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第二話=食べ物

飴玉一つで金貨一枚

一袋三十粒入りを金貨三十枚で売った。


適当に香辛料関係を扱っていそうな商館を見つけ取引をしたいと持ち掛けた。

入口の荷物運びらしい男は俺の姿を見てかなり怪訝そうな顔をしたが、店の奥にいた商人はすぐに商人らしい作られた笑顔でやってきた。

俺が唯人じゃないとすぐに見抜いたようだ。

奥に通された俺はクッションの置かれた木の椅子に導かれ商談と相成った。


「物を売りに来た」


挨拶もなしに俺は言葉少なく要件を切り出した。

相手も特に不審がる様子もなく続いた。


「何をお売りになられますかな?」


俺はキャリーバッグを相手から見えない様に開けてがさごそと探すフリをする。

相手は身を乗り出すことなく、興味深げに青い謎の箱を見つめ続けていた。

物を売るとなると色々と考えていた、小出しにするか渋るか様子を見るか。

だが俺は面倒くさがりだった。

細かい駆け引きなぞ不要。

さっさと紙の袋にわざわざ詰め替えた飴玉の入った袋をドンと机の上に置いてみた。


「これを買ってほしい」

「中を確認しても?」


一つうなずいて応じる。

この商人は中をのぞくと目を開けて驚いた。


「宝石!?」


驚きの声、すぐに失態と悟ったのかすぐに商人は表情を消したが手が震えていた。

それも隠そうとしていたようだが失敗している。ともかく慎重に飴玉を掴むとそれを窓の明かりに照らしていた。


「…すばらしい、このように丸い宝石は初めてみます…」


光に照らされ淡く光るそれを眺める彼を内心で笑いながら俺は笑顔をつくりにこやかに言った。


「ここは香辛料を扱っている店だとおもっていたのですが?」

「ええ、ですが、このような珍しい宝石ならばぜひ我が商会で扱わせていただきたい」


すでに扱いが決まったかのような商人の言葉だったが俺は笑顔で今度は強調して答えた。


「ここは香辛料を扱っている店だとおもっていたのですが?」

「ええ、その通りですが…まさか!」


商人は察しがいい、気が付いたみたいだ。

俺は頷く。


「失礼」


俺は一個とって口に無造作に放り込む。

驚きで目を丸くする相手。

ころころと口で転がしたのちに商人に促す。


「こういったものです。どうぞあなたも」


名も知らない商人に笑顔を向ける。


「…失礼して…」


震える手でそれを口に運ぶ商人。

舌先で軽くつついたのちに…一気に口にいれた。


「…なんと、甘い!!」


驚く彼を見て笑みを深めた俺は確信した。

飴玉は高く売れると。



中世時代、香辛料関係はもとより砂糖は高価だとネット知識で聞き及んでいた俺。

もしかしたら俺の予想だとこの異世界は砂糖は存在しないんじゃないかと思っていたが、普通の砂糖はいくらか出回っているとのこと。

ようやく挨拶を交わした商人、ヒルハ商会代表のヒルハに教えてもらった。

すこし残念だった。

しかし、ここでは砂糖はかなり高価であり、ごく少量が時々出回り、貴族に買われていく。

その中でこのような丸い宝石のような砂糖は見たこともないと正直に教えてもらった。

最初勘違いしたから誤魔化しがきかなかったようだが…。

ともかく今あるだけ金貨一枚で飴玉一つ。袋全部で三十枚の値が付いた。

とくに値上げを要求はしなかった。

面倒だし。

金貨を手に入れた俺はホクホク。たぶん法外な儲けを思い浮かべてホクホクなヒルハ。

どちらもWINWINの関係でいいじゃないか…と俺は思う。


「また、手に入りましたら是非当商会に」


笑顔で言われた俺は愛想笑いで頷いてそこを去った。

適当に歩いた道はほとんど覚えてないから二度とこれないかもと思いながら。


取りあえず金貨を獲得した俺は街の外に出て人に見えない位置で『扉』を開き家に戻った。



『金プラチナ買い取ります』


早速町の上記の店にコインを売り払ってきた。

とはいっても何の証明書もない、謎の妙に新しい金貨は評価が難しくしばらくの日数を要した。

数日後に出向いた鑑定結果から一枚三万円という評価をもらった。

それが三十枚、九十万円が支払われ俺の貯金通帳に刻まれた。

それを数十秒眺めた結果、俺は家のパソコンに向かい辞表の文章を打ち込み始めたのだった。

ちなみに俺の月収は二十万を少し超える程度である。

誰も俺の行動を止められはしない…。まともに働くのが馬鹿らしいことこの上なかった。

俺の予想に反して突然の辞表に会社の上司はそれなりに引き留めてくれた。

十年近く勤続していた俺は多少なりとも惜しいらしく色々理由を聞かれたが、適当にぼかして答えた。

俺も多少は罪悪感を感じ引き継ぎと資料作成などいくらか真面目に仕事をこなして有給消化後の退職となる。


