだけど」

「・・・・・・そうか」

 勇気は鈴のその言葉の意味を聞きたかったが、触れないほうがいいと即時に判断した。

 そのような話題、触れられて気持ちいいはずがない。

「お前が・・・・・・レッドベル、なんだな」

「うん」

 そっけないたった一言の返事だったが、勇気にはショックが大きかった。

「君もブラックベルなんだね」

「ああ」

 勇気の返事もまたそっけない一言だが、鈴も受けたショックは大きい。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 どう話を繰り出せばいいのかがわからない。

 しばらく沈黙は続き、勇気は鈴の体を隅々まで見回した。

 巻かれている包帯はついさっき由美に巻き直してもらい、血はほんのちょっとにじんでいる程度。

 しかし、お腹の部分だけは他の部分よりも血は滲んでいる。

「腹大丈夫か?」

「あ、うん。ちょっと治りが遅いけど、傷はちゃんと治ると思うよ」

 鈴はお腹をさすり、頭に手を持っていく。

 触っても痛くないことを確かめると、鈴は頭の包帯をほどき始めた。

「もう大丈夫なのか?」

「痛くもないから、もう傷はふさがってると思うよ。それに、あんまり包帯してるところ見られたくないから。本当は全部取りたいんだけどね」

 鈴は苦笑しながら、傷がもうふさがっている場所から包帯をほどいていく。

「守り切れなくてごめん。さすがにあの数を一人で全部防ぐのは無理だったの」

 勇気は一瞬何のことかわからなかったが、すぐに廃墟で『ウロボロス』の部隊に撃たれたときのことだと思い至った。

 首を振り、勇気は否定する。

「いや。あれは俺が動けなかったせいだ。動揺しすぎた。俺の傷は全部俺の責任だ」

「そう言ってくれるとちょっと気が楽になるね」

 包帯をある程度取り除いた鈴はそれを壁際に置かれてあるゴミ箱に投げ捨てた。

「やった」

 ゴミ箱に入ったことがなんだか嬉しく、鈴は小さくこぶしを握る。

 勇気は自然と鈴の右足を見て、そこに傷跡が残っていないのを確かめるとホッと安堵の息をついていた。

「そういえば、君なんで普通の銃使えたの?」

 突然降られた話題に、勇気はうめき声をあげた。

「答えないとダメか?」

「被害者だから」

 それを言われれば何も言い返せない。

 勇気は諦めのため息をつき、ベッドの近くのテーブルに置かれていたベレッタを手に取る。

 ついでに『魔血銃』を左手で握り、勇気はベレッタをゴミ箱に向けて引き金を引いた。

「ッ!」

 鳴り響いた銃声に鈴は目を瞑り、耳を両手でふさぐ。

 ゆっくりと開いた目には、戸惑いと好奇心で満ちている。

「信じれないとは思うが、俺は生まれた時からごく少量の『魔力』を持っていた。らしいんだ」

「生まれた時から? そんなの絶対にありえないよ。君が『吸血鬼』なら持ってても当たり前だけど、君の瞳は黒いし、回復力も遅いもん」

「俺は人間だ。けど、『適合者』になる前の血を調べたら、俺は生まれた時から『魔力』を持っていたって結果が出た」

 鈴は顎に手を当て、考えるふりをしてから「うーん」と唸る。

「ちょっと信じにくいけど、嘘ついてそうでもないし・・・・・・うん。信じてみる」

 微妙な返事に勇気は内心で苦笑し、話を続ける。

「そのせいか、俺は他の『適合者』よりも魔力のコントロールが優れてる」

「自分で優れてるって言うんだ。まあ、君の『魔弾』のコントロール制度はすごかったもんね」

「で、俺はこいつを撃つときに、いったん『魔血銃』にすべての魔力を注ぎ込んでから引き金を引いてる。当然負荷も大きいし、魔力を保存できる時間も一秒もないけどな」

「ちょ、ちょっとまって! あぅ。大声出したらまだ痛い。ちょっとはましになってきてるけど」

 背中を丸め、鈴は両手でお腹の傷口を抑える。

「そんなことできるの? あたしもそのアイデア思いついたけど、毎回『魔弾』として出て行っちゃったよ? 引き金引かなくても」

「そこは俺とお前の差、ってところだろ。けど、これをすると『魔力』は半分ぐらい減るし、ちょっとでもミスッたらどっちの銃も壊れるんだけどな」

