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レティの薦めにより、幸村とも一時的にパーティーを組むことになった。例によってギルドで申請をしたのだが、あの受付嬢の顔が凄いことになっていたのは言うまでもないだろう。いや、何か本当、私の周り美形率が高すぎない? 美形=強いという法則でもあるわけ? 誰かどうなのか調査して欲しいものだ。


……と、いうわけで真田家の治める国にやってきたわけである。それにしても、凄いな、このジャンプ機能は。パーティーの仲間の行ったことのある街の冒険者ギルドまで一瞬で行けるのだ。何というお得機能。こんなものがあるのだったら、寧ろ現代で生きている時に欲しかった。そうしたら、ただで旅行し放題なのに。

そんな不届きなことを思いながらギルドの外に出たのだが、目の前に広がった街並みを見て私は固まった。文字通り、ぽかーんと口が開いたまま固まった。

「えっ、何かもう、ここだけ近代的を通り越して、二十二世紀じゃない?」

そうなのである。

もう、ロボットが空を飛んだり、ポケットから科学の粋が集結された道具を取り出しそうなレベルの発展を遂げている。私がいた時代など遥かに超え、既に漫画やアニメなどの二次元の世界だ。あまりにもの進化に脱帽ものである。

車は空を飛んでいるし、電脳世界もかくやという程立派なモニターが設置されているし、何よりも日本人がイメージする未来都市そのものなのだ。一体何をどうしたらこのような進化を遂げるのだろうか。

「信長の国よりも進み過ぎていない?」

あっちも文明開化をしている並みには進んでいるが、こっちの進化が半端じゃない。どうしてここまで極端に差がついてしまっているのだろうか。

「それは、エジソンの所為ですね」

「エジソンって、あの?」

エジソンといえば、誰でも知っている発明王である。何かもう、いろんなものを開発したんだなぁというくらいの見解はあるが、それにしてもこれは凄すぎるだろう。

「エジソン殿は、我が国に多大の利益を齎してくれた」

「貢献してくれたという割に、何か浮かない顔をしているのね」

「確かに生活はかなり便利になった。しかし、その反面、国を経営するのに金がかかってしまうようになったのだ。その上、エジソン殿がいなくなってからも国の者は次から次へと新しい物を欲すようになり、金銭はいくらあっても足りないのが現状なのだよ」

 つまり、一国の王子であるのにも関わらず、金に困っていた理由はそういうことなのであろう。

 人間というのは次から次へと新しい物を欲しがり、次から次へと利便を追及する生き物である。その貪欲さは凄まじい物があり、私も現代に居る時はそれを享受してきた。しかし、元が質素な暮らしをしていた武士にとって、この変化は目まぐるしいものがあったのだろう。だからこそ、新たな物に心血を注いでしまっているのだ。

「まぁ、人間の業だからね」

 結局はそれに尽きるのである。

「そうだな」

 幸村も渋々頷いている辺り、そう思っているのだろう。それにしても、この反応を見る限り、幸村はこの現状をあまり喜んでいないようである。

「国が発展して嬉しくないの?」

「否、嬉しいことは嬉しいのだが、前の生活を別段不便に感じていなかったものだから、まだ慣れていないだけだ」

 そう言う幸村は何処か遠くの方を見ていた。これは、会社に疲れたサラリーマンのようである。哀愁が漂っているようでさえもあった。

 つまりはあれだ。ジェネレーションギャップ的な感じなわけね。過去の人間がいきなり未来にやって来て、その文化に抵抗を感じてしまうようなあれなわけだ。

 ……っていうか、一人だけそう思っているとか、まさかのお爺ちゃん。若者でありながら、武士という生き様が身についているだけあって、そこまで適応できないとは思わなかった。日ノ本一の兵の名は伊達じゃないっていうことね。骨の髄まで、血の一滴に至るまでその考えとか習慣が染みついているというわけなのである。

「不器用な生き方ね」

 武士としては最高なのかもしれないが、こういうハイテクな中で生きていくのは大変そうだ。生きづらいだろう。

「某もそのことは承知している」

 こういう時、長い年月を生きている存在はどうかと目を向けるが、レティは「まぁ、慣れるよりも慣れるものですよ」と安易な言葉を返してきた。

「こういうことは本人の適性が大きいですから、周りがとやかく言った所で何にもなりません。それに、人間は慣れる生き物ですから。どんな場所であっても適応できますよ。何せ、そうやって進化を遂げてきたのですから」

 一理ある言葉である。霊長類としての進化を始め、生活も医学も技術だってどんどん進化をしてきたのだ。その過程で存在しているのだから、適応することなんてわけがないだろう。そうやって、人間は強靭な爪も牙もなくても生き残ってきたのだ。それができないわけがない。

「それもそうだが、某には如何せんそれが難しいのだ」

「おや、日の本一の兵が何と弱気な。日本男児たる者、常に己の限界を突破することを考えなくては」

「そうだが、これとそれとでは話が違うだろう」

「違いませんよ」

レティは断言した。

「貴方は逃げ腰なのです。武士たる者、常に前を向き続けているべきです。それなのに、それを貴方は怠った。それこそが、貴方がここに適応できていない証拠なのです」

「馬鹿な。そんなことはない」

「いえ、そんなことはありますよ。御覧なさい。現に、貴方以外の方は既に適応されているではありませんか」

 両手を広げ、レティはそう言った。それに釣られて周囲を見回すが、民の顔は明るい。前を向いている。俯いている者など誰一人としていなかった。

「ほら、彼らだって貴方の仰る存在に身内を殺されたかもしれない。甚大な被害を受けたかもしれない。それでもちゃんと背筋を伸ばし、前を見据えているのですよ。わたくしからすると、本当に強いのは武士ではありません。民です。彼らは不屈の精神と力強い生命力を持っています。違いますか?」

「違わない」

「でしょう? ですから、貴方も現状を嘆くばかりではなくて受け入れて御覧なさい。そうすれば、貴方の道は開けるでしょう」

「あぁ。やってみよう」

 幸村は上手く丸め込まれたようである。レティのように尤もらしいことを冷静に告げられ、尚且つ堂々と語られたのだ。断言するように言われでもしたら、そうなのかなと心が動いても仕方のないことであろう。これはある種の洗脳のようなものだ。最後の台詞なんか何らかの宗教のようである。レティは口が達者だし、宣教師とかやったら結構お似合いかもしれない。だが、そんな職にでも就かれたら洗脳された人が続出しそうだな。本当に言葉というものは恐ろしい。

 今まで傍観に徹していたシアにちらりと視線を向けると、彼女は肩を竦めた。私と思っていることは一緒のようである。

 私は幸村の肩に手を乗せた。彼にはこの言葉を贈ろう。

「ドンマイ」


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