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第三話=奴隷

奴隷がいた。

赤く錆びた鉄の錠前と鎖がつけられた木製の首輪をしている奴隷が二人、男に怒鳴り散らされていた。


「この役立たずの奴隷共が!」


首輪に繋がった鎖を持った主だろう目が吊り上がった狐のような男が周りに人垣が出来ているのも気づかないほど怒って倒れて身を庇っている奴隷達を蹴りつけている。

奴隷というものに興味の引かれた俺は人垣の一人になりつつリンゴを齧りながら観察することにする。


「…ごめん…なさい!…なさい!!」


どうも奴隷は二人とも女性らしい。ボサボサの短い髪の、声から言って少女だろう一人は必死に謝りながら蹲り、その上にもう一人、艶のないパサパサの長い髪を襤褸切れで縛っている、服の上からでもわかるほどやせ細った女性が少女に覆いかぶさりながら蹴られるのに耐えていた。


「まともに商品一つ運べないのか!えぇ!?この奴隷どもが!」


見れば狐男の近くにはこばせていたであろう樽が転がっていた。俺でも持ち上げるのに苦労しそうな大きさの樽だ。

それが二つ。そのうちの一つは落として亀裂でも入ったのか中身が流れ出ていた。

あの大きさの液体の入った樽を運ばしていたって…どう考えても無理だろう。

周りにも俺と同じ考えの呆れた顔をした人間が幾人か見られる。


「くそ!折角の商品を落としやがって!!安いからって女の奴隷なんか買うんじゃなかった!!」


怒りに任せてさらに力を込めて蹴りつける男。手加減なんか一切ないそれに、庇っている痩せた女性に青あざが出来ていく。


「飯抜きじゃすまないだよ!わかってんのか!」

「…妹を許してください…お願いします…」

「…ごめ…さい!」


どうやら姉妹らしい二人は必死に耐えているがその声は弱弱しくなっていく。

うむ、見ていて気分がいいものじゃないな。もともと怒声は嫌いだし。

さして面白くもなかった。

しかしこの世界、奴隷がいると分かったなら買ってみるのもいいかもしれない。

奴隷ハーレムは男の夢だしね。そう思った俺はその場を立ち去ろうとした。

しかし


「テメェも勝手に商品置いてんじゃねぇよ!クソ女が!」


一段と鈍い音が聞こえた。

この場を去ろうと歩き始めた俺は驚いて思わず振り返る。

少女に覆いかぶさっていた女性が蹴り飛ばされ転がされていた。

仰向けに倒れた女性はその顔を苦痛にゆがめていたが…その顔を見た瞬間…なにか映像が脳裏を霞めた。

なんだろう?気になった俺はそれを確かめるために、じっくりと女性の顔を眺める。

濃い紫、もしくは紺色のパサパサの髪を艶やかに、僅かに開かれた切れながの目にある紅色の瞳を見開いたとして。

捲れた肌の白さを汚れきった顔に当てはめて、やっせこけたそれを普通程度にふっくらとして姿にして想像してみると…。

なんと俺の好きなアニメ、そのサブヒロインでありメインヒロインより人気で俺のお気に入りのキャラであるい『雪風』にすごく似ていた。

侍女ロボットという設定の彼女が現実にいるはずがないが、もし現実に存在したらこうだろうという、まさにそのままの容姿に思えた。さらに服装もぼろ服から着物にエプロンという姿を想像を浮かべてみるとかなりそそられるものがある。

