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ギルドの中は案外普通だった。そう、案外普通なのである。ここがミソだ。
中は何というか、銀行を連想させるような感じである。そして、そこに食堂兼バーがくっついている。
確かに見るからに乱暴そうな連中はいるが、別に暴れているわけではない。学生食堂のような感じの喧騒があるだけだから、ある意味秩序的だ。冒険と付くのだから、もっと無法地帯なのかと思っただけに、うん、ちょっと想像とは違った。それは勿論、世間的には良い方向ではあるのだけれど残念な気分である。
それにそもそも、ギルドというからもっとファンシーな感じを想像していただけに、出鼻を挫かれた感じがしないでもない。いや、もうさぁ、色々あるじゃないか。ゲームの世界とか漫画とかアニメといった二次元で、既にイメージが固定されていたって仕方がないじゃないか。オタクをなめるなよ、ギルドっていうだけで何だか夢があるのだから。そう、ギルドとはある意味夢が詰まった言葉なのだ。そこで異種族混合パーティーを組んでクエストに臨むのは正に夢なのだ。……だからあれなのか? あくまでも「ギルド」ではなく、「ぎるど」だというのはこういうわけなのか? 伏線なのか? ふざけていると見せかけて、実はちゃんとした所であるというアピールなのか? 何ということだ。こんなんじゃ、アメリカの西部劇で出てくるようなウエスタンバーの方が私の抱いていたイメージに近いではないか。現実へ対する、自分の想像力の浅さに嘆きたくなる。こんなのは想定外なのだ。
奇妙な敗北感に打ちひしがれていると、「あの、大丈夫ですか?」と声をかけられた。
女の子である。まごうことなき女の子だ。しかし、耳が生えている。猫耳だ。それどころか、尻尾も生えていて、顔には三本の髭もある。そして、それに眼鏡がプラスされている。これはつまり、猫娘だ。
自分で言っておきながらあれだが、どうして「猫娘」だと途端に日本の妖怪っぽい身近さがあるのに、「獣人」だとファンシーな外国的な要素があるのだろうか。そのことが不思議でならない。この語呂が何か関係しているのだろうけれど、その原因を私は断言できそうにない。それ故、私は彼女のことをどちらで表現した方が良いのだろうか。
まぁ、それは今度考えるとして、それはともかく、この子は一体どこの萌要員だ。寧ろ、何に対してとでも言いたい。これもプレイの一種だとでも言うのか。こんなオプションを堪能する程のお金の持ち合わせも、精神的な余裕もないのだが。
銀行員のような制服を着た新卒っぽい(十代後半から二十代前半位のイメージ)の女の子に声をかけられ、「あぁ、すいません」とだけ返した。見るからに初々しい彼女に、別の意味で敗北した気がしないでもない。
がっくりと項垂れていると、「本当に大丈夫ですか?」と焦った声をかけられ、「気にしないでください」と言った。
「本当の本当に大丈夫なのですか?」
「あぁ、はい。大丈夫です。よくあることなんで」
「よくあることって、何か御病気なのですか?」
「あぁ、まぁ、そうですね。そんなところです。誇大に妄想をしてしまったオタクにはよくあることです。あれですね、現実を受け止められないっていう奴です」
「はぁ、そうですか」
よく解らないと言わんばかりに首を傾げられ、実際には私も私が何を口走っているのかよく解っていない。私の名誉の為、この世界に来て予想外な方向に裏切られ続け、ここでもまた斜め上にいくことがあって混乱しているだけだということにしておきたい。
気を取り直し、「すいません、大丈夫です」と私は顔を上げた。
