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 遠目に見ていても異様な街ではあったが、その入り口を前にして「おぉぅっ」と奇妙な言葉を漏らした。

 何せ、門番が居るのである。大きな門があり、そこには鎧を着て槍を持った男が立っているのだ。勿論、鎧といっても甲冑ではない。西洋風のあれである。このレンガ造りの門で甲冑なんて着ていようものなら、違和感が半端ないだろう。

そして、彼らだってただ突っ立っているわけではない。ちゃんとお仕事をしているのである。

 長い行列が成している横を、信長は平然とした様子で馬を歩かせる。割り込みなんてものではない。彼らの列なんて歯牙にもかけていないのである。

「良いんですか、これ?」

 思わず尋ねると、「構わない」と簡単に告げられた。

 そして、信長の姿を見つけた門番は「おかえりなさいませ、殿」と敬礼をしたまま叫んだ。

 敬礼なんてこの時代にあったの、という疑問がないわけでもないが、それよりも彼らは何て言った? 殿? その言葉に妙な引っ掛かりを抱く。確かに彼は殿様の身分であることは間違いないが、彼の治める土地といえばあそこである。

「あの、ここって尾張なんですか?」

「そうだが」

「嘘だ」

 そう言葉が出たのは仕方のないことだろう。何せ、ここが尾張だなんて信じられないからである。幾らなんでも、何で尾張がこんなハイカラな土地になっているんだ。現代よりも更に先を行っているようである。それに、ここが尾張だなんて、私は一体どれだけ移動をしているんだ。私の住まいは北海道である。何時の間に海を渡ったっていうんだ。

 私の言葉をどう捉えたのか、「嘘なものか」と彼は不機嫌に告げた。これには焦る。門番は訝しげにこちらを見ているし、この土地の主だということは、即ちここは治外法権だ。彼がここでのルールなのである。

「いや、悪い意味で言ったんじゃないですよ。ただ、こんなご立派な所だとは思わなかったので驚いてしまっただけです」

 嘘は吐いていない。だって、こんな風になっているとは思わなかったというのは真実なのだから。

 その言葉を信じたのかどうなのかは解らないが、彼はふんっと鼻を鳴らした。取り敢えず胸を撫で下ろしていると、「殿、そちらの方は?」と門番から声がかけられる。

「何やら迷子だったようで、森で拾った」

「はぁ、そうですか」

「左様ですか」

 何いきなりばらしているの。これじゃあ私が可哀想な人じゃんかとは内心では思うが、表面上は極めてしおらしく、「そうなんです。助けてくださるとのことなので、お言葉に甘えてしまいました」と無難に返すことにした。

「そうですか。それでは、身分証の提示をお願いします。手形はお持ちでしょうか?」

 これまでの人生で検問なんてされたことも、お目にかかったことはなかった。いや、海外に行った時に空港でパスポートの提示を求められたが、あれとはまた別物だろう。

 当然のように身分証の提出を求められ、私は大いに焦った。そんな物を持っているわけがない。ある物といえば何だ? 私の鞄の中には一体何が入っているんだ?

「えーっと、ちょっとお待ちくださいね」

 何事もないかのように、あるんだけども鞄の中なんですとでも言うかのように、にこりとした笑みを貼り付けたまま鞄の中を漁る。内心が荒れ狂っているのは言うまでもない。だが、笑顔は絶やさない。大人には本音と建て前があるように、取り敢えず曖昧な笑みを浮かべて乗り切るという日本人の得意技があるのである。

 それにしても、碌な物が入っていないな、私の鞄。そう思うのはお約束である。それに、私は普段身分証明書として何を提出していた? よくよく考えてみると、真っ先に思い浮かぶのが保険証である。カードタイプのそれは財布の中に常に入っているのだ。しかし、これがここでも身分証になるのか? どう考えたって、明らかに違うだろそれって言いたくなる。

