リプレイ1回目(3)
中々夜寝つけなかった。朝早くに目が覚めた。なんとなく嫌な予感がする。思い過ごしであればいいのだが・・・目が覚めてしまったものはしょうがない一人だけ早めに起きて、礼拝堂へと向かう。シュンは神に向かって祈りをささげる。
「朝早くからお祈りとは感心ですね」
「司祭様・・・早く目が覚めましたもので」
シュンは一瞬自分の夢の話をしかけたが、やはり信じてはもらえないだろうと飲み込んだ。
「司祭様、今日の畑の仕事ですが、皆お休みにできませんでしょうか」
確固たる根拠があったわけではない。しかし、もし自分が経験したことが本当に起こる可能性が少しでもあるならそれは避けなければいけない内容である気がした。だからこそついそのお願いがシュンの口をついて出たのだ。
「急にどうしたのです?何か理由があるのですか?」
「い、いえ、そういう訳ではないのですが、、、」
確固とした理由があったわけではない。理由を聞かれるだろうとは思っていたはずなのに、なにもそれらしいことを思いつきもしなかった。司祭はじっとシュンを見つめているだけで、それ以上なにかを聞くことはなかった。
「畑での仕事もまた立派な勤めの一つです。理由もなく休むわけにはいきませんよ」
「はい」
シュンもそれ以上司祭を説得することを諦めた。そうこう話しているうちに周りが騒がしくなる。どうやら皆が起きだしてきたようだった。一言失礼しますと断ってシュンは朝食へと向かった。
必死に頭の中で考える。本当になにか起こった場合、皆が無事で帰ってこれる方法はないだろうか。
!!
突然彼の中で閃く、簡単じゃないか!皆が行くのを阻止できないなら皆が帰ってくるのを少しだけ遅くすればいいのだ。いつもよりあの日は早めに帰ってこようとしていた。じゃあそれを普段通りの時間にするだけでいいじゃないか。シュンはそれを思いつくと早速今日の食事当番のところに行き、食事の時間をいつも通りの時間にしてほしいと頼んだ。相手は少し怪訝そうな顔をしていたが、司祭様に頼まれたんだと嘘をついた。一応は納得してくれたようである。
なにもなければいいが。。。とりあえず今日は気合を入れていこう!
とりあえず今日シュンは畑仕事についていくことを決心していた。
◇◇◇
「シュン、最近よく司祭様と一緒にいるよな。なにしてるんだ?」
最近は皆と畑仕事にいくことも少なくなり、教会にこもることが多くなったので皆気になっていたのだろう。
「司祭様に読み書きを教わっているんだよ。後は薬草の知識とか回復魔法とかね。毎回説法もされるけどね」
「うへ~、勉強ばっかりじゃねーか。じゃあ俺は畑仕事でいいや」
勉強だと聞いて興味が失せたのかそいつは畑仕事に戻った。この世界では識字率が高いわけではない。5割も超えない程度だろう。その5割の中も簡単な読み書きができるというレベルがほとんどである。なぜ識字率が低いかというと、文字の必要性自体がそこまでないからである。大抵の人は農業などの1次産業に従事している。必要でもない文字をがんばって覚えることなど、子供にとってみれば物好き以外のなにものでもないだろう。
日も少し傾いてきたころ
「よし!皆今日は早めに切り上げて教会へ帰ろう!ご馳走だぞ!!」
引率の青年が声を張り上げて皆に話しかける。それを聞いた皆は歓声をあげて、農具の片づけに入ろうとした。
「あ、ちょっとすいません!司祭様の言付で今日のご飯の時間はいつも通りになったそうです。早く帰ってもなにもありませんよ」
それに慌てたシュンが声を張り上げた。途端に周りからえ~という声が聞こえてきた。引率の青年も不思議そうに「そんな話は聞いてないが」と囁いていたが無視した。
「そういうことなら、もうひと踏ん張りしよう」
しかたなく、皆も休めていた手を動かした。
あたりも少し暗くなり始めたころ。いつもの帰る時間になったので、よほど早く帰りたかったのか皆そそくさと帰る準備を始めた。皆一様に嬉しそうな笑みを浮かべている。既に頭の中では食べ物のことでいっぱいなのだろう。正直シュンの心の中は穏やかではなかった。不安な気持ちだけは消えない。後は野となれ山となれと諦めたのか、自分も帰り支度を済ませ家路についた。
もうすぐあの分岐路というところで、シュンの緊張は徐々に高まっていった。
「あれ?なんか前の方で何人か人がいるよ」
先頭にいた青年の言葉にシュンはドキリとした。まさか!と思い急いで先頭に出て前方を眺める。少し薄暗くなりかけていたこともあって、少し見えずらくなっていたが、10人ほどの大人がいるのが見えた。しかも、その大人たちの頭上には明るい球がふよふよ浮かんでいる。皆物珍しそうに歩きながら遠くから眺めていた。徐々に近づいていくとやっと異変に気付いた。何かむわっとした鉄の様な匂いがしてくる。向こうでもこちらのことに気が付いた。
「誰だ!止まれ!!」
どうやら男の声のようであった。よくよく見るとあちらは皆鎧を装備しているところから見ると騎士かもしれない。そのうち声を掛けてきた男が頭の上に遠くからも見えていた明るい球状のものを浮かべながら近づいてきた。皆に緊張が走る。
しかし、男がある程度こちらに近づき、こちらがほとんど子供の集団であることに気づくと緊張を解いた。「なんだ子供か」男は表情を和らげて話しかけてきた。
「先ほど賊がでたんだ。子供は危ないから早く帰りなさい」
そういって男は元の場所に戻っていった。シュンたちもさわらぬ神に祟りなしということで、急ぎ足でその集団の横を抜けようとした。そして、かなり近づいたところで、大人たちに囲まれて地面に3人ほど横たわっている人間がいるのに気が付いた。一人は周りの人と同じ鎧を着ていることから仲間だったのだろう。後の二人は黒いライトレザーを着ていた。男たちの話声が聞こえてくる。
「指輪は見つからんのか」
「は、体を隈なく探したのですが・・・」
「まったく、どこに隠したんだ。これでは懲罰ものだぞ!」
なにか声を荒立てている様子だったので、子供たちは怖くなりさらに急ぎ足になって通り過ぎる。通り抜ける一瞬、シュンは地面に横たわっている人の顔が見えた。
!!!
思わず立ち止まってしまう。ジ!とその顔を見入ってしまう。こちらを見ているシュンに気付いたのだろう。先ほどの男が怪訝そうにこちらに振り向いた。
グッ!
シュンは腕が引っ張られるのを感じて、そちらに視線を向けると皆は既に少し前の方に行っていて自分だけが少し取り残されていることに気づいた。心配してくれたのかアリシアが少し戻ってきてくれていた。
「行こ!」
「あ、うん」
腕も引っ張られながら急いで皆に追いつく。正直シュンの頭の中はぐちゃぐちゃだった。あれは、あの顔は間違いない!夢に出てきた2人の顔でまったく同じだったのである。