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 マゴンドラは実に簡単に採取できた。シアが闇の触手を造り出し、それで叫ぶ前に口を塞いで根こそぎ引っこ抜いたのである。その様はかなりシュールであり、植物を次に残そうという配慮など一切ないものであった。

 彼ら曰く、「どうせこんなもの、次から次へと増える雑草のようなものだ」ということである。だからあるだけ採って、売って金銭に換えれば良いというのが彼らの主張だ。

 成程と言えなくもないが、こちらの世界に詳しくない私はそうなのかと頷くことだけにした。そして、ギルドに戻ってきたというわけである。


「クエストを達成しました」

 受付でそう言った。例によって、あの受付嬢である。

 彼女は「はい、確認いたします」とは言っていたが、その顔が「うっそ、マジで」とでも言わんばかりの驚き方をしているのがありありと出ている。

カードを受け取り、彼女はそれが本当に正しいのかとでも疑うように、何度もカードと私の顔を見比べていた。

「……確かに、受理しました」

 彼女は呆然と呟くと、「えっ、本当に?」と再度言う。

「これ、ズルとかじゃないわよね」

「ズルができる制度じゃないなら」

「バグとかじゃ?」

「ギルドが発行している正規カードにそんなことがあるの?」

 彼女の独り言のような問いに答えると、彼女は漸くこれが現実であるのだと腹を括ったようであった。

「……貴女、強かったの?」

「まぁ、それなりにそうみたいで」

「彼って高位の魔術師でしょ? 彼がやったの?」

「いえ、全て彼女がやりました」

 今まで様子を見ていたレティが会話に入ってきた。

「わたくしは何もしていませんよ。ただついていっただけです。討伐は全て彼女がやりましたし、採取はこの者が」

 レティはシアの背中を押し、彼女を前に出させた。それで初めてシアの存在に気が付いたようで、「えっ、何時の間に?」と驚いたように呟いた。

『初めからいました。それにしても無礼な女ですね。排除しますか?』

 坦々と受付嬢に敵意を見せるシアに、彼女はひっと息を呑んだ。

「ほら、止めてよ」

 制止の声をかけると、「失礼しました」とシアは頭を下げた。

「一応、この子のカードも発行してもらいたいのだけれども、大丈夫?」

「えぇ、それはまぁ……」

 目を白黒とさせながら受付嬢は対応しようとするが、レティが「いえ、結構です」とそれを断った。

「この子は彼女の眷属です。彼女の所有物ですから、カードの発行は不可能の筈です。違いますか?」

「はい。眷属であるのでしたら、人権が認められていませんのでカードの発行はできません」

 そう事務的に答えつつも、その目は「マジで」と言わんばかりである。

「隷属ができるなんて、貴女は何者? それに、ハイオークまで倒したって本当に?」

 敬語も取り繕った笑みも忘れて尋ねられ、私は「ただの無職です」と、無難に答えた。何せ、私の職業は無職のままだ。……くぅ、何という屈辱であろうか。結婚も何もしていない、完全に一人身の私がこれを口にするなんて、ニートも同然の宣言である。

「それはそうと、彼女はランクアップができるのではありませんか?」

「ランクアップ?」

「そうです。得た経験値などによって、ギルドの者はランクを上げることができます。わたくしがSランクであるように、今回の経験値でランクを上げることができる筈です」

「そんな簡単にランクアップってできるものなの?」

「いえ、それなりに経験を積まなければなりません。つまり、一つの依頼を受けた程度では上がったりはしませんね。しかし、自身よりも上のランクの任務をこなし、且つ、依頼以上のことをやってのけたのですから、少なくとも今のランクよりは高くなれますよ」

「成程」

 つまりは、ゲームなどで高経験値を得たことによってレベルが二つも三つも上がるあれと同じだというわけだ。弱い奴をつれていき、高い相手と出会わせては引っ込めてと繰り返した某ゲームが思い出されるようだ。

