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 幸村の話の要点を纏めるとこうである。


・真田家が治めている国が敵襲を受けた

・誰が襲っているのかを調べようと忍を送るものの、偵察隊が帰ってこない

・これは自分が解決するしかない(←何故その発想になったよ。もうちょっと間に何かを挟んで。仮にも国長の息子だろうが)

・兄の制止を振り切って探りに行くと(←年長者の言うことを聞けよ。兄を大切にしろ)、何やら怪しげな城を発見

・城に乗り込むものの、敵の数が多くて一時撤退(いや、備えもなしにいきなり乗り込むとか馬鹿か。ここは一度国に戻って報告するところだろ)

・そうだ、仲間を集めよう(一人で行ったんかい。もっと危機感を持てって。どうして一人でできると思ったんだよ)

・冒険ギルドに依頼をすれば良い

・冒険ギルドに行ってみるものの、案外高額で断念(それはそうでしょうが。誰が安い金額で雇われるわけ。命を賭けるのは慈善事業じゃないんだよ)

・ぶらついていたところ、冒険者らしき三人組を発見

・もう、こいつらで良いんじゃないだろうか?(そこはそんな簡単に済ませるなよ。もっと深く考えて、吟味しなよ。人選って大事だから)


 これはつまり……

「ねぇ。これってさぁ、私達じゃなくっても良いんじゃない?」

 勇者を呼べよ、勇者を。これってまんま王道RPGの魔王城じゃん。誰だよ、そんな所に魔王城を設置したのは。

 もうさぁ、冒険者ギルドなんて行かないで勇者に頼むべきでしょうが。勇者だったら、喜んで行ってくれるよ。だって、そのくらいの命知らずじゃなければ、勇者という免罪符の元、他人の家に勝手に上り込んでは持ち物を持って行く泥棒紛いのことをして許されるわけがない。「勇者だから」の一言で許されるのだから、みんな馬鹿だろうと言いたくなっても仕方がない。

 何せ、勇者という言葉を利用して犯罪者が堂々と生まれ、魔王やその部下たちを虐殺して褒め称えられているのだ。正に、「一人殺せば殺人犯だが、たくさん殺せば英雄だ」を地でいくような奴らなのである。いや、ここまで堂々と犯罪を成立させているのだから、寧ろ彼らが行くべきだ。魔王云々は置いておくとしても、不法侵入をして泥棒をしているのだからその点は立派な犯罪者なのであろう。みんな、もっと現実を見ろよと言いたくなるのは間違いなのだろうか?

 あと、魔王城の主って何者? さすがに魔王様じゃないよね? もしもそうだったとしたら、死亡フラグがちらちらと視界を掠めているんですけれど。

 レティを見るが、彼はにこりと笑んだままだ。おいおいおい、それはどういう意味の笑みだよ。もっとはっきりと意思表示をしてくれよ、意思表示を。人間、コミュニケーションが大事なんだって。誰だって以心伝心能力を持っているわけではないのだから。

『いえ、御主人のお考えの方ではありません』

 今まで沈黙を保ってきたレティがそう答えた。これまでがあまりにも静かすぎたから、等身大美女の人形が座っているような気分になっていたわ。何ていうか、生気がないというか精気がないというか。精霊だからこれがデフォルトなわけ? それともこれが彼女の素なの? レティが姿を創った時にこんな風にしちゃったわけ?

 内心で首を傾げてみるが、深く考えても仕方がないから、これが彼女の個性であるということに落ちつけようと思う。人間、時には受け流すスキルが必要になることだってあるのだ。それが、日本人なら尚更のことだ。これこそ正に、日本人の国民性である。

「あっ、そうなの? でも何でわかるわけ?」

『はい。シアは闇の精霊ですから、闇に関することを察知することができます』

「成程」

『それで、現在地上には魔王様のように強力な御力をお持ちの方はいらっしゃいません。そこから察するに、あちらの世界で権力争いに敗れた無様な負け犬がこちらにやってきて、こっちの世界だったら簡単に征服できるだろうと考えたのではないでしょうか』

 今、さらりと酷い言葉が聞こえた気がしないでもない。レティもそうだが、シアも毒舌だな。正直、こんな美女からそんなことを面と向かって言われたら部屋に引きこもりたくなって仕方がない。そしてそのまま自宅警備員に就職しても仕方がないことだ。もしくは、新しい世界の扉が開けてしまいそうで怖い。蔑まれたいというドMな方が沢山生産されてしまいそうだ。

