じゃあ みせて
タキちゃんはほほえむように首をふった。
「 家にはきとらんよオ、うちが、浜のはずれにある岩場で、おうたんよ。 そんで、なにをしよりにきたンか、きいたらな、お殿様がのむ薬のために、『めずらしい魚』をさがしとるっ て」
「・・・へえ」
タキちゃんがあたしの目をのぞきこみ、腕をつかんだ。
「 なあ、 ―― あんた、その男と海の神様の祠がある島に、いったンじゃろ?」
「 ―― や、」
「いったよなあ? その《薬売り》にきいたもの」
声はやさしいのに、腕をつかむ手が、ぎりりとしまる。
「 なあ、そんな殿様がのむような薬になるもんがとれたん? 祠の島にかくしておるん?」
「た、タキちゃん、かくしとらん。 あの《薬売り》は、・・・骸を・・・。このまえの嵐で網にかかった、心中した親子の死骸を、もってかえったんじゃ。 ありゃ、あたまのおかしい男じゃよ。タヌキの金玉とか、そういうのを薬じゃいうて、高く売りつけとるんよ。 そんで、祠の後ろに埋めた心中した親子を、『めずらしい魚』じゃいうて、殿様に売りつけるつもりでほりかえしたんじゃ」
「 ―― ほんま?」
タキちゃんはあたしをみているようでみていない。
「ほんまじゃ。あんな嘘くせえ《薬売り》なんて、殿様に売ってるかどうかもあやしい」
「じゃあ、みせて」
「 ・・・え?・・・」
「 その、『親子の死骸』がうまってた穴。 祠の後ろにあるんじゃろお?」
タキちゃんが、こどものころからあたしがさからえないわらい顔で、そう命じた。




