毒
。。ご注意を。。 引き続き残酷な表現がございます
こどもの頭をかくすようにすると、腕をくんだ男が、「なにもおれが殺したわけじゃねえよ」とわらい、「そりゃナ、ここでとれた人魚の子の頭だ」と言った。
そうして、この浜に『めずらしい魚』、つまり『人魚』をさがしにきた《薬売り》だといってから、むこうの浜で人魚の親子がとれ、その骸を祟りがあるとおそれる浜からひきとってきたとあかし、あとは、こどもの人魚のとれた頭をさがしていた、とタキが抱える頭を目でさした。
「 むかしっから、人魚のからだはちぎれたりしても、もとのからだに引き寄せられることが多くてねエ。こんどもきっと、ちぎれたこどもの頭もこのあたりにまだあるだろうとにらんでいたんだが、ひとあし遅かったようだ」
「 ―― これは、ゆずらん。殿様の薬になるくらいじゃろ?」
「ああ、そりゃまあ、すこしちがうなあ。この浜のもんはまだきいたことがないのか・・・。 あのなア、人魚の肉を食うと、不老不死になるんだよ。だがいいか?ここが肝心なんだがよ、なにかの病が治るわけじゃあねえ。ただ、死ななくなるってだけさア。だから、殿様なんてのをやってるやつが、まちがってほしくなる」
「か、からだが丈夫になるとかじゃ、」
「ねえよ。それに、喰ったらだれしもそうなるわけでもねえ。 ―― だから、あんたがそんな人魚の頭なんてもってたって、しかたねえのさ。こっちはただでよこせっていってるんじゃアねえ。そうだな、なんにでも利く薬はさっきやっちまったから、あー、毒を盛ったのをきづかれねえで殺せる毒ならあるけどよオ、それじゃあだめかい?」
「な、なんにでも利く薬!?それがいい!それなら交換するよ!」
「いや、だからそりゃ、さっきの浜で、船をだしてくれた女にやっちまったからねえのさ」
「・・・船を・・・?」
「 あの浜をしきってそうな女だったよ。男たちにないしょで、海の神様の裏にうめた人魚の骸と交換した。あの女も、こどもに薬をやるつもりのようだったから、分けてくれるかもしれねえよ」
《薬売り》はそういって、油紙につつまれた『毒』をさしだした。




