先輩
彼氏に告白される前、サークルの先輩にご飯に行こうだの映画に行こうだの頻繁に誘われていた。
明らかにこちらに好意があるのが分かる先輩だった。
鈍感な私でも分かる。
しかし交際人数が片手で余裕で足りる私は先輩のとんがった靴が怖かった。
「あーまぁ予定が合えば」「このイベントの打ち上げで沢山話しましょう」と言って、2人きりになるのを避けた。
単純に怖かった。
大所帯のサークルの中で何で私なのか。
読者モデルの可愛い人、街を歩いていたら必ずスカウトされる美人な人、明るく面白い人もいるし、笑顔が眩しくてこちらがニヤけてしまう人もいる。
その中でなぜ私なんだ…。
自分に向けられた好意に裏があるんじゃないかと勝手に疑って、何なら私ならすぐに付き合えると思われている、馬鹿にされているのかもしれないと疑った。
なぜ純粋に先輩と向き合う勇気を持てなかったのか、今でも不思議だ。
2人でご飯1回くらい行っても良かったよなぁ。
先輩が就活で内定決まったおめでとう会に参加した。
2次会で「2人で抜け出そう」と言われて断る理由がなかったので行った。
告白されるんだろうなと思いながら入ったBARは、心地が良いBGMが流れており、そのオシャレさに引いた。
大人の世界が広がっていた。
その空間に場違いな小娘の存在は、どう見ても浮いていただろう。
どう座って良いのか、足の置き場も分からない高い椅子。
何を注文したとか、何を飲んだとかは全く覚えていない。
ただ、目の前でシャカシャカしているのを見ながら「ドラマみたいだ…」と小声で呟いたら
いつもの柔らかい笑顔をこちらに向けながら「俺もまだ飲んだことないカクテル沢山あるから、良かったら一緒に挑戦しよう。ここのマスターは全部飲みやすくしてくれるよ。」と微笑んでくれた。
マスターとやらは「またまた難しいことを…出来る限りご希望にお応えしますよ。」と私に目線を送りながら微笑んだ。
ピアノの生演奏をしているのにも驚いたし、一曲リクエストどうですかと聞かれるのもドギマギしたし、緊張した中で「ショパンでお願いします。」と無理矢理絞り出した答えで「愛の夢」という曲を弾いてくれた。プロはすごい。
サークルのこと
卒論のこと
就活のこと
趣味のこと
お酒のこと
沢山の話をした。
お互いお喋りが止まらないため、あまり呑めなかった。
呑む暇がなかったと言っても過言ではない。
8階のフロアのBARにいる人間全員が、私と先輩を柔らかい視線で見守っているような感覚だった。
今考えたら、先輩はそこの常連さんだったんだろうな。入店から注文までスマートだったし。
座る席も案内されてないのに真っ直ぐ向かってたし。
私の話もしていたんじゃないかな。
こんな風に考えるのは都合が良すぎるだろうか?
BARの帰り道で予想通り告白されたけれど、20歳になったばかりの私は、全く分からない未来に恐怖を覚えて断った。
優しすぎる先輩に飛び込む勇気も度胸も持ち合わせていなかった。
あの時、先輩を選んでいたら全然違う未来だったんだろうなぁ。
なんて、無駄な思考をする土曜日の午後。




