あたま
。。ご注意を。。 残虐な表現がございます
網のくちをひろげ、ともかく子どもをだそうとしたら、網の中にあった白いからだの腕がとつぜんにょろりとのび、網をひろげた者の首にまきついた。ぎゃあ!と叫んだのはほかの男たちもいっしょだった。
なにしろ、波からひろった白いからだは、首から上がちぎれた、女の胸から腰のあたりまでしかなく、そのうえ、かたほうの乳房と腹は、なにかにくわれたようで、ちぎりとられている。
その、首もない死骸が、蛇のように腕をのばしてきたのだ。
こどもは助けてやらねばとおもった夫は、まだ網にからまり倒れていた五つくらいのこどもを、網からだすつもりで手をのばした。
みぎゃあああああああああ!
「 っつ!?」
猫の叫び声をあげたのは、このこどもだった。
とたんに首のない女の死骸が、こんどはこっちに腕をのばしてきて、首がしめられた。もうかたほうの腕がこどもにのびると、いきなりこどもの頭をつかんで海へほうりなげた。
ああっ!!
みんなが叫び声をあげたが、だれもそのこどもを追おうとはしなかった。
こどものからだは、腰から下半分が、魚だった。
「 ・・・に、にんぎょじゃ・・・」
だれかがつぶやき、網にのこった死骸に塩をなげつけた。
とたんに腕はちぢんでもどり、もう、どこもうごかなくなった。
いつのまにか、雨はやんでいた。
ぐうらぐうらとゆれる船に、白いおんなの死骸がのこった。だがそれはよくみれば、人の肌とはやはりちがい、腰あたりからはうろこがはえているのがわかる。首もほかも、フカ(サメ)にくわれたのだろうとみて、ぬるぬるとする動かなくなった亡骸を網ごと海へすてようとするのを、「すてるな!」とむこうの船から親方がとめた。
「 人の骸でも祟るんじゃ。ニンギョの骸なんぞ、もっと祟るぞ」
親方のこのひとことで、しかたなく網にいれたままひいて、もどることにした。
すると、「 あ!親方! 」風もおさまり、波もうそのようにおだやかになったとき、ニンギョの死骸をひいている船のそばへ、こどもの白いからだが浮かび上がった。それには、さきほどまであった頭はなく、親方は「バケモノがこどもを逃がすつもりで投げよったんじゃろが、頭がちぎれるほどの力で投げたんじゃろ」とつぶやき、「それもひろってやれ」と命じた。
「 ―― それでしかたなく、ひろってきたそれを、海の神様の祠がある小島に埋めてきたんじゃ」
夫はそういって、きょうは海のもんはくいたくねえと野菜だけ食べ、さいごにもういちど、ニンギョのことはだれにもいうなよ、と念押しして横になった。




