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探偵の拳  作者: 大培燕
第三章 灰を嘗める
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3-2 あなたは一体誰に殺されたの?

「離してくれよ、光ぅ」

「うるせぇ!大人しくしやがれ!」


 光と真守によって、修太郎は倉庫に押し込まれた。


「おいおい正気か?クラスメイト諸君」

「神崎、ポケットを探ってくれ」

「何でだ?」

「まだメリケンが入ってるはずだ」

「ああ、なるほど」


 その瞬間、修太郎は自らメリケンを取り出し、光に殴りかかった。


「とりゃ!」

「ふぐっ」


 肝臓にハンマーフックをくらった光は悶絶する。


「そこまでだ」

「え?」


 真守が再び上段に武器を構え、修太郎を牽制した。今度は何と鉄パイプである。


「くっ……」


 さすがの修太郎も怯まざるを得なかった。


「大丈夫か、神崎」

「息が、できね……くそっ」

「悪いな修太郎。メリケンは没収だ」


 修太郎は指に力を入れて奪わせまいとするが、頭をやられたせいで簡単に組み伏せられてしまい、指を開かされてメリケンサックを奪われた。


「頭が……ガンガンするよ。容赦、ねぇ……なぁ、真守は」

「お前もな」


 真守は光を引っ張り出してから、倉庫の鍵を閉めた。


「じゃあな、レイプ魔!次会うのは留置場だな!」


 光が捨て台詞を吐いて行った。


                    ******


「まだ証拠が、決定的な証拠があるわけじゃない!そうでしょ?」


 真守と光が戻ってくると、食堂で渚と鳴が口論をしていた。


「おいおい、蓬生はまだ修太郎を庇う気か?」

「庇ってるんじゃない! 真実を知りたいだけよ」

「都合の悪い真実からは目を背けるのか? 鳴」


 真守が鳴を黙らせた。


「でも、監禁してくれて本当に良かった」


 鳴が発言した渚を睨む。

 心からホッとしている事が表情から分かる。つまり彼女は、修太郎が殺人犯だと信じて疑っていないのだ。


「もし野放しにしてたら、今度こそ襲ってくるかもしれない。そう思うときっと眠れないわ」

「シュウちゃんはそんなことしない!」

「実際、新谷先生をレイプしてるじゃない!」

「してない、絶対してない!」

「本人が言ってるんだぞ?『やった』って嘘ついて何の得があるんだよ?」

「それは……!」


 そう、その理由が無いのだ。修太郎が犯人でないと考えようとしても、その挙動は明らかに不審すぎる。


「だ、誰かを……庇ってるとか?」

「いや、『とか?』って言われてもなぁ」


 仕方がない。鳴にも今の修太郎の心境は分からないのだ。

 だが、信じるしかない。警察が来てくれさえすれば、真実は白日の下に晒される。


――私は信じる。シュウちゃんは、絶対やってない!出来るわけがない!


「さて、一応鍵はかけたし、アイツは手負いであるわけだが」


 真守が人差指で鍵をクルクル回して弄んでいる。


「それでもあいつの体力が戻ったら、あんなプレハブの物置小屋、突破しかねない。見張りが必要だ」

「また見張り!?」


 渚はもう嫌だ、という顔をしている。

 彼女は昨日さんざんな目に遭っているので当然の反応だろう。


「俺だってあんな奴の相手は御免だが、本気で安全を確保したいなら必要な事だ。鳴、どうする?」


 真守は譲りそうもない。ここで鳴が食い下がっても多数決で決まるのがオチだ。


「いいんじゃない、やれば」

「だけど、蓬生と漆原は外した方がいいな」

「はぁ?」


 鳴は見張りを付けるなら、自分の番の時に修太郎に真相を聞くつもりだった。渚は怯え具合から言って当然としても、鳴は自分が見張りから外されるのは都合が悪い。


「何で私を外すのよ!」

「どう見たって修太郎に肩入れしてるじゃないか。逃がしかねない」

「私もそう思う」

「ぐっ……」


 ここで信用しろ!と言っても無理だろう。鳴は不毛な言い争いはせず、精神力を温存することにした。


「いいだろ、鳴。どうせほっといても捜査するんだから」

「ええ、そうよ」


 真守は鳴の次の行動を読んでいた。だが、ここで意外な反応を見せる。


「しょうがない奴だな。なら、見張りは俺と神崎でやっておく。お前は好きにしてくれ」

「え? いいの?」

「修太郎の疑いを晴らしたいんだろ?気の済むまでやればいい」

「……うん!」


 案外真守は協力的な様だった。何だかんだ言って、彼も修太郎とは腐れ縁である。できれば彼が犯人であることは避けたいのだろう。彼の優しさに、鳴も少し元気づけられた気がした。


「じゃあ神崎、先に行ってくれ」

「おい、何で俺が先なんだよ!」

「五十音順だ。二時間交代にしてくれ。俺はアイツと闘って疲れた。少し寝る」


 そう言うと真守は自分の部屋に戻って行った。

 そして、鳴の最後の戦いが始まる。


「漆原さん。哲也君を監禁してた部屋の鍵は?」

「私が持ってるけど」


 という事は、犯人は哲也の部屋を開けた後、渚の元に鍵を返した、という事になる。もし修太郎が犯人なら、と考えると自然な行動だ。

 マスターキーは鳴が持っていたため、修太郎が接触できる人間は哲也と渚のみ。哲也に鍵を持たせると他殺であると確定するため、渚に持たせたのだ。


 といっても、修太郎以外の全員にアリバイは無いのだ。さっきだって、ダイイングメッセージと渚の証言をかなり強引にこじつけただけで、何の証拠もありはしない。唯一、本人の証言以外は。