弱弱しく妹のもとへ這っていこうとするその姿もなんだかアニメのシーンに似ていて俺はドキリと心臓を鳴らした。

欲しい、彼女が欲しい。

欲求が一瞬で理性を溶かし突き抜ける。

瞬時に俺は動き出していた。


「ちょっとそこの人」


狐男に声をかける。


「あぁ?」


怒り顔のまま男は俺をみた。

内心ちょっとビビりつつ、俺は無表情を作り顔に貼り付けて声を出した。


「そんなに奴隷を痛めつけるほど気に入らないなら、その奴隷達俺に譲ってくれないか?」

「いきなりなんだ…です?」


狐男は観察するように上からしたまでジロジロと俺を見て怪訝そうな表情を作る。

俺がどういう職業の人間か分からないらしい男はとってつけたような敬語で返してきた。


「…こんな使えない瘦せっぽちを…ですか?」

「そうだ、いらないなら売ってくれないか?」


男は奴隷二人に視線を向けてから俺を見た。

それに釣られた俺は一つ頷いてから奴隷少女達に眼を向ける、いきなりの事態に二人とも驚いたように目を丸くしていた。

顔を上げて初めて見た妹少女もとても痩せているが、ふっくらとすれば結構美少女に見れるかもしれない。

そんなことを考えながら狐男の返答を待っていると男は顎に手をやって考えをまとめたのか値踏みするようにしかし、僅かに口を歪めて笑みの形を作って口を開いた。


「商品を運ぶ必要があるんですが…そうですね、一人金貨一枚なら売ってもいいですよ」


ざわりと人垣が蠢く、僅かな声を拾うと、暴利だ、足元見てやがる等々の声が聞こえる。

どうやらかなり吹っかけられているようだ。でもそんなの関係ねぇとばかりに、俺はバッグから二枚の金貨を取り出すとぽいっと男に放り投げた。

あわてて受け取る男。


「これでいいな?」

「え!?ええ…!どうも!そいつらはアンタのもんだ」


いきなり金貨を受け取った男は僅かに驚いたようだがすぐにニタリと下品に笑うと俺に二人の首輪の鎖を渡すと意気揚々と鼻歌でも歌いそうな勢いで人垣をかき分けて去っていった。おい商品おきっぱなしだぞと思ったがまぁいいか。

周りのざわめきはやまない、むしろ多くなっている。俺がそのまま金を払ったことが信じられないみたいだ。


俺はその声を無視して二人の首輪に繋がっている鎖を取って宣言する


「二人ともこれから俺が主だ。いいな」


二人は状況についていけない様子で呆然と俺を見つめたまま…緊張の糸がきれたのかいきなり気絶した。



窓を開けて光を入れても薄暗い宿屋の一室、

蝋燭の置かれた木製の机と椅子が一セット、固い敷布団に薄い毛布のベッドが二つ。

その上に首輪をした奴隷少女らが眠っている。

俺はというと椅子に座り本を開きながらも頭は今後のことを考えていた。

とりあえず近くの休めるとこはと衆目に聞き、この宿屋にやってきたが、さてこの二人どうしようか…まさしく衝動買い以外の何物でもない。

買ったはいいが置き場所に困る品である。

ペットボトルを取り出して口を湿らせ思考する。

異世界と現実を行ったり来たりするうえで邪魔であるが…奴隷というものに興味と好奇心を持っていた俺は何時かは買っただろう。

少なくとも拠点となるべき場所を見つけてから…。つまり今買う必要はほとんどないわけで、だが好きなキャラ『雪風』に似ている女というのも捨てがたく…でも今は邪魔なわけで…。

思考がループするが、ま、衝動買いはいつものこと、なんとかなるさ。

気軽に考えてまとめているとベッドの上で動きがあった。

『雪風』似の女性が起きたらしい。

本から視線を上げてそちらを見ると、毛布で体を隠しながら怯えた表情で眼を開いてこちらを見ている。

見つめあうこと数秒、女性が何かに気付いたのか慌てて床に転ぶように下りて頭を下げた。


「申し訳…ありません!申し訳ありません!」


僅かにしゃがれた声で頭を床にこすりつけながら謝罪の言葉を口にする。

突然の奇行に反応に困った俺は取りあえず一呼吸置くため本をたたみ、足を組んでから質問してみた。


「何を謝る?」


ビクリと体が跳ねる女性。


「申し訳ありません、主様を差し置いて先に眠るなんて…申し訳ありません!」


ふむ、普段、いや以前の様子が思い起こされる謝罪だ。


「それだけか?」

「それだけ…え…は!奴隷の身でベッドを勝手に使って汚してしまい申し訳ありません…」


たったそれだけでここまで謝るか…まぁ、奴隷ならこんなものなのだろうが…色々と腹が立つな…。

一番の問題はこの性格、『雪風』にまったく似てない。

『雪風』はもっと凛としていて尚且つ侍女魂溢れる感じ、ロボットであるがゆえに感情はほとんど出ないが、優しい時にはとても優しいといったキャラだ。こんな卑屈な態度では絶対にない。

いきなりの相手にこれを求めるのはナンセンスだとわかっているがこの女性の状態は受け入れれない。

あれだ、コスプレしているのに内容を知らずにやっている感じ。

無性に腹正しくなる。

自分勝手とわかるが…さて…。

頭を下げている女性を眺めながらそんなことをしているともう一人の奴隷が起きたみたいだ。


「うーん、…お姉ちゃん?…お姉ちゃん!?」


少し寝ぼけていた少女だったがベッドから床にへばり付いている姉の姿を見た彼女はすぐにベットから飛び出し、姉に覆いかぶさる。

そして、言い放つ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、謝るから蹴らないで、ぶたないで!」


二人床にまるまって謝る姿…は俺の感情をささくれだたせた。

俺がいったい何をしたのか…。

溜息をついて俺は自身の短い髪をガリガリと掻きむしる。

奴隷ってこんなものだっけ?