「おい、早くしろ」

「あぁ、はい。すいません。今出しますので」

 えぇい、仕方がない。もう、これを出すしかない。

「はい、これです」

 そう言って出したのは、昔流行った猫の暴走族の絵が付いた免許証のあれである。そう一度言おう。がんたれる猫が写ったあれである。

 ……ちょっと待て。何で私、これを出した。間違えたってレベルじゃないでしょ。つうか、よくこんなものが財布の中に入っていたな、おい。

 自身でも何でこんな物が財布に入っていたんだ、と目を見開く。そういえば、弟が所持していたような気がしないでもないから、彼が入れたというのが妥当だろう。いや、でもさぁ。悪戯にせよ出来心にせよ、何でこれをこのタイミングで出したかな、私。明らかに不味いだろう。

 しかし、そのブツは既に門番の手に渡っている。今更「こっちだったんです。間違えました」とか何とか言って引っ込めるのもあれだ。背中を冷たい汗が流れていくのがわかる。

「はい、確かに確認いたしました」

 はい? お兄さん今何て言った?

「ようこそ、尾張へ」

 こっちの考えていることなんてわからないからだろうが、実にあっさりと話が進められている。というか、これで良いの? こんなんで良いの? 

 いや、だって、幾らなんでもこの猫の絵と私は似ても似つかないのに。それともあれか? この人には私の顔がこう見えているとでも言うのか?

 一人、内心で恐慌状態に陥っているが、「行くぞ」と信長は馬を進める。門番とすれ違う時に、「身分証をお返ししますね」と言われて「あぁ、どうも」と反射的には受け取ったが、敗北感が否めない。この人達のボケに、私は敗北したのだ。ちゃんと仕事をしろよ、門番。こんなことを言うのはなんだけど、ずぼらすぎるだろ。尤も、ずぼらだったからこそ私はこんな風に中に入れたんだろうけどさぁ。


「ねぇ、何か明らかに人間じゃない人達がいるんですけど」

 それが、一歩門を越えた感想であった。

 一言で表すのなら、カオスである。

 人間の外見をしている者は良い。だが、獣の耳や尾が生えていたり、角が生えていたり、顔色が個性的であったりなど、挙げるのならば暇がない。言うなれば妖怪だ。空を浮いている者もいたり、這いずっている者だっている。こんな者が人間であるわけがない。所々で何処かで見かけたことのあるような(ろくろ首や唐傘お化け、一反匁や河童なんてメジャーな妖怪も居るが、物に手足が生えた付喪神や、矢や刀が突き刺さって血を流して歩く幽霊だったりなんかもいる)存在だったり、はたまた長い耳の神秘的な美形であるエルフだったりとか、ずんぐりむっくりとした小人のドワーフだっている。何だ、この世界は。世界観がまるでこんがらがっている。総無視だ。

 しかし、前に居る男は「それはそうだろう亜人だからな」とつまらなさそうな答えがあった。

「あの人達、明らかに日本の人じゃないですよね?」

 金髪碧眼の外国人や、黒人なんかを指差せば、「日本?」というとこを疑問に思われた。私の地元よりも余程国際化している。いや、地元には北海道最大の空港があって、海外からの観光客だってたくさんくるのだ。負けていないと思いたい。尤も、街中にこんなにたくさんの外国人はいないから負けと言えば負けではあるけれど。

「いや、この国の人達じゃないですよね?」

「あぁ。外つ国の者達だからな」

 だが、それは外国という意味での言葉ではないだろう。この尾張の外の国の者というわけだ。それにしても、何この反応。この国じゃあこれが普通だっていうの?

 周囲を見回してみれば、誰も気にしている人なんていない。みんな普通だ。まったく、想定外にも程がある。

「それよりも、何を驚いている。貴様は奴らの同類だろう?」

 その言葉に「はぁっ?」と声が漏れた。

 何をどうすればあいつらと一緒くたにできるのだ。せめて、人類にして欲しい。それよりも、この男は一体何と私を混同しているんだ。

「何を驚いている」

 信長は再びそう言った。

「貴様は化け猫なのだろう?」

 それを聞き、私は頬が引き攣った。

 おい、この男は馬鹿なのか。一体いつまであの茶番を引き摺っているんだよ。こんな所でボケなんていらないんだよ。

 そんな私の心の叫びなど届かず、「まだ年若いのだから無理もない。外の世界に憧れているのだろう」と勝手に続けられる。

「まだ故郷を出たばかりの田舎者なのだろう? だから、あんな森で迷子になり、今もこうして街でいちいち驚いている。だが、用心した方が良い。おのぼりであることが知られると、騙されやすくなるからな」

