粉薬
「 ―― 教えちゃる」
「それがいい」
「さきに薬だ」
男は背に負った箱から、印籠のようなものをとりだし、油紙につつまれた薬をとりだしわたしてきた。
「 丸薬じゃねえ。粉だ。 ふきとばさねエよおに気をつけな」
紙をあけて中をみた。焦げのようなにおいがして、粉というよりゴマのような粒だった。
「 おっと、言い忘れたが、こどもにくれちゃいけねエよ」
「 え、・・・ 」
「おや?こどもにやるつもりだったか。 まあ、十をすぎたらいいかもしれねえが、それより下の子にやると、逆に死んじまうことになる」
「ああ?なんじゃ、そんなン、」
「いまさら教えねえとか、いうなよ。 それはもうあんたのモンだ。だからあんたは、あたしに、人魚がどこか教えなきゃならねエのさ」
男の目はわらっていない。
「 ・・・あそこにある真ん中の島に、海の神様がおる。その祠の、後ろに埋めとる」
浜からみえる小島のつらなりをさした。
「 ほお、あの小島ねエ。 うーん、しかしこりゃア、船で渡らねえとつけそうもねえなあ。これでも潮はひいてるんだろうからねエ」
「船はだしちゃる。 ―― そのかわり、村長の浜に行くな」
「ああ、はじめからゆくつもりもねえし、そのまま帰るさ。 あんたみてエな女がいてくれてよかった。この仕事ははやくかたがつきそうだ」
小舟があるほうへと男は先にすすんでゆく。
家々の小窓や戸のすきまからのぞいている女たちにうなずいてみせ、たてかけてある櫓をつかんだ。
「 ああ、 ―― それとねエ、こうみえてあたしは腕にはおぼえがあるほうでねエ。うしろからなぐろうなんて思わねえようにしてくださいよ」
前をむいたままの男のことばに、ふりあげていた櫓をおろし、それを信じることにした。
なぜなら、男の背負った箱の中で、なにかがカタカタと動く音がしたからだ。
「 あんたみてエな女が留守を守ってるなら、ここは安泰だなア 」
けっしてほめていないのを、ほめているようにきかせる男が、あたしのことをまたわらっていた。