「一応、彼女の言っていることは間違ってはいませんよ。その城を建てたのは三流以下の塵野郎であり、魔王様の崇高ささえも理解できない豚畜生です。ですが、その存在していることさえもおこがましい奴らの存在を許し、魔王様の計画を邪魔しようとなさるなど許してはおけません」

「つまり、レティとしてはそいつを排除したいわけね」

 忘れてしまいがちではあるが、レティはかなり高位の悪魔なのだ。何せ、魔王の側近なのである。それだったら、それを邪魔する奴を抹消するのは至極当然のことなのだろう。だからこそ、今回のことはレティがかなり乗り気だったというわけだ。

「あれ、思ったのだけれども、二人の様子からすると、そいつがこっちに来たのって昨日今日っていうわけじゃないわよね。それなのに、どうしてまだ存在しているわけ?」

 レティの性格からすれば、真っ先に正面から堂々と敵を殲滅しに行くのだろうが、それが放置されていたとはどういうことだ?

「正直、面倒くさいからですね」

『小者すぎて、わざわざ手を下すまでもないと判断したからです』

 あれ? どういうこと?

「つまり、二人は知っていて放置していたっていうことね。それなのに、今それに関わろうとしているのはどういうこと?」

「貴女の経験値上げに役立つからですね。いくら脆弱すぎる存在であろうとも、貴女の糧になるでしょう。ですから、わたくしはそっとお供させていただこうと思います」

 成程。レティは後方から見守る役に徹するということね。……って、働けよ側近。もっとアクティブになってよ。あとさぁ、あんたからすれば大抵は雑魚だろうけれど、大抵の人間からすればそれってかなり強力なんだからね。現に、国一つが滅ぼされかかっているじゃん。もっとしっかりしてよ。もうここはあのテンションで「レティ、ちゃんとしてよ」と言いたい。勿論、ここは「男子、ちゃんとしてよ」と学級会で女子が男子を責めるようなノリで。

「そういえば、あれがいるじゃない。あれよ、真田十勇士」

 ふと思い出した。詳しくは知らないが、確か結構有名だったのではないだろうか。あと、真田で有名といえば猿飛佐助。あれも風魔小太郎と服部半蔵に並ぶくらいの忍者の代名詞の筈だ。と、いうか、私は忍者に関してはこれくらいしか知らない。甲賀伊賀という里があるんだ、というレベルの無知さである。

 しかし、幸村は首を傾げただけだった。どういうことかと思っていると、レティが「彼らは実在していませんよ」と答えた。

「あれは後世の者が創り出した御話です。モデルとなった方はいらっしゃいますが、真田家には「真田十勇士」と呼ばれる方々はいらっしゃいませんよ」

「えっ、そうなの?」

「そうですよ。それに、元々は「難波戦記」という江戸時代の作品であり、更にその十数年後には「真田三代記」という小説へと成り代わっています。そして、貴女のイメージにある「猿飛佐助」はその二百年後の明治時代になって初めて登場しているようなものですよ。つまり、真田十勇士というのはフィクションということになりますね」

 何とまぁ、驚きである。てっきり、猿飛佐助というのは幸村に仕えた忍だとばかり思っていた。いや、物語ではそうなのかもだけれども、実際にいないとは、幸村が苦戦するわけである。

「って、ことはあれか? もしかして人手不足っていうやつ?」

「恥ずかしながら」

 それならば、国長の息子が一人で飛び出すのも頷けるものである。そうじゃなかったら、さすがに一人で突っ走ったりなんかしないだろう。

「あれ、もしかして幸村って結構ピンチなわけ?」

「ぴんち?」

「いや、あれよ。結構危機的状況にいるわけ?」

「某は危機的状況ではないが、国が、ひいては真田が危機的状況ではあろうな」

しみじみとした口調ではあるが、これはあれだ。一国家を揺るがす大規模な危険である。

 普段なら「ふーん、そうなんだ」で放置だ。厭な奴が相手だったとしたら「ご愁傷様」と付け足したりもしただろう。しかし、幸村の妙に諦観したような姿を見るのはざわつくものがある。何せ、自国の為に見ず知らずの人間にまで縋りつく程の状況なのである。その上、幸村自体はなかなかの好青年なのである。ここで放置しておくのも目覚めが悪いものがあった。