 彼の中で私の立ち位置が決定した瞬間であった。

 おい、と私は心の中で突っ込みを入れる。だが、顔は引き攣った笑顔でのみ留めて置いた。

 何だ、この男は。微妙に無礼だ。いや、殿様だからこれが普通なんだろうけど。それともあれか? 天然なのか? この尾張全体の人間が「天然」というステータス異常にでもかかっているというわけ?

 尾張の人間性がわからないでいると、ぼうっと考え事をしていた所で信長が馬の手綱を引いた。

 馬が嘶く。

 前足が高く上がったことにより、私は少し不安定な体勢になり、思わず前の身体にしがみついた。一体何事かという風に目を瞬いたが、それにしてもこの男の体幹の良さに少し感心する。

 泥棒だ、と声が響いた。

 明らかに盗みを働きましたというような風体で、両手に何やらガラス玉みたいなものを沢山抱え込んだ男が馬の前を通りすぎた。これを避ける為、信長は馬の足を止めたのだろう。

「盗みか」

 喧騒の中では耳に微かに聞こえるような声だった。しかし、それが目の前の男から発せられたということはわかった。

 許せんな、とも聞こえた。

 信長は腰に佩いた刀を抜くと、その切っ先を男へと向けた。そして、今度は私には聞き取れないような言葉を呟くと同時に、刀が光った。

 ビームである。

 厳密にはビームではないけれど、私にはビームのように見えた。

 刀の先から光線が出て、それが男へと向い、正に光の速度で走ったのである。つまりは一瞬だった。

 瞬く間の間に発せられたそれが命中し、男は「がっ」と息を詰まらせて倒れた。それに従い、腕の中に抱えられていたガラス玉のようなものが地面を転がって散らばった。

 当の本人はそれを見ながらもさして興味がなさそうに、「連れて行け」と見回り中の兵に告げた。兵は「はっ」と短く返答すると、男を連行してどこかへと向かった。

 その光景を私はぽかんと眺めた。文字通り、ぽかんである。口が半開きになった間抜けな顔の事である。

「えっ、何それ」

 驚きのあまりにそう言えば、物凄く怪訝な顔をされた。その表情は言外に「お前の頭は大丈夫なのか?」「馬鹿か、こいつは」と告げている。あれだ。目は口ほどに物を言うというやつである。

 案の定、「何を言っているんだ。ただの魔法だ」と返された。予想の範囲内である。だが、「ただの……」の後に続く言葉はある意味予想外である。

「魔法?」

 今、織田信長の口から魔法って言った? 全然似合わない。いや、現に彼がやったことは魔法のようではあった。それは認めよう。だけれど、そのファンシーな言葉がまるで似合っていない。

 彼には魔王という言葉こそ似あうが、魔法という言葉はまるで似合わない。不思議だ。同じく「魔」とついているというのに、どうしてこうも受ける印象が違うのだろう。どちらとも虚構染みているが、前者は中二病的であり、後者は二次元の世界のようであるからだろうか。

 彼はそんな私の反応をどう受け取ったのか、溜息を吐いた。

「貴様は本当に何も知らないのだな」

 その呆れきった、例えるのなら不憫なものを見るような目は止めていただきたい。私はやればできる子なんだ、……と思う。ただ、あまりにも文化圏が違いすぎてどうしようもならない状態に陥ってしまっているだけである。この世界では無知であったとしても、あっちの世界では常識的なことはちゃんと解っていたのだから、自分で自分は馬鹿ではないと擁護しておきたい。

