終
「しかし、最初はお前がおかしくなったかと思ったよ」
「ん? 何がだ?」
「ラザルの事。あれどういう感覚だったんだ?」
「どういう感覚? 感覚も何も、お前達と一緒にラザルの声を聞いていただけだが」
そう言うと不思議そうな顔をしてヴァルドとリシアは顔を見合わせた。そして数秒後、一斉に二人して噴き出した。
「なんだ。何を笑ってるんだ」
「はは、やっぱりお前だけは分かってないじゃないか」
全く二人の言葉も笑われている意味も分からない。
「無理もないか。お前は器みたいなもんだったんだから」
「器だと?」
「最初何が起きたのかと思ったよ。急に一人二役みたいに喋りだすんだから」
「一人二役だと?」
そこで私は、私だけが知らない呆れた真相を聞かされた。
「ラザルはお前の中にいたんだよ」
*
『気付くのがおせぇんだよ、間抜けな勇者様よ』
『また会えたな、お前ら』
紛れもない、死んだはずのラザルの声。
あの時、その声を平等に二人も聞いていると思っていた。だが状況は少し違った。
確かに声はラザルのものだった。だがその声は私の口から発せられていた。
霊体だから見えないものだと思っていたがそうではなかった。
一人二役。傍から見れば、私が声色を分けて一人で空想のラザルと喋っているようにしか見えなかったそうだ。
「ラザルは霊体で実体がなかった。だからお前の身体を一時的に借りていたという事だったんだろう」
やけに視界が明転するなと思ったが、どうやらそれがラザルのターンだったという事なのだろう。喋るたびに自由を奪われていたのかと思うと、ずいぶん乱暴な乗っ取り方をしてくれたものだなと思う。
ただ、実体がなかったというのは本当にそうだろうか。
スクエアの最後、私はラザルに触れている。きっとあの瞬間私の中に入られたのだろう。
そしてその時ようやく分かった。
「結局、私だったんだな」
ラザル降臨が判明した時、全ては彼の犯行だったと勘違いしていた。
『わりぃわりぃ。なんか霊体になったら身体も持ち物も全部なくなっちまってよ。それでちょいとあんたの短剣借りたぜ』
「借りたのは私ごとだろう」
さすがは盗賊。私は彼に一時的に身体と意識を盗まれていたのだ。
密室でのスクエア殺人。これは別にラザルという超常的な存在がなくとも容易に成立する。私が元いた位置に戻りガレスを刺せばいいだけ。そしてそのまま何食わぬ顔でリシアに触れスクエアを続ければいいだけなのだから。
Ⅰ
④レオン(⑤ラザル憑依)← ③ガレス
↓ ↑
①リシア → ②ヴァルド
▼
Ⅱ
× →④レオン(ラザル憑依)
↓殺害
③ガレス×
↓ ↑
①リシア → ②ヴァルド
▼
Ⅲ
× ③ガレス×
↓ ↑
④レオン(ラザル憑依)
①リシア → ②ヴァルド
密室下で起きた事件への混乱で思考が鈍っていたが、実際に起きた出来事は始めにヴァルドが指摘した通り、私がガレスを刺したというだけの事だったのだ。
「ガレスの盛大ないびきに隠れて移動し、いびきの間に一気に心臓を一突き。強引なやり口だな。気付けなかった自分達もどうかと思うが」
「最悪気付かれても良かったんじゃないですか? 全部俺の仕業でしたーって、得意げに言いそうですもん」
ガレス殺害という目的さえ達成すればスクエアをわざわざ続ける理由なんて本当は全くないのだ。なのにスクエアをわざわざ続け私達を混乱させた。
それは単純に私達への悪戯だったのだろう。だがそれだけではないと思っている。
リシアへの照れ隠しのメッセージ。スクエアで呼んでくれた感謝。私の身体とはいえ、彼女に触れたラザルは何を想っていたのだろうか。
「今頃また笑われてるのかもしれんな」
苦笑とはいえ、ヴァルドは笑顔を浮かべていた。 彼女の笑顔を見たのは、ひょっとしたらこれが初めてかもしれない。
『だが大丈夫だ。お前は正義だ。魔王を討つ勇者だ。お前はちゃんと、皆を守ったんだ』
私は肉体を貸しただけだ。私だけではガレスを殺すことはできなかっただろう。だからこそのメッセージだったのかもしれない。
形はどうあれ、仲間だった男を私は自分の手で殺した。裏切者への断罪として、仲間を、世界を守るためにやるべき事をやったんだと刻み込むために。
ーーいや綺麗すぎるか。
考えてみたもののラザルにはどうも似合わない。真実はどうであれ、私達の困惑する姿を見たかったなんていつもみたいな憎まれ口を叩いている方が彼らしい。私の正義は悪戯に利用されたのだ。
しかし、もうあってはならない事だ。
正義は正しく振るわれなければならない。利用されるなんて決してあってはならない事だ。もしやそんな意味まで含んでいたのだとしたら、ラザルという男は大した奴だ。
私達は再び魔王を討つべく歩き出した。




