うそくせえ
「 もし、あんたが教えてくれたなら・・・。そうだな、なんにでもよく効く薬をやろう。死にそうな病人もとびおきるような効き目だ」
「嘘くせえ」
「そう、嘘くさい薬しか売っていないからねエ。 だが、これの効き目は本当だ。とあるオクニのお殿様に売るはずだったが、渡すより先にカタナで死んでしまってねエ」
「そんな高い薬をくれようってほど、・・・ニンギョは高いンか?」
「おや?あんた、頭がわまる女だな。ここを仕切ってる旦那の娘ってところか?まあ、いいか。 よくきいとくれ。 人魚はいまは漁師にしか知られていないが、こののちに世の中に名もしられ、その肉の効能も知られるようになる。生きたのをとらえて見世物になるが、まあ、すべて偽物だ。あんなバケモノ、人が捕らえられるわけねエ。ともかく、そんなで名がしれればたしかにこれからもっと高くなってゆくだろなあ。 だがねエ、この薬より高くなるなんてことはねえ。なにしろこりゃ、センニンがつくった薬だ」
「うそ」
「くせえ、って思うなら、まあ、このはなしはここまでだな。 ―― あたしは男たちが漁からもどるまで、あんたらがどこかに埋めた人魚をさがしまわるってだけだ。 でも、あんたがはじめからその場所を教えてくれりゃあ手間がはぶけるとおもって、声をかけただけさアね」
「 埋めたなんていっちゃいねえ」
「いいや、埋めただろう。 漁師が持ってかえれるのは、死にかけの人魚だ。おかにあげておけば、どのみち死ぬ。祟りをおそれて、どこかに埋める」
じっとこちらをみる男の目は、わらっていた。
あたしのことを。
この浜を。
漁をする男たちを。