「先程、あの盗みを働いた男は何を持っていたのかわかるか?」

「……ガラス玉?」

 その答えを聞き、更に深い溜息を吐かれた。額に手を当て、首を振るオプション付きである。

「玉だ」

「ぎょく?」

 それはそのまんま、読み方を言い換えただけじゃないだろうか。それなのにこんなに可哀想なものを見る目をしてくるなんて理不尽だ。

「あれは魔法を使う時の源だ。あれを介して人間は魔法を使うことができる」

 ほらと見せられた刀の柄には、確かに球体のものが幾つか埋め込まれていた。

「誰で使えるというわけではない。その者の適正によっては使えない魔法というものも存在する。その上、魔法を使うと魔力を消費する」

「まぁ、そうでしょうね。永遠に使い続けられるとか最強すぎますし」

 チートだ、チート。ゲームで操作したり、漫画で読む分ならまるで問題ない。寧ろ大好物だ。だが、そんな化け物じみた生き物が同じ世界に居たとしたら不気味でならない。そんなのは魔王である。目の前の男は私が居た所では第六天魔王と呼ばれているが、この世界でもそうなのであろうか。

「魔法を使う者にとって基本ではあるが、重要なこととして、魔力の大きさは各々違うということを覚えておくと良い。人間の器によって魔力は微妙に違い、総量も違う。それによって、多ければ多い者程強大な魔法が使えると言うわけだ。つまり、城主レベルになれば大抵が強大な魔力持ちというわけだ」

「成程」

 まぁ、そうだろう。国のトップが弱かったら、そんな国はあっさりと攻め滅ぼされてしまう。それに今、さらりと自分が魔王の一人であることを認めやがったのか? っつうか、城主全員が魔王とか、皆ヤバすぎるだろ。 

「あの、その玉っていうのは簡単に手に入るものなのですか?」

 そんな物騒な物をあの男は盗んでいたのである。人々が気軽に魔法が使えるのだとしたら、かなり不味い。私はこの世界で最弱だとでも言うのか?

「ぴんからきりだからな。希少な物程高価であり、それは文字通り国を傾ける程の金額がつく。しかし、そうでもない玉は露店で取り扱われ、屑玉として売られていたりもする。あのが盗んでいたのもそれだ」

「屑っていうことは、あんまり使い道がないのですか?」

「いや、それは日常生活に使われる。例えば湯を沸かしたりとか、箱に入れておいて食料を冷やしたりだとか、遠隔であの会話を可能にしたりとか、な」

 つまりはあれだ。現代で普通に使われる家電なんかと同じ効果があるっていうことだ。魔力というものを消費するのは難点ではあるが、非常にエコだ。現代にもこんなものがあったら環境問題なんて一気に解決しそうな気がする。まぁ、兵器だのなんだのとかで別の問題だって浮上するだろうけど。

「そういえば、さっき「人間は」って言っていましたよね。他の種族は玉を使う必要ないのですか?」

 すると、真顔になって「あぁ」と顎が引かれる。

「人間はこの世界で、知能が備わっている生き物の中で最も脆弱な存在だ。だから、幾ら魔力を持っていたとしても玉がなければ能力を使うことができない。だが、他の生き物は生まれつき魔法を使うことができる機能が備わっている。そこが大きな違いだ。奴らにとって玉はあくまでも補助の物でしかないのさ。持っていれば魔力を増幅できるというだけの代物だ」

「何か、不機嫌になっていません?」

「当り前だ。生まれつきにこんなにも差がつけられているのだから苛立ちもする。まぁ、その分人間には器用さとそれを活かせる知恵があるから幾らでもどうにかなるがな」

 ハンデをハンデとしてではなく、それを覆すものだと断言した彼に、「成程」とだけ無難に返事をしておいた。しかし、「それは貴様に対してもだぞ」とカッと目を見開かれた。

「どこか呆けているようだが、貴様も亜人なんだから玉が無くても魔法が使えるだろう。否、現に化けるという魔法を使っている本当に忌々しい」

舌打ちをされ、私は遠い目をした。あぁ、まだその設定は使われているんだ。

「それはそうとして、貴様はこれからどうするつもりなんだ?」

「えっと、そうですね……」

 考えてみれば、どうしろという話である。

 ここまで来られたのは良い。なかなかナイスな選択だった筈だ。あの場に留まるという手段がなかったわけでもないが、あの場に居たって何にも変わらなかっただろう。あの場に居たら戻れるという可能性は限りなく低い。それなら行動する、というのは間違いではない。だが、ここに来たところで無一文なのである。 いや、お金はあるが、現代の金銭が使えるとは考え辛い。つまり、ここで帰る為の情報を集めるにせよ、どうにか生活しようにもお金が必要なのである。どこかで稼げて、情報も集まる場所はないだろうか。

