ともだちの分
ここで終わります
ダイキチは急須に鉄瓶の湯をそそぎながら、はなしだす。
「 『先生』のはなしをきいたら、ヒコイチさんならきっとその『薬売り』のことをくちにして怒るだろうと、先にそう言ったのはわたくしでございます。そうすれば、くちにしたヒコイチさんが『薬売り』をひきよせて、姿を現すか、または、どこかでその名を耳にすることになるだろうとふんで、ヒコイチさんにこのおはなしをきかせようということになりました。 気を悪くされることはないだろうと、わたしは言ったのですが、『先生』はヒコイチさんをだますようなことになるので、心苦しいとおっしゃってましたなあ。わたくしは、このとおり太々(ふてぶて)しい年寄りでございますから、つかえるものはつかったほうがよいと」
「そりゃそうだ。つかえるンならつかってやってくださいよ。それにね、 ―― もしその『薬売り』ってのに会えたら、おれも呼んでくださいよ。『先生』がタキちゃんの分でぶんなぐって、おれが『あたし』の分でぶんなぐってやりやす」
「おお、そりゃあ見ものですなあ。それではカンジュウロウさんもさそってまいりましょうか。しあげにひっかいてやるでしょうなあ」
ヒコイチとダイキチがわらって、見物用の席をつくろうかとはなすのに、ようやく顔をあげた女は、くちをむすんだまま、泣くのをがまするこどものような顔をしていた。
ヒコイチは、このヤオビクニの『先生』が、どうしてこんなに人がいるところで暮らすのか、そのわけがいま、わかった気がしたが、そんなことはどうでもいい。
ただ、この二人がいるこの『お屋敷』へ、どうしていつも足がむくのか、そのわけもいまわかったので、くちにした。
「 『先生』、おれはね、いっつもこのお屋敷に寄って図々しく飯もくわせてもらってて、たまに松庵堂のまんじゅうを持ってくるだけのケチな男だが、まあ、その、なんだ、こういう男と『友達』になっちまったんだから、しかたねえとあきらめてくれ。 ―― だから、そのただ飯食いの友達を、たまにうまくつかうぐらい、なんともねえことでしょ? おれはね、『先生』に『あてに』されたってことが、まず、うれしい。そんで、このことを恩にきせて、これからも堂々と飯をくいに寄れるってのが、なによりうれしいねエ」
『先生』が、泣くのをやめた子どもみたいなわらい顔をした。
ダイキチが、ヒコイチをほめるように肩をたたいてから、『先生』の顔をのぞいて、「お茶がはいりましたよ」とやさしく言うと、こどもみたいに顔をくずした『先生』が、「 ・・ううう~」とこどもみたいな声をもらして泣き始め、すぐにたもとで顔をかくした。
このさき、もしほんとうに先生が『薬売り』をみつけたのなら、ヒコイチは、駆けつけて、本気でぶんなぐってやろうとおもう。
そのときは、もちろん、『タキちゃん』のぶんと『あたし』のぶん、
それと、『先生』の分もしっかりといれてぶんなぐるだろう。
めをとめてくださった方、おつきあいくださった方、ありがとうございました!