その有給の始まり、俺は前回と同じく、お気に入りの青いキャリーバッグに飴玉と仕事後に通販で買った非常用装備を詰め込んでまた異世界に向かった。


今度は街の近くに『扉』を開き、街へと赴いた。

また兵士にビー玉を渡し街に入る。

今度もかなり注目されながらも気にすることなくゴロゴロと石畳の上をキャリーバッグを転がしながら臭い街を適当に散策する。

相変わらずの茶色い格好がほとんどの住民を眺めながら歩いていること一時間。

俺にとっては珍しく、運よくヒルハ商会の看板を見つけることが出来た。

さっさと飴玉を買い取ってもらう。

現れたヒルハは俺を見つけた瞬間笑顔になり、揉み手をするかのごとく手を動かしながら、神速の速度で俺の傍までやってきた。

どうやら前回の取引分の飴は高く売れたらしい。


さくっと飴玉を六十個、今回は別の味も用意したが何事もなく買い取って貰えた。

しかも前回より高く一個金貨1.5枚、合計金貨九十枚で値をつけてくれた。

さらに、定期的に下ろしてくれるなら次の取引から一個金貨2枚で買ってくれるらしい。

うむ。

方向音痴な俺だが気が向いたら売りにこよう。

一応二週間後と約束して俺は店を出た。

街の地図があればしっかり記録しておくのだがそんなのは当然無かった…。

今度はいくらか目印を覚えて商会を去っていく。


しばらく歩いた先は露店市場というのだろうか、見慣れた野菜に知らない野菜、さまざま日用品、用途が浮かばない謎の品。服に布に武具なんかが当たり前に売っていた。

様々な露店を眺めながら観光をする。

海外を歩くのきの用心として当たり前という顔をして堂々と、しかし、鞄は絶対に離さない様に気をつけながら歩いていく。

ひったくりが怖いので実はこっそりとキャリーバッグには鎖をつけて手に結んでいるので盗まれる心配はないと思うが…。

ともかく市場は明るい声が多い、値切り交渉などの白熱したやり取りも聞こえる。

活気があるのはいいことだと周りの音に聞き耳を立てながらキョロキョロと視線だけを彷徨わせて歩くが…かなり済格差があるのかボロ服をまとった人間も多い。さらに浮浪児、物乞いらしい人間なんかも少々散見できる。

ま、そんな人間に恵みをあたえてやるほど俺は人間出来てないが…。

ともかく市場を眺めて歩き露店を冷かしていく。

しばらく散策していると肉の焼く臭い…、他の臭いと混ざって少し残念な臭いの串焼きの屋台を見つけた。

携帯の時間を見るとちょうど昼なので買ってみる。

細かいお金はヒルハ商会で金貨一枚分もらっているので表面のすり減った汚い銅貨を数枚渡して一本貰う。


見た目は肉の焼き汁滴るうまそうな外見だが…少し眺めてから噛んでみる。


っグギ…


口の中いっぱいに広がる何とも言えない味。


不味い。


俺はすぐにバッグからペットボトルを取り出し吐き出すように口をゆすぐ。

固い上に薄味の何か苦い香草の微妙な味がする肉。

俺の好物の一つである縁日の屋台の無駄に高い串焼きを思い浮かべていた俺は裏切らた気分だった。

ちらりと同じ品を買った人間を観察するが、普通に…すくなくとも不味そうな顔をせず、引きちぎりながら食っている。

俺が軟弱なだけだろうか?

疑問が頭の上をよぎる。試しに他の店で似たような品を買ってみるが…こちらはまだ食える串焼きだった。

ただし味は素材のまま、例えるなら焼き鳥のタレも塩も無しバージョン。

素材の味だけだからまだ食えるといった程度。

御世辞に言っても上手いとは言えない。

他にも買ってみるがパンは固い、売られている飲み物はアルコールだけ、ただし温くまずい苦い、ならばワインっぽいものといってみるが酸っぱい。

さらに売られているスープみたいなものはというと、そもそも使われている水が大丈夫か?と心配になり断念。

食ったら腹を壊しそうだ。

火を通してあるから大丈夫とか絶対に思えない。

そもそもお皿もほとんど使いまわしで汚い…。

衛生観念なぞ期待するだけ無駄だろう。

うーん。

食事関係は期待しない方がよさそうだ…。というか現実の日本の料理並の物を求める方が馬鹿なのか…。

なんとか食えた焼き鳥もどきに、こちらで売ろうかと思っていた味塩を振って味覚を誤魔化しつつそう結論をだそうとしたが、一つ目に入ったものがあった。

果物関係だ。

市場に並んでいる果物は形こそけっこう不揃いであるが虫に食われた様な痕はなく、甘い臭いを出しながら並んでいた。

そんな中、リンゴを一個頂戴し噛んでみるが…これは普通だった。

品種改良されたものではないから、甘さが少し足りない気もするが、食えないほどではない。

他の果物も見知っている品はまともに食べれるものだった。

俺はようやくまともなものを口にいれれたおかげで腹も膨れ安心して観光を続けた。



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