「なんか馬鹿にされてる気がする」

 ムッと鈴は頬を膨らませた。

 勇気は二つの銃を元の場所に置き直し、ベッドに寝転がった。

「お前は今どう思われてるんだろうな」

「誰に?」

 首を傾げた鈴に勇気は少しためらってから応える。

「『ウロボロス』にだ」

「・・・・・・さあ。でも、君を殺せてないから多分由美は狙われると思う。今日もずっとそう脅されてたし」

 表情を暗くし、鈴は下唇を軽く噛んだ。

 由美を殺させないためには『ウロボロス』を潰す必要がある。

 『ウロボロス』の在りかを探そうにも、情報が少なすぎて、とてもではないが今日一日では探し出すことができないと鈴は思っている。

 時間に余裕があれば時間をかけてでも探し出すのだが、おそらく『ウロボロス』は明日にでもなれば由美を殺そうと動き出すはずだ。

「あの女を助けたいのか?」

「当たり前だよ。でも、『ウロボロス』がどこにいるのかわからないの」

 勇気は少し考え、鈴の手を握って部屋を移り始めた。

「え、えっ?」

 突然手を握られ強制的に歩かされた鈴は戸惑い、少し怖かった。

 ここは初めてくる場所だし、鈴は構造を全く理解していない。

 もしかしてレッドベルとして拷問されるのではないかと、嫌でも少しは想像してしまう。

「ゆ、勇気君。どこに行くの?」

「もうじき着く」

 勇気の言う通りすぐに目的の場所につき、勇気は立ち止まった。

「やあ。目が覚めたようだね」

 椅子を回し、菊次郎はパソコンの画面から二人へと体を向け直した。

「あんたが俺たちを拾いに来たんだってな」

「ああ。君たちに死なれるのは、私としてはあまり面白くない結末だからね。まあ、レッドベルの正体が君ではなく、別人ならば助けはしなかったがね」

「あ、あはは」

 菊次郎に笑いかけられ、鈴はひきつった笑みを浮かべた。

 今の菊次郎の言葉は、言い方を変えれば菊次郎の気分一つで、あの時に鈴は殺されていたということだ。

「で、手をつないだカップル二人は私に何を所望かな?」

「カップル? あ、悪い」

「か、カップル・・・・・・違うのに」

 勇気は今更鈴の手を握ったままだったことを思いだし、慌てて手を離す。

 鈴は顔を赤くし、そらすようにうつむいている。

 その二人の面白い反応を堪能した菊次郎は笑い声をあげ、二人を手招きする。

「大方『ウロボロス』の壊滅でも望んでいるのだろう?」

「あんたはたまに先を見透かしているからな。まあ正解だ。で、見つかったのか?」

「少々面倒だったが、やつらのアジトは見つかったね。聞くかい?」

「どうする?」

 菊次郎に聞かれ、勇気は鈴に聞き返す。

「え、え?」

 しかし、鈴は二人の会話に途中からついて行けずに混乱していた。

「ちょ、ちょっとまって。見つけたって、何を?」

「『ウロボロス』のアジトだろ」

 肯定するように頷く菊次郎を見て、鈴は動揺を隠しきれなかった。

 『ウロボロス』は自身の存在場所を隠すために、セキュリティーなどに関してはかなり高い。

 実際、一度衛星をハッキングしてみたことのある鈴もずいぶん昔試しに『ウロボロス』のアジトの場所を探ろうと頑張ってみたが、手掛かりすら見つからなかった。

「なんか、あたしの常識が今日で一気にいくつも覆された気がするよ」

 そもそも、敵対組織の『適合者』をこうして招き入れていること自体がイレギュラーな事態なのだ。

「ああそういえば、鈴君の部屋に、無数の隠しカメラと盗聴器が仕掛けられていたよ」

「はあ・・・・・・えっ!?」

「それもあいつらが仕掛けたやつか?」

「だろうね。詳しことまではわからないが、今から大体十年ほど前からあったと考えてもいいかもしれないね」

 隠しカメラ。盗聴器。十年前から。

 そのワードが鈴の頭を一気に埋め付くし、視界が歪み始める。

「鈴?」

 ペタンとお尻から座り込んだ鈴を勇気は心配そうに見下ろす。

 背中に悪寒が走り、鈴は震える体を抱くように両肩を抱く。

(見られてた? 十年も? あいつらに?)

