まだあるよ
「 ・・・ん?・・・ 」
「どした?まずいか?」
「 ううん、 トリ? サカナもはいっとるン?」
タキちゃんは、ああそうだった、とおおきくうなずいた。
「 もう身もくずれてクズになっとる? この家では米も野菜も魚も、いいものとそうでないのにわけてあってな。いいもンを一番に姑が食うて、つぎに旦那衆、それからのこったモンと、クズ米や野菜で、こどもとうちと、下働きのもんの飯を、べつでつくるんよ」
そういって、タキちゃんはまゆをさげてわらった。
「トリはうちの親戚がもってきたから、ゆうべのうちにかくしておいたんじゃ。 ―― もっといれよか?」
タキちゃんはこちらの手から椀をうばうと勝手にまた足してわたしてきた。
あたしは、いつもくれているあの米が、たしかに夫がいったとおりくず米だったということよりも、『タキちゃんの分』である米をくれていたのだということに驚いていた。
「 ありがとお・・・タキちゃん 」
ちいさくいったのが聞こえたのかどうか、タキちゃんは、にこりとして、もっとたべな、といった。
あたしは、その粥をたべてなんだかからだがあたたかくなり、あせばんだ着物の合わせをあけたときに、あの薬がはいっているのに気が付いた。
「 あ、タキちゃん、―― 」
『 おまえはそれをこどもにやろうとするが、やめておけエ。
いまと変わらず用心しておけえ、用心しておけえ 』
きゅうに、寒気とともに、あの婆さまのこえがよみがえる。
「 粥ならまだあるよ」
「あ、 ―― もう、・・・うん、かえる。男たちが漁からもどるから・・・」
あたしは、ふところにはいったままの薬を、ぐっとおさえこむようにして嘘をついた。
男たちはきょうはすこし遠くの漁場へでているはずだ。
タキちゃんは、そうか、とうなずくと、こちらの顔をじっとみた。
「 ねえ、 ―― さっき、なにか言おう、思うた?」
「う、ん、・・・・いつも、タキちゃんの米、分けてくれてたんじゃね。ありがとね」
「 ・・・エエんよ。だって、 ―― 声をかけてくれるのは、あんたしかおらんもん」
眉をさげてさびしげにわらうタキちゃんになにもいえないまま、あたしは、あの薬を渡すこともなく、懐をおさえたまま家にかえった。
それからあたしは熱をだし、二日ほどねこんだが、夫には、タキちゃんのところでたべた粥のことはだまっていた。