 それを尋ねてみると、意外にもあっさりと「あるぞ」とのことだ。

「えっ、あるんですか!?」

 驚きである。声が大きくなってしまったのは不可抗力である。

「生計を立てるのなら、まずはギルドで登録をすれば良い」

「ギルド?」

 はい、またファンシーな言葉を頂きましたぁ。意味としては組合ということだけれども、矢張りその口からカタカナ表記の言葉が出てくるのが似合わなさすぎる。

「今、失礼なことを考えていないか?」

「いや、まさか……」

 心が読まれた? いや、そんなに顔に出していたか、私。けどさぁ、やっぱり信長にこういう言葉は似あわないと思うんだよね。

 それでも大して気にしていないのか、「まぁ良い」と彼は勝手に切り上げた。

「ギルドは五つに分かれている。

 一つ、職業ギルド。

 これは文字通り、職業を求める者のギルドだ。主に手に職を持った者が多い。

 二つ、魔導師ギルド。

 これは魔法を使うことを得意とする者の集まりだ。

 三つ、学術ギルド。

 学者肌の頭の良い奴らが集まって、研究やら討論をしたりする。

 四つ、医療者ギルド。

 病気から怪我から美容まで、身体の健康に関してのエキスパート集団だ。

 五つ、冒険者ギルド。

 これは未知なる場所を探検したり、モンスターやお尋ね者を倒すような肉体労働専門の場所だ。

 何れの場所も依頼を受け、それをこなすことによって報酬が得られる。受けられる依頼は各々の裁量に分かたれるから、詳しいことはギルドで直接聞いた方が早い」

 まるでファンタジーの世界だ。こういうのって、冒険ものの小説なんかで良くある。

「ちなみに、俺は冒険者ギルドに席を置いている」

「えっ、殿様なのにギルドに入っているんですか?」

「ギルドに入るのに身分なんて関係がない。第一、殆どの国の主は成りあがりだ。つまりは、自分の力量で国を建てているんだ。持っている力を有効に使って、国を豊かにするのは当然のことだろう」

「成程」

 確かに建設的だ。国だの領地だのといった問題で敵国から奪うのではなくて、その国のトップ自らがその力の有様を示した上で国の発展に繋げられるのだとしたら、これ程良い人望の集め方もない。平和と好戦的でいったら、平和の方が人々から受け入れやすい。その上、人々の生活の貢献にもなるのだから国も発展しやすいだろう。

「それで、貴様はどうするんだ? 席を置けるのは一つのギルドだけだぞ」

「私は……」

 悩む、迷う。大いに惑う。しかし、選択肢なんては無からないのだ。何せ、手に職という程の職はないし、魔法が使えると言う保証もない。多少の知識はあってもこことの常識が違うかもしれないから学があるとも言い切れないし、確かに職業的に医療にかかわっていたとは言えなくもないがやっていける自信はない。こんな風に消去していけば、選べるものなんて一つしかない。

「……冒険者ギルド、ですかね?」

 言ってみて、羞恥に襲われた。魔法よりはまだましかもしれないが、冒険者って……。何でこの歳になって、そんな子供じみたごっこ遊びみたいな言葉を口にしなくてはならないんだろう。いや、実際にそこに属している人は本気であるのは間違いないだろうが。何せ、命を賭けているのだ。生活が懸かっているのだ。これで真剣にならない筈がない。

 しかし、「うむ、なかなかに良い選択だ。そこは良い所だ」と満足げに言われれば、まぁいいかという気がしないでもない。えぇい、女は度胸。どうせできることなんてたかが知れているのだ。こうなったら突っ走るしかない。……その前に自分の装備(手荷物)を確認して、資金を調達しないといけないだろうけど。


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