 家の中だけはプライベートが守られ、何の監視もなく気楽に暮らせる空間だとばかり思っていた。

 けど、実際は常に監視され、一つの動作から一つの言葉まですべて。

 まだ純潔なこの身が穢された思いでいっぱいになる。

 自然と涙が零れるが、それを拭く気力が起きない。

「大丈夫か?」

 勇気に声をかけられ、はっとした鈴は顔をあげる。

「悔しいか?」

 鈴は頷く。

「殺したいか?」

 鈴は頷く。

「一人でできそうか?」

 少しの間をあけたが、鈴は頷く。

 勇気は鈴の頭を撫でる。

「こいつに教えてやれ。『ウロボロス』のくそどもの居場所をな」

 勇気は鈴の涙を指で拭き取り、その手を引いて立ち上がらせる。

「お前もいつまでも泣いてないで、あいつらを潰してこい。自分の裸姿があいつらの脳に一秒でもあるのは嫌だろ?」

「うん・・・・・・まって。裸って、もしかしてお風呂にも?」

「そうだね。風呂、トイレと構わず家中の場所ならすべてが見えるよ」

 裸を見られたことが恥ずかしいとか思う前に、鈴はただ純粋に気持ちが悪く、同時にどうしようもない殺気が湧き上がってくるのが分かった。

 鈴はごしごしと手の甲で涙を拭き取り、最後にグスンと鼻を鳴らせる。

「教えて。あいつらの居場所を」






 菊次郎に教えてもらって来たのは、鈴の暮らしているアパートだった。

 本当は勇気も一緒に来てくれたら心強かったのだが、勇気には「面倒だ」と断られた。

 おかげでここまで電車と歩きで来る羽目になり、少しお腹が痛かった。

「でも、これはあたしの問題だもんね」

 鈴は拳をぎゅっと握り、肩にかけたポーチをかけ直す。

 中には二つの『魔血銃』を収納していて、服はマンガンマにあった物を使って着替え直している。

 自分の暮らしているアパートを見上げ、中に入ろうと足を進めた時、ふいに肩を叩かれた。

「ッ!」

 心臓が止まるんじゃないかと思うほど驚き、恐る恐る鈴は後ろを振り返る。

「勇気君? なんで」

「散歩してたらここにたどり着いただけだ。偶然『魔血銃』も持ってるけどな」

 勇気は懐に手を入れ、『魔血銃』があることを示す。

 来てくれたことが嬉しくて、鈴は笑顔を浮かべて勇気の背中を叩いた。

「最初からバイクに乗せてくれたらよかったのに。電車お腹痛かったんだから」

 鈴は近くに止めてある見慣れないバイクを指さしそういう。

「バイクの方が痛くなるだろ」

「それもそっか」

 もしかしたら気を使ってくれたのかな、と鈴は思ったが、それを本人に聞こうとは思わなかった。

 聞いたところで、どうせごまかされるだけに違いない。

 アパートに入ろうとしたとき、鈴はさっきとは違う新しい緊張が混じっていることに気が付いた。

 部屋に招き入れないとしても、自分の暮らしているアパートに勇気が入ると思うと、なんだか緊張してきたのだ。

「お前の部屋って何階なんだ?」

「ふぇっ!?」

 そう思っていた矢先にそう質問され、情けない声を出してしまう。

 もしかして、部屋に入りたいと思っているのだろうか。

 けど、今はダメだ。

 掃除もできていないし、洗濯物で下着も干してある。

「だ、ダメ。また今度じゃないと」

「何言ってるんだ? まあそれはいいとしてだ。これが終わったら監視カメラとか取らないとダメだろ。見るやつはいなくても電気代は少し増えるし、なにより気持ち悪いだろうしな」

