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「違う! 私じゃない!」


 思わず声を荒げた。

 ガレスは絶対に失いたくない、失ってはならない仲間の一人だ。魔王討伐において彼ほど頼れる戦士はいないのだから。


 そのガレスを、私が殺す? あり得ない。


「じゃあれは何だ?」


 ヴァルドの指差す先に倒れるガレスの死体。そして彼に突き刺さった短剣。聖剣とは別に携えた補助用の短剣は、間違いなく私のものだ。


「確かにあの短剣は私のものだが、私ではない」

「ではそれは何だ?」


 ヴァルドに向けられた冷たい視線を追う。

 私の衣類に付着した黒ずんだ赤。両掌を静かに開くと、こびりつくような同じ赤が染みついていた。


「ガレスの返り血としか思えんが?」


 冷徹なまでの無表情。だがその中に沸々とした怒りが燃え滾っているのは明らかだった。

 表面だけ見ればヴァルドはガレスを疎ましく思っているように映るだろう。だが旅を続けてきた仲間であれば分かる。その内面は絶対的にガレスを信頼し、ガレスの攻撃とヴァルドの魔法の連携はまさに阿吽の呼吸のように見事だった。


 彼女もまた犯人ではない。だからこそ疑わしい自分以外の全てに、仲間を殺した怒り憎しみが向くのは当然の事だった。


 ーー違う。違うはずだ。


 私であるはずがない。昨夜の記憶にそんな行動は一切刻まれていない。私が犯人でない事は私が一番分かっている。そしてヴァルドもきっと違うだろう。私の自然と視線はリシアに向く。リシアは怯えたような表情でふるふると首を横に振る。


「私ではありませんよ」


 私はほっとした。この中で一番人殺しなどという残虐な行為からかけ離れているのがリシアだ。彼女が犯人なわけがない。だとすれば答えは簡単だ。


「信じてもらえないかもしれないが私ではない。ならば私達以外の何者かが小屋に侵入しガレスを殺したに違いない。そしてその何者かは私に罪をなすりつけたんだ。犯人を追わねば」

「あり得んな」


 扉へ向かって歩き出そうとした私の足はヴァルドの貫くような言葉で止まった。

 ヴァルドは私の横を通り抜け入口の扉の前に立ち私達に向き直った。


 ガチャガチャ。


「入口は内側から施錠しただろ」


 確かにそうだ。外部からの侵入を防ぐために小屋に入った時点で全員で施錠は確認していた。


「それだけじゃない。窓はついているがまず人間が通れる広さではない。それに凍結していてそもそも開く事もできない」


 ヴァルドは淡々と外部犯の可能性を潰していく。


「そしてもう一つ。これが外部犯ではない最大の理由だ」

「最大の理由?」


 その瞬間、リシアが横ではっと声を上げた。


「……シールド魔法」


 リシアがぽつりと呟いた。

 入口、窓。物理的な理由はもちろん、この山小屋を完全な密室にしたもの。それは私達を護る為に構築された防御魔法。何人たりと侵入を許さない鉄壁の防御。皮肉もそれこそが外部犯の可能性を否定した。


「犯人はこの中にいる」


 ヴァルドは静かに、たが強く呟いた。

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