落ちていたのです バレンタインSS
『落ちていたのです』のバレンタインSSです。
音々が、いつもより甘えたさんかも。(^^)
≪音々の2月13日≫
「音々はどうするの?バレンタイン。」
横に座っている親友の堂川茉実≪どうかわまみ≫が聞いてきた。
「どうするって?どゆこと?」
私、三谷音々≪みたにねね≫は聞き返した。
「うん。チョコをね、手作りするの?それとも買いに行くの?ってこと。」
「あ~。どうしよっか~、ってもう明日でしょ。まだ用意してないわ。茉実はどうするの?」
今度は私が茉実に聞き返す。
茉実は先日彼氏ができたところ。彼氏が茉実にぞっこんなのよね。あっまあま。『熱すぎてポッケのチョコが溶けちゃうくらい~♪』とはよく表現したものだ。
「ほんと、こんな間際まで用意してないの私たちくらいね~。」
「って、茉実も用意してないの?」
「あは~。」
笑いあう私たち。いや、笑ってる場合じゃない!
「今日、私んちで一緒に作らない?」
茉実が誘ってくれた。
「いいのー?わーい賛成!塾もないしね。」
私ももすぐさま同意。
「じゃ、そう言うことで。」
相談は至極あっさりとまとまった。
「今日は茉実の家に遊びに行くことになったの。だから、朔は先に帰ってて?」
昼休み、学食でお昼を食べながら私は永山 朔≪ながやまさく≫-一応私の彼氏-に言った。
「ふーん、珍しいな。わかった。帰り迎えに行くから。」
あっさりと了承する朔。
「って、蝙蝠姿で茉実んちの軒下にいるんでしょ?」
「まあな。」
「ま、いっか。」
キッチンまで覗けないだろうしね。
お楽しみは明日まで置いとく方がいいじゃない?
放課後。
ホームルーム終了と同時に教室を出た私たち。
茉実の家は、学校最寄駅から一駅。私の家とは反対方向の電車に乗る。
駅前のスーパーで製菓材料を調達してから茉実の家に向かった。
とりあえず初心者でも簡単なチョコレートケーキを作ることにした。
「えーと?チョコレートを刻んで湯煎にかけて溶かす?」
ザクザクザクザク。ざらーっ。茉実が手際よくチョコレートを刻む。
「バターを火にかけて溶かす。ノワゼット状まで焦がす?何、このノワゼットって!?」
焦る私。ノワゼットってなんじゃ??
そこへ茉実のお母さんが助け船を出してくれる。
「ノワゼットっていうのはね、バターの焦がし加減なんだけど、ほら、焦げてきたらアーモンドみたいな香りがするのよ。そしたら終了。」
アーモンド臭・・・アーモンド臭・・・青酸カリ?!←ミステリの読みすぎ。
ナイスアシスト!茉実のお母さんはお菓子作りが得意だから助かるぅ!!
茉実んちにして正解だったわ。
後は小麦粉やアーモンドプードルなどの材料と混ぜ合わせるだけ。
ノワゼット以外は結構簡単にクリアできた。
15分後。
チーン!!
という音とともにオーブンを開けると
「「きゃーーー!!いい香り!!」」
きゃいきゃい喜ぶ私と茉実。
味見に一つづつ食べた。
「「美味~~~!!私たち天才!!」」
可愛くラッピングして明日に備えた。
≪朔の2月14日≫
昨日、音々は友達の堂川さんのところへ行った。
何しに行くかなんて聞かなくてもバレバレ。
ま、でもそこは聞かないのがマナー。
そもそもヴァンパイアのオレに、バレンタインとか関係なかった。
音々に出会うまでは。
学校なんてとこに通うこともなかったし、こんなに人間まみれの生活なんてしたことなかったからな。
音々は、
「バレンタインというものは、そもそもお菓子業界の陰謀で、恋する女子をそそのかして告るついでにお菓子を手土産に持っていくイベント」
と、人差し指をぴっと立てて堂々と言い切っていたが。
それはおそらく歪んだ解釈だろ、音々。
「主に女の子がチョコを渡しながら告白するイベントだけど、最近は女の子同士とかで渡し合ったり、外国じゃ男の人が女の人にプレゼントを上げたりもするんだよ。」
という堂川さんの説明が正しいのだろう。
で。
なぜか音々と一緒にいない隙をついて、女子がチョコを渡しに来る。
告白するイベントなんだよな?