「そ、そうだね」

 思いっきり勘違いだった。

「でも、その必要はないよ」

 勇気は首を傾げる。

「引っ越すもん。こんな所ではもう暮らしたくないし、できるだけ入りたくもない」

「それもそうだな」

 先勝手にアパートに入って行った勇気の背中を、鈴は慌てて追いかける。

 エレベーターに二人で乗り込むと誰もいないことを確かめ、勇気は菊次郎に聞いた通りの順番でエレベーターのボタンを押していく。

 するとエレベーター特有の軽い浮遊感が一瞬鈴たちを襲い、エレベーターは地下へと進んでいった。

「こ、こんな仕掛けあったんだ。あたし今まで気が付かなかった」

 エレベーターが止まると、鈴と勇気は『魔血銃』を構え、瞳を赤く染め能力を開放。

 ただっぴろい通路の先には電子ロック式のドアがあり、その中央には瞳を赤くした『適合者』が五人。

 どうやらガーディアンとして配置されているようだ。



 そのころ、通路の奥にある一室では三人の『ウロボロス』の主格が通路の様子を眺めていた。

 二人の人物は落ち着いた表情で見つめ、残りの一人は怯えを丸出しにしていた。

「あ、あのようなものどもなど、ご、五人もいれば確実に」

「少しは落ち着きなされ。君ももう悟っているのでしょう? 我々はもう終わりだよ」

「な、何を言っているのだ!」

「ブラックベルとレッドベル。彼ら二人が手を組めば、たかが五人など時間稼ぎにしかなりませんよ」

「・・・・・・」

 それには間違いはない。

 このままいけば確実にあの五人は殺され、余す力でこの三人も殺される。

 だが、このままいけばの話だ。

「そうだ。人質をとればいいのだ! 鳥北 由美だ! そいつをとらえればレッドベルは」

「無駄ですよ。彼女はすでに『ネサリス』に保護されています」

「な、ならばやつの妹だ! 黒鈴 優を人質に」

「好きになさい」

 ため息をつかれたのにもかかわらず、その男は今すぐ動かせそうな人材に電話をかけ、中学校へと向かわせる。

 今この時間はクラブをしているとの情報は得ている。

「く、くくっ。こ、これでやつらも終わりだ」

 その男は高笑いし、廊下を映し出している画面を見て硬直した。

 すでに、五人の『適合者』は血を流して倒れていた。

「実力の差ですね」

「な、なんてことだ! これでは黒鈴 優を捕える時間が! ・・・・・・だ、だがまだ私にはこれがある。やつらがいくら化け物だろうと、これで頭を撃たれれば」

 その男が取り出したのは『魔血銃』でもないただの銃。

 素人の彼が使ったところで当たらないだろうし、どのみち撃ち落されるかかわされるのが落ちだ。

「そんなんが俺に当たるかよ。間抜けなこいつなら当たるかもしれないけどな」

「あ、当たらないよ」

「き、貴様らっ!」

 電子ロックのパスワードも菊次郎に聞いていた勇気は、苦にすることもなくドアを開き、部屋へと侵入してきていた。

 男は鈴に銃を向け引き金を引くが、鈴はつまらなそうに引き金を引いてそれを撃ち落す。

「そんなんじゃあたしに当たらないよ。銃ってのは、相手をちゃんと狙って、」

 そういった鈴は右手で握っている『魔血銃』を男の肩に向け、恐怖で悲鳴をあげた男の肩を撃ち抜いた。

「あ、があああああああああああああああ!!」

 イスから転げ落ち、男は血が噴出した肩を強く抑える。

「こうやって引き金を引く。かわされたり、打ち消されたりはするけどね」

「それは人間には無理だろ」

「あ、そっか」

 鈴はそういうと、転がっている男を無視して隣に座っている男へと銃を向け直す。

「撃ちなさい。あなたの腕ならば外しはしないでしょう」

「往生際がいいんだね」

「あなたの人生を大きく狂わせてきましたからね。これ以上あなたのような被害者を出さないようにも、私たちは殺したほうがいいでしょう」

「そ。じゃあね」

 特に感情もなくそういうと、鈴は引き金を引いてその男の眉間に風穴を開けた。

 これで残り二人。

 鈴は続いて隣の人物に銃を向ける。

 けど、鈴にはその人物が男なのか女なのかよくわからなかった。

 顔には仮面がつけられ、ぶかぶかのコートのせいで体つきもよくわからない。

