見たい
「ほれ、海の神様の祠をみてこいゆうて、おまえだけ溺れて流されかけたり、村長の家の庭に勝手にはいって、親父さんにえっらいどなられたじゃろお」
村長の家のにわ?
「 ・・・・あ 」
「思い出したか?まあ、それでもおまえ、タキにくっついておったもんなあ。姉ちゃんみたいなもんとおもっとったんか」
夫のわらうこえをきいていたら、どんどんとおもいだした。
村長の大きな家の大きな庭。
白い砂の浜には行ったらいけないと親にいいきかされていたのに、タキちゃんが行こうといったのだ。
「白いきれいな浜、見たいじゃろ?」
たしかに、見たかった。
たしかに、しろくて、きれいな浜だった。
「あっちにな、この浜よりずっときれいなところがあるんよ」
タキちゃんが先にあるいていったその先に、大きな家がみえた。さすがにそれが村長の家だというのはすぐにわかった。
みつかったらおこられる。
そういって着物をひくと、タキちゃんはいつものようにはっきりとくちにした。
「 そんなん、みつかるかわからんよなあ。ここのおおきくてきれいな庭をひとまわりしてみんとなあ。ほれ、みてみイ。庭に池がある。なんじゃ、あかい魚がおよいどる」
たしかにタキちゃんがゆびさした庭には池があり、赤い魚がみえた。
そうするとまた、タキちゃんが「みたいじゃろ?」ときいてくる。
そうだ。いつもこうやって、けっきょくこちらが、その危険なところへ先にゆくことになるのだ。




