プロローグ=数年後
俺は『扉』の前に立つ。
息を整えてゆっくりと時を数える。
部屋の中は心臓の音が聞こえるほどに静寂。
瞳を起こして俯いてた顔を上げて『扉』を見つめる。
大人四人が優に通れる大きな観音開きの『扉』。
木製のそれは複雑に刻まれた彫刻が施され、ドアノブも真鍮製だろうか、持ちやすいように柔らかなウェーブのかかった丸みを帯びたそれでできている。
数を数えはじめて六十秒がった。
もういいだろう。
俺は左右対象にあるドアノブに両手を掛けて、ゆっくりと、しかし大きく『扉』を押し開けた。
一瞬キラリと『扉』が輝く、開かれたドアの向こうは虹色の空間を映したかと思うとすぐに実像が浮かび上がった。
そこは巨大なシャンデリア輝く石造りの広間だった。まるで玉座から謁見の間を見下ろしたかのようなその空間。
数段高くなったそこに『扉』だけが存在している。
そして俺はそこを通過する。
ゆっくりと足を進め、室内を眺める。
中央一直線に真っ赤な絨毯が引かれた室内。
その絨毯の両脇には人が並んでいた。
色鮮やかな四種類の服に身を包んだ女性たち、十六名がピシリと整列し並んでいる。
更に真っ赤な絨毯の上には四人の女性、それぞれが違った服装をまとった各役職代表の女性達が整列している。
美しく均等に並んだ女性達が俺を待っていた。
心臓が高く跳ね上がると同時に俺は笑みを浮かべる。
そして玉座と呼ぶべき台座から一歩一歩歩みを進める。
すると、背後にあった『扉』がひとりでに締まり、幻のように光になって消えていくのが感じられた。
しかし俺は気にすることはなかった。
俺の意識の先には美しい女性たち。
年齢種族外見全てが違う俺の女性達だが、共通している点があった。
誰もが美しく整った外見をし、魅力あふれる奇麗な女性であること。
そしてその中でも一際美しいのが絨毯の上で俺を待っている四人の女性達であった。
俺が最期の段差を降りると女性達は一斉に動きが始めた。
左右に並んだ十六名が膝を折、地面に膝をつけて頭を下げる。
手は三つ指に、まるで旅館の女将が客を迎えるかの如く深々と頭を下げた。
そして絨毯の上の四人も直立したまま、腰を深々と下げてお辞儀をした。
九十度ぴったりのそれ。全員が一糸乱れぬ動きを行いピタリと止まると一人の女性が声を出した。
「我らがご主人様。お帰りなさいませ」
『お帰りなさいませ!!』
それに唱和する全員の美しい声。
俺は感動に打ち震えながらもそれを隠しながら鷹揚にうなずいて答える。
「ただいま、俺の愛しい奴隷たち」
俺は大きな笑みは浮かべながら返答した。
四人の女性達だけが頭を上げる。
その顔にはそれぞれに違った。しかし、美しい笑みが浮かび、そして頬は僅かに桃色に彩られていた。
俺は彼女たちに近づく。
彼女たちとの距離があと数歩に近づいた時、もっとも左にいた女性だけが一歩近づきこちらに体を向けた。
「お帰りなさいませ、旦那様。本日のご予定は、午後に奴隷商との打ち合わせのみです。如何なさいましょうか?」
さらに隣の女性が一歩前に出る。
「食事の用意はすぐにできます」
つづけて隣の女性が一歩前にでて続ける。
「お風呂の準備も整っております」
最期の女性は笑みをさらに深めて続けた。
「それともベッドで『お休み』なされますか?」
いつもの質問。俺は最後の女性に顔を向けて笑顔で頷いた。
「もちろん『お休み』だ」
俺の答えに空気が僅かに暖かく上気する。
しかし、いつもの事、四人全員が頷くと四人が左右にわかれ道をつくる。
「それでは旦那様。こちらへ」
「ごゆるりとどうぞ」
「私達一同が誠心誠意お仕えいたします」
「どうぞお気の済むままにお過ごしください」
四人が再度頭を下げる。
俺はその中央に歩みを進めた。
四人を引き連れて部屋を進む。
この後の楽しみを思い描きながら。
クツクツと喉が鳴り、笑みが深まる。
ここは俺の屋敷。
ここは俺の楽園。
俺が作り上げた俺だけの聖域。
俺が買った奴隷の美女たちに囲まれて何不自由なく生活できる俺の努力の結晶。
異世界に作り上げた絶対的領域だった。