「ここに来たのというか、ギルド自体が初めてなんですけれど、利用法を教えていただけませんか?」
漸くまともなことを言ったことに、女の子は明らかにほっとした様子であった。わからんでもないけれど、あまりにもはっきりとした態度にちょっと泣きそうになったということをわかってもらいたい。ここに来て、私は変人扱いしかされていないのだ。不当な扱いを受け続けたことに対し、泣きたくなっても当然である。まぁ、この女の子に関しては自業自得であることを認めざるをえないけれど。でも、こんな女の子が現実に居たら誰だってテンパらずにはいられないだろう。
「それでは、当ギルドについて説明させていただきます。受け付けカウンターはこちらになりますので、こちらまでおいでください」
踵を返した女の子の後に続き、受付まで移動をする。その間、女の子の尻尾が微妙に揺れているのが可愛かったということだけは明記しておこう。断じて、私が変態なのではない。だが、うん、これなら「ぎるど」なのも納得だわ。何時までそのネタを引っ張るんだと他人相手なら突っ込んでいるところだろうけれど、これは自分のことである。自分で自分を突っ込むようなことはしない。相手にするのには意味があるけれど、自分で自分に対してというのは意味がないというか、虚しいからである。
私は内心を悟られないようにあくまで毅然とした顔で後をついて行く。あくまでも、これから先のことが不安なんですけど、ちょっと憧れてもいるんですという新人的な雰囲気を前面に出して神妙について行った。我ながら名演技だったとは思いたい。
やっぱり銀行の受付としか思えない所に連れて行かれ、彼女はカウンターを挟んで正面に座った。私は立っているのに、彼女は座っている所なんかも妙に銀行とか郵便局っぽい。昔から不思議に思っているんだけれども、カウンターの所に私達利用者が座る椅子が置かれていないのは何故だろうか? やっぱり、受付嬢の前で居座るのは止めろというアピールなのだろうか?
そんなことを考えていると、女の子は紙と筆を取り出した。ペンではなくて筆である。ちゃんと硯までもが用意されているのだが、もっと別の筆記用具はないのだろうか。そもそも硯の横に墨と水が用意されているのはあれか? 自分で摺れっていうことか? 墨汁もないわけ?
「書く物って、筆以外にはないのですか?」
「こちらで用意されているのはこれだけです」
確かにこの紙も和紙である。だが、書道なんて小学生の授業以来だ。こんな物で上手く書ける気なんてしない。
「すいません。持参した筆記用具を使っても良いですか?」
「えぇ、構いませんよ」
女の子が慣れた様子で筆と硯などをしまった。多分、これを使う人は少数派だということだろう。
筆箱からボールペンを取り出し、一番上の項目から目を滑らせる。
「まず、こちらに名前と種族名をご記入ください」
指示の通りに名前を書こうとし、女の子が「あっ、すいません」と言うものだから顔を上げた。その瞬間ぱしゃっと光った。
フラッシュである。
女の子が手にしているのはカメラだ。見間違い用が無い。って、文明の利器あるんじゃないか。けど、よくよく見ると玉が埋まっているからこれも魔力を使っているということだろう。エコだ、エコ。
ポロライドカメラのようなそれから写真が出てきて、不意打ちの為に変な顔をした私の顔が写っている。当社比五割くらい人相が悪い。写真写りが悪いという問題ではない。最早別人のようである。
「つかぬことをお聞きしますが、それはどうするおつもりで?」
「勿論、ギルドカードに使います」
