粥(かゆ)
そうおもいながら、きょうもタキちゃんとは顔もあわせないままで、村長の浜で仕事をおえてかえろうとしたのに、うしろからよびとめられ、おどろいてしまった。
「 ―― きょうはなア、姑がおらんのじゃ。旦那衆もこれからとなり村に出るゆうから、あとでおいで」
そういうタキちゃんは、嫁いでからというものみせたことがないようなうれしそうな顔をして、あたしの手をつかんだ。
あたしは、むかしとおなじように断れずにうなずいた。
「 ―― 親戚がトリ小屋に山犬がはいったゆうて、つぶしたトリの肉をもってきてくれてなあ。ナントカいうトリで、めずらしくてうまいトリじゃからって、ゆうべ鍋にしてなア、」
そういってタキちゃんが台所で膳にのせてあたしにだしてくれた椀には、粥がはいっていた。
「 鍋のあとに米をいれてな。こどもに食わすンで、トリもちょっと小さく切ってあるけど、味はかわらんとおもうよオ」
お茶までだしてくれて、うれしそうにこちらをみてくる。
「 タキちゃんは?くわんの?」
「うちはもう、こどもにくわしながらいっしょにな。 姑がおらんと、こどもらもよくいうことをきいて、下の子もなんだかよく寝てくれるんよ」
そういってじぶんのお茶をつぐと、肩の力をぬくようにして家のなかのほうをみやった。たしかに、台所と次の間との境で、いつもはタキちゃんの背にはりついている子が、布団でしずかに眠っている。
それをながめながら、粥を食べた。