なんで彼女持ちのオレにチョコ渡す?意味わかんね。
「オレ、彼女いるからもらえないよ。」
ちゃんとお断りするんだけど、
「いいんです。貰ってもらえるだけでも!!」
って、ますますわからんし。
ほぼ押し付けるような状態で、走り去っていく。で、誰だったんだよ?あの子。
ぽかーんと後姿を見てると、
「・・・永山くん?おモテになるわねぇ?」
後ろから声がかかる。いつもより低い声。
「っ!!音々!」
振り向くと、じと目でこっちを見ている音々。
「ふーん、結構もらったねぇ。朔。これじゃ、もう私からなんて要らないよね~。虫歯になっちゃうもんね~。虫歯になったら血も吸えないしね~。」
ぷいっと踵を返して教室に向かう音々。
こりゃ、完全に機嫌を損ねた。
っつーか、オレのせいじゃないだろ?
オレ、断ったし?
くっそー!押し付けってったヤツ!どーしてくれんだよ!
昼休み。
学食で音々、堂川さん、堂川さんの彼氏の泉原≪いずはら≫と一緒にランチを食べる。
「おおっ!!泉原くんは全部断ったの!?すごい!!拍手拍手!!!!」
パチパチパチ~!!
なんだよ、音々。当てつけか?
「みんな、茉実と付き合ってるの知ってるから、今年はそんなに多くなかったしね?それに茉実のしか要らないから。」
・・・爽やかに笑うな泉原。音々の視線が痛いだろ。
「ふふふ、永山くんは押し付けられたみたいね?音々、いじめちゃだめよ。」
針のむしろな気分のオレに、ニコニコしながら堂川さんは言ってくれるが、音々の視線は痛いまま。
「いいのいいの。鼻の下のばしてりゃいいのよ。」
すっかり不機嫌モード。
あーもう。
それから放課後まで、オレはしっかりきっぱり断り続けた。
「音々のしか要らねーし?これ全部捨てるぞ?」
家に帰ってからも、まだ不機嫌な音々。
お手上げだ。
「・・・朔が、ちゃんときっぱり断ってくれないから押し付けられるんだよ。」
不機嫌から拗ねモードに変わった。
「うん、ごめんて。」
音々の頬はまだ膨らんだまま。
「・・・泉原くんみたいにきっぱり言わないのがいけないのよ。」
「うん。ごめん。」
「・・・もう、いい。知らない。出て行け。」
ぷいっと、背中を向ける音々。
「オレは音々のしか要らないからって言ったんだけどな?どうしたら機嫌直す?」
拗ねモードから弱気モードになった音々を後ろから抱きしめる。
あー、これって妬いてんだよなぁ。
不機嫌なのは困るけど、かなりかわいいかも。
ニヤケそうになりながらも音々をなだめていると、腕の中の音々がぼそりと言った。
「・・・貰ったチョコ、全部よこせ。」
「は?」
「食ってやる・・・!!」
食うって、10個くらいあるけど?
じと目の音々と目が合う。いや、文句はありません。どうぞ。
「それで気が済むのなら・・・」
今日貰ったチョコを全部音々に差し出す。
「その代わり、音々のをくれよ?」
「・・・どうぞ。」
やっと、音々のチョコ(実際はケーキだけど)がお目見えした。
あーマジ、もう会えないかと思った。
音々がチョコを全部食ってるのを横目に、オレは音々のチョコレートケーキを堪能。
よくあんだけ食えるよ。
そんなに甘いものが好きな方ではないオレには理解できない。
最後にもらった音々のキスは、がっつりチョコの味だった。
次の朝。
「ぴきゃーーー!!ニキビがぁ!!」
音々が洗面所の鏡を見て叫んでいる。
当たり前だ。どんだけチョコ食ったよ?
音々、ちょっとやきもちさんでした。
読んでくださってありがとうございました!