あたった
庭の低い囲いに、小さな戸がつき、そこから敷いた石が池のほうへ続いていた。
タキちゃんがその戸をひらいてこちらをみていた。
そうしてはいった庭は、池にたどりつくまでが遠くて、その途中にあった小さな離れの障子がいきなりひらき、白い髪が逆立った年寄が顔をつきだし、こちらをじっとみた。
あやまってにげようか、それともこのままにげようかまよったところで、そのとしよりが「そこの童」としわがれた声をだした。
きっとこれがあの、ウラカタをするという婆さまだ。その両の目は白くにごっていた。
「 おまえはそれをこどもにやろうとするが、やめておけエ。 いまと変わらず用心しておけえ、用心しておけえ 」
『こどもにやる』? いや、妹も弟もいない。
「 あ!おい、どこの童じゃ、ここは村長のお庭じゃ! 」庭の手入れをしていたらしい男につかまり、また、タキちゃんはうまく逃げ、あたしだけがひどく怒られた。
おかしな色の空をみあげ、貝を、タキちゃんのこどもに持っていくのはやめようとおもった。
いまはもう死んでいない、あのウラカタの婆様は、あのときにはもうボケていたという話だし、『いつ』ということもいわなかったが、たしかに『こどもにやろう』としたのだから、用心しようとおもった。
次の日、きのうわけた貝の毒に何人かあたって、騒ぎになった。
「 うちのは毒にあたらんかったが、もうタキのところに、なにかもっていこうなんて思うなよ。貝なんかより、よっぽどいいもん食うておるんじゃ」
夫にそういわれて、そうか、とおもった。
それに、あの婆様の言ったことは当たっていたのかもしれない。こどもだけ毒にあたったという家もあったのだ。
やっぱりあのとき村長の庭にはいっていてよかった。ばあさまの言ったことを思い出したから貝をもっていかなかったのだから。
そう夫にいうと、あきれたようにわらわれた。




