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第五話=戦闘

夕方頃『扉』を開き異世界に渡る。

いつもの青いキャリーバックをゴロゴロと転がし街に入った。

今度は人頭税を普通の硬貨で支払って街を散策する。

いまさらだがよくよく観察すれば首輪をした奴隷がポツリポツリ程度であるが見受けられた、といっても一般人、平民というべきだろうか、そういった人が買えるできるほど安い存在ではないみたいだ。もしくは必要性がそもそも無いのか、そんな人の近くにはいなかった。見かけるのは裕福そうな商人だろうか、そういった人間の後ろにいる程度だった。

街の人通りが少なくなってきたところで、路地に入り俺は『念のための装備』をポケットに忍ばせたあと、適当な酒場に入ることにする。

いわゆる酒場での情報収集というやつをやってみようと考えたのだ。

陽が消え、黄昏へと至るこの時間でもかなりの人間が酒場にたむろしていた。小さく喉を鳴らし覚悟を決めると俺はなるべく周りに視線を合わせることのないように目についた酒場に踏み込んだ。

幸いにして俺が入った瞬間、注目され静まるということは無く、酒場のと言うより居酒屋にノリが近い喧騒が店内を包んでいた。しかし視線は結構ささったのを感じる。俺は酒とタバコと何かしらの料理だろうかキツイ匂いを油断して吸い込んでしまい。くらくらしそうなりながらも自然体を心がけながら店の奥ほどカウンターに腰かけた。


「注文は?」


すぐにカウンターの奥からむさいオッサンの店員が低い声で聞いてきた。

当然メニューなんかない。

想定していた通りだったので慌てることなく注文する。


「…酒と食い物、肉がいい」

「銅貨三十枚」


俺は頷きポケットから銀貨を一枚取り出しカウンターの上に置いた。

露骨に顔を顰めた店員は受け取るとすぐにじゃらりと大量の銅貨を返してきた。


「こんな場末の店で銀貨なんか出すな」

「そうかい」


軽く肩をすくめて適当に返す。

鼻を鳴らして店員は小型の樽のようなジョッキと木の皿に盛られた手羽先の揚げ物をドンとテーブルに置いた。

そしていったん引っ込むとすぐに若干焦げた丸いパンを手づかみでもってきた、さらに深い皿にもられたスープに指ががっつり浸かったそれを置くと別の客のところに向った。

チラリと見た店員の手の汚さにため息をついて、店員が触っていなかった部分のパンをちぎろうと手に力を込めるが…あまりの堅さにあきらめる。

仕方なく手羽先を手に取り僅かに齧り肉汁の味だけのたいして旨くもないそれを我慢しながら咀嚼しつつ意識を周りに向ける。


がやがやと騒がしいその中であって意味のある単語を耳が拾っていく。


「…王国の…団……」

「ギャハハハハ…、にしても…の女たちのよう…」

「…エルフの森に……魔法で…」

「傭兵…が団員を…」

「…戦争も・・・・っちに…」

「ビールひとつ!…にスープも…」

「やんのかごらぁ!!」

「…アで上がりだ…今日は奢り……だぁ」


さすがに全ては聞き取れないが危険で気になる単語が出てきた。

エルフ、魔法、戦争…。

エルフがいるのはありがたい。やっぱり美女奴隷にエルフは欲しい。しかし売っているだろうか…それとも売っててもやはり高いのだろうか…。

あと、魔法か、やっぱり異世界だとあるんだな。できれば覚えたいところだ。しかしそれより厄介なのは戦争だ。出来れば平和な国でのんびりしたいがこういった中世に近い時代に平和な国があるのだろうか…。

