よこさず いれず
「 ―― だからね、待ってたんよ。あんたが、その薬をうちにわけてくれるんおもうて」
「 た、タキちゃん、ちがう、」
「え?あんたじゃねえの?」
「 あ、・・・ちがう、いや、もらった。薬はもらったけど、あれは、十よりしたのこどもにやっちゃだめだって・・・」
「ああ、やっぱりあんたがもらったんじゃろ?うちなア、いつわけてくれるんじゃろおて、ずっと待っとったんよ。十よりしたの子はだめでも、十をこしたらいいんじゃろ?子はいつか十になりよるよ。なあ、その薬、どうした?まだ、もっとる?」
タキちゃんはこどものころみたいに、ずっとわらったまませまってくる。
「 も、もう、もっとらん。だって、 だって、タキちゃん、 あたしにその『毒』をつかったんじゃろ?あたし、あんたに粥をもらって帰ってから、くるしくって死にそうになって、だから、だからしかたなくあの薬を飲んで、それでようやく治ったんじゃ」
「 『どく』? あんたに毒なんてくわしてないわ」
「だって!《薬売り》から毒をもらったんじゃろ?」
このひとことに、タキちゃんの目が、きっとつりあがってみひらかれた。
「ああ、もらった!もらったけどな、あんたにはくわせとらんとゆうとろうが!うちは待ってたんよ!あんたなら、きっとうちの子に薬をくれるじゃろうって、いつくるか、きょうくるかって、なのに! あんたはうちにもこん! そのあいまにも下の子がぐずると、すぐに姑がそのこだけなンでよわい、なんてゆうて、ほんまにこの家の子かなんていいよる!うるさくてかなわんかった!だからな、《薬売り》にもらった毒は、姑にくわせてやろうとおもったわ!おもったのに、 ―― 下の子が、毒をいれようとしたときに起きてきて、・・・いれられんかった・・・・」
タキちゃんのみひらいた目は涙でいっぱいだった。
「 ・・・あの子は、いちばんからだがよわいけエ、いちばんやさしい子なんじゃ。あのこがわろうてくれたから、毒をいれんかったんじゃ」
タキちゃんのめから、つぎからつぎへと涙があふれる。
「 薬もよこさんくせに、あんたは粥を食いにきて、それだけでかえりよった。あれで、あんたはうちに薬をよこす気なんてまったくないンがわかったわ」