 ちらりとレティに視線を向けるものの、相変わらず涼しい顔だ。まぁ、確かにレティが悪いというわけではない。そもそもの元凶はその悪魔なわけだし、レティにとってはとばっちりも良い所だろう。だが、レティに責任があると言えなくもないのではないだろうか? 彼がここまで放置しておかなかったら、そもそもこんな事態には陥らなかったわけである。つまり、欠片程度ならレティにも責任がある筈だ。

「あと、聞いておきたいのだけれども、何で金銭的に余裕がないわけ? 一国の主の息子ならそれなりにお金は持っているものじゃないの?」

「いえ。我が国は極貧故」

「そうなの?」

 レティに視線を向けると、彼は「いえ」と首を振った。

「確かに金銭的には火の車状態ではありますけれど、決して貧しいというわけではありませんよ。ただ、向かっている方向が方向故に、多大の金銭を必要とする為、常に金銭的な余裕はないようですけれど」

「どういうこと?」

「百聞は一見に如かず。直接目でご覧になった方が早いですよ」

「某もそう思う。我が国に関しては、言葉を尽くすよりも目で見た方が早い」

「まぁ、そっちの方が誤解は無いといえばそうか」

 どんなに公平を期した言葉のつもりであったとしても、それが本当に的確であるかというのはまた別である。何故なら、人である以上必ず私情が入り込んでしまうからだ。だからこそ、言葉よりも己の目で視て判断するというのはとても適切なのであろう。

「もしも、謝礼を心配されているのでしたら、某が必ずお渡しすることをお約束する。但し、月日は待ってもらうことになるかもしれないが」

 そんなに切羽詰まったような国なのだろうか、とそう思わないでもない。いや、確かにレティクラスを雇うとなるとかなりの金額が動くだろうが、そこそこ強くてランクが低いとなればそんなに金額もかからないように思える。

「だからですよ」

「どういうこと?」

「貴女を見て、わたくし達に決めたのではありませんか?」

 その問いは幸村に向けられたものであった。疑問ではなく、妙に暫定的な尋ね方であった。

 すると、幸村は「あぁ」と頷いた。

「少額で雇うなら冒険者ギルドが一番だし、それに自身もそこに身を置いていると割引も発生する」

「幸村って、冒険者ギルドに所属しているの?」

「あぁ。腕試しとして、大抵の武士は冒険者ギルドに属している」

「ランクは?」

「……一応、S」

 今の間は何だったのだろうか? 最高ランクとされるSなのだから、もっと堂々と答えれば良いのに。

 すると、私の表情から何かを読み取ったのか、彼は苦笑した。

「某は一応Sランクに身を置いているだけだ。そこはある程度の線を越えれば行けるのだから、そこの中でもピンからキリだ。皆が皆凄まじく強いというわけではない。本当の強者というのは、ほんの一握りの者だけなのだ」

 成程。簡単に言うのなら、貴族の中でも上流中流下流とあるようなものなのだろう。それが完璧な実力主義社会となって、越えられない壁があるということなのだ。

「けど、Sランクでも敵わないとか、そんなに強い相手だったわけ?」

 先に撤退したと話は聞いたが、きちんと装備を整えた上であったらそう簡単に敗れることだってないのではないだろうか。

「そうかもしれませんが、それではいけません」

「どういうこと?」

「敗れるということは、「死ぬ」ということと同義なのですよ。武士が命を賭けられる戦はたった一度だけ。その死に場所をそこにする価値はないということですよね」

 違いますか、という言葉に幸村は頷いた。

「確かに強敵ではあるが、武士としての死に場所はあそこではないと某は思う。あそこで死ぬくらいだったら、恥も外聞もなく金銭で解決をした方がまだましだ。だから、強さを兼ね揃えた者を雇おうと決めたのだ」

 それは多分、私との価値観の違いであろう。私からすると「敗北=死」というイメージはなかなか湧かないが、彼らにとってそれは同義なのだ。そして、敵と相対してそう思ったが故になのであろう。この辺りの考え方は私とはまるで違う。ジェネレーションギャップというか何というか、生き様の違いなのだ。

 私みたいに平和惚けした人間にとって「死」というものはなかなか身近であるようには思えない。だが、医療の発展もそこまででなければ、相手が本気で命を取りに来ている世界では簡単に「死」は訪れるものなのである。そして、それを日常としている人間が、国の為に本気でプライドを捨てに来ているのだ。

「でもそれって、人選ミスじゃない?」

 どう考えても、この面子が強そうには見えない。いや、私を除く二人は強いのだが、初見でこの二人の実力なんて測れやしないだろう。それなのに、何故私達に声をかけてきたのだろうか。もう、あれか? 誰でも良いってやつか?