なんか卑屈すぎて腹立つ。さらに意味もわからず謝る妹奴隷にも苛立つし…。蹴り飛ばしたくなる。

理性では境遇というか彼女たちの今までの人生があるからこうなったんだろうが…感情的に受け入れるのは難しいな。

さて、どうしようか…震える二人を見ながら俺は溜息まじりに声を出した。


「はぁ…取りあえず謝るのを辞めろ」


びくりと停止する二人。

しかし頭は下げたままだった。それは原因も結果も無視してただ怒りが過ぎ去るのをまつかのようで…腹正しい。

自分かって過ぎるとは理性が理解しているが感情は溜息しか出ない。


「顔を上げろ」


俺の命令に二人が震える。

しかし頭を上げない。

本気で腹正しくなった俺は腕を組んで抑え込んでからもう一度告げる。


「はぁ…さっさと顔を上げろと言っている」


二度目の命令にくっついた二人は恐る恐る頭を上げた。

怯えきった目が見える。何をされるのかと恐怖が透けて見える。

なんというのか…人間とはここまで小さくなれるものなのか…。

俺はそれ以上見てられなくなり頭痛がし始めた頭に手をやって、視線を床に落として口を開いた。


「君達、俺が新しく君たちの…持ち主になった人間だ、それは理解しているな」

「…は、はい」


代表で姉が答えたようだ。


「まずは名前、俺は神崎良と言う」

「はい、…主様」


せっかく名乗ったのに…名前で呼ぶなとでも躾けられているのか。


「君達の名前は?」

「…ありません」


はい?


「名前が無い?」

「…はい、いつも『奴隷』や『女』って呼ばれてました」

「そっちは?」

「『おい』とか『下奴隷』って言われてた」


それは名前とは言わんよ…頭痛がひどくなる。


「…二人はどうやって呼び合ってるんだ?」

「…お姉ちゃん」

「…『いも』」


妹だから『いも』なんだろうな…頭痛がさらに増す。


「両親は?」

「…母はいもを生んで死にました」

「…父親は?」

「…父親ってなんですか?」


まさかの答えだ。


「……二人の年齢は?」

「…わかりません、申し訳ありません、ネンレイってわかりません」

「……生まれてから何年たった?」

「…申し訳ありません…」


二人の頭が下がっていく、俺の頭も重くなる。


「……数字や文字はどれくらいわかる」

「文字は少しだけ読めます…数字は二十まで数えられます」

「…イモは十までわかる」


さっきまでの苛立ちがしぼんでいくのがわかる…。


「………今まで何をしていた…いや、そもそも何ができる?」

「…荷物運びと掃除…野菜が洗えます、あと動物の世話に解体に、死体を生める穴掘り」


こくりとイモが頷くのが感じられた。

俺の頭は下がりきった。もう、何言っていいか分からなかった。

衝動買いとはいえ…ここまで買ったことを後悔したことは今の今まで一度もないことだった。



夕日が僅かに差し込む宿屋の一室は無言の時が続いていた。

奴隷の二人は手をつないだまま床に座り込み、俺が何か言うのを怯えたまま待っている。

そんな俺は考える人状態で頭を整理していた。と言うのも聞き出した内容がもう……なんとも言えないもので…。

話を総合するとこうなる。

大きな?奴隷商の一室で生まれたのが二人のようだ。

季節の代わり、寒い時期を数えさすと推定年齢17才と12才の二人。

奴隷部屋で何人かの女性奴隷と過ごしていた二人は記憶のあるかぎり、ほとんど動けるようになるとすぐに奴隷商に言われるがままに荷物を運んだり畑で作物を収穫したり動物の世話をしたり解体をなんかをやって…時々死んだ奴隷を埋めたりして過ごしていたようだ。もちろんミスすると暴力のおまけつきで。