「えっと、一応お願いできます?」

 カードは彼女が手にしているし、問題ない筈だ。

「畏まりました」

 頷いて、彼女が万年筆からインクを垂らすとカードの表面が揺らいだ。そして、カードの表記が新しく変わった。

九十九つくも みこと

 性別 女

 種族 人間ヒューマン

 職業 殺戮者見習い

 レベル 5 

 ランク C

 状態 異常なし

 体力 170

 魔力 100(+9999)

 攻撃力 38(+159α)

 防御力 5(+9999)

 素早さ 25(+9999)

 ギフト 現実逃避 妄想 長いものには巻かれる 野生の勘 受け流し 

     リセット 殺戮

 取得魔法 牽制

 特殊能力 狂戦士

 装備 魔王の外套 魔王のシャツ 魔王のズボン 魔王のブーツ 視力矯正眼鏡 魔剣持ち物 なし』

 おぉ、微妙に能力が上がっている。それにしても、私のレベルの割にランクが高すぎではないだろうか。それに、何でこんな職業になっているわけ? 殺戮者? 見習い? 意味不明である。それに、ギフトにも殺戮って増えているし、取得魔法が牽制? 何をけん牽制するわけ? 特殊能力が狂戦士とうのも意味不明である。

 結論。私自身が意味不明である。これである。

 一人で納得していると、私のカードを見た受付嬢が「げっ」と顔を引き攣らせた。

 私のカードが情報提示をしているのはほんの一部であったが、それを見た彼女は明らかに引いていた。結構ヤバい奴だと言いたいのが見え見えである。

「おや、なかなかのものですね。この調子でレベルを上げていきましょう」

 レティはにこにことしていたが、この男はこれが標準装備なのだから腹の探り合いをする相手には向かない。

「何を指してなかなかなわけ? 私としては不本意なものがプラスされている気がするんだけれども」

「そうでしょうか? 貴女の闘い方を見る限り、的を射ているようですよ」

「あっそ」

「牽制なんてなかなか使い勝手の良いものだと思いますよ」

「いや、そもそも牽制って何? どう見ても魔法っていう感じがしないのだけれど」

 魔法というと、もっとファンシーでファンタジー的で夢がある筈なのだ。なのに、この魔法はどう見ても武闘派という感じがにおっている。

「まぁ、その通りですね」

「やっぱり?」

「牽制の魔法を使うと、逃げ出そうとした相手の動きを止めることができます。つまりは、相手に戦線離脱をさせないということですね」

 成程。便利なものである。それができたら、すばしっこい相手であろうとも動きが止められるだろう。

「それは、アサシンの専属スキルだわ。そんなものを魔法として使えるなんて、貴方達は何だっていうの? ギフトに殺戮なんてあるし、絶対に碌でもないのでしょう」

 その言葉に、私とレティは顔を見合わせた。そして、同時ににやりと笑んだ。

「それはそうでしょう。何せ、生きているのですから」

「そうね。生き物――特に人間なんて碌でもないわ。真の聖人君主なんて居るようならみてみたい。そして、そんな人を前にしたところで、「偽善者」の一言を言い放てるような性格をしたのが私達だもの」

「それなら、わたくし達は人でなしの集まりということでしょうか?」

「人でなしのパーティーね。確かに最強だわ」

 けど、冗談なんかではない。本気でそう思うのだ。生き物というものは碌でもないものなのだ、と。どんな生物であれ、己の欲望というものがある。そのエゴが自身に力を与えるものなのだ。

「狂っている」

 そうなのかもしれない。私の精神はとっくに普通の状態などではないのだろう。この世界に来たときからそう歪んでしまったのだ。

 怯えた様子の受付嬢から金銭を受け取り、ギルドを後にした。後に、このことを「殺戮の勇者誕生」とまで言われるようになったのを私は随分と後になって耳にした。


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