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「今すぐこの町から出なさい」
司祭は真剣な顔で二人に語りかけてきた。
「あんなのに完全に目をつけられたのでは、安心してこの町で生活していくことは無理でしょう。まだなにもされていないうちにお逃げなさい」
そう言って司祭は“先ほど”地面に投げ捨てられた金貨と硬貨を拾い集めた。
「幸いにも相手が選別を置いて行っていただけましたから、別の町に逃げられるでしょう」
そういって司祭は優しく2人に微笑みかけた。
2人ともこれ以上教会に迷惑をかけられないと思ったのだろう、お互いに頷き合うといそいそと準備するために立ち上がった。まぁ元々持っているものはそんなにない、すぐに準備ができるだろう。
「あの、司祭様」
シュンは遠慮がちに、司祭に声をかけた。
「サイズナー伯爵のお話は本当なのですか?」
あそこまで大見得切ったのだ。これがただの虚言だったのなら司祭の立場も危うい。無断で貴族の名を使うということはそれだけ重罪である。
「あなたが心配することはありませんよ。伯爵の縁組の話は本当です。以前アリシアを気に入っていた貴族夫婦を覚えていませんか?気が変わったらいつでもとおっしゃっていたので、別に嘘をついた覚え場ありせんよ」
そういって司祭はおかしそうに笑った。
「立ち話もなんですから、早く準備なさってください」
司祭にせかされて、すぐに準備を整えた二人はほかの仲間たちとお別れを告げ教会を出た。
「どうしよう・・・」
まるで道に迷ったうさぎのように心細そうにアリシアが囁いた。
「大丈夫、確かライズ湖のほとりにこのライズの町以外にももう一つ町があったはずだよ。まずはそこへ向かおう!旅の準備をするために少し買い物もしないと」
テキパキと方針をしめしてくれる頼もしげなシュンに安心したのか、アリシアは嬉しそうに手を握ってきた。
「これからは本当に一緒だね」
そのセリフが今はこそばゆい。これからは俺がアリシアを守っていかないと!
シュンは心にそう誓うと急いで準備を始めた。
買い出しも終え、少しあたりも薄暗くなってきたころ二人は隠れるように町から出た。不安な気持ちが二人の足を早めた。こんなに早く追ってはこないだろうという希望的観測と万が一という危機感に挟まれ、結局二人は今は急ぐことにした。
そしてあの日、アリシアが人質に取られた分岐路のところにきた。見覚えのある、しかしいい思い出などでは決してない場所で立ち止まると二人は固く手を握り合った。
「アリシアは俺が守るよ」
そう、それはもう決めたことだ。誰でもない俺がきっと彼女を守って見せる。アリシアはその言葉に嬉しそうに返事をした。
「私ね、初めてシュンが助けてくれた時からあなたのことが好きだったの。いろいろあったけれど、ううん、色々あったからこそさらにシュンが好きになったわ。私はあなたが側にいるだけで幸せだよ」
そう言って、アリシアは目を閉じるとシュンにキスをした。
一瞬なにをされたのか反応できなかったシュンは、頭がそれを理解すると顔を真っ赤にさせてアリシアを抱きしめた。
「お熱いねぇ~」
「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バ!と声のする方へ向くとあの悪魔のような赤髪が目に映った。
「ど、どうして・・・」
アリシアは震えながらシュンの服を掴んで握りしめた。目は不安そうに揺れていた。
「どうして?二人で道具屋で旅の準備でいりそうなもの買ってたらなんて考える?まぁ普通は逃げたって考えるよな?」
人の悪い笑みを浮かべて、してやったりとばかりに笑顔満面になる。そう、運悪く旅の準備をしているときにこいつらの仲間に見られたのだ。
「まさかこれほど早く逃げ出すとは俺も思ってなかったから、さすがに驚いたよ。これも神のお導きってやつか?はは、これから俺も敬虔にお祈りでもした方がいいかな?」
そう言って周りに控えている騎士に話しかける。話しかけられた方は人の悪い笑いを浮かべた。こいつらはシュンたちが教会から逃げてきたことを皮肉ったのだろう。この瞬間シュンでさえ神がいたのならの本気で呪ってやりたい気持ちだった。
「やれ」
無情にもその声は響く。相手は大人が4人ほど、それと赤髪。勝つのは絶望的だ。でも守るって決めたんだ!