その中で年上の女性奴隷に僅かな文字と数字、常識?を教えてもらってすごしていたらしい。

といってもその奴隷達も教育なんてされてないので教えられたことは僅かのようだが。

そして時々…実質ほぼ毎夜連れていかれる女性奴隷とその後しばらくすると腹が膨れる奴隷を目にしつつ、基本変わり映えなく奴隷部屋で過ごす。そして約1年前に唐突に二人は狐顔の男に売られた。

売られた時の様子から値段は銀貨10枚ほどらしい。

その狐男の元でやらされたことも、外であることを除けばさほど大差なく荷物運びが主であったようだ。この一年でほんの少し外の世界を知った程度で、現在に至っている。


…ああ、重たい。面倒くさい。放り投げたい。

生粋の生まれながら純正培養の奴隷と言うのを舐めていた。

あれだ、外見の良い良家の子女と結婚してみたら家事育児全くできませんと言われた様な気分だ。結婚したことないけど。

さらにその嫁たる女奴隷の外見は今は骨と皮一歩手前みたいなのだが…。

俺はバッグから甘い缶コーヒーを取り出し一気飲みをして冷静さを保とうとする。

糖分が脳みそにみたされたことでそれなりに落ち着いた。

ともかくこの二人を買ってしまったことに変わりはなく、どうにかするしかない。

ほら、無理矢理良い点を考えれば俺好みに調教できるということだ。

いいじゃない、逆箱入り娘調教譚って。もともと奴隷を買ってあんなことやこんなことをするつもりだったんだから。


そうやって自分の理性を納得させたところで、二人に話しかけた。


「考えがまとまった。今まで君達がどうであったか、もう考えない、ともかく今日から俺が主だ、昔のやり方を忘れて俺の奴隷として恥ずかしくないよう徹底的に調教させてもらう」