「あなたも抵抗しないんだね」

「ええ」

 きれいな声だな、と鈴は素直に思った。

 鈴が引き投げを引こうとしたとき、銃声が鳴り響いた。

 首を振って鈴は銃弾を回避する。

「貴様っ! この私をよくも撃ったな! 家畜の分際で!」

「家畜・・・・・・そうだね。あたしはあなたの言うことには、今まで逆らうことができなかった」

 今まで聞いたことのない冷たい声に、矛先を向けられていない勇気までもがかすかな恐怖を覚えてしまった。

 その矛先を向けられた男は恐怖で涙を流し、鈴に向けている銃は震えて照準が全く定まっていない。

「でもね。あたしは自分のために、友達のためにあなたを殺し、『ウロボロス』を潰すって決めたの。もうあなたの命令は聞かない」

「そ、そんなことして、鳥北 由美がただで済むと思ってるのか!」

「おまえがその名前を口にしないで」

 鈴が威嚇射撃をすると、男は短い悲鳴をあげた。

「黒鈴 優」

 きれいな声で優の名前を呼ばれ、勇気はビクッと肩を震わせた。

「そ、そうだ! 貴様の妹を殺しに一人の部下に向かわせた! 殺されたくなければ」

「鈴。こいつもう殺してもいいぞ」

「でもいいの? 君の妹なんでしょ?」

 ふっと勇気は鼻で笑い、鈴の肩に手を置く。

「あいつはそう簡単には死なないっての。もしこいつの言ったことが本当なら、今頃そいつの方が地べたに這いつくばってるはずだ」

 それ以上鈴は何も言わずに、引き金を二回引き二人の命を同時に奪った。

 罪悪感は、全くなかった。



 鈴は一人自分に与えられた部屋へと足を運んでいた。

 勇気に来られるのは恥ずかしく、先にバイクのエンジンをかけるために外で待ってもらっている。

 今日でこの部屋ともおさらばだ。

 隠しカメラがどこにあるのかな、と思い簡単に部屋を見渡してみるが、やはりと言うべきかそう簡単には見つからない。

 鈴は今まで寝ていたベッドに目をやり、ゆっくりと寝転がった。

 こうしているだんだんと眠気が襲って来て、睡魔に任せて眠ってしまいたい。

(ゆっくり寝るのはまた今度でいいかな。今は勇気君を待たせてるし)

 それに、見られていないとはいえ、監視カメラがある場所で寝るのは気持ち悪いし、なによりも怖い。

 鈴は起き上がり、タンスの前まで行くとゴクンとつばを飲み込んだ。

 タンスに手をかけ、開く前にもう一度部屋を見渡す。

 さすがに十年も暮らしていたせいか、ここから出ていくのは少し寂しい。

 テスト前になればよく使った勉強机。可愛らしいヌイグルミを飾っている棚。

 それらすべてには思い出があるが、今日ここで決別する。

 鈴はここにあるものすべてを捨て、必要なものは一から揃えようと本当は考えていた。

 しかし、たった一つだけは回収したいものがあった。

「初めて貰った男の子からのプレゼントだもんね」

 タンスの中に眠る黒いワンピース。

 これだけは、どうしても捨てられない。

 鈴はタンスを開け、ワンピースに手を伸ばそうとして体が硬直した。

 ピッピッピ

 電子的な音が聞こえてくる。

(なに?)

 嫌な予感を覚え、鈴はそれを確かめるべく黒いワンピースの下を見てまた硬直した。

 それは時限爆弾だった。

 タイマーは着々と進み、鈴が何かと気づいた瞬間には残り五秒。

(ごめん勇気君。あたし死ぬかも)

 こんなものがあるなら思い出に浸らずに、さっさとワンピースを回収して出て行けばよかった。

 最後の抵抗とばかりに鈴は瞳を赤く染め、ワンピースを手に取ると駆け出す。

 映画とかアニメみたいに解除ととしたいところだが、鈴にはそんな知識がないし、あったところで五秒しかない時間で解除など無理だ。

 玄関から飛び出し、振り返ることをせずに鈴は非常階段から一階を目指す。

 鈴の暮らしていた部屋は十二階だ。

 五秒という時間はあっという間に過ぎ、十一階に降りたところで爆弾は起爆した。

 せめてこの服はだけと思いながらワンピースを胸元に抱き寄せ、強烈な浮遊感が鈴を襲った。


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