第1話「仮マスター爆誕」
画面に出た称号が、俺を煽ってくる。
《ダンジョンマスター(仮)》……仮って何だよ。
その瞬間、入口で誰かが「どさっ」と倒れた。
薄暗い空間に、半透明のウィンドウが浮かんでいる。
青白い光がひんやりとした石造りの壁を照らし出していた。
空気は淀みカビと湿った土の匂いが鼻を突く。
ここは俺が目覚めた場所。
そして俺が管理することになった『ダンジョン』だ。
前世の記憶はおぼろげだが、気がつけばこの地下空間に立っていた。
世界は『布』でできているらしい。
地上は表布。地下は裏布。
ダンジョンとは、現実のほつれが固着してできた空間。
そんなファンタジーな知識が、目覚めた瞬間に頭の中へと流れ込んできた。
そして俺に与えられた役割が、この空間を運営するダンジョンマスター。
響きだけはかっこいい。
強大な魔物を従え、罠を張り巡らせ、侵入者を返り討ちにする悪のカリスマ。
そんな姿を想像して、俺はステータス画面を開いたのだ。
だが、そこに表示されていたのは、目を疑うような残酷な現実だった。
【名前】ユウ
【職業】ダンジョンマスター(仮)
【迷宮ランク】未登録(書類不備)
【配下魔物】0体
【設備】なし
【資金】0
何度見返しても、文字は変わらない。
(仮)という一文字が、俺のちっぽけなプライドを容赦なくえぐってくる。
「書類不備ってなんだよ……!」
思わず声に出してツッコミを入れるが、むなしく石壁に反響するだけだ。
どうやらこの世界には、神殿が運営する『迷宮管理局』なるお役所が存在するらしい。
俺のダンジョンは、心臓部である『コア』が欠損しているため、正式な迷宮として認められていないのだ。
未登録の違法迷宮。
それが、俺のダンジョンの現在地だった。
神殿の連中は、未登録の迷宮を『ほつれの異常』として処分対象にしているという。
つまり、見つかれば即座に討伐隊が派遣され、俺ごと更地にされてしまう。
冷たい汗が背中を伝う。
肌を撫でる地下の風が、やけに冷たく感じられた。
魔物もいない。罠もない。
あるのは、ただの薄暗い洞窟と、俺という無力な(仮)マスターだけだ。
どうやって身を守ればいい?
どうやって生きていけばいい?
胃のあたりがキリキリと痛み出す。
現場監督として、導線やルール作りに命を懸けていた前世の記憶が、かすかに蘇る。
そうだ、まずは現状把握と、安全確保のためのルール作りからだ。
俺がそう決意し、立ち上がろうとしたその時だった。
ドサッ――。
洞窟の入口付近から、鈍い音が響いた。
石の床に、重いものが崩れ落ちるような音。
俺は息を呑み、足音を忍ばせてそちらへと向かった。
討伐隊か?
それとも、はぐれ魔物か?
心臓が早鐘のように打ち始める。
冷たい石壁に背中を預け、そっと角から顔を出した。
そこにいたのは、予想だにしない存在だった。
純白のドレスを身にまとった、一人の少女。
銀糸のような美しい髪が、汚れた床に広がっている。
透明感のある白い肌は、血の気が失せて青ざめていた。
華奢な肩が、微かに上下している。
生きている。
だが、なぜこんな薄暗い未登録迷宮に、こんな可憐な少女が?
俺は警戒を解ききれないまま、一歩だけ前へと踏み出した。
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