おい、ちょっと待て。ちょっと待ってくれ。意義を申し立てたい。撮るなら撮るって言うのがマナーでしょうが。
「撮り直しの要求をします」
しかし女の子は「無理です」と素気無く要求を却下した。
「このカメラで写せるのは一度きりです。そうしないと、複製などの問題が発生しますから」
成程……って、違う。それなら尚更真面目に撮るべきだ。
「だって、被写体が自然の方が良いでしょう? 取り繕った顔って、普段と違うものですよ」
確かにそうではあるが、それにしてもこの女の子良い性格をしている。性格が良いのではなく、良い性格をしているのである。この言葉はただ並び替えただけではあるが、意味が天と地ほど違う。前者は善意的で後者は悪意的なのだ。この子、絶対に常習犯だ。これまでに何度もやってきたに決まっている。確信犯だ。
文句を言うのは簡単であるが、一度しか撮れないのであるのなら文句を言ったところで仕方がない。何故なら、それが撤回されないからである。それを承知の上でこんなことをするのなら、可愛い顔して性根がねじ曲がっているとしか思えない。絶対にいじめっ子気質だ、この子。
頬を引き攣らせていると、女の子は白々しくも「どうかなさいましたか?」と聞いてきた。いや、うん、もう本当に良い性格だわ。こういう子、乙女ゲームだったら絶対にライバルキャラにいるね。これはあれか? そういうのに萌を感じる客層でも狙った採用なのか? だとしたらすごいね、ここの責任者。かなり冒険しているよ。流石は「冒険ぎるど」だわ。
「登録を御止めになりますか?」
「いえ、やります」
ここで引きさがると私の生活に支障をきたす為、仕方なしに名前と性別、それから種族を今度はちゃんと人間と記入した。結局あの時に誤解は解けなかったが、流石に猫のままでは不味いだろ。この女の子と同類とか厭すぎる。それにしても、この子は自分の種族を何て書くんだ? 猫娘? 獣人? 獣人ならまだしも、猫娘とか書いたら痛すぎる。
「何か?」
にこりとした笑みにうすら寒い者を感じ、これは光秀と同類なのだと瞬時に悟った。この子はあれだ。新人の皮を被ったお局様だ。嫌がらせが堂に入っている。やばいぜ。
「はい、ではそちらの紙はお預かりさせていただきます。それで、一応こちらの注意事項を説明させていただきますね」
まるで邪気を感じさせない笑顔に、この子はやはりできると思った。これだけのことをしでかして尚、平然とした姿が板についている。
「簡単に説明させていただくと、当方は登録者の方に対する責任を一切負いかねますということです」
「と、言うと?」
「全てに対してです。依頼で怪我を負ったり、死んだとしてもその全ての責任は自己責任ということになります。よろしいでしょうか?」
はぁと頷く。こういう説明は普通、名前を書く前にするものではないだろうか。そうじゃないと、後から向こう側に対しての有利な物を付け足せすぎる。
「では、まずは依頼の受け方からです。あちらのボードをご覧ください」
いかにも掲示板といった所に沢山の紙が貼られている。それがいくつか並べられているようであった。
「あちらはランク別で全ての方がお受けになれる依頼です。ランクというのは一番上がS、次がABCDEFという風になっていて、最初は皆様Fからのスタートになります。そこから依頼をこなし、更には何かに貢献することによってその功績が認められるとランクアップいたします」
まぁ、ゲームなんかでもよくあるオーソドックスなことである。Fはフリーってことね。誰でもなれるっていうやつ。その分だけ先が長い。やり込み系ゲームかよ。もっと早くクリアしたい人の為に、ショートカット版はないわけ?