つらつらと考察しつつ機械的に手羽先を齧っては下し齧っては下しと繰り返しながら必死に耳を傾けるていると俺のとなりに誰かが座った。


「キ、レ、イなお兄さ~ん、今夜遊ばな~いかい?」


臭い。最初に思ったのはそれだった。おそらく香水の匂いだろうが強すぎる、鼻が曲がりそうだ。

顔がひくついて引き攣るのをできるだけ抑えてそちらを見ると予想通り化粧の濃いオバサンが胸を大きく見せびらかしながら、足を組んで座っていた。

おそらく娼婦だろう。しかし外見年齢から想像するに推定年齢35歳以上。下手すれば40を超えているかもしれない。

俺はきっちり二秒眺めてから、スープとパン、酒を娼婦の方に押しやった。


「くれるのかい?、それじゃ遠慮なく頂くよ」


俺が頷く前に酒を煽りスープをかき込んでいくとパンに齧りついた。


「申し訳ないね。今日は何も食ってなくてさ」


がつがつという音がしそうなほど食らい付く姿に引きながらこの人物はどういった役だろうかと考える。

このくらい年のいった娼婦なら結構顔が利く、胴元のような立ち位置かもしれない。

もしくは情報屋の会員だとか…考え過ぎだろうか。

普通にただの場末の娼婦と言う可能性もあるが…何にしても邪険にするのは拙いだろう。

俺は皺のいった顔女の顔をみたくなくて手羽先に視線を向けながら声を出す。


「幾らだ?」

「これだけさ」


ちらりとだけ横を見るとパンを持つ手を器用に折りながら小指から三つ指を立たせる。

銅貨三十枚くらいだろう。相場は当然知らないが銀貨三枚ということは無いだろう。もしそうなら殴り飛ばす。


「部屋は?」

「ここの上かあたしんちだね。上なら部屋代はアンタさ」


酒場としか頭になかったがどうやら宿屋もやってるらしい。もしかしたらそう言う部屋専門の店だったのかもしれない。

俺はどうすれば最善の結果になるか必死に頭をめぐらしながら言葉少なげに返答する。


「アンタの家で」

「ホントかい?いや~声かけてみるもんだねぇ~」


娼婦は俺の腕に絡みついて胸を当ててきた…布が固すぎるその上に臭すぎて萎える。

服に香水の匂いが残らないでほしいと無理な願いを思いつつ、それでも頬を吊り上げ笑顔を作りバッグを引きづりながら酒場を出ようとする。


「おい、バーバラに客が付いたよ!」

「まじかよ、若造は枯れ線かぁ!!」

「搾り取られるなよ、キャハハハ」

「うっさいよ、あんたたち!」


結構有名人らしくはやし立てる酒場の声を後に道を歩き出した。


「こっちだよ、こっち…あはは」


路地裏から路地裏に、明かりは建物と建物の間に挟まれた星だけ。

娼婦に腕を引かれるままに迷いそうな道を進んでいく。実際方向音痴な俺は早々に諦めた、もともと道を覚えるつもりもないが。

五分ほど歩いただろうか、ほんの少し開いた路地裏にやってきた。

袋小路とも呼べるかもしれない。

娼婦が急に立ち止まった。


「ここでやるのか?」


俺は自分でも全く信じていない声で質問した。

予想その三くらいに的中したことを察していたからだ。


「あはは、もう気が付いてんだろ、貴族のお兄さん?」


誰が貴族か、脳内で反論しつつ様子を伺った。


「ごめんねぇ~」


そういうとするりと娼婦は離れた。

そして来た道を少し戻りくるりとこちらを見る。そうするとそれを合図だったかのように三人の男たちが路地から現れた。


「バーバラよぉ、よく貴族の坊ちゃんなんかつかまえたなぁ」

「ヒュウ!、あの箱売るだけで結構な儲けになるぜ」

「あの服、真っ白だぜ、さっすが貴族様!」


捕らぬ狸の皮算用とでも言うのか、口々に俺の荷物を売り出す算段をつけながらニヤニヤと男達が笑う。

俺は恐怖と緊張を悟られないように盛大に溜息をついて娼婦を見る。


「最初からこのつもりだったのか?」