「別に自暴自棄になったわけではない。ギルドで貴殿らが森に巣食ったオークを壊滅させたことも、ハイオークを殺したことも聞いている。だが、それは一人前とされる冒険者だったら誰でもできることだ。だから、それで判断したというわけではない」

「なら、どうして?」

「雰囲気というか、ほぼ直感だな。某の本能がこの貴殿らが只者ではないということを告げている」

 レティが小さな声で、「まるで野生の動物のようですね」と呟いた。その感心した声を聞きながら、私も少し感心した。

 見た目に左右されない感覚というのは、本来人間が備えているべき大事な感覚なのだ。しかし、成長するに従ってその本能とでも呼べるべき感覚は、大半の人間は衰えさせていく。それは経験からくる慢心や、傲慢さからだろう。だが、一流とされる人間にはそれはない。常にアンテナを張り巡らせ、鋭い感覚を保っていられるからだ。それだけで既に、掛け替えのない素質をもっているに他ならない。

「幸村は、私達で間違いないと思う?」

「無論。某が頭を下げている以上、何があっても貴殿らを恨むつもりなどない」

「レティは、どう思う?」

「あれの実力は、Sクラスの中堅程度です。貴女が出会った信長とやりあえば、返り討ちにされるような雑魚です。人間にも劣るレベルの程度の低い悪魔ですよ。どうにでもなりますよ。正直、雑魚やらトラップなどなければ、この方でも勝てるくらいです。彼の方が実力的には上だと見ました」

「へぇ。幸村って強いんだ」

「えぇ。上の下というところでしょうか。十分に己の力で国を建てられるレベルです。ただ、あれでも一応は悪魔ですから、そうなれば卑怯で下劣極まりないことも平然とやってくるでしょうね。ですから、何が起こるかは解りません。戦いに絶対なんてありませんから。そのことから考えると、彼の判断は間違っていません。これが生きる為の闘いだとするのなら、意地やプライドを捨てることに何ら過ちはありません。寧ろ、そうできることをわたくしは評価いたします」

 断定的な口調であった。レティがそう言う以上、そうなのであろう。私もその考えに異論はない。

 あと、強いて言うのなら、信長を引き合いに出すのは止めて欲しい。あれは人間離れしているというか、最早人間ではない。その次元は超越しているのだ。そうでなければ、「第六天魔王」だなんて中二病全開の言葉を高らかに宣言できるわけがない。いろんな意味で、強烈なインパクトを放つ存在である。

ここまで話を聞いて、言葉を交わしたのならば何かをぐちぐちと言う必要などないだろう。

「わかった。引き受ける」

 どこまでできるかは解らないし、幸村よりも少し劣るレベルの相手に私が勝てるとは思えない。だが、乗りかかった船だ。レティの思惑通りに進んでいるのは認めがたいが、それだけの理由は承諾しない理由には成り得ない。

 私の言葉を聞き、幸村は「真か!」と大きな声を上げた。それに「ちょっと落ち着いて」と言い、「嘘じゃないわ」と続けた。

「本当に有難い。恩に着る」

「別にそんなに堅苦しくならないでよ。だって、この二人はともかく、私自身はあまり役に立てないと思うもの。それなのにそんな風に頭を下げられたら、居心地が悪くなるから止めて。じわじわと私の居場所に侵食してくるのは止めて」

「よく解らないが、あい解った」

「いや、解らないのならそんなに堂々と言わないでよ。突っ込みにくいから」

「嬉しくて、つい」

 まるで犬みたいな反応に、私は肩を竦めた。幸村は差し詰め大型犬だ。忠義に厚いところなどそっくりである。今度「ぽち」とか呼んでみようか。案外ノリが良いかもしれない。

 幸村、と彼のことを呼んだ。

「引き受けるからには、私も死なない程度に命を賭けるよ。但し、報酬の方は後でちゃんと決めさせてもらうから。一応、私たちの働きを見てからにして。あと、金銭になるかどうかも不明だから」

 そう宣言すると、横でレティが「守銭奴」と、シアが「流石です。抜け目がありませんね」と茶々を入れてきた。それを睨みつけるが、二人にはまるで効果が無い。しかし、幸村がほっとしたかのように笑んだのだからまぁ、良しとするか。

 明らかにほっとした姿の幸村を眺めながら、歴史上では私よりも遥かに年上だが、現在の見た目は私よりも若いのだ。力になれる時に少し力を貸すくらい、誰も文句は言わないだろうと、そう思った。


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