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第一話=異世界の街

童貞のまま三十歳をすぎると魔法使いになる。

ネットで語られる話だが、そんなの関係ないとばかりに風俗で早々に童貞を捨てた俺は神崎良と言う。

先ほどなんの感慨もなく三十歳になったところだった。

毎日仕事に追われ自身の誕生日すら忘れていた今日この頃、年老いた母親から、結婚はまだかと催促のメールに合わせてこの年齢ではもう嬉しくもない、誕生日おめでとうの言葉を聞いてやっと誕生日を思い出した今日。

俺は先ほどまで夢を見ていた。


不思議な夢だった。

現実感がある夢と言えばいいのかいつものぼやけた感じとは違う不思議と明瞭な夢だった。


何も無い空間。

あたり一面真っ白な空間にぽつりと一人で立っていた俺。

辺りを見回しても何もない。

音も聞こえない静寂。

歩けど走れど、何も起こらない空間にいること、体感で一時間ほどだろう。

唐突になんの脈絡もなく『扉』が眼の前に現れた。

瞬間に現れたのは不思議な『扉』だった。

枠も何もなく、観音開きの木製の『扉』が俺が歩いていた真白な地面の上に立っていたのだ。

俺は少し眺めたのち…なんの感慨もなく『扉』を押し開けた。

普通なら少しくらいためらうか、不気味さに離れるかするところだが、ちょっと注意力散漫な俺は開けてから、しまったかな?と思い浮かべた。

ともかく、扉は開いてしまった。

一瞬『扉』が輝くとそこには虹色の空間が広がっており、さらに異常性を際立たせていた。

さて、次はどうしよう。


悩むこと一秒。


通ろう。


あっさりと決断した俺はまた何も考えることなく扉を通った。


虹色の空間に入った瞬間…



…瞬間に目が覚めた。


パチリと目が覚めた俺は僅かにあった寝起きの頭痛を追い出すと、いつもの習慣通りスマホを取り出し、先ほどメールを確認して、自身が一つ年老いたことをしったわけだが…


同時に、理解した。


俺は『扉』を獲得したということを。


なぜか分からない。理由もわからない、納得も出来ないが、それを理解している。

俺は異世界に渡れる『扉』を手に入れていた。

使い方も能力も全てが頭にはいっている。

意識するだけで、ほらこの通り、ころりと横になっているベッドの傍に『扉』が出現した。

ちょっと意識を外すと扉は光になって消え去った。

もうちょっと何かあってもいいんじゃないかと思うが、せっかく獲得したなら使ってみよう。

さっそく有効活用しようと俺は日曜日なのをよいことに普段着に着替え、ある程度の荷物。異世界で役立ちそうな諸々の品々をお気に入りの鮮やかな青色のキャリーバッグにしまい込んで異世界に行ってみることにした。



『扉』を開き虹色の空間が一瞬見えると景色は変わり、そこは草原だった。

外靴を履き、一歩踏み出し草の臭い香る大地に足をつける。

現実の都市の臭いと違う草原から香る圧倒的な草木の匂い。

見上げる空は青く遠く、雲も高い。

少し深呼吸をして感触を確かめてから数歩進む。

ゴロゴロとキャリーバッグも付いた来た。

完全に通り抜けると『扉』は音もなく消え去った。

辺りを見回すと遠くに白い峰の山々が見え、後ろを振り返るとしばらく先に石材で組まれたであろう城壁が見えた。

おそらく街があるのだろう。

現実の都会しか知らない俺は草原の広大さに僅かに感動しながらも人がいるであろう街に足を向けた。



軽い散歩程度の時間で街に到着した。

暫く進んだ先は踏み固められた道があり、キャリーバッグを転がすのも苦ではなかった。

運動靴は軽やかに進む。

地味な茶色いマントを羽織った格好のまさしく旅人といった人たちと何度かすれ違ったが特に何か言われることは無かった。

視線だけはこちらを向き僅かに驚いたように眼が開いていたが何も言ってこないなら無視する。

俺の格好はチェックの赤い上着に黒白縞模様のシャツ、後はジーパン。

瑪瑙色の眼鏡に麦わら帽子。

現実の都会になら多数見かけるちょっとおしゃれな若者風ファッションだ。

この世界では当然珍しいのだろう…色合いが派手というのもある。

どれほどの染色技術があるかは知らないが、珍しいことは珍しいだろう。

気にはしない。当然といった風に顔を上げ青い箱をお供に街へと入った。


街に入るのに金がいる。

異世界小説で知っていたが本当とは驚きなわけで、実際昔はそうなんだろうか?

少し考えたが知らないものは知らない。

兎も角、人頭税というものを鉄の重たそうな鎧に槍を持った兵士に止められた俺は金を払う必要があるわけで、しかし、金を払うつもりではあるのだがなにぶんこちらの金を持っているわけはなく…。

適当にがさがさとバッグをあさり、門の兵士には宝石に見えないこともない、ビー玉を渡してみた。

ものすごく驚かれた。

そして少し横柄だった態度がまるで貴族に対するものかのようにかわり、俺はあっさりと通ることが出来た。

なんとなくでおもちゃのビー○マン持ってきておいてよかった。

子供のおもちゃも役にたつものだ。


壁の中は中世の街並みと思い浮かべれば出てきそうな石造りと木で建てられた建物が並んでいた感動を味わう前に…鼻につく匂いが少し臭い。

排泄物を家の外に垂れ流しではないようだが、ともかく臭い…。

少し鼻を抑えながら、石畳の街並みを視線だけできょろきょろと左右に振りながら歩いていく。

おのぼりさんに見えない様にカツカツと早歩きで堂々と道の真ん中を進んでいく。

異国の街並みは風情があっていいものだが…この観察されている感じは好きではない。

道行く人が俺を見てはこそこそと何かを話している。

あくまで外面は堂々としているが…内心少しドキドキしている。

カフェやバー、屋台から街並みの窓、俺を見ている人間は結構多く、やっぱり好奇心、驚き、警戒心その他、色々な感情が見て取れる。

ピタリと止まって周りを見渡せば、気まり悪げに視線を逸らす人間もいるが…あからさまに値踏みするやからもちらほら。

内心溜息をついてさらに歩みをすすめる。

辺りを観察してみたが異世界だから、変わった人種、種族もいるかなと思ったが今のところ見かけない。

すこし残念ながら観察しつつ視界を広げる。

しかし異世界であることの一つに髪の色はさまざまだった。赤に青に紫に白に黒に金髪。

どれも艶がなくくすんでいる。髪にお金を使う習慣はないらしい。

さらにすれ違いざま通り過ぎる人間が多少臭いこと。

香水の臭いも混じることから風呂の習慣もないのかもしれない。

服は茶色に…茶色に…黒っぽい何かに…薄汚れた白色、ともかく明るい色がほとんどない。

俺の赤い上着が鮮やかに…さらに清潔に見えるほどに周りはとても地味だ。

肌の色は白っぽい白人系が多い、いくらかモンゴロイド系も見かける。黒人はいないみたいだ。

顔の彫りが濃い人間も多いが東洋系もいる。不思議な感じだ。

さてこのまま街の観光と洒落込んでもいいが…。

僅かに首を捻って考えをまとめる。

こういう場合何をすべきか…。


うむ。


とりあえず貨幣つまり金貨、もしくは金その物を手に入れて、日本に持ち帰り、売り払うことを考えよう。

そうすれば現実で仕事しないで生活できる。

金の相場はしらんが、俺の月収程度は軽く越せるだろう。

持ってきたいくつかの品を思い浮かべながら俺は商館を探した。


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