「久々のいい男だったから店でならちゃんと相手したんだけどねぇ~。あはは~、そんな高そうな箱みせつけられちゃったら欲しくなっちゃうじゃん?」


妙にかわいこぶりっ子するがおばさんがやってもキモイだけである。

しかし、どうやらこの状況は出逢ってからの選択次第だったらしい。

俺にとってはどっちでもおそらく同じだったが…。


「さて、貴族の兄ちゃん?分かってんだろ?荷物すべて置いてくなら痛い目見なくて済むぜ?」

「そうそう、あんただったらちょっとの荷物くらい惜しくないだろ?」

「恵まれない俺達に寄付してくれよ、ギャハハ」


さて、ここでも選択だ。出来れば穏便に行きたいが…。


「金貨八枚、一人二枚くれてやる、その代わりに俺の質問に答えてくれよ」


ガラの悪い男三人に絡まれるという状況に足ががくがく震えているが声まで震えない様にゆっくりと質問する。


「へぇ~金貨八枚!先払いするなら、聞いてやるぜ?なぁ?」


リーダー格の男がニヤニヤしながら言った。

他の三人もニタニタと頷く。

俺はポケットから金貨八枚取り出すと男たちに投げた。

それらをキャッチしてニタニタと笑う男たち。


「さぁ質問をいいな聞いてやるよ」

「それじゃあまず一つ目、この国戦争になってるのか?」


一瞬静寂が包む。

予想外の質問だったのだろう。顔を見合わせた後リーダーが頭をかきながら言った。


「ああん?戦争?しらねぇよ、ってかこの場面でそれを聞くか?テメェの心配する場面だろ」

「聞きたいことはそういったことだけだ」


そう、実際俺は情報が欲しいのだ。

娼婦の話にのったのも、彼女の部屋でそこら辺を仕入れることが出来るんじゃないかとふんだからだ。

じゃなきゃ、ババアの誘いに乗る訳がない。こういった場面でも聞けるならききたいが…、思った以上に男たちが馬鹿だったらしい。


「あほか、俺達が知ってるわけねぇだろ。さぁ聞いてやったぞ。そろそろ時間稼ぎはやめて荷物をよこしな」


うーん、情報屋ギルドに通じているとか、チンピラネットワークがあるとか期待してるんだが…。

こうなったら仕方ない。どこまで通じるか分からないが、やるだけやってみよう。

駄目だったら、『扉』で逃げればいいだけだ。


俺は恐怖を押し込め覚悟を決めてキャリーバッグを開いた。そして『武器』を取り出す。


「ちゃららっらっらら~催涙スプレー!」

「なんだぁ!?」


男たちからしたら謎の円柱を謎の音楽と共に取り出す。

まぁ、お約束と言うやつだ。

そしてバタンとバッグを閉めた瞬間に息を詰めて全力ダッシュで急接近。

やつらが驚いている間に目にめがけて催涙スプレーを全力噴射。

プシュー!っと盛大に吹きかける。


「な!ギャー!」

「眼がぁ眼がぁぁ」

「いでぇええ」

「ひぃぃいいぃ!」


いきなりの攻撃になにがなにか分からないであろう四人がもがき苦しむ。

初手は成功!目つぶししたその後は酒場に入る前に準備していたスタンガンを取り出して装備!

一人一人の太ももあたりを狙ってバチリと押し当てていく。


「ぎゃぁ!」

「ひぎいぃい!」

「ぎゃん!」

「!?!?」


四人ともが崩れるように倒れた。

これぞ科学の力!

初戦闘と呼べるか微妙だが、なんとか不良共に勝つことが出来た。

緊張で息が上がった俺は、地面でもがき苦しんでいる四人から金貨を回収して『扉』を開けて家へと戻った。

それまで考えていたのは縛り上げて話を聞きだそうと思っていたのだが、ヘタレな俺にはもうその元気が残されていなかったのだ。

臭い匂いの付いたお気に入りの上着を早々に洗濯機に放り込みベッドに倒れ伏した俺はすぐに眠りについた。

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