怯えている二人だが恐々と頷くのを見て言葉を続ける。


「最初は名前だ。これから姉の方は『雪風』、妹の方は…『春風』と名乗れ、いいな」

「名前…雪風…」

「春風、イモの名前…」

「よし、呼び合ってみろ」


俺の言葉に二人が向き合う。


「春…風?」

「雪風…おねいちゃん?」


僅かに恥ずかしそうに言う二人を見て俺は頷く


「俺の前では必ずそうするように、あと春風、雪風を呼ぶ時は『雪風お姉様』だ、やり直し」

「はい、ごめんなさい!主様、…雪風お姉様」

「謝罪の言い方もだ、姉を見倣え、申し訳ありませんだ!」

「は、はい!ごめ…!、申し訳ありません!」

「よし、間違えるなよ、多くは注意しない、互いで気をつけろ」

「…はい」「はい!」


威厳ある主のフリをしながら俺は鷹揚に頷いた。


「さて。それじゃあまずは格好を…」


そんな時だ、キュルキュルと虫が鳴いた。

はっきりと聞こえたそれは奴隷の腹の虫だった。

僅かに身を強張らせる二人、腹を抑えて音を止めようとするかのように身を捩る。しかし表情は辛そうだ。

何もいう事は無く顔を伏せる。


「申し訳ありません…」

「謝ることじゃないだろう…まずは夕食だな」


考えなおした俺は何を食おうかと思考する。

ここの料理は基本俺の口には合わない。

そんな料理をわざわざ金を払って食う気持ちにはならなかった。

しかし、二人はどうするべきか、現実の上手い飯を食わせて舌を肥えさすべきかそれとも食えるものを渡して徐々に慣れさすべきか…。

慣れさす…そういえばまともに食べてなければいきなり固形物は体には辛いはず、

やせ細った2人を見てふと思う。そういえばこいつらは今まで何を食ってきたのか。


「雪風、今まで何を食ってきた?」


僅かに考えた雪風は上目づかいに小さく声を出した。


「昔は野菜の欠片が入ったスープを…いえ、あの、主様のからお恵み頂けるならな、なんでも…で、ですが食事をいただけなくてもかまいません。ちゃんと我慢します」


腹を抑えながらへりくだった弱弱しい笑みを浮かべる雪風。

春風も必死に頷く。


「お水なくても平気だよ…です、雨の日に一杯飲むから…です」


…回答がいちいち重いが、それにしてもよくぞ今まで死んでなかったというレベルの食事事情だ。

俺はまた溜息をついてから結論を下す。


「なんというか…とりあえず二人ともまともに食事してないってことは理解した。俺の奴隷になったからには色々覚悟してもらう!」


俺の宣言に二人は弱弱しく頷いて顔を伏せた。

さっそく俺はキャリーバッグから携帯ガスコンロとお鍋を取り出す。

ペットボトルの水をなみなみと移し火をかける。それからパックに入った卵粥二つと鮭粥を取り出し湯煎する。

それが温まるまで放置しつつ、少し考えてから栄養ドリンクを取り出し紙コップに少量だけ入れて二人に渡す。


「飲め」

「飲み物を…食事をいただけるのですか…!?」


何か勘違いしていたらしい雪風と春風が目を丸くして聞いてくる。


「何勘違いしたかしらんが、しっかり食事をとって貰う。はっきり言うぞ、今は痩せすぎだ。俺の将来の目標のためふっくらしてもらう。嫌だといっても無理矢理くわせるから覚悟するように」


ちゃんと言ってたのに何を勘違いしたのか、まぁいいか。


「とりあえず、栄養ドリンク…っても今はわからんか。健康になるための薬だ。飲め」

「薬!?そんな高価なものいただけません!」


カップに触れそうになっていた雪風の手がまるで劇物であるかのように避けられた。


「うだうだ言うな。俺は飲めと言っている」

「ですが…」

「あぁん!?!?!?」

「は、はい。もうしわけありません!」


俺の優しい説得により今度はおとなしく受け取る二人、カップの中身を凝視したのちゆっくりと口をつけていく。

瞬間二人の顔が輝いた。


「美味しい…」

「すっごい!木の実より甘い!!」


僅かな量を舐めるように飲んでいく二人。もうちょっとキレイに飲んでほしいところだが今はいいか。


「健康になるための薬だ、しばらくは毎日飲んでもらうからそのつもりで。そんで次はっと」


カサカサの肌を見れば水分も足りてないのがわかる。スポーツドリンクを取り出し水で半分程度に薄めて渡す。


「次はまともな水分補給、味が濃いだろうからこれは薄めてっと。飲め」


栄養ドリンクが無くなったコップを名残惜しげに見ていた二人にスポーツドリンクを渡す。

ほとんど無意識だろう、今度は奪い取るように紙コップを取った2人はごくごくと勢いよく飲んでいく。


「水が…甘い……!」

「美味しい!」

「それについては欲しければ言え、適度に飲ましてやる」

「本当!?」

「腹壊さない程度にな。っと出来たか」


湯煎していたパックを取り出し、底の深い紙皿に盛り付けていく。

トロトロの御飯、僅かに黄色く彩られたそれが流れ出す。

俺からすればソコソコ食欲をそそるそれに、スプーンを乗せて。二人の前に置く。


「今日の御飯だ。腹を痛めない様に卵の粥だ、熱いから気をつけろ」

「…卵!そんな高いものを…」

「良い匂い…」


俺にはほとんど感じない程度の匂いだが眼の前の二人にはかなり匂っているようだ。

湯気が立ち込めるそれを慎重に口に運ぶ雪風にスプーン一杯に一気に飲み込もうとする春風。


「あちゅい!!!!」

「んんん!!!」

「いったそばからばかが!ホラ水だ!!」


熱いものになれてないのだろう。

慎重に食べていた雪風も熱さにやられたみたいだ。

やっぱりかと思いつつ用意していた水を飲ます。

一息ついた二人は今度はほんの少しづつ食べていく。


「熱いです…でもとても…とってもおいしいです…」

「うん、うん!!美味しいよ主様」


ようやくまともに食べ始めた二人に頷いて答えて自分の分、鮭粥のパックを開けて皿にいれるのは面倒だとそのまま食べる。

美味しくはあるが味が薄いなと感じた俺はバックから塩を取り出しぱっぱと振りこんで混ぜてから頂く。

やっと塩味を感じれれる程度になったところで食べ始めたのだが…。

妙に静かな二人というか…。


「うう…」

「おい…じい…」


気が付いたら二人は押し殺したように涙を流していた。


「おまえら…」

「申し訳…ありません…ありません…ですが…うう…」

「美味しいよ…おい…じいよ…」


…まともな食事は久しぶりなのだろう。

もしくは…初めてなのかもしれない。

俺は何もいうことは無く、かける言葉が思い浮かばず。

でも何かしようと考えて。

…優しく二人の頭を撫でたのだった。


これが俺の奴隷調教生活の幕開けだった。


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