薬売り
「 ・・・あんた、なんね?」
にらみあうようになってしまい、しかたなくきいた。
「 《薬売り》でございます。あ、いえ、誂えものの薬売りでございやしてねエ、頼まれた材料で薬をつくります。 いま、その薬の材料をさがしとりまして」
「『人魚』が薬?」
「ええ、どうも、このあたりの漁師は人魚をバケモノぐらいだとしか思わんようで。 あれは、えらい薬の材料になりますんで。みンながほしがる。 きいたことねえですかなア。人魚の肉を食うと、 ―― どうなるか」
「きいたこともねえ。嘘くせえ」
「 『嘘くさい』?そう、たいていの薬なんてそういう材料でできている。だが、それで効能があったりするから不思議なもんだ。 あたしはこれまで、客にこわれて、白い鹿の角に、化けタヌキの金玉、大蛇の干物なんていうのもさがして薬にして売ったが、客はみな、大喜びだ。イワシの頭もなんとかからっていうしねエ・・・ ―― それで? このあたりで人魚はいつとれたんですかねエ?」
笠をあげてこちらをみた男はわらっていたが、なんだかこわかった。
「 ・・・祟りがあるから、くちにしたらいけねえんだ」
こちらのこたえになんどもうなずき、それはいい、と海をみた。
「ここの浜を仕切ってる旦那は頭がまわる男だな。 ―― じゃあ、その男がもどるまえに教えてくれねえかい。とれた人魚はどうしたね?」
この男のこえも話しかたもいやだった。