「しかし、そのランク内でも実力はぴんからきりです。あちらのボードの物は一応、そのランク内の方ならこなせるレベルだと想定されたものです。しかし、同じランクの中でももう少し報酬が良い難易度の高い物もあります。そちらの方はこちらからお話しさせていただき、その実力が達している方にお受けしていただくことになっています。とはいっても、そちらもあくまでも任意ということにはなりますけれど」
その後に、「もっとも、御断りになった場合、その方の心象がどうなるのかは保証できませんが。尚、依頼を受けておきながらも完遂できなかった場合も同様ですね」と良い笑顔で付け足してくる辺り、矢張り良い性格をしているとしか言いようがない。
「では次に、ステータスについてお話させていただきます」
「ステータス、ですか?」
はい、ファンタジー要素きました。ゲーム世界みたいですね。とは言っても、やり込み系ゲームを基盤としているのなら、私の初期ステータスはクソみたいなものだろう。寧ろ、レベルアップとかあるわけ? 伸びしろとかあるのって言いたくなる。ここの世界の住人ではない上に、運動神経だって足が少し速いくらい以外にはまるで取り柄がないものだから、雑魚同然であろう。戦闘とかなった場合、一撃で戦闘不能なる自信がある。
「ステータスはとても重要です。これをこまめに確認することにより、自身が異常な状態になっているかも確認できますし、能力を知ることも、次のレベルまでの経験値を知る事だってできます」
まんまゲームである。RPGをある程度やったことがあるのだとしたら、無意味に等しいような説明だ。何せ、どんなゲームであったとしても大体が同じだからだ。但し、ここが私にとっての現実であるとしたら、ここでの状態異常やら瀕死がどうつながるのかはわからないから、深入りするつもりなんて更々ない。
「他には、パーティーを組むこともできます。パーティーを組むと、その方達は身内の状態を知ることができます。しかし、それ以外の方のものが見たい場合はギルドカードを更新する必要があります」
「更新ですか?」
「はい。これは定期的にギルドに成果を見せるものとは違い、個人的に、まぁ、あれですね。お近づきの印に、というやつです。これによって、相手のステータスを見ることが可能です。ですが、これにはデメリットがあります」
「ステータスを知られることによって、悪用されるかもしれないということですよね?」
「そうです。ですので、事これに関しては本当に信頼できる方のみとされた方が宜しいかと思います。万が一のことがあったとしても、当方は一切責任を負いかねますので」
一切というところがかなり力強かった。どれだけ責任逃れをしたいんだ、この人。いや、契約としては大切なことだけれども、こうもあからさますぎるとちょっとね。まぁ、いっそすがすがしいといえばそうだけど。けど、日本人なら八つ橋に包むことを覚えようよ。あっ、この人って日本人に分類して良いのか? 種族が違うからどうなるんだ?
結局はそこに戻ってきて、ある意味堂々巡りだ。しかも、かなり無意味なことについてである。こんな時だというのに何か暇人だな、私。余裕なんてまるでないけれど、これを現実として何処か認識できていないということなのだろう。遠くの方から見ているような、非日常であり非現実だというのが一番近い。
「お話を進めさせていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、どうぞ」
反射的に言葉を返したが、少しの間私は私の世界の中に入り込んでいたようだ。これが傍から見て考え事をしている人に見えるのならまだ良いが、妄想しているイタイ人にでも見えていたらやっていられない。
「では、こちらがギルドカードになります」
おぉ、何だか本格的っぽい。やっぱり写真は変だけど。
学生証を思わせるデザインである。写真に名前、それに種族。そしてその下には彼女が言っていたようにステータスが並べられている。
「一つ確認したいのですが、このステータスってどうやってつけているのですか?」
「企業秘密です」
質問もされていなければ、テストさえも受けていない。それなのに数値がつけられているのだから、まさか適当なのかと思っていると、「最初に名前と種族をご記入していただきましたよね。あれをやると、どういう原理なのか数値が勝手に浮かび上がってくるのですよ」と言われた。何だ、その適当さは。ハイテクって言えばそうだけれども、何を根拠にこの数値は入れられているんだ。こんな数値で人間が測れると考えているのなら、大間違いだぞと言ってやりたいけれど、私が惨めになるだけだ。負け犬の遠吠えとしか取られないだろう。
「言い忘れましたが、レベルやステータスの数値に上限はありません。その為、そちらの数値は初めから個人差があります。例えば、これは極端かもしれませんが、レベル一からスタートの方もいれば、いきなり百からっていう方もいます」
マジですか。ってことは、これがゲームだとしたらレベルがカンストしちゃっているじゃん。けど、この世界ではレベルの上限がないのだとしたら、いける人は一体どこまでいけるわけ? それにおいおい。いきなり百って何かもうずば抜け過ぎだろ。どんな修行をしたらそうなるんだ。というか、どんな人? 最早神レベルだろ。その人は聖人だとでもいうのか?