――参ったなぁ。手詰まりだ。


 鳴は白旗を振れるなら振ってしまいたかった。普通推理小説や漫画では素人でも見つかる証拠が必ず残っているものなのだが。

 いや、まだ調べていない場所がある。哲也の部屋だ。


「私、哲也君の部屋に行ってくるね」

「はいはい。どうぞー」


 渚は既に事件の行く末には興味が無いようだった。

 鳴は三階に走って上がって行く。

 それを見送った渚は、ポツリと呟く。


「何も見つかりっこないけどね」


                       ******


 鳴が三階の殺人現場の前に行くと、何と真守が待っていた。


「来ると思ったよ」

「真守君、何で?」

「調べるんだろ?ここを」


 どうやら、真守も捜査を手伝ってくれる様だった。


「あ、ありがとう」

「後悔しないようにすればいいさ」

「優しいのね」

「腐れ縁だからな」


 鳴は、昔よく宝探しを四人でやっていた事を思い出した。


――私と、真守君、哲也君、そしてシュウちゃん。

 シュウちゃんの部屋におやつを隠し、一番最初に見つけた人がそれを食べられる。

 いつも私が勝って、皆が千鶴おばさんに泣きついてたっけ。


「懐かしいね」

「何の話だ?」


 その言葉で我に返った。捜査をしに来たのだ。思い出の場所とは似ても似つかぬ殺人現場で。宝探しなどではない。


「じゃあ、始めようか」

「OK」


 二人は早速調査を開始した。

 鳴は布団の下や床などを入念に調査し、真守はテーブルの上などをテキパキと探す。

 だが、何も見つからない。


「不自然なくらい何も見つからないな」

「まぁ、当たり前といえば当たり前だけど」


 全員が寝ていたのだ。

 証拠などいくらでも消せる。

 床に落ちている毛髪くらい残っているかと思ったが、箒で掃いたのか、ほとんど残っていない。残っていても恐らくその全てが哲也の髪の毛だろう。


「完全犯罪だわ、これじゃあ」

「警察に任せるしかないのか?」


 そう、現状を完全犯罪たらしめているのは鳴の捜査力が所詮は知識・経験不足の高校生レベルに留まっているからに過ぎない。

 警察が来れば、修太郎が犯人で無いならば、証明できるはず。

 だが、もし犯人が別にいてまだ殺人を続けるなら……。

 いや、それはないか?

 もしまだ殺したい人物がいるのなら、昨夜の内にドアを蹴破ってでも殺せたはず。どうせ誰もアリバイを持ってはいないのだから。

 という事は、殺人はこれで打ち止めということか。


「おい、どうするんだ鳴」

「……」


 鳴は考える。犯人は、明らかに証拠を隠滅している。少なくとも目に見える物は残していない。

 なら、残さざるを得ないタイミングを探す。

 響の殺害は?犯人に十分時間がある。

 なら涼の殺害は?

 時間は……無かったはずだ!


「甲斐谷君の部屋を、もう一度」

「いいだろう。見張りの交代まではまだ時間がある」


 真守は快く引き受けてくれた。


「そっちはどうだ?」

「無いわ、何も」


 涼の部屋でさえも、証拠がしっかりと隠滅されている。

 これでは警察がやって来ても見つけられるのは、せいぜいルミノール反応による血液認識ぐらいだろうか?犯人にはそこまでの余裕があったというのだろうか?涼の殺害だけは、犯人を除く全員がフリーだったはず。見張りもいるのだから、物音をたてれば一発でアウトだ。証拠を消す時間は無いはずなのに……。


 鳴は困惑した。本来の捜査とはかくも上手くいかないものなのか。所詮素人の捜査では、この辺が限界だと言うのだろうか。


「鳴。悪いが俺は見張りの時間だ」

「ゴメン。せっかく手伝ってもらったのに、私……」

「犯人が上手だったってことだ。違う視点から攻めてみろ」

「うん。ありがとう」


 鳴は涼の部屋に残り、真守は見張りを交代するため屋上へ向かって行った。

 ほぼ万策尽きた鳴は、涼の死体に向けて喋りはじめた。傍から見たら狂った光景だが、修太郎の親友たる涼の存在は死してなお、鳴には頼もしく思えてしまう。


「はぁ、甲斐谷君……私もうダメかも。あなたは一体誰に殺されたの?」


 そもそも、どうやって犯人はこの部屋に入ったのか?せめてそれだけでも分かれば……。

 窓から侵入したという説が最有力だ。しかし、窓は鍵が閉まっていた。という事は少なくとも窓から『出た』という事だけは有り得ない。なら、どこから『出た』のか?


「……ドア?」


 まさか、堂々とドアから入って、ドアから出た?そう、これしか考えられない。

 だが、見張りがいる。哲也と光が……。


「……ん?」


 その点に考えが至った瞬間であった。鳴には何かが頭に引っかかったような感覚があった。


――あれ?何か、見張りに関する重要な証言があったような気がする。


――シュウちゃん?


「……あっ!」

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