prologue「そのパイロット、かく語りき」
この作品は、「最後の複葉機」のリニューアル版です。話の流れ・内容などは共通ですが、設定系は練り直した箇所が数多くあります。
それではごゆるりとお楽しみくださいませ。
私には、自分でも呆れるほどの行動力があるらしい。
私が執筆をダシにしてインタビューをする事は知っているかも知れないが、「新設される、民間のアクロバットチームがある」というネットの記事だけで私は取材を決意した。
担当編集にLINEで一言入れた後は、返事も待たずに〈離島間連絡航空〉(通称〈ICA〉)というそのベンチャー企業の電話番号をダイヤルしていた。これは編集社からすべきであったし、このことで担当さんから説教もされた。しかし後悔はしていないし、それに今となってはどうしようもない。
電話番であろう女性に、アクロバットチームの取材をしたいことを伝えると、こちらの身分を訪ねてきた。素直に、小説家、と言っておく。しばし待たされると、電話に出たのは若い女性だった。声からだけでも一本芯の通った人物であると分かる。そのあと彼女はその会社の社長だと名乗った。いきなり社長かよ!、と私が驚いてしまったのは言うまでもない。よく考えてみれば、ベンチャー企業のICAではありうることだったが。
かくして取材交渉に入ったのだが、そこで紹介を受けたのが、〈彼〉――谷崎漣だったのだ。
私は故あって彼の名を知っていた。しかしよもや民間で働いているとは思っていなかった。
彼で良いか、と聞く社長に、私は、是非、と即答していた。他の人の話を聞きたくなったら、それはそれでそのときだ。
そしてその二週間後。私は待ち合わせ場所の喫茶店で、彼と面会することになる。
彼との出会いが、この作品のみならず、私自身の心の持ちようを変えることになった。ある意味、彼は〈恩師〉である。
無論この小説は完全なフィクションであり、彼の事とは殆ど関係が無い。しかし、もしこの事があなたの脳の記憶領域を圧迫しないのであれば、その片隅にでも置いておいてくれれば幸いだと思う。
――都名津智弥 「レスキュー・スクランブル」後書き草稿より抜粋
次回更新は未定です。