「やめろ!」
アリシアを連れ去ろうとした男の腕も掴んで噛む。
「痛!!この野郎!!!」
ドガ!!ドス!!
シュンは殴られ、男二人に抑え込まれてしまい、どれほど暴れようとその拘束が解けることはなかった。
「嫌ーーーーー!!!!!」
アリシアの悲鳴が聞こえる、そちらを見ると既にさらに男二人にアリシアが抑え込まれているのが見えた。
「まったく手間かけさせやがって。大人しく最初から素直に従ってればもう少し優しく犯してやったのによ!ひん剝け!」
ビリ!!!ビリビリ!!!
アリシアの服が破かれたのがわかる。周りの男どもは、大人のくせに!騎士のくせに!!騎士って清廉潔癖じゃなかったかよ!こんな腐った大人ばっかの世界なんて滅んじまえ!
悔しさで涙がでる、噛み締めすぎた唇から血が滴った。
「い、いや・・・」
アリシアの悲鳴が弱くなる。目の前であの赤髪が自分のベルトをはずそうとしているのが見える。くそ!くそ!!なんで俺はこんなにも弱いんだ!!なんで一人の女さえ守れないんだ!!自分の力のなさに反吐がでる。
「殺してやる!殺してやる!!お前ら全員いつか必ず殺してやる!!」
全身から殺気を漲らせ、シュンは自分が今血の涙を流しているのではないかと錯覚した。
「は!貴様が?俺を?やれるもんならやってみろ!やれるんならなぜ今やらない。もうすぐ好きな女が犯されるかもしれねぇってのになんで今やらねぇんだ?」
フリューゲルは勝ち誇ったように笑った。
「シュン・・・殺して」
弱弱しい彼女の囁きがなぜか酷く耳に残った。もう、、、俺は死んだっていい、彼女が汚される前になんとかしなければ!肩が外れるほど思い切り暴れる。嫌な音が耳に響く。肩の関節が外れたかもしれない。でも一瞬戸惑った男の隙をついて抜け出す。そしてアリシアに向かって走り出した。
「止めろ!」
フリューゲルはズボンを脱いでいる途中だったためか反応が遅れた。残り二人もアリシアを取り押さえているために少し反応が遅れる。
ザシュ!!
背中に痛みが走る。後ろから切られたに違いない。でもそんなことにかまっている余裕はない。アリシアを抑えている男の一人の腰の指してあった短剣を抜き去るとと、それをそのまま振り上げ
アリシアの胸を刺した。
一瞬苦しそうにするアリシア。でも次第に表情がおどやかになり、弱々しくアリシアが口を開く。
「ありがとう」
そう聞こえた気がした。
フリューゲル貴様も殺してやる!
そもままフリューゲルに飛びかかり首を噛み千切ろうとする。しかし、アリシアを抑えていた二人にシュンは抑え込まれてしまう。
「くそ!くそ!!貴様も絶対に殺してやる!」
シュンの迫力にやられたのか、フリューゲルは顔を真っ青にして後ずさった。しかし、取り押さえられているはずのシュンに恐れをなした自分に気づいたのか、剣を抜くとシュンの心臓に向かって刺し貫いた。
「は、はは、やれるもんならやってみろよ虫けらが」
ごぼ、ごぼ
口の中から血が溢れ出る。目の前が徐々に真白くなっていく。しかし、最後まで敵の顔を忘れないようにとその顔を睨みつけながらシュンは息絶えた。
死亡を確認しました。
リプレイ開始します。
ローディング中・・・
インポート完了
リプレイを開始します。。。
いよいよリプレイしました(笑)
初めての小説ということもあり、書くことがこれほど難しいとは思いませんでした。細かな描写など自分の頭では描けている場面が言葉にすると薄っぺらくなる。
いかに世界観を出していくかがが今後の課題です。
皆さんに温かい目で見守っていただければ幸いです。とりあえずひと段落する場所まで書いたら、後はゆっくり更新していきます。