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橋梁工事と未来人と

橋がかかっていたはずの場所へ行くと、腕組みをした男が佇んでいた。玲子は、この男が作業員に違いないとあたりをつけ、声をかけた。


「すみません、橋の工事の方ですか?」

「ああそうだ。あんたらが、奥様の言っていた学者様だな、待っていたぞ」


男は、ベイルと名乗った。この屋敷に仕える工事全般を取り仕切る棟梁らしい。


「私は玲子、こちらは洋と申します。情報が早いのですね」

「ああ、お館様の発明品でな、すぐ会話が届く。面白いもんだ。で、あんたたちは、知恵を貸してくれるんだろう?」


そう言って、ベイルは橋の問題点について話し始めた。風が強い日に崩落してしまうこの橋は、簡素な作りであるが、リチャードの爵位の一部である川、といっても小川だが、にかかる橋なため、さっさと直してしまいたいらしい。


「おれは、こんな木製の吊橋なんかやめて、石橋にしようっていったんだがな。まあ、あんまり壊れるもんで、時間をかけられないこともあって、毎回吊橋を作っては壊れているのさ」


ベイルの話を聞くと、レイコの頭の中には、学部時代に習ったある事件のことが蘇った。


「これは、タコマ橋と同じ問題かしら。洋、どう思う?」

「そうだね、似たようなものだと思う。あの、ベイルさん。他の地で、大きな吊橋が落ちたニュースは聞きませんでしたか?」

「ベイルでいい。それと、他の地方でそんなことがあったのか?中央のことは知らんが、この辺りじゃあ、そんなことはなかったと思うが」


ベイルの返答を聞き、洋は少し慌てたようにしながら、玲子と相談したい旨をベイルに告げる。


ベイルは、さも当然といった風体でそれを許可し、その合間に、リチャードの噂話も聞かせてくれた。曰く、本当は貴族に何ぞならずに学者になりたかった。しかし爵位を存命中に捨てることも叶わず、この地を治めている。時には、玲子達のような出自のわからないものも快く滞在させる度量を持っている。


そんな話を聞き流しながら、玲子は洋に考えを述べる。


「これは、タコマ橋と同じなら、共振が問題なのよね。あの時の振動のソースは、大気だったかしら、水流だったかしら。今回のソースが何処かはわからないけど、水流だとしたら、治水が必要よね」

「うん。だけど、治水は難しいと思う」

「えっと、それはなんで?」

「これまでの話を総合してみようよ。タコマ橋の事故が起きていない時代だとしたら、多分、そのチームに入っていたカルマンはまだ有名になっていない時代だ。流れの力学を構造物に結びつける体系は、確立されていないと思う」


玲子は、洋の指摘をもっともだと思いつつ、とりあえずの反論を試みる。


「タコマ橋の事故はもう起こっていて、ここに情報が来ていない可能性はないのかしら」

「それはあると思う。でも、さっきベイルが言っていた、爵位を捨てられないという話。イギリスで爵位の制度が変わったのは、1900年代後半から、終盤にかけてだったと思う。タコマ橋の事故と完全に時期が一致するわけじゃないけど、たぶん、まだ起きていないんだ」


ああ、この弟は、どうしていつも冷静なんだろう。玲子は、そんな感想を抱きつつ、おそらく正しいのだろうと感じる。洋は、いつだって、自分の持っている知識を多角的に組み合わせることが上手だ。だから、実験もうまい。私はどっちかというとじっくり理論を組み立てる性分で、コンピュータシミュレーションの道を選んだ。


玲子は、気を取り直してベイルに説明を試みる。もちろん、自分たちの知識が、歴史から得られたものであると悟られないようにしながら。


「ベイルさん、これは、きっと橋が風で強く揺れてしまうからだと思うの。橋が振り子みたいに強く揺れるせいで、それを想定していない強度の吊橋だと、壊れてしまうんじゃないかしら」

「ああ、何と無くわかる。それで、どうしたらいい?そこがわかんなきゃ、あんたらに聞く意味がねえ」

「ええ。対策は二つ。強い揺れに耐えるロープを用意するか、吊橋をやめるかよ。ロープを太くしても、本質的な揺れやすさはあまり変わらないだろうから、吊橋をやめて、ベイルさんの言うとおり、石橋にしたらどうかしら?」


玲子は、木材やロープの固有振動数など、正確に覚えているわけではない。それでも、石材に変えれば、系としてのマスが大きく変わるし、振動系の種類としても変化がてるので、詳細な原因がわからない現状では、この選択肢がよいと考えている。


ベイルも、自分の元々の意見と同じだったこともあってか、すんなり納得してくれたようだ。


「わかった。じゃあ、そういう報告を書いて、早速石橋に切り替えるようにしよう。ヒロシ、書くのを手伝ってくれ」


そういうとベイルは、洋を呼び寄せて手元の巻紙に何かを書き始める。手伝えと言った割に、所々確認するだけで、あとは自分で書いて行く。その中で、書類の書き方など細かい部分を逐一説明しているところを見ると、なかなか面倒見のいい男のようだ。


そんな2人を離れたところから見ながら、玲子は、ベイルがふと呟いた言葉に我に返った。


「あんたら、さすが未来の学者さんだな」


その言葉を聞いて、洋の背中もピクリと跳ねる。


「あれ、あんたら、そうなんだろ?うちの領土にはたまに来るのさ。あんたらみたいな肌の色、髪の色のやつがな。もっとも、これまでに来たのは言葉のかけない自称小説家とか、言葉も喋れない太った親父とかだったがな。そいつらは、ここでは雇えないからでてったけどな」


それは、信じ難い言葉だった。この地に、多くのタイムトラベラーが来ている?なんのために。


これまでの来訪者の風体を聞くと、いわゆる転生・転移を果たした者が他にもいたことになる。きっと、ベイルの言っている、言葉がかけない、喋れないというのは、日本語だけしか喋れないということだろう。ライトノベルなど、比較的若い文筆家の中には、英語を書く訓練が不十分な者もいるだろう。小太りの男のことはわからないが、教養としての英会話すらおぼつかない成人が日本にいることは事実だ。


しかし、ここで最も気になるのは、リチャードがこのことを知っているのか、という点だ。


「お館様は、しってるさ。というか、あの人が積極的にあんたらみたいなのを拾ってんのさ。物好きな彼の方のことだ、なにか、未来人の力でも借りたいんだろう」


いろいろと、わからないこともある。なんで、日本からばかり未来人がやって来るのか。彼らは、もちろん玲子達も含め、どうやってやって来るのか。


だが、玲子の心の中は、リチャードがなにを考えているのか知りたい、ということで満たされていた。


「なんだか、不気味で、不安になる話だな」


洋がひとりごちた。まったくだ。

次回、やっとSFパートに入ります。主人公はどちらかというとリチャードです。


科学的な考証は、基本は抑えて行くつもりですが、たまに都合良く解釈するかもしれません。まあ、SFということで、、、

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