何かもう、色々とありえない。ちなみに、私のカードはこんな具合である。
『九十九 命
性別 女
種族 人間
職業 無職
レベル 1
ランク F
状態 異常なし
体力 158
魔力 89
攻撃力 15
防御力 1
素早さ 10
ギフト 現実逃避 妄想 長いものには巻かれる 野生の勘 受け流し
リセット
取得魔法 なし
特殊能力 なし
装備 人間の服 普通の靴 視力矯正眼鏡
持ち物 財布 折り畳み傘 筆記用具 メモ帳 絆創膏 痛み止め
空の弁当箱 水筒』
はいはい、ちょっと待てよ、この表記。私に一体何の恨みがあるわけ。声を大にして叫びたい。いや、叫ばないけど。周りの人に迷惑になるってことはわかっているからね。
言いたいことというか、突っ込みたいことは多々ある。まず、こと書いて無職ってふざけるな。こちとら社会人だ。既に数年働いているぞ。確かにこの世界で無職であることは認めよう。だが、この書き方はない。ほら、ゲームみたいに「みならい」とか何とかつけてはくれないわけ? それに、何で防御力が最低なの。レベルが最低なのは一応わかるけど、体力に対してこの基礎能力は不味いだろ。魔力もちょっとあるみたいだけれど、そもそも何で私に魔力なんてあるわけ? スプーン曲げさえも成功させたことのない私が魔力なんてあるわけないじゃん。それに、魔法を何も覚えていないのならあった所で意味がない。これから覚えられるとすら思えない。それから、このギフトも使えない。嫌がらせか? 嫌がらせなのか? 装備も持ち物に関してもしょぼすぎるだろ。ろくでもなさすぎるだろ、私。
絶体絶命だ。舐めきっている。いや、私のことが書いてあるんだけれど、幾らなんでも酷すぎるでしょ。もっと良いこと書いてよ。補正くらいしてくれよ。正直すぎるだろ。何処かに裏ワザとかないの?
「一応説明させていただきますが、こちらの項目は大体が見ての通りです。解り辛いところを触れさせていただけるのでしたら、ギフトというのは個人の持っている外せない資質のようなものです。文字通り神が御認めになり、天から与えられたものですから消えることはありません。言うなれば天啓というやつですね」
いらねぇ。全くもってつかえねぇ。こんな天啓があってたまるか。まともなのがまるでない。人をおちょくっているだろ、神様。というか、神様が居るのだとしたら私に何か追加で能力でもつけてくれよ。最強設定まではいかなくても、補正してくれよ。
「このカードは更新すれば内容も変わるんですよね?」
「勿論です。基礎能力は勿論、その方によっては職業が変わったり、ギフトや取得魔法や特殊能力が追加されることがあります」
「今あるギフトが変わることとかは?」
「それもあり得ますね。進化されることもありますが、退化されることもあります」
ちょっと待て。このギフト欄、最低ラインじゃないのか? これが退化するってあるわけ? 変化するのは気になるといえば気になるけど、変なものにでもなったらやっていられない。こんなことをする神様なんだから、人に見せたくないようなことに変化させてくることも十分にあり得る。
前途多難だ。お先真っ暗だ。本当にこんなことでやっていけるのだろうか?
黙り込んだ私に追い打ちをかけるかのように、女の子が「こんな最低値の人はなかなかいませんよ。ある意味希少ですから、頑張ってください」と言った。慰めてねぇよ。貶しているだろ。お前、私のことが嫌いだろ。全力で貶めるなよ。
「まぁ、体力は高いようですからどうにかなりますよ。当たって砕けてきてください」
砕けたら不味いだろ。体力はあっても防御力がまるでないから、一撃で殺されるだろうが。
私は深い深い溜息を吐いた。これが私なのだから、これでどうにかするしかないようだ。
「受ける依頼が決まったら、その紙をこちらまでお持ちくださいね」
無駄に明るいというか、愛想が良いというよりは面白がったような声を聞きながら、私は重い足取りで依頼ボードまで歩を進めた。手に握られたカードが憎らしくてならなかった。