ほりかえして
。。ご注意を。。 残虐な表現などがございます。。。
八、
小舟が島についても、どちらもくちをひらかなかった。
海の神様がまつられる祠は、島にある大きな岩が割れたような中にある。海が荒れて高波になろうとも、波はこの祠まではこない。
その、祠のうしろにまわったところへ、ニンギョの親子は埋められていたのだ。
「ああ、ここか」
土と砂がまじったそこには、線香がそえられている。タキちゃんはそこへかがみこんだ。
「 タキちゃん、もう、骸はのこっとらんよ。あの男がほりかえして、包んでもってかえりよったんじゃ。もう、なにものこっとらん」
あのとき《薬売り》といっしょにここにきて、あの男が掘り返すのをそばでみていて、でてきた女の骸をめにしたときに、これはニンギョなんかじゃない、とすぐにおもった。
なにしろ、ほりかえしたときの匂いはすさまじかったし、肉はどうみても腐っていた。
だがあの男は「この匂いは人魚の死骸にまちがいない」といい、この女の人魚が腐りはじめているのは内臓をフカ(サメ)にやられたからだと、知っているようなことをくちにし、いっしょに埋められていた布にまかれたちいさな骸をとりだすと、鼻を近づけ「おもったとおり」と、うれしそうに布をひらいた。
頭のない、子どもの人魚のからだは、ひとつも腐っていなかった。
その、こどもの骸をあの薬屋は木箱へしまった。
穴に残った腐ったほうの骸は、驚いたことにひきずりだして、海へほうった。
「 みたかい? 肉は腐ってるようでほんとうにはまだ腐ってねえんだよ。骨にしっかりくっついてて、ひとつもはがれなかっただろオ?これをあとでほりかえして、干して売ろうなんてやつができてきたらこまるからねエ。 商売敵はいないに越したこたアないよ」
だから、この穴にはもう、ほんとうになにも埋まっていない。




