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「レオン、これは……一体何が起きてる?」

「どういう事ですかこれ? 儀式は、成功していたという事ですか……?」


 困惑するヴァルドとリシア。だが私には確信を持って言えた。


「ああ、ラザルはここにいるよ」


 ヒヒヒと悪戯なラザルの声が響いた。


「どうして早く言ってくれない」

『悪い悪い。あたふたするお前らが面白くてよ』

「全く死んでからもお前って奴は……」

『まあまあ、種明かしをしてやるから許してくれよ』


 ラザルが話す度に視界が明転するのが鬱陶しいが、ようやく彼の口から事件の真相を知る事になった。


『お察しの通りガレスは裏切者だ。俺はあいつに突き落とされた。俊敏な俺様が足滑らせて落下死だなんてあり得ねえだろ』

「やはりそうだったのか」

『正直クレバスに落ちてからの記憶はねぇよ。あまりに底なしでいつ死んだかも分からねぇ。ただそれからの出来事は俺自身の死が間違いないって事を物語ってる』

「スクエアは本当に降霊術だった」

『その通り。俺は霊体として再び現世に戻ったわけだ』


 得意そうな声音はまるで生きているようにしか思えない程溌剌としていた。


「なるほどな。真相が分かってしまえば拍子抜けだな」

『言ってくれるねヴァルド。感動の再会だぞ。涙の一つぐらいつーっと流してくれよ』

「こんな再会じゃ泣けん。やり直しだ」

『もっかい死ねってか? 勘弁してくれよ』


 軽快なやり取りが懐かしい。どうやらヴァルドは既に聞かずとも全てを理解したらしい。


『まぁ確かに簡単な話だな。レオンまでのスクエアが一周する事で術は成立。そこでぽっかり空いた席が俺への特等席として用意されたわけだ』 



一週目の最後

 

 ⑤ラザル   ←    ③ガレス

       ④レオン    

     

   ↓           ↑      


 ①リシア   →    ②ヴァルド 

 



 密室だなんだと散々振り回されたが、それは全て物理的な問題に限った話だ。

鍵、シールド魔法。これらはあくまで外部からの侵入を物理的に妨げる策に過ぎない。しかしあの世とこの小屋の内部を直接繋げてしまう降霊術となれば、こちらが構築した密室などまるで意味を成さないというわけだ。


『後は簡単だな。俺は招かれざる客。存在しない人間、いわば透明人間だ。そうなりゃやりたい放題よ』

「それでお前はガレスを。しかしどうしてわざわざ私の短剣を使った?」

『わりぃわりぃ。なんか霊体になったら身体も持ち物も全部なくなっちまってよ。それでちょいとあんたの短剣借りたぜ』

「おかげで皆に疑われたぞ」

『違う! 俺じゃない! ってな。いいもん見れたぜ。死んだ甲斐があったってもんだ』


 全く死んでからも憎めない男だ。


「ラザル。また会えて良かったよ」


 遅れて涙が込み上げた。大事な仲間だった。あまりに活き活きとした声で忘れそうになるが、彼はもう死んでしまっているのだ。それがたまらなく辛く悲しかった。


『良かったよ。あいつに皆殺しにされなくてな』


 ラザルの声から皮肉と調子者の空気が少しだけ抜けた。


『レオン、お前は優し過ぎる。ガレスが裏切者と分かってもお前じゃ殺せなかっただろう。だがな、これが魔王のやり方だ。汚く、狡猾で、容赦がない。お前が倒すべき相手とはそういうもんだ。よく覚えとけ』

「ああ、身に染みたよ」


 勇者であれば身近にいる敵にいち早く気付き排除するべきだ。私はその役割をまるで果たせなかった。


『だが大丈夫だ。お前は正義だ。魔王を討つ勇者だ。お前はちゃんと、皆を守ったんだ』

「そんな事はない。私は、お前を守れなかった」

『ぐちぐちうるせぇよ。俺が未熟だっただけだ』

「ラザル、本当にありがとう」

『気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ』


 声だけでも彼が照れているのが分かる。全く素直じゃない男だ。


「ラザル、その調子なら地獄でも平気そうだな」

『地獄でお前と会える日を楽しみにしてるぜ』

「あたしが地獄? 馬鹿言わないで。天国行きに決まってるでしょ。お前とは違うんだよ」

『相変わらず憎たらしい野郎だ』


 口ではお互い罵りつつも、そこに再会の喜びがあるのは明らかだった。素直じゃない者同士だが、本心があまりにも透けて見えていて微笑ましかった。


「ラザルさん」

『よう、泣きはらしてひでぇ顔だな』

「あなたのせいですよ。どうしてくれるんですか」

『こんな奴、二度と会いたくもなかったか?』

「……ずるいですよ。分かってるくせに」

『リシア』

「はい」

『ありがとな』


 リシアは堪らずその場で泣き崩れた。こうやってラザルに再会できたのも、彼女がラザルの言葉を覚えていたからだ。気付かなかったが、この二人の間にしかない別の絆というものがあったのかもしれない。


『さて、用は済んだ。また儀式で呼べばいいなんて都合いい事は考えるなよ。これは特別の一回限りだ。次にやった時はガレスが来ちまうかもしれんから無暗にやるんじゃねえぞ』

「それだけはごめんだな」

『じゃあな、倒せよ魔王』


 その言葉を最後に空気が戻った。


「消えたか」


 ヴァルドの声はどこか寂し気だった。

 リシアはまだ涙を流し続けている。

 

 聖剣を掲げ、そこに映る自分の顔を見つめる。

 

 ーー魔王を必ず倒す。

 

 もうこれ以上、仲間を失うわけにはいかない。

 私は正義の勇